30 選択肢は突然に3
「どや?」
うどんをすする私に興梠さんは言った。高評価を期待する眼差しである。
「普通においしいです」
「リアクションうっすッ! 普通ってなんやねん、中途半端で背中がムズがゆなるわ!」
「東京ではすごく美味しいって意味です(適当)。それに食事は集中して静かに食べるものです」
「意識高いラーメン屋かーい! まあ、ええ……これからはこっち来て昼めし食え、わざわざぼっち飯すんなよ」
「……そうさせていただきます。それに自炊してるなんて知らなかったはもので」
「それにしたって食堂に顔くらい見せれるやろ?」
「まあ、確かに……そうですね」
みんな黙々と食べているのに、さっきから私と興梠さんだけしゃべっている。もしかしたら、興梠さんは私が浮かないように気を使ってくれているのかもしれない。それに気持ち良く言い返してくる彼とのやりとりは、ちょっと楽しい。
彼が話しかけてくれるおかげで、いつの間にか緊張が和らいでいた。やっと自分がこの部隊の一員なんだと実感することができた。
それにしても上田から事前に聞いていた話と違う。前任者も前々任者も隊員たちからパワハラを受けて離職したと上田は言っていた。
確かに個性が強い面々だけど、約一名を除いて悪い人たちではなさそうだ。みんなイケメンだし、ここ重要。
「ごっそさん!」
一番しゃべっていたのに一番早く食べ終わった興梠さんがお椀を持って立ち上がった。
「あの、お代は?」
「食材費はまとめて月末に集めとる。今日の分はサービスや」
「それじゃあ、作っていただいたので洗い物は私がしておきます。みなさんは休んでください」
私がそう告げると、なぜか全員箸を止めて私を見てきた。珍獣でも見ているような顔をしている。
あれ? 変なこと言ったかな?
「あ、ああ……、それじゃあよろしく頼むわ」
興梠さんはシンクの流し台にお椀を置いて食堂から出て行った。




