13 二本目の缶ビール
イケメンたちのプロフィールを愛で終えた私が司令官室を出ると、隣の執務室はものけの空だった。
タイチョーから終業前に隊員たちを執務室に集めて終礼を行うと説明されていたのだけど……。まさかみんなもう帰ったの? それともまだどこかで訓練しているのかしら……。
しばらくその場でウロウロしていたが、退勤時間になっても誰も現れる気配なく、施設内を探しても迷子になりそうなので帰ることにした。
別に問題ないよね、ちゃんと勤務時間まで基地にいたし不正をしている訳じゃない。堂々と帰ればいいのだ。うん、そうそう、司令官が率先して定時退社してホワイトな職場であると示さなければいけない。
なんて言い訳がましく都庁を出た途端、津波のようにドッと疲れが押し寄せてきたのだった。
「いや……、別になにもしてないけどさ……。なんだかすごく疲れた。明日からどうなっちゃうのかな……」
◇◇◇
自宅近くのスーパーで割引されている総菜を買ってアパートにたどり着いた私は自分の眼を疑った。
夜空に立ち昇る黒煙、自分の家をとり囲む人垣、その内側では赤色灯の光が瞬いている。
「え……? なに……これ?」
焦げ臭い匂いが周囲に立ち込めている。私は野次馬を掻き分けた前に進んだ。やがて立入禁止と書かれたテープに阻まれる。目に映ったのはアパートの周りを駆けまわる消防官たちの姿、そして炎を上げて炎上する私の住むアパートだった。
私の手から半額で購入した総菜の入ったエコバッグが地面に落ちる。
「う、嘘、でしょう……? な、なんなのよこれは、いったい……」
「白城さん! 無事だったのね!」
呆然と立ち尽くす私の腕を掴んだのは、アパートの裏に住む大家のおばさんだった。
「お、大家さん……」
呆然とおばさんの顔を見つめ返す私に彼女は言った。
「わたし見たのよ……、火事になる前に変な人がアパートの周りをウロウロしていたの。きっと放火されたんだわ……」
大家は勝手な憶測を語り、げんなりと溜め息を吐いた。
「とにかくあなたが無事で良かったわ、危ないから火事が収まるまでうちにいらっしゃい」
そう告げたおばさんは私の腕を掴んで引っ張り出した。未だ状況が整理できない私は言われるがまま大家さんの家に避難させてもらい、それから火災が鎮火したのは二時間後の午後九時を回っていた。
アパートは消防士たちの活躍によって全焼は免れた。私の部屋は角部屋だったこともあってアパートの東側が焼けただけの被害で済んだが、消火活動の際に割れた窓ガラスから入ってきた大量の煤や放水の影響で住める状態ではなかった。
警察官の許可を得て自分の部屋に入り、スーツケースに必要最低限の物を詰めるだけ詰め込んだ私は現在、駅前にあるインターネットカフェの一室にいる。
リクライニングチェアに座り、キンキンに冷えた缶ビールを一気に煽る。
「ぷはーっ! ちきしょー!!」
火事で住む家を失ったのは不運だけど、推しのグッズやコレクションは燃えずに残っていた。それだけでもラッキーだと思わないとやっていられない。彼らを救出するためなら例え燃え盛る我が家にだって飛び込んでいただろう。仮にすべてが燃えていたら後を追って焼身自殺する自信がある。
私はそう自分に言い聞かせて二本目の缶ビールを開けた。




