第9話 -虚空-
夢幻城で悠達が眠る真夜中、その同じ頃。
遥か、遥か、遥か遠く――世界の果てすら超えた場所。
そこは、どうしようもなく世界から“外れ”ていた。
地も、水も、大気も、光も――そもそも、“物質”という概念が存在しない空間。それ故に、物質に作用する物理法則すら存在しない完全なる無の領域である。
当然ながら、生命が存在できる道理も無い。
しかし、そこに在るのは――
「……呵呵っ」
風無き虚空に、斑の着物がはためいた。
枯れ木のように痩せた、無精髭を生やす黒髪の男。
煙管を咥えて紫煙を燻らせ、その黒瞳には悪童めいた爛々とした眼光を湛えている。
人の生命を維持するための一切が存在しない幽世めいた虚無の中、斑の着物を羽織る傾奇者は、悠々と現世と変わらぬ姿を保っていた。
「こりゃまた、絶景じゃな」
“偽天”マダラ。
“天”の男の視線の先――その黒瞳に映されるのは、
「のう、“双魚”」
無量の怪魚。
巨大、という表現では到底その威容を表現するには足りないだろう。
その大きさを計るには、天文学的な単位が必要である。
身体を覆う無数の鱗は不可思議な金属質の光沢を放っており、異形でありながらも完璧なまでの均整が取れた、造り物めいた雰囲気を纏っている。その数多の鱗の1枚1枚までもが寸分違わぬ完全なる左右対称で配置されていることに気付ける者は、一体どれほどいるだろうか。
もしこの威容が造られたものであるならば、果たしてどのような御業がそれを可能にするのか。少なくとも人の手によるものではないのは明らかである。
星々すら容易く収まるであろう眼が、微睡みの緩さを湛えて虚無を映していた。
「気持ちよう眠っとるとこ悪いがのぅ」
マダラの口元に、剣呑な笑みが浮かぶ。
明らかな兇の気を湛えた眼光が、自身の那由多の倍数を優に上回る威容を見据えていた。
語る口調は、愉しげですらある。
「ちいと其処から、堕りてもらおうかい」
その言葉と共に、
“双魚”と呼ばれた怪魚の頭上に、極大の焔が出現した。
「これは挨拶代わりじゃ――凶星終焉」
それは恒星、太陽の数百倍の質量を持つ煉獄の世界。
紅く罅割れながらも燃える星の輝きは、見るだけで恐怖を掻き立てられる危うい凶気を放っていた。
それは、死にゆく星が見せる最後の輝きである。
マダラの嗤う言葉が、虚空に響く。
「此処なら、世界の枷も無し。まっこと、楽なことよのぅ」
それは存在するだけで破滅的な炎熱と重力波を振り撒いていたが、それはこのマダラの術の付随効果でしかない。
罅割れた凶星の寿命は終焉を迎え――極大を超えた爆焔の花が咲く。
――超新星爆発。
超高圧縮恒星の爆弾は、星々の海すら飲み込み消失させるほどの熱と衝撃、そして致死量の猛毒をばら撒きながら、“双魚”を吞み込んだ。圧倒的という言葉ですら不足する破壊の奔流が荒れ狂う。
光と熱、衝撃の災禍が駆け抜けたその跡には――
「……ふぅむ」
――傷一つ無い、無量の怪魚。
超新星が撒き散らした破滅の獄炎は、“双魚”の鱗に傷一つを負わせていない。
まるで揺り籠を揺らされた赤子の如く、“双魚”はようやく身動ぎをはじめた。
“双魚”の瞳が、マダラの姿を捉える。
虚無を揺蕩っていた無量の怪魚は、そこでようやく斑の傾奇者を認識したようだった。
銀河系すら一飲みに出来るであろう大口が開けられ、自身の細胞一つにすら満たないであろう芥の如き存在へと顔が向けられ、
突進。
光すらも置き去りにする神速の顎が、痩躯の男へ――
「……呵っ」
――煙管を咥えた口の端が、にぃっと吊り上った。
「呵呵呵呵呵呵!」
呵呵大笑で迎え撃つマダラは、まるで遊戯に耽る悪童のような快々たる声を上げる。
「そう怖がるでないわヒヨっ子! “白羊”も“処女”も他の連中も、お主の兄弟は満更でもなさそうじゃぞ? 祭りは端から眺めるもんじゃあなかろうが! この“偽天”が誘ってやっとるのじゃ、大人しゅうせい!」
そのまま、歌うような声が虚無に響く。
「其は原初の混沌――」
傾奇者の口から語られるのは、一つの神格の在り方。
己が魂を謳う魔法とは、性質を異にする詠唱である。
それが意味することは、ただ一つ。
「――顕・天――」
その、神の銘は――
――フォーゼルハウト帝国、帝都アディーラ。
朱音に割り当てられた、第一宿舎の一室。
「……悠」
夜の闇に包まれた部屋の中、朱音はベッドに入りながら、想い人の名前を呟いた。
彼は今、どうしているだろう。無事だろうか、酷い目に遭わされてはいないだろうか。それは一緒に攫われた美虎や伊織も同様である。
やるべき事は一刻も早く眠って身体と頭を休めることだとは理解していても、乱れる想いがそれを許してくれなかった。
「アカネ……やっぱり眠れませんカ?」
一緒のベッドで眠っているティオが、心配そうな顔で見上げてくる。
形式上は朱音付きとなった彼女は、基本的に朱音と一緒の部屋で寝泊まりしていた。
朱音は肯定の苦笑を浮かべる。
「ティオも?」
ティオは無言、そのまま朱音にぎゅっと抱き付いた。
小柄な身体は、小刻みに震えている。
「駄目ですネ……アカネの分までしっかりしようと思ってたんですけド」
震える声は、悲しげに湿っていく。
それは次第に嗚咽となり、切れ切れの悲痛な声が暗い部屋に溶けていく。
「もう……大切な、人……喪うの嫌デス……」
母親のことを思い出しているのだろうか。
娘のために生き、娘のために戦い、娘のために死んでいった強く優しい母のことを。
彼女が家族を喪ってから、それほど時を経ている訳ではない。胸を抉る喪失感と悲哀は、未だ癒えてはいないのかもしれない。
思えば、ティオの身の上話は色々と聞いたのに、自分の身の上は大して話していなかった。
「ねえ、ティオ……そういえば、あたしのお姉ちゃんことは話してなかったわよね」
「え……?」
ティオが顔を上げる。
悲嘆に濡れた顔に、驚きの色が混じっていた。初耳だ、という心の声が伝わってくるようだ。
朱音は、指でティオの涙を拭いながら言葉を続ける。
「悠は知ってるんだけどね……あたしのお母さんは、物心つく前に死んじゃったんだけど、他にもお姉ちゃんがいたのよ、4歳年上の」
「……きっと、綺麗な人なのでしょうネ」
「うん、あたしよりずっと。それに……天才、だったんでしょうね。とにかくすごく強かった。信じられる? あの省吾兄ぃが1度も勝てなかったのよ」
「ショウゴ様がですカ? 信じられませン」
朱音も自分の格闘技術にはそれなりの自負を有しているが、「それなり」という自己評価に落ち着いているのは、父である正人、そして兄弟子である武田省吾の技量を目にしているからだ。
彼の格闘技能は、戦闘のプロである帝国の軍人が目を見張り、世界でも名の知れた剣豪であるベアトリスが将来性を高く評価するレベルであるが……その才覚は、朱音が幼い頃から発揮されていた。
朱音は、彼に対して1度も勝ったことがない。
そして、その彼が1度も勝てなかったのが3人。
師である朱音の祖父、
父である正人、
そして、姉である藤堂紅理であった。
「……その癖、あたしと違ってお淑やかでね。優しくて、気も利いて、友達も多くて……正直、コンプレックスだった。あの人と比べられるのが嫌でたまらなかった。あたしがあの人に勝ってるものなんて、一つも無かったもの」
「そ、そんなことないと思うデス!」
朱音は小さく微笑み、「ありがと」と、ティオの頭を撫でる。
「お姉ちゃんはね――」
少し水でも飲もうかと身を起こし、
「うんうん……それで?」
蒼の少女と、目が合った。
蒼穹のような髪の、天使のように美しい顔立ちの少女。
暗い室内なのに、その姿はまるで光の粒子でも纏っているようにはっきり見える。
彼女は椅子の上にちょこんと正座をしながら、食い入るような表情でこちらを見つめ、話の続きを促していた。
見覚えのある少女だった。忘れらない少女だ。
悠達を、拉致した張本人である。
「…………」
「…………」
しかし、取るべき行動に思考が辿り着いて行かない。
あまりに予想外の事態に、朱音とティオの思考の歯車は完全に停止していた。
感情すらも硬直し、表情はただ真顔。
「ねー、続きはー? 君のお姉ちゃんどうなったの?」
蒼の少女は、興味津々といった様子で顔を近付け、
「……あんたはぁっ!」
「わわっ!」
跳ねるように起き上がった朱音の猛り、それと共に放たれた回し蹴りを、蒼の少女は身を仰け反らせて回避した。
そのまま後ろにこてんと倒れ込み、器用な動作で両手を広げて着地する。
「危ないなあ、ひどくない?」
「何がよっ、この誘拐犯!」
蒼の少女――“蒼穹の翼”アリエス。
悠達を拉致した蒼髪の少女の話は、玲子から聞いていた。
……そして、その実力も。自分では相手になるまい、魔道の使えない現在の状態では更に論外だ。
朱音は、背後のティオに叫んだ。
「ティオ、窓を開けて叫んで! 誰か呼んで!」
この第一宿舎の部屋は防音性が高く、生半な音は外に漏れることは無い。
しかし、窓を開けて叫べば誰かが気付くことだろう。
部屋の出口はアリエスの後ろであり、戦闘力の無い状態であるティオを向かわせる訳にはいかない。
背後から、ティオの上擦った返事が、
「は、はいデ――すっ?」
何故か、彼女は目の前にいた。
蒼の少女に、ぬいぐるみのように抱き止められている。ティオは、朱音とアリエスを交互に見ながら何が起こったか分からないといった様子で目を白黒させていた。
「えっ……え、えっ……?」
「んー、可愛いっ」
朱音は、アリエスがティオの頭を撫ででいる光景に、呆然と立ち尽くしていた。
「な……んで……」
ティオはつい先ほどまで背後にいたはずである。
それが何故、瞬きするほどの間すら無くアリエスに捕まっているのか。
そもそも、アリエスはいつの間に、どこから部屋に侵入して来たのだろう。
世界でも最先端を誇る帝都アディーラの防衛網は、彼女の侵入を一切感知することが出来なかったということか。
……それはつまり、この蒼の少女がその気になれば、要人の暗殺や重要施設の破壊などの致命的なテロ行為を容易に行い得るという事実を示している。それに思い至った時、朱音に背筋に凍るような悪寒が走った。
「はっ……離しテっ……離して下さイっ!」
ティオはアリエスの腕の中でじたばたと暴れているが、全く意味を成していない。
アリエスは、そんな森人の少女の長い耳をじっと見つめ、玩具を投げつけられた子犬のようなうずうずとした表情で、
「はむっ」
「ふにゃああああああっ」
ティオの耳に噛みついた。
甘噛みに、ティオが子猫のような悲鳴を上げる。
「みみっ……耳だめっ……噛んじゃやっ……ひぅんっ」
「ひ(き)もひ(ち)いいも(の)? ほ(こ)ほ(こ)は?」
「き、気持ち良くなんテ……ひんっ……あ、あっ……舐めちゃやだぁ……舌入れないデぇ……」
甘い吐息と声を漏らし、身体をぐったりとアリエスに預けるティオ。
アリエスはティオの反応が面白いのか、ティオの長耳を甘噛みしたり撫でたり舐めたりして遊んでいる。そのたびにティオは蕩けた声を上げ、身体をぴくんと跳ねさせて、可愛らしくも艶めかしい反応を返していた。
されるがままに声を上げる様は、まるで何かの楽器のようだ。
それはあの夜、疼いて耐えられない身体を、悠が触れたり舐めたり噛んだりした時を思い出す姿で――
「~~~~……!」
朱音は、赤面しながら紅潮していた。
ティオは頬を紅潮させ、口の端から涎を垂らしながら荒く息を吐き、切なげに潤んだ瞳で朱音を見つめて、懇願するように声を絞り出す。
「アカネぇ……見ないデぇ……」
「えっ……あ、ええと……テ、ティオを離しなさい!」
我に返った朱音の、未だ動揺に震える声。
アリエスはそこでようやくティオの耳への凌辱を止め、朱音に視線を戻した。
蒼穹のように澄み切った蒼の瞳。そこに何らかの悪意があるとはとうてい思えない綺麗な瞳である。無垢な幼子のような稚気を宿したその顔に、つい戦意を萎えさせそうになる。
だが、目の前の少女は、世界を滅ぼすと宣言し、そして悠や美虎や伊織をさらった張本人なのだ。
アリエスは、子犬のように小首を傾げて、
「君もやる? 面白いよ? ほらっ」
ティオの甘い鳴き声が上がる。
「やらないわよっ! いいから離してよ! ……ああもう、調子狂うっ!」
そこで朱音は気持ちを落ち着けるべく、深く、深く息を吐く。胸の内の動揺ごと吐き出すように、震えた呼気を絞り出した。
改めてアリエスを睨み、凛として気配をもって対峙した。
アリエスの腕には、ぐったりとしたティオを抱きかかえたままである。気に入っているのか、人形ように抱き寄せており、その肌の柔らかさを楽しんでいるようだ。
とりあえず彼女を害する意図は無いようだが、ティオまで攫われてしまうのではないかと、不安で仕方がない。
「悠達はどこ? 無事なの? 一体、どうしてあんな真似したのよ!」
そこでアリエスは目を見開いて、「あっ」と声を上げた。
「そうそう、そうだったよ! ボク、それを伝えに来たんだった!」
「えっ……?」
怪訝に眉をひそめる朱音に、アリエスはにこりと天真爛漫な笑みを浮かべる。
ティオはついに身体を弄られはじめ、話どころではないようだ。涙目で自分の指を咥え、声を押し殺すようにしながら、何かを我慢しているように身体を震わせていた。
可愛そうだとは思うが、今の自分ではどうしようも無い。歯噛みしながらも、アリエスの話を優先させる。
「ユウも、他の二人も無事だよ。というか何もしてないし。今はぐっすり眠ってるんじゃないかな?」
「……本当に?」
「本当だよー……あー、そうそう、ユウからこれを借りてきたんだ、勝手にだけど」
「泥棒じゃないの!」
「失礼だなあ、ちゃんと返すよぅ」
アリエスは胸元から、掌サイズの黒い板のようなものを取り出した。
朱音からは暗がりで良く見えなかったが、彼女が板に指を這わせて操作を始めた時点で、それがスマートフォンであると気付く。
よく見れば、悠がお気に入りにしているストラップがぶら下がっている。
「ほらっ」
アリエスが朱音に見せた画面には、1枚の写真が写っていた。
女の子っぽい装飾の何処かの部屋。そこに映るのは、悠と、美虎と、伊織――そして悠の膝に上で満面の笑みを浮かべる見知らぬ褐色の美少女と、メイド姿の無表情の女性。
3人はリラックスしている様子で、非人道的な扱いを受けているようには見えなかった。
「……楽しそうね」
「これで信じてくれるかな?」
無事そのものの悠達の姿。
思わず緩みそうになる表情と心。
朱音は自戒し引き締めながら警戒の色濃い言葉を投げかける。
「今も無事だって証拠にはならないじゃない。それに、そこはどこなのよ」
「それはひ・み・つ」
アリエスは、ぺろっと舌を出しておどけた笑みを見せていた。
朱音は小さく舌打ちしながら、憮然とした表情で蒼穹の少女を睨みつける。
(悠……美虎さん、伊織さん……)
……信じたかった。本当ならどれほど安堵できるだろう。
しかし、目の前の少女の言葉を本当に信用していいものだろうか。
彼女は世界を滅ぼすと宣言しているいわばテロリスト同然の人物であり、それが真意であったとしても、戯言であったとしても、その言葉に信を置くことは極めて躊躇われる。
懊悩する朱音に、アリエスは人懐っこい笑みを向けた。
その言葉は、馴れ馴れしいほどに気安い声色である。
「君、アカネっていうんでしょ? ユウが、とっても大切な人だって言ってたよ。綺麗で、強くて、素敵な人だって」
「え……」
胸が高鳴る。
不意打ちのような言葉に、朱音は頬に熱がこもるのを自覚した。
悠が? 自分のことを大切な人? 大切な女?
それはつまり、もしかして悠が自分を――
「特別な友達だって」
「……知ってた」
その呟きは、切ない虚しさを帯びていた。
アリエスは朗らかな笑みを浮かべて白い歯を見せる。その色香を備え始めた年頃に不相応な、童女のごとき無垢な表情に、敵意と警戒心が萎えそうだ。他者に甘い悠ならコロッと警戒心を解いてしまうかもしれない。
あるいはこれも“蒼穹の翼”の戦術なのだろうか。
玩具にされていたティオが、蕩けた悲鳴を上げて身体を弓なりに仰け反らせる。
「だから、君にユウは大丈夫だよって伝えにきたんだよ。心配してたでしょ?」
「それは、まあ……」
「10日もすれば3人とも返すから、それまで待ってて欲しいな。じゃあ、ボクの用事はそれだけだから――」
「――え?」
気付けば、アリエスの姿が消えていた。
ティオが「ふみゃあ……」と蕩け切った声を漏らしながら、くてっと力無く床にくずおれる。呼吸は荒く、そして甘い。しばらくは自力で起き上がれないだろう。
そして窓が開く軋んだ音が、背後から。
「っ!?」
振り向くと、窓を開けてアリエスが身を乗り出していた。あくびを噛み殺すように、口元をもにょもにょと動かしている。
明らかな立ち去る気配、
朱音は手を伸ばして、
「ちょっと、待って……!」
「駄目だよ、眠たいもん。もう限界」
語るアリエスの瞳には、微睡むような緩みが感じられる。
蒼の少女は、天使のような純粋な笑みを浮かべながら、
「じゃあね、アカネ、ティオ。また会えたらいいね――」
一瞬で、姿が消える。さきほどまで開いていたはずの窓が閉まっていた。
止める間も、反応する間すら無い。
アリエスは、まるで初めからそこにいなかったかのように、その姿を消していた。
残った痕跡といえば、「ユウ様ごめんなイ……」としくしく床にうずくまっているティオぐらいのものだ。
朱音は呆然と、ただ立ち尽くしていた。
「何なのよ、あいつ……」
しかし自失は僅かな間、やるべき事を思い出した朱音は、即座に実行に移す。
「勝手なことだけ言って……! ティオ、大丈夫? ほら立って……ああ、ごめん、ごめんってば! 汚れてないから! 別にやらしくなんてないから! ほら、報告に行かないと!」
床に体育座りをしてさめざめと落ち込んでいるティオを励ましながら、朱音は部屋のドアを開けて駆け出した。




