第27話 ―疼き、二つ―
エロ注意
その後、悠は傷の再生が終わり次第、すぐに気を失った。
目が覚めると悠の自室であり、既に日は落ち夜となっていた。悠は介抱していたルルからその後の顛末を聞かされることとなる。
帝都に戻り、粕谷は即座に医療施設へと運ばれたそうだ。
魔界化の解除と共に腕は繋がっていたが、その内部には相当なダメージがあるらしく、数日は起き上がれず完治には更に時間がかかるであろうとのことだった。
人の身体を斬った不快な感触はまだ悠の手に残っており、終わってしまえば戦いに勝利した達成感よりも、この手の残る気味の悪さが勝る気がした。
そういえば、斉藤たち粕谷の取り巻きはどうなるのだろう。ティオやクラスの皆が許してくれるなら、これから仲間としてやっていくことは出来ないだろうか、と粕谷を戦闘不能にした責任として、そんなことを考える。
美虎も重傷を負っていた。
打撲、骨折多数、破裂していた内臓もあったそうだ。
そしてその代りに彼女と共に戦ったメンバーは全くの無傷だったらしい。彼女の魔法の能力は聞き及んでいるが、凄い人だと悠は感心した。
朱音やルル、冬馬達を助けてくれたお礼をしなければならないだろう。
喜ばしいことに、あの魔界内での死者はゼロであった。
もし一人でも死者が出ていたらと思うとゾッとする。その責任の一端は間違いなく決闘に関わった悠にあり、悠は間違いなく一生自分を責め続けていたところだ。
省吾や伊織も負傷こそあれ、元気だそうだ。
もう一つ喜ばしいことが、共に協力して死線を潜り抜けたことで、異なるグループ間においても一定の連帯感が生まれているとのことだった。
勿論、例外もあるがこれで余計な諍いや争いが減るなら素晴らしいことだろう。
そして、肝心なティオの身柄であるが、既に粕谷から悠への権利の正式な譲渡は終了したそうだ。
ベアトリスが帝都に帰還し次第、即座に手続を行ってくれたおかげである。
今は朱音と共にいるらしく、朱音は第三位階として悠と同じ第一宿舎に部屋が割り当てられ、今はそこで休息を取っているらしい。
悠が起きるまで一緒にいると願い出たが、ルルが下がらせたようだ。
朱音にも奴隷が割り当てられることとなるだろうが、悠はその代わりにティオに朱音と一緒にいてもらおうと考えていた。
きっとそれが、1番丸く収まる差配ではないだろうかと思うのだ。
悠はその意思をルルに伝え、彼女は朱音達に伝えてくると部屋を後にしていた。
「……目、冴えちゃったなぁ……」
悠は、ベッドから起き上がり窓から帝都の夜景を眺めていた。
8時間ほど眠っていただろうか。
一般的な睡眠時間と殆ど変らず、悠の身体はすっかり回復し、眠気も吹き飛んでいた。
しばらく眠れそうにない。
帝城の図書館も、夜は閉まっているだろう。
眠くなるまで勉強しようにも、大した勉強も出来そうになかった。
ちょっと走ってこようか――そんなことを考えていると、ノックの音が部屋に響く。
「ユウ様、ただいま戻りました」
「おかえり、ルルさん」
ルルが、ドアを開けて入ってくる。
彼女をの顔を見て、悠は違和感を覚えた。
ルルの表情が、何かおかしい。
その美貌は、何かを我慢しているかのように小さく震えている。
「……何かあったの?」
「いえ……まあ」
珍しく、彼女が言い澱んでいる。
その震えは、肩にまで及んでいるようだった。
まるで、今にも吹き出しそうになるのを堪えているような、そんな様子である。
朱音の部屋で、何かあったのだろうか。
ルルは、そんな様子を誤魔化すように咳払いをして、表情を整え悠を見る。
「アカネ様とティオが、ユウ様とお話しをしたいと仰ってますが、お通ししても宜しいですか?」
「えっ、もちろん大歓迎だよ!」
ちょうど退屈しそうなところだった。
彼女達も疲れているだろうと気を使っていたのだが、あちらから来てくれるなら余計な気遣いというものだろう。
二人の活躍はとても素晴らしかったと聞く。その武勇伝を是非とも聞いてみたいものだ。
「畏まりました。
……どうぞ」
既に来ていたのだろう、ルルが避けるとドアから見知った二人の少女が入ってくる。
朱音とティオが部屋に入って来た。
「…………お邪魔します」
「…………ユウ様、お邪魔しまス」
しかし二人の様子にも違和感があった。
その顔は、どこか熱に浮かされているように、ぼんやりとしているようだ。
頬は紅潮しており、その吐息も安定していない。どこか痒いのだろうか、身体をもじもじとさせていた。
まだ疲れてるのではないだろうか、悠は心配して二人に駆け寄った。
「ね、ねえ二人とも大丈夫……?」
近寄り、手を伸ばす悠に、
「だめっ……!」
朱音が、身を抱き締めながら身を引いた。
まるで、悠から離れようとするように。
「えっ……」
悠は、予想していなかった朱音の反応に戸惑いを覚える。
何か気に障るようなことでもしてしまったのだろうか、悠は思わぬ拒絶の言葉に切なげな顔を見せた。
そして朱音は、そんな悠の顔に罪悪感めいた翳りを滲ませて頭を振る。
「ご、ごめん……ちがう、違うの……」
近くで見ると、朱音の様子はやはり変だ。
何かに耐えるように、その瞳は潤んでいるように見えた。
ティオは似たような表情であったが、朱音よりは若干の余裕があるように見える。
彼女は、ルルを見上げ、
「ルルさん……」
「ええ、分かってますよ」
互いに何かを確認し合っていた。
ルルはティオに優しく頷き、様子のおかしい二人とは裏腹に楽しげな悪戯っぽい表情を見せながら悠へと向き直った。
その笑みは、どこか妖しい。
「ユウ様、どうか御三方で“お楽しみ”くださいませ。
私は、下の共同部屋にて休ませていただきますね」
「えっ、なんで?」
ルルも一緒に加わればいいのに、と疑問を呈する悠にルルは何も応えず、ただウィンクだけをして部屋を去って行った。
彼女もまた、二人とは違った意味で妙だった。
明らかに、笑いを堪えていたように見える。
部屋には、悠と様子のおかしい朱音とティオが残される。
静かな部屋に、二人の少女の荒い吐息が漏れていた。
「と……とりあえず、座らない? お話しようよ」
どうにも変な空気だ、悠はとりあえず部屋の中央のテーブルを示して、二人に座るように促した。
二人は顔を見合わせ、何か複雑そうな表情をしている。
「くぅっ……」
突如、朱音がびくりと身を震わせ、切なげな声と吐息を漏らした。
やはり普通ではない。悠は朱音に駈け寄り、肩に手を伸ばす。
朱音が弱々しく「だめっ」と呟くが、それどころではないだろうと悠は構わずに彼女に触れた。
「ぁ…………!」
朱音の身体が、更にびくんと跳ね、へたり込んだ。
その身体は小さく震えて、朱音の顔は何かを我慢しているように真っ赤である。
疲労にしては異常である。何か病気をしているのではないかと悠は彼女の身を心配した。
「ね、ねえ……お医者さんに診てもらった方がいいんじゃないかな」
そんな悠を、朱音は上目遣いで見上げる。
涙目で、唇を噛みしめながら恨めしそう目で睨んでいた。
「ばかぁ……何で気付かないのよぉ……!」
「え、えぇ……?」
一体、何のことだろうか。
本格的に混乱する悠の裾を、ティオが摘まんでちょんちょんと引っ張った。
彼女もまた、何かを堪えているような切なげな表情を悠を見上げながら、
「ユウ様……アカネと私は、第三位階に上がりまシタ」
「うん……」
「ユウ様が第三位階に上がった時にどうなったカ、覚えていらっしゃいますよネ?
夜に、その……」
第三位階に上がった夜、どうなった、何があった。
悠は記憶を呼び起こし、
「あ……ああああああああ!?」
理解の叫びを上げた。
覚えてる。例え悠の記憶力が人並み以下でも忘れるものか。鳥になったってきっと覚えている。
あの耐え難い身体の熱い疼き、ルルの肢体の美しさ、身を躍らせるルルの艶姿と艶声――
「ま、ままま、まさか……」
悠は、震える声で朱音とティオを指差した。
ルルは確率は低いと言っていた。それが二人同時?
あり得るのかそんなことが――悠の混乱に、
こくん、と。
二人は疼きに震える顔で悠を見上げ、頷いたのだ。
切なげな表情で、熱い吐息を漏らしながら、何かを恐れ期待するような眼差しで――
朱音が身体に異常を感じたのは1時間ほど前からだった。
そして実は、その少し前からティオも発症していたようだ。
身体が熱く、疼いている。
内側から沸き起こる熱で心と声が溶けていく。
そして、それが気持ち良かった。快感なのだ。
もっと、もっとと身体が飢えて、求めている。
それは砂漠で水を求めるような、本能に訴えかける衝動であり、理性で抑え続けるなど到底不可能に思えた。
これが、痛みや苦しみなら耐えられただろう。
しかし、この感覚は“甘い”のだ。たまらなく心地良い。どんなに朱音の理性が拒もうと、それを溶かして心を疼かせていく。
溶けた心に浮かぶのは、一人の白髪の少年の姿だった。
以前、第三位階となった悠の身体に起こった変化であるとは、すぐに気付いた。
しかし、確率は低いと聞いていたし、まさか自分の身に起こるなど思っていなかったのだ。
ましてや、ティオまで同時になど――
「……良い機会だと、思いませんかアカネ?」
朱音と同様に疼きに声を震わせながら、ティオがそんなことを言って来た。
どこか優しげな笑みを浮かべて、
「ユウ様に想いを告げる、良い切っ掛けになるのでは無いでしょうカ」
先ほどティオには、悠への恋を自覚したことは伝えていた。
恐らくティオも悠に好意を寄せており、それで諦めろなどと図々しいことを言うつもりは無かったが、友達として彼女には言っておきたかったのだ。
ティオは応援すると言ってくれた。
別にティオが悠を諦める必要は無いとは言ったが、応援したいのだとそう言ってくれたのだ。
そして、悠に真正面から想いを告げる勇気が無いことも話していた。怖い、恥ずかしい、無理だと。
ティオは、いつか機会を作ることに協力すると快く言ってくれた。
本当に良い子だ。仮に悠が他の異性を選んだとしても、ティオなら納得できるだろうと、そう思えた。
そして、ティオはその機会が来たのだと言っている。
今、朱音の身体を襲っている疼きは到底我慢できるものではない。
こんな状態で一晩も経過すれば、頭がおかしくなってしまうのではないだろうか。
卑しい――本当に卑しい話だが、身体が快楽に飢えている。
鎮めて貰わなければならないが、では誰に頼めばいいのか。
“はじめて”なのだ。願う相手は初恋の相手に決まっている。
朱音には、悠しか考えられなかった。ティオも同様なのだろう。
お願いすれば、悠は戸惑い、遠慮しながらも結局は断らないのではないかと思う。
そして、どうせ悠に抱かれるならば、一緒に想いを告げてしまえ、とそうティオは言っているのだ。
朱音は悩む。正確には、答えは既に決まっていた。
ただ、頷くことが怖かったのだ。
あまりにも突然の事態で、心が全く追い付いていない。
ルルが部屋を訪れたのは、その時だった。
「う、嘘……」
悠は、愕然と呻く。
つまり、悠に朱音とティオの疼きを鎮めろと、そういうことか。
ルルが“お楽しみ”と言っていたのはそういうことなのか。
「で、でも僕じゃなくても……」
「ユウ様は、お嫌ですカ?」
「嫌じゃないけど……」
嫌じゃないどころか――彼女たち二人の“女”を意識してしまった悠は、自分の身体も反応しつつあることに気付いた。
誤魔化すように、ベッドに腰掛ける。
「あ、朱音はいいの……?
初めてなんだよね、僕なんかより好きな人のところに行った方が――ひぃっ!?」
何故か、物凄い目で睨まれた。涙目で、本気で恨めしそうな目だ。
悠には全く耐性の無い情念が籠っている。
何か不味いことを言ったのだろうか。
ティオが、困ったような笑顔でそれを見ていた。
そして、どこか微笑ましそうな表情で、朱音に諭すように、
「……アカネ?」
「うぅ……分かってるわよぉ……」
朱音は、悠に上目遣いの視線を戻し、震える声で、
「いいから、その……あたし達を、その……あの……」
何かを決意し、覚悟したような瞳で、悠ををしかと見据えて言う。
「抱いて、よ……」
「お願いしますデス、ユウ様」
朱音の言葉を、ティオが次ぐ。
二人の少女は、熱の籠った瞳で悠を見つめていた。
「あぅぅ……」
悠は予想外の展開にすっかり混乱し、言葉にならない呻きを漏らしている。
自分が朱音とティオを抱く?
しかも朱音は初めてなのに?
更に二人一緒に……!?
男しての許容量を超えた事態に、悠の思考回路は完全にショートしていた。
そんな悠を見上げながら、朱音は言う。
「その……悠はあたしやティオのために頑張ってくれたんだし……ご褒美、上げるわよ」
「はう……」
思考回路のどこかが弾け飛んだ。
朱音は、へたり込んだ姿勢のまま、じっと悠を見上げていた。
身体をもじもじとさせ、とても切なげ様子である。
悠を、待っているのだろうか。
「…………」
悠は動かない。動けない。動いていいのだろうか。
朱音は本当にいいのか。妥協をしてはいまいか。
先日、風呂上りに悠などタイプではないと言っていたことを思い出す。
彼女には、もっと理想としている男性像があるのだ。もしかしたら好きな相手がいるかもしれない。
朱音は友達だ。
その恋は応援したいし、女の子としての“初めて”だって、恋する相手に捧げて欲しいと思う。
自分なんかが、こんな突発的な事態で奪ってしまっていいものなのだろうか。
そんな思考が悠の中で堂々巡り、その先へと進むことを拒ませていた。
「…………ユウ様」
そんな二人を見かねたのか、ティオが一歩、歩み出る。
悠が顔を向けると、
そのメイド服を脱ぎ始めた。
「「ティオ……!?」」
奇しくも、朱音と声がハモる。
しかしそんな声など素知らぬ様子で、ティオは次々と身に纏った衣服を脱ぎ捨てていく。
夜の部屋を、少女の衣擦れの音が撫でる。
そして、悠と朱音の前に一糸纏わないティオの裸身が立っていた。
ティオははにかんだ様子で、しかしその女性としての一切を隠さずに、
「……どうですカ?」
と、問うてきた。
悠は、その身体から目を離すことが出来なかった。
未発達な、白い裸身がそこに在る。
まだ14歳なのだから当然であるが、その身体つきも肉付きも、女性として完成しているとは言い難い。
だが逆に、それ故にルルのような女性らしさを備えた肢体には無い類の、背徳的な色香も同時に匂わせるものだ。
身体の疼きと熱に耐えているのだろう、その玉のような上気した肌には薄く汗が浮かんでおり、僅かに震えていた。
「……凄く、可愛いよ」
魅入られていた悠は、それしか言えなかった。
そしてティオは、本当に嬉しそうな向日葵のような笑みを咲かせる。
「ありがとうございマス……!」
そして、ティオはそのまま、唖然とティオを見上げていた朱音へと顔を向けた。
「……ほら、アカネも」
朱音は羞恥に染まった顔でティオを見上げ、幼子のような声を出す。
「やんないとだめ……?」
「だめデス」
言い切られ、観念したように立ち上がった。
悠はこれから何が起こるかを予測し、ごくりと唾を飲み込む。
そして、予想通りの行動を朱音は取った。
「…………っ」
目を恥ずかしげに伏せながら、その衣服を脱ぎ始める。
ティオと違って身に着けている衣服の種類は少ない。その肌はすぐに露わになっていく。
シャツのような上着を脱ぎ、ホットパンツを下しただけで、下着だけの朱音の姿が露わになる。
朱音は少し怯えたような表情を見せるが、意を決したように下着にも手をかけた。
小さな布が床に落ち、
朱音は、その裸身の一切をさらけ出していた。
以前、藤堂家の脱衣場や風呂場で見た姿であり、全く同じ健康的な肢体である。
羞恥で顔を真っ赤にさせ、その身をプルプルを震わせており、重力に負けずに張りを保つ、果実のようなたわわな双丘が、それに合わせて揺れていた。
身体の成長が相当に早いのだろう、15歳にしてその肢体は女性としての魅力を十分に兼ね備えている。
要所要所は引き締まっているのに、胸やお尻、太腿といった女性的な部分の肉付きは、柔らかい肉感的な女性らしさを存分に主張していた。
「な、何とか言ったらどうなのよぉ……」
涙目で声を震わせながら、朱音がこちらを切なげに睨んで来る。
見惚れていた悠は、こくこくと頷きながら、
「き、綺麗だよ。とっても……!」
そんな悠の言葉に、朱音は顔を赤く、目を逸らしながら、
「ありがと……」
と呟いた。
そんな様子を優しげに見ていたティオは、悠に、
「ユウ様……アカネを、最初にお相手していただけまスカ?
ね、アカネ?」
言いながら、朱音に視線を向ける。
朱音はそれを受け、
「……ん」
と頷いた。
その潤んだ瞳は、悠をじっと見つめている。
悠の返答を待っている。
二人の少女は魅力的な一糸纏わぬ裸身を悠に晒し、身体の疼きに身体をもじもじと擦り合わせながら悠の前に立っていた。
それを見る悠の理性は既にボロボロだ。
加えて、この期に及んで断り逃げるというのは、彼女達に恥をかかせるだけであり、あまりに失礼に過ぎるということは、悠にも理解できている。
だから、
「わ、分かったよ……頑張る」
覚悟を決めて頷いた。悠もまた、顔に真っ赤にしている。
それに卑しいことだが、理由があるとは言え二人の見目麗しい少女を抱けるという事実には、心が躍る部分もある。男としての本能は、至上の喜びを感じていた。
その相手に悠を選んでくれたことは、凄く光栄である。
二人の少女だけ裸にさせていたのでは申し訳ない。
悠も、いそいそと服を脱ぎ始めた。
「……アカネ!」
ティオは両拳をぐっと握りしめ、朱音に対して激励するような声をかける。「んふー」と何やらテンション高げに鼻息を荒くして、朱音に何を求めているようだ。
朱音は、そんなティオに頷き、おずおずと悠へと語りかけた。
「悠……あの、ね」
「……どうしたの?」
服を脱ぎかけた悠は、もじもじしている朱音を見上げる。
彼女は、何かとても言い難いことを言い出そうとしているように見えた。
どうしたのだろうか、かなり重大な事であるように思える。
「その、あたし、ね……」
朱音は、その裸身を見せている時よりも恥ずかしがっているような気がする。
その表情は更に真っ赤であり、目は泳いでおり、唇は震えている。
何かに期待するようでもあり、何かに怯えているような、そんな不思議な様子であった。
悠はそれを戸惑いの表情をで見つめ、
ティオは興奮して見つめている。
「あたし、悠のことが――」
朱音は意を決したように悠の顔を真っ直ぐと見つめ、
「――全然好みじゃないけど、病気だから仕方なく抱かせてあげるんだから有難く思いなさいよバーカ! バーカ!」
と、童女のように涙目で叫んでいた。
部屋の時間が、止まったような気がする。
悠は目をぱちくりとさせながら、
「う、うん……分かってる……よ?」
と頷き。
ティオは口をあんぐりと開けて、
「えーーーーーーー!?」
と叫んでいた。
両手の指をわきわきと動かしながら、信じられないといった表情で朱音を見る。
「どうしテ!? どうしてそうなるデス!? 信じられない、あり得ないデス!
アカネの意気地なし! バカなのそっちデス!」
珍しく、ティオは朱音に本気で怒っているように見える。しかし同時に悲しんでいるようにも見えた。
何故か発端である朱音が、頭を振りながら涙声で、
「だって、だってぇ……」
そんなことを呻いていた。
事態に付いていけていない悠は、表情に疑問符を浮かべながらそんな二人の様子をただ当惑しながら見ていた。
「ふんだ! もう知りまセン! 私が先にユウ様貰っちゃいますからネ!
アカネは初めてなんですから、そこで指を咥えて見て下さイ! お手本デス!」
ティオは、ぷりぷりと怒りながらようやく服を脱ぎ終わった悠へと歩み寄ってくる。
間近で見ると、頭がくらりとするような色香が悠の理性を揺さぶってくる。
「……ユウ様。やっぱり私を先にお抱きくだサイ。
私も誠心誠意、ご奉仕致しマス」
「う、うん……」
「ふえぇ……」
ティオの後ろで、朱音が情けない声を出している。
しかしティオは素知らぬ様子で、悠に枝垂れかかった。
子猫のように甘えながら、ぎゅっと抱きついてくる。
「ユウ様ぁ……」
そして、ちらりと朱音を一瞥して、
悠の顔をうっとりと見上げながら、
「……大好きデス、ユウ様」
「……えっ?」
「ティオは、ユウ様をお慕いしていまス」
「えっ、あっ、ちょっ……!?」
突然の異性からの告白に、悠はすっかり動揺していた。
女みたいな顔をしている自分が、異性から好意を寄せられることなど想いも寄らなかった。
そもそも悠は、初恋すらまだなのだ。
どうしよう、今ここで返事をしなければならないだろうか。
ティオのことは好きだが、恋人として付き合うとなるとどうなのだろう。
いやそもそもこんなことをしておいて今更――
「……お返事はいりませんよ、ユウ様」
混乱する悠に、ティオが微笑みかける。
その頬を両手を添え、初々しい恋人のようなキスを悠に贈った。
「ユウ様のお気持ちを私に向ける必要はありまセン。ユウ様は、ご自分がお好きになった人を、いっぱい愛してあげてくださイ。本当は言わないはずだったんですガ……我慢できませんでしタ」
そう言い、ティオは再び、朱音にちらりと目を向ける。
悠もつられてそちらを見ると、朱音はシーツを纏って体育座りしたまま、こちらにどんよりとした目を向けていた。
何かぶつぶつ呟いてて怖く、見なかったことにする。
今は、ティオに集中して上げなくては。
ティオは、朱音の様子に苦笑を漏らしながら、悠を見た。
恋する乙女の顔が、悠を見つめている。
「ただ、今だけは……私を、恋人みたいに愛してくれますカ?」
ティオの唇が、近づいてくる。
悠とティオの影が一つとなっていく――




