31 選択肢は突然に4
昼飯を食べ終わった隊員たちが、お椀を片付けて食堂から去っていった。
私はみんなを見送ってから立ち上がり調理場に向う。シンクにはお椀の他に包丁やまな板、鍋などがそのままになっていた。
食べる人数に比例して洗い物も増えていく。肉体労働の彼らが普通の成人男性よりたくさん食べるといっても、今までの社員食堂に比べればたいした量ではない。
「さて、やりますか」と気合を入れた私は制服の袖を捲くった。
「よう、手伝おうか?」
突然声を掛けらて私の心臓が跳ね上がる。
この声は……。
顔を観なくても余裕で判別できてしまう。
――ソウヤ!? じゃなくて烏丸さん! 手伝ってくれるの? マジ優しい!! ソウヤと一緒に洗い物ができるなんて嬉しすぎる!!!
なんて思いつつも私は彼と反対の方向に顔を背けていた。さらに「だ、だだだだ、だいじょうぶデース」と裏返った声で返事してしまった。
「そうか……じゃあ、よろしくな」
パタンと食堂のドアが閉まる。
そして誰もいなくなった。
うぁぁぁっぁぁぁぁっぁっぁぁぁっん!! 私のバカバカバカバカァー!! こんなチャンス二度とないかもしれないのにぃーーーーーーーーーーーーーッ!!!
それもそうだけど、どうしよう……、さすがにあの態度は感じ悪いよね。せっかく手伝おうとしてくれたのに……。
ち、違うの……これは、尊すぎて避けてるだけなのよ!? 憧れの推しを前にして、どうしていいか分からないだけなの! ソウヤの声であなたに見つめられると平常心でいられないの!
なんて、言えるはずがない。だっていきなりそんなことを言ったらキモい奴だと思われるし、彼は自分がソウヤであるとこもを知られたくないかもしれない。それに私は一年限定の雇われ司令官なのだから、目指すは波風立てない無難なノーマルエンド。
なんてことを考えていたら、再び食堂のドアが開いた。調理場に顔を出したのは磯岸タイチョーだ。
「白城司令官、少しよろしいですか?」
「はい? なんでしょうか?」
洗い物から手を止めた私が顔を向けると彼は、王子様みたいに微笑んだ。
「午後、射撃訓練をやりませんか?」
「はい?」




