第22話 ―獅子吼―
今後、新しい用語・設定が出た時に後書きで解説でも書こうかなと思います。
いずれは設定集の方に集約する予定です。
亜人。
最古にして最大派閥を誇る宗教において、「完全な人間になり切れなかった者たち」と規定され、過去のフォーゼルハウト帝国の統治下では迫害の対象とされてきた人種。
繁殖能力の低さによる絶対数の少なさや、体質による歪つな環境適応能力に悩まされることは多くとも、彼らは決して普通の人間に劣った存在などではない。
例えば――狙撃手。
長射程の武器や、射程距離に優れた魔道を用いて、知覚すら困難な遠距離から一方的に敵手を攻撃する戦術を用いる者をそう呼ぶが、中でも狙撃手に適していると言われる二つの亜人種がいる。
森人と狼人。
森人は、その卓越した視覚による長距離狙撃。
狼人は、その聴覚と嗅覚を用いた精密狙撃。
それぞれ資質の方向性こそ異なるが、彼らと矛を交える前線の兵士からは、災厄のように恐れられる存在であった。
そして今、その脅威が顕現していた。
場所は、暗闇に包まれた夢幻城の小広場。
碌に身を隠す場所もない空間で右往左往する傭兵たちを、身を潜める桃色の髪の狼人が狩っていく。
彼我の距離は200mに満たない程度であるが、視覚では一寸先も見えない漆黒の闇だ。カミラが周囲の照明を完全に落とした結果であった。
(……あと4人)
ルルは、新たな矢を手にしながら、冷徹に思考する。
こういった状況を想定して用意していた、静粛性を重視した狙撃用の弓に、専用の矢を番えていく。
強度は無く簡単に防がれるが、鎧の隙間を縫うほどに小さく鋭い鏃。
己の技量に自信を持つ一流の狙撃手に好まれる玄人向きの矢である。
構え――放つ。
新たな悲鳴、そして罵声。
それらの声には、次第に弱気の色が見えつつあった。
(部隊としての練度は悪くありませんが、個々の判断の柔軟性に欠けますね)
漆黒の中、胸中で呟く。
何も見えないのは、周囲が暗いから――では、無かった。
ルルは、その目を閉じている。
琥珀の瞳に、ほんの僅かでも光を映して場所を悟られるのを防ぐためだ。
音と、匂い。
この二つだけで、ルルは敵手の人数、位置、体勢、状態を把握し、次の動きの予測までもを立てて魔性の狙撃を実現させていた。
声ではなく、人体から発生する筋肉や骨格の軋みや心臓の鼓動。肌や肉から漂う匂いの変化。ルルのいる距離に届くそれは、その残滓といえる僅かなものだ。如何な鼻と耳に優れた狼人といえど、それのみを手掛かりに狙撃を実現させることは至難を極める。
狼人の中でも、更にずば抜けた感性を持つルルだからこそ可能な戦術であった。
対人戦闘こそが、この狼人の戦奴の本領なのだ。
くん、とルルの鼻が敵手の新たな動きを察知した。照明に代わり、荷物に火を付けようとしている。
その時にはすでに新しい矢を番えており、微塵の容赦もなく放つ。
寸分違わず、肩を撃ち抜いた。
悲鳴と共に、何かを落とす。
ルルは巧みに位置を変えながら、何らかの対策や行動を取ろうとした傭兵を的確に狙撃し、無力化していった。
傭兵たちは暗闇の中、撤退する方向すらも見失っている。
狙い、射つ。
狼人の狩猟場に、新たな悲鳴が響いていた。
そして、最初の狙撃からわずか3分ほど―
「くそっ……馬鹿な!」
「嘘だろ……!?」
「化け、物め……」
10人の傭兵部隊が、その全員が戦闘能力を失っていた。
全員の無力化を確認したルルは、静かな足取りで床に伏す傭兵たちに近寄っていく。
うっすら、広場に光が戻りつつあった。
一人がルルに気付き、悔しげに呻く。
「やはり……狼人か。しかも、こんな小娘とは……」
それには答えることなく、ルルは冷淡な眼差しと声で一方的に宣言する。
「急所は外しています。この城から這いずって脱出するぐらいは可能でしょう。逃げる分にはこれ以上は攻撃を加えませんので、どうぞご自由に」
「ふざけないで雌犬……! 隠れ潜んで卑怯な真似を! ここまでされて逃げるとでも――」
ぎらりと、琥珀の瞳に冷たい光が宿る。
「――これより先は、お命の保証はしませんが。無辜の子供の身を狙った代価と考えれば、安いものかと」
「くっ……」
言葉を詰まらせた仲間を、隊長格の男が制止した。
「よせ、俺たちの負けだ。命があるだけ有り難いと思え。なあ、あんた……本当に見逃してくれるんだな?」
「二言はございません。不安でしたら私が消えるまでお待ちになられれば宜しいでしょう」
屈辱であろう。
ぎり、と歯ぎしりの音が聞こえた。
相当なストレスを感じていることが、匂いで分かる。
「では、ごきげんよう」
その一切合財を無視し、唸る傭兵たちに背を向けた。
一度も振り向くことなく、ルルは颯爽とした足取りで立ち去って行く。
その場には、たった一人の娘に戦闘力とプライドを粉砕された傭兵たちが取り残されていた。
「その咆哮は我が矜持――」
ガウラス・ガレスの詠唱が響く。
その魂が具象する。
「その爪牙は我が武威――」
青の毛並に覆われた偉丈夫。
彼の筋骨隆々の巨躯を、昂ぶる風が抱く。
「その血肉は我が忠義――」
それは鈍色の形を成し、狼人の戦士の強壮な肉体に纏われていく。
「我、狂嵐の餓狼なり――」
鎧である。
だが防具ではなく、武器。
身を守るためではない、敵を打ち倒すための嵐の戦鎧。
「――魔法具象――」
颶風の鎧に包まれた、鉄の人狼が顕現する。
その、魔法の銘は――
「<颶鎧狼!>」
対するは、武田省吾の魂。
「運命よ、摂理よ、災厄よ――」
それは人には届かぬ概念。
そして人を芥のごとく弄ぶ天なる遊戯。
人はそれらに頭を垂れる。矮小なこの身には逆らえるはずもなし、と――
「諸共に微塵と化し、滅び去るがいい――」
――知ったことか。
そんな糞ったれた概念などくだらん、要らん、消え失せろ。
弄ばれし者、失いし者たちの憤怒と悲嘆を知れ――
「我が拳に砕けぬもの無し――」
変化は、僅かであった。
省吾の筋肉質な右腕に、黒き紋様が浮かぶ。
まるで刺青のように右腕と一体化したそれは、あたかも咢を開いた獅子の如く。
この拳にて、一切の理不尽を打ち砕かん。
「――魔法具象――」
それが、武田省吾の魔法。
その銘は――
「<獅子吼>!」
(……さて、野郎の魔法はどんな能力か)
両者の立ち会いは、静なる相対からはじまった。
己の有利な間合い、位置取り、そしてそれを得るための足捌きと、そのため隙を生むかもしれないリスク。
それらを本能的なレベルで分析しながら、二人はじりじりと移動している。
(鎧……か。それにしちゃあ、肝心な部分は全く守れちゃいねえが。野郎の性格的にも、じっくり守って隙を窺うタイプじゃなさそうだ)
ガウラスの魔法、内部に嵐を溜め込んでいるような不思議な質感を見せる鈍色の鎧は、腹部や胸部などの人体の急所をまったく覆っていない。
その装甲が重点的に覆うのは、腕部や脚部である。
(俺と同じで、攻撃用の能力だと思った方が良さそうだな)
ならば、こちらから攻めるべきである。相手に攻め手を与えるべきではない。
……が、その隙が見当たらない。
己から仕掛けるに有利な状況を、作ることができない。
駆け引きの主導権は、ガウラスに握られていた。そもそもの鉄火場の経験が違うのだから、それも当然といえば当然である。
それに加えて、
(やれやれ、でけえなマジで……)
省吾は、身長190cmを超える巨漢である。
それ故に、自分より更に大柄な相手――自分より攻防の強さと格闘戦のリーチに優れた相手と戦う経験は乏しかった。
対するガウラスの身長は、2mを超えている。その体躯は、省吾より一回りは大きい。
体重も自分より相当に上だろう。その差は50kg程度だろうか。
こと打撃戦において、体格差、体重差は絶対的な有利不利となって表れる。
数字上では大したことがないように見える差であっても、攻防において絶望的な優劣が生まれるものだ。
50kgもの差は、もはや別種の生物と言っても過言ではない。
魔道を用いた戦いである以上、その全てが厳密に適用される訳ではないが、フィジカル面の優劣は、決して無視できるものではない。
ましてや、省吾の戦闘スタイルは打撃に偏っている。ガウラスの構えもまた、打撃を重視したもののようだ。
総じて、この戦いは省吾に不利な要素が多い。
――そう、ガウラスもそう考えているだろう。
「ガアアアアアァァァァ!」
雄々しき咆哮を上げながら、ガウラスが襲い来る。
鈍色の装甲に包まれた右腕が、省吾の腹部を狙っていた。
ボディブロー。
だがその腕力から放たれる拳撃は、一撃で内臓を砕く破壊力を有しているだろう。
疾い。
が、反応できないほどではない。
省吾は冷静にその右腕を迎撃しようと、自らの右手を、
「ッ!?」
ガウラスの右拳。
その軌道が変わった。
馬鹿な、と思った。
人体の構造的、力学的に――武道の術理として、有り得ない変化。
横から上に、省吾の顎を狙うようなアッパーカットへ。
同時に、狼の遠吠えに似た轟音、そして凄まじい風圧が吹き荒れる。
まるで巨大な排気装置の如く。
「くっ……!?」
呻き、顔を反らす。
それだけではとうてい足りず、上半身も大きくのけ反らした。
体勢が崩れるのを気にしている場合ではない。
省吾の顔が、辛うじてその剛腕の軌道から外れるが、
轟音、風圧。
再びの軌道変化。
今度は下へ、
拳がハンマーのように、省吾の胸部へと叩き付けられた。
みしり、と胸骨の軋む音。
衝撃が、心臓と肺を打つ。
「がぁっ……!」
肺の呼気が、そして心臓の血流が全て溢れ出たのではないかという錯覚。
肋骨の何本かが、砕ける音がした。
そのまま省吾の背は床へと叩き付けられ――る前に、受け身を取って着地、立ち上がり、
「ジャアッ!」
鋭い呼気。
蹴りが、唸りを上げて迫る。
ハイキックの軌道。
省吾は、反射的に右拳を合わせようと――
(――蹴りもかよ!?)
先ほどと同様の、軌道の変化。
ハイキックから、斜め下への軌道へと。
それでも咄嗟に反応して防ごうとするが――蹴りが、更に加速した。
間に合わない。
腹部へと、ガウラスの脚がめり込む。
省吾の身体が、くの字に折れた。
「ごふっ……!」
口からこぼれる血反吐は、内臓が破裂したためか。
瞬時に飛んで衝撃をいくらか殺したものの、臓腑を抉られるような、怖気を帯びた痛みが総身を駆け廻る。
一瞬、意識が遠くなるが、気力で踏み止まった。
ガウラスの猛攻は、まだ終わっていない。
吹き飛ぶ省吾に、狼人の巨漢が追随する。
「ガアアアアアアアアアア!」
「ぐっ……おおおおおおお!」
乱撃、乱打。
精密にして強靭。
だが、決して対処できないほどではない。
……はずなのだ。
“これ”さえなければ。
(糞がっ! 軌道が……!)
打撃の軌道が変化する。
人体の構造からすれば不可能なはずの急激な動作。
理不尽な軌道で、ガウラスの打撃が省吾の防御をすり抜けてくるのだ。攻撃後に当然生まれるはずの隙ですら、その変化によって打ち消されている。
攻めに切れ間が存在しない。攻勢に転じる隙が無い……!
一撃一撃が、熊を殴殺できるであろう剛力。
荒れ狂う暴風の中、餓えた群狼に全身を貪られているような心地だった。
辛うじてダメージを最小限に抑えながら、耐えて、耐えて、耐えて――
「――ッ」
ようやく、ガウラスの苛烈な攻めに綻びが生じた。
「おらぁッ!」
一瞬の隙を付いて放たれた省吾の右腕の一撃を、やや大げさな動きで回避するガウラス。
そのまま間合いを取り、微塵の驕りも油断もない眼差しで省吾を見据えている。
「……大した頑強さだ」
その声色には、感嘆の色が滲んでいた。
「そこまで同化に特化しているのだ、硬かろうとは思っていたが、まさか今ので倒しきれんとは思わなかったぞ」
「……はっ、こんなにボコボコにされて褒められてもな」
苦笑を滲ませる省吾は、満身創痍であった。
肋骨は少なくとも5,6本は折れているだろう、内臓もどこか痛めている可能性が高い。
省吾の魔法<獅子吼>は、主である省吾と完全に同化している。
同化型と言われる、魔法の具象形として最も肉体の強度が高まる系統であり、防御に特化した美虎を除けば、異界兵でもずば抜けた頑強さを誇るのが省吾という男である。
それがこの様だ。自分か美虎、あるいは特殊な体質を持つ悠でなければ、致命傷は免れなかっただろう。
「逃げるなら、追わんぞ」
「冗談、後輩が命懸けてるのに、先輩面してる俺がそんなダセェ真似できるか」
窮地である。
だが、収穫もあった。
それはつまり、ガウラスの魔法の能力。
「その鎧を風に変えて、絶大な加速力を得る――ってところか。分かってみれば、シンプルだな」
「……別に隠すつもりもないがな」
見れば、ガウラスの纏っていた魔法の装甲は、大幅にその体積を減らしていた。
そして、次第に再生して元の姿を取り戻しつつある。
ガウラスの魔法<颶鎧狼>は、吹き荒ぶ暴風が鎧という形状を取っているのだ。
それを風に戻して噴射し、攻撃軌道の急な変化や、更なる加速による打撃の高速化および破壊力の増大を実現している。
破壊力とは、重さと速さで実現する。
強靭極まりない肉体を誇るこの狼人の戦士にとって、この魔法は最適解となる能力の一つだろう。
逆に言えば、この男でなければ、この単純にして暴力的な能力は扱いこなせまい。
頑強にして柔軟な筋骨と、己の肉体を御する緻密な技巧。そして、狼人の嗅覚と聴覚が実現させる、未来予知めいた敵手への対応力がなければ、圧倒的な加速に振り回されて自滅するだけだ。
「ったく、恐ろしい野郎だ……だが」
省吾は血まみれの顔で、にぃっと唇を釣り上げた。
「次で、勝つ」
「…………」
ボロボロの省吾が放つその言葉を、ガウラスは笑い飛ばそうとはしなかった。
いたって真面目に、その琥珀の目は一点を見つめている。
獅子の紋様が浮かぶ、省吾の右腕。
ガウラスはずっと、その右手には触れまいと警戒していた。
「その右腕か」
「……別に隠しちゃいねえがな」
構えを取る。
右腕を引き、左手を前に。
身体に染みついた、自分の最も得意とする藤堂流の構えだ。
「一つ、教えてやるよ」
「何だ」
「今、俺の後輩がな、お前らの目標の子供の……まあ、治療みたいなもんをやってる最中だ。そのうち終わって、逃げ出すだろうよ」
「……!」
ガウラスの表情が、険しさを増した。
「どうした? いつまでも俺に構ってる訳にもいかねえだろ?」
ガウラスたちの最大の目的は、レミルのはずである。
もし悠がレミルの救出に成功して脱出してしまえば、ガウラス達はそこで敗北する。
時間面でのアドバンテージは、こちらにあるのだ。
悠の行動はガウラス達の与り知らぬことだったろうが、それでもレミルに脱出されてしまう可能性は考慮し、警戒していたはずである。
わざわざ戦力を4つに分けているのも、そのためだろう……と、ルルは語っていた。
そして今、その差し迫った可能性をガウラスは改めて提示されたのだ。
無視はできまい。
半信半疑ではあっても、その疑惑の一滴は、省吾との戦いに集中していたガウラスの合理的思考に焦燥の波紋を広げていく。
「……ふん」
面白く無さそうに、ガウラスも構えを取った。
その嵐の鎧は、すでに元の姿を取り戻している。
「では、俺も宣言しよう……次の一撃で、終わらせる」
「そりゃ奇遇だな」
そこから先に、言葉は無かった。
先に仕掛けたのは、またもやガウラス。
「ガアアアアアアアアァァァァァァ!」
全身に暴風を纏い、桁外れの加速を得て迫りくる。
まさしく全身全霊。
避けるのも、防ぐのも到底不可能である。
そもそも、反応できたのすら、狼人の巨躯が目の前に現れてからだった。
……が、どの道やることは変わらない。
覚悟は、すでに完了している。
嵐と咆哮を纏ったガウラスの拳が、省吾の胸にめり込んだ。
肋骨を更に粉砕し、衝撃が心臓を叩く。
鼓動までもが、悲鳴をあげているようだった。
「ごはぁっ……!」
吐血、
意識が遠のく、
身が傾ぐ、
走馬灯めいたものが脳裏に流れ、
……耐えた。
意識は、崖っぷちで踏みとどまった。
胸に拳をめり込ませたまま、両の足で床を踏みしめる。
そして、
「ガァッ……!」
カウンターで放たれていた省吾の右拳が、ガウラスの脇腹に直撃していた。
ぱきり、と肋骨の折れる渇いた音。
狼人の喉から、苦しげな呻きが漏れる。
だが、満身創痍で放った一撃は、その巨漢を打ち倒すダメージを与えるには至っていない。
ダメージは、与えていないが――
「喰らい……尽くせっ……<獅子吼>!」
省吾の右腕が、雄叫びを上げる。
それは獅子の咆哮。
刺青が、激しく発光していた。
次の瞬間、ガウラスの驚愕の声が上がる。
「何、だと……!?」
ガウラスの鎧が――魔法が崩壊していく。
そして、その肉体が得る魔道の加護すらも。
省吾の右腕に眠る魔道の獅子が、暴風の魔狼を喰らい尽くす。
「ぐっ……」
一瞬で魔道と切り離されたことによる反動。
全身の血を全て抜かれたような急激な脱力感に、ガウラスがよろめいた。
倒れなかっただけでも恐るべき強靭さと言える。
だが、しかし――
「ギリギリ……あと一発が限界だが」
その隙を、省吾は見逃さない。
辛うじて残った最後の余力を、弓を引き絞るように右腕に注ぎ込む。
第三位階の強化を得た省吾と、一切の魔道の強化を失ったガウラス。
その優劣は、彼我のダメージ差と狼人の強壮無比な肉体でも補えるものではない。
「ぬぅっ……!」
ガウラスは再度、魔道と繋がろうとしているようだが……無理であろう。
省吾の魔法<獅子吼>。
その右拳の衝撃と共に叩き込まれた魔の咆哮は、あらゆる魔道とその能力を打ち砕き、叩き付けた相手の魔道を短い間であるが封じ込める。
連発は不可能。
右腕の獅子の牙は、先ほどの一撃で失われている。
だが直撃すれば、それだけで勝負を決する必殺の一撃。
「これで……終わりだぁ!」
残った全ての力を振り絞った全霊の拳。
ガウラスは、防御も回避も不可能であることを悟り、
にぃっ、とその口元に苦笑が刻まれ、
「……見事だ」
賞賛と共に、鉄拳を受け入れた。
魔法 颶鎧狼
使い手:ガウラス・ガレス
変性型。具象形は鎧。超々高密度の大気を装甲として形成し、身に纏う。
装甲の一部を大気に戻し、その爆発的な推進力による機動戦術を可能とする魔法。
具体的には、加速による高速移動や攻撃の急激な軌道変化が代表的。ガウラスはこれに己の得意とする格闘術を組み合わせて、超攻撃的な戦闘スタイルを確立させている。
ただし、能力を使えば使うほど鎧は消耗し、補充が必要となるという欠点がある。
急加速や軌道変化に伴う肉体への負担は相当なものであり、桁外れに強靭かつ柔軟な筋骨と、卓越した格闘技術、相手の行動の先読みを可能とする嗅覚と聴覚を有するガウラスだからこそ性能を十全に発揮できる、玄人向けの魔法である。
攻撃力:A
防御力:B
機動力:S
持続力:C
特殊能力:D
射程距離:E
※魔法単体ではなく、本人のスペックも含めた評価




