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想いびと

「ねぇ、二人ともわたしに黙ってどこに行っていたの? 」


 翌日、俺とジャスパーは、もぬけの殻となった娼館に肩透かしを食らって帝国の城内へと戻って来ていた。


 中庭にあるカフェテラスで、ジャスパーとふたりで話していると、シエラが頬を膨らませながら近寄って来て、勢いよく椅子を引いて俺の隣に腰掛けた。


 機嫌の悪そうなシエラに俺は無言でジャスパーに視線を流す。


 ほらな、こうなると思った。

 だから言ったろう。


 俺とジャスパーの視線が交錯し、俺の意図を読んだジャスパーはシエラからは視線を逸らし、ぼんやりと空を見つめながら代わりに答えた。


「あー、暇だったから遊びに行ってただけだって」


「なら、わたしも連れて行ってくれれば良かったじゃない」


「たまには男同士で遊びたかったんだって。そういうこと、あんだろ」


「何よそれ……わたしは邪魔者ってこと? 」


 顔を曇らせて少し悲しげに睫毛を落としたシエラに俺は首を横に振った。


「そういうんじゃないよ。ヘルティアナに人を探しに行ってただけなんだ。あそこはほら、そういう所だから、シエラは居心地悪いと思って誘えなかったんだよ」


「ミナトっ……このバカ!! 」


 ガタッと音を立てて椅子から立ち上がり、ジャスパーは口をパクパクさせて目を丸くして俺を見つめ、恐る恐る、といった様子でシエルに視線を流した。


「ヘルティアナ? そこって、娼婦を買う所でしょう……? 」


「ちげぇ! いや、違くねぇけど、ちげぇ! 」


 わたわたと手を振りながら、あからさまに動揺を顔に出し、訳のわからない言い訳をするジャスパーに、ため息をつく。


「落ち着きなよ、ジャスパー」


「てめぇはもっと焦れよ! 」


 くわっと目を見開いて噛みつくように言うジャスパーの台詞に、首を傾げる。

 なんで俺が焦る必要があるんだ。


「人探しって、娼婦……なの? 」


 項垂うなだれて肩を落とし、小さな声でそう言ったシエラからは、さっきまでの勢いが微塵も感じられない。


「そうだ……」

「ちげぇっ! 」


 俺の言葉に被せるようにジャスパーが叫び、あまりの声の大きさに思わず顔を顰めた。


 何も違わないだろう。

 なんでそんなに隠したがるんだ?


「俺の知り合いがヘルティアナに居るって聞いたんだ! 久しぶりに会いたくてよ!でも場所が場所だから、その……」


 事実を知っている俺からすれば、苦しい言い訳だと思った。

 だけどそれを聞いたシエラは、蕾から花びらが咲いたような表情でジャスパーを見上げた。


「ほんと? 」


「ああ。嘘じゃねぇ」


 ジャスパーの必死さを見るのも、騙されるシエラを見るのも、どことなく気持ちが落ち着かなくて、俺はふたりから視線を逸す。


「でも、ヘルティアナには行ったのよね。一晩泊まってきたんでしょう? ミナトはその……娼婦を買ったりしたの? 」


 そっぽを向いてふたりの会話を耳に入れず、カフェにいる他の連中に何気なく視線を流していると、不意にシエラが俺に話を振ってきた。


「いや。俺は娼婦には興味ないから」


「娼婦()()? 他に……興味のある人とか、いるの? 」


 細かい言の葉を拾って、栗色の瞳を不安げに揺らしシエラはさらに俺に問いかける。

 立ち上がったままのジャスパーも釣られるようにして、なんとも言えない表情で俺を見つめた。

なぜ、ふたりがそんな顔をして俺を見るのか分からないが、答えは決まっている。


「いるよ」


「え……」


 この場所にはいない彼女に想いを馳せて、柔らかくそう答えると、シエラは愕然としたように目を開いて言葉を失った。


「お……おまえっ……」


「なんだよ、それ! 俺は知らねぇぞ! 誰だよ!? 」


 思いっきりシエラを振り向いて、食い入るように彼女を見つめて言葉を失い、また俺に振り向くと、ジャスパーは身を乗り出して噛みついた。


 __魔王(玲奈)だよ。


 答えはひとつしかないが、大声で言えるものでもない。

 俺はまたふたりから視線を外し、そっぽを向く。


「教えないよ」


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