18 お約束なんて大嫌い!3
「は?」
案の定、赤城が私に視線を向けてきた。まるで宇宙人と遭遇したかのように、ひどく顔を歪ませている。でもイケメンだ。その顔が様になっているから余計に腹立たしい。
「いえ、その……私はふつうの事務の仕事をしておりまして……」
「あら? そうなの? 八重ちゃんからはお役所の食堂で働いているって聞いたんだけど……、あたしの気のせいだったかしら?」
「気のせいですねぇ、すんごい気のせいです」とハッキリと否定する。
「じゃあ会社勤め?」
「はい、いちおう公務員です」
嘘は言っていない。事実、役場で働く会計年度職員だったし。
「まあまあ、それは相性がいいわね!」
意気揚々と女将さんは声を上げた。
え? ちょっと何言ってるか分かりません……。
「それじゃあ、後は若い二人に任せましょうか。ね? お父さん」
その女将さんのセリフを合図におじさんは立ち上がり、食器を流し台に下げるとそそくさと出ていってしまった。
「千鳥ちゃんは今日は仕事?」
「は、はい」
「じゃあ仕事が終わったらまた銭湯にいらっしゃい。その後は居間でテレビを観るも良し、自分の部屋でゴロゴロくつろぐも良し、自由にしてね。私たちのことなんて気にしなくていいからね。あ、でもこの子の相手はしてあげてね」
意味深なことを言いながら食器を重ねて立ち上がった女将さんに、私は声を掛ける。
「あ、洗い物くらいしますのでそのまま置いておいてください」
「……そう? じゃあ私たちはこれから仕事だから、よろしくお願いしようかしら」
おじさんに続いておばさんも台所から出て行ってしまった。残された私と善吉の間には、なんとも言えない空気が漂っている。




