35 司令官たる者
決まった――、そう思ったのもつかの間、磯岸さんの顔を叩いてから数秒の僅かな時間だった。
……や、やってしまった!? 仮に部下だとしても年上の男性の顔を思い切りぶってしまった。
いや、いやいや否、先に無礼なことをしてきたのは彼だ。これくらいやられて当然なのよ。任期満了まで一年近くあるけど、今回の件を根に持って嫌がらせしてきたらセクハラで訴えてやるんだからネッ!
チラリと彼の顔を見ると目を見開いて驚いていた。
それはイケメンの自負が傷付いたというより、どちらかと言えば油断していたといえど素人の女子に顔を叩かれた事実に驚いている、そんな風に思えた。
私に叩かれた左頬は赤くなっている。そりゃそうだ……。
叩いたことは謝っといた方がいいかなぁ……。
「ご――」
ごめんなさい! 私が謝ろうとしたそのとき、姿勢を正した磯岸タイチョーが頭を下げて「失礼しました」と言った。
「え?」
「私は白城司令のことを見くびっていたようです。無礼をお許しください」
あれ? なぜか評価が上がっている。いっそ嫌われる覚悟だったのに磯岸ルートに入ってしまった気がする。
「わ、わかればよくってよ」と、なぜかお嬢様口調で返事する私。
「それでは行きましょう」
頭を上げた磯岸タイチョーは颯爽と踵を返す。
「どこに?」
「次は部隊を指揮する訓練に移ります」
「え?」
どうやら新たなイベントが発生したようです……。




