12 パラダイス
最初は隊長である磯岸柊真、あの甘いマスクのイケメンだ。
元陸上自衛隊3等陸尉、特殊作戦群所属、身長184センチメートル、記載された生年月日から年齢は28歳。
機密資料を許可なく持ち出して停職六ヶ月の懲戒処分を受けて自衛隊を依願退職した後、厚生労働省に入省。
二人目は烏丸疾風、たくましい腕でお姫様抱っこしてくれた彼は元東京消防庁の消防官、身長177センチメートル、年齢は25歳。
火災現場で放火犯を取り押さえる際に、頭突きを浴びせて全治二週間の怪我を負わせて停職三か月。処分終了後、厚生労働省に出向という形で特殊テロ対応救難隊に配属。
赤城善吉、上から目線の彼は元警視庁の警察官でSATに所属していた経歴あり。身長179センチメートルの25歳。上司を殴り全治一か月の怪我を負わせる。停職三か月の処分を受けた後、出向という形で厚生労働省の現部隊に配属。
「ちょっとちょっと……、なんなんですかぁ。暴れん坊ばかりじゃないですか……」
続きましてまだ会ったことのないメンバー。
興梠森鷹、元海上保安庁特殊警備隊(SST)所属、身長168センチメートル、年齢26歳。顔写真を見る限り少しチャラくて軽そうな感じ、だがイケメンだ。
基地で保管する銃器を無断で改造して停職三か月、上のふたりと同様に出向という形で異動している。
最後は、陣野継巳27歳、身長172センチメートル。
大学病院の救命センターで救命救急医として勤務していたが、業務上過失傷害の行政処分で医業停止一か月。復帰後、厚生労働省に入省し現在に至る。
さらに彼の顔写真を見てビックリした。まるで十代の女の子みたいな可愛らしいご尊顔である。これで27歳でしかも男だなんて反則だ。
もしこんな男子がクラスにいたら毎日がカップリングの連続でハアハアすること止む無し。
うーん、なるほど……。部隊名が《SCAR》とは実に皮肉なものだ。彼らはまさに『傷物』なのだ。
しかしこのイケメン揃いっぷりはどういう訳だ……。
きっと単なる偶然だろうけど考えようによっては、この職場はパラダイスではなかろうか。
ちらりと時計を見ると、午後五時を回ろうとするところだった。
こんなにも集中していた自分に驚くばかりだ。私はかれこれ一時間近く隊員のプロフィールを眺めて妄想にふけっていたのだ。
どんな妄想かって?
もちろん、この環境がもし乙女ゲーの世界だったのなら、どんなイベントが発生してどんなルートがあって対象をどうやって攻略するかである。そしてトゥルーエンドは……。
おっと危うく取り乱すところだった。
それにしても静かだ。あと十数分で勤務時間は終了するけど、定時退社していいのかな?
そんなことを考えていたらノックもなくドアが開いた。
司令官室に入ってきたのは目付きも性格も悪い赤城善吉である。大きな段ボールを抱える彼は、やはり特殊部隊の隊員だけあってたくましいカラダをしている。あの腕で抱きしめられたら例え性格が壊滅的でもグッときてしまうかもしれない……。
「あんたの荷物が届いていたぞ」
「あ……えーと、どうもありがとうございます」
私に荷物が届くなんて聞いていないけど、送ってきたのは上田に違いない。
おそらく中に入ってるのは前の職場で使っていた献立や発注データの資料だ。機密情報なんて1ミリメートルありゃしないけど、キャリアってことで来ている訳だし、こういう〝如何にも〟な工作も必要なのだろう。
「段ボールを開ける必要はないぞ」
段ボールを無造作に床に置いて赤城はそう言った。
「へ?」
「どうせあんたもすぐ異動になるんだ、散らかされると面倒だからな」
「なっ……」
言いたいことだけ言って赤城は踵を返した。
ぐぬぅ……この男、一度ならず二度までも……。あんたなんか、あっかんべーッ!!
その瞬間、赤城が突然振り返ったのだ。
べーっと舌を出したまま固まる私、そんな私の変顔を少し驚いた表情で彼は見つめている。
「……」
「……」
何事もなかったかのように私は椅子に座り、何も見なかったかのように赤城は三度踵を返した。そのとき――、
「ぷっ……」
うがッ! 鼻で嗤われた!?




