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第23話 ―鉄 美虎―

「ちっ……」


 魔族、魔族、魔族――

 廃都の道から、建物の陰から、あるいは上空から異形が襲い来る。


 武田省吾は、四方八方から現れる魔族の群れに、忌々しく舌打ちを鳴らした。


 各所から、大量の中位魔族の出現が報告されていた。

 情報を総合した報告は、300体を超えるという。その総てが中位魔族であり、下位魔族とは比較にならない力を有している。


「おらぁっ!」


 省吾の剛腕が、魔族にめり込み――その異形を粉々に粉砕した。

 その隙を狙う別の魔族の攻撃を受け止め、省吾は反撃として更にもう一体を紫の塵と帰す。


 省吾の魔法ゼノスフィアは、完全に己と同化している。

 それ故に、攻撃力と防御力においては異界兵の中でも比類無き強度を誇っていた。

 恐らくは、戦車砲の直撃を受けてもダメージは無いだろう。逆に、戦車程度なら一撃でスクラップに変えるほどの剛力が、その体躯には備わっている。


 真っ向勝負、純粋な殴り合いにおいて、省吾は異界兵でも最強を誇っていた。


 50体でも100体でも相手をしてやろうと、省吾は気炎を吐いて仁王立ちする。


 しかし、省吾の攻撃手段は徒手空拳のみ。

 また、機動力においては劣ることは否めなかった。

 

 それ故に――


「……くそっ、また1体漏らした!

 玖珂くが、そっちの撃ち漏らしも来てんぞ!」


「はははははい! やってるです頑張ってるです! でも多過ぎますよぅ!」


「てめぇの友達ダチもやべぇんだろうがっ、気張れっ!」


「はいぃっ」


 同じ戦場に立つ第三位階、中学3年の玖珂くがゆかりが怯えた声を出している。

 彼女の魔法ゼノスフィアの性質は、一言でいえば固定砲台だ。

 気の毒だとは思うが、この場においては自分より遠距離戦術に長ける彼女が向く、頑張って貰わなければなるまい。


 原則としてであるが、魔族はより多くの人間を殺傷するために行動する性質がある。

 それ故に、目の前の省吾よりもその後ろにある集団――魔素中毒に喘ぐ第一位階や、その処置と護衛を行っている第二位階のグループを目標とする個体も少なくなかった。


 自分に向かって来る個体ならば対処は容易であるが、自分を無視して通過しようとする個体への対処は、省吾の魔法の特性上、非常に苦手とする局面であった。


 しかも相手は中位魔族。その力は下位魔族とは別格であり、一体一体に対して気を割く必要がある。


 他の皆は大丈夫だろうか。

 伊織の魔法は強力であるが、制約があるものだ。省吾と同様に彼女の得意とする戦局とは言い難いだろう。


 省吾は、彼を抜き去り既に小さくなっていく中位魔族の姿に歯噛みした。

 あちらにも、念のために第三位階の者は待機しているが……


「朱音、玲子……くそっ、鉄、頼んだぞ……!」


 鉄美虎、彼女が戦えぬ皆を守る最後の砦である。






 廃都の広場の一角に、多数の少年少女が寝かされている。

 魔素中毒に苦しむ第一位階のメンバーであり、戦闘向きではない第二位階のメンバーが、帝国兵の指示の下、介抱のために忙しなく動いていた。玲子もまた、そのまとめ役として緊迫した表情で指示を飛ばしている。


 朱音やルルのような戦闘向きのメンバーは、その周囲で魔族の警戒と対処に当っている。

 とはいえ、所詮は第二位階ゼノグラシアである。中位魔族の相手は荷が重い。朱音も、その事実は忌々しくも自覚していた。あの森での、苦い経験を思い出しながら。


 よって、この場において中心となるのは、朱音の隣に立つ長身の少女である。


 くろがね 美虎みこ


 この場における、唯一の第三位階ゼノスフィアだ。

 モデルのような長身に朱音以上の抜群のプロポーション、頬に傷痕があるが、それすらも凄味を備えた美貌の一部として完成されている。

 その名の如く、美々しい虎のような容姿を備えた少女である。

 彼女は、腕組みをしながら引き締まった表情で周囲を見渡していた。


 省吾や伊織が出ている前線では、彼らが中位魔族との戦闘を行っているはずである。

 相当に数が多いらしく、苦戦を強いられているとのことだった。


 そして、今も粕谷と死闘を繰り広げているであろう悠。


 朱音は、双方の戦況に思いを馳せ、落ち着かない心地であった。

 じっとしていることが出来ず、先ほどからソワソワと動いている。


「……神護が気になるかよ?」


 不意に、美虎の声がかかる。

 彼女の方から声をかけられるとは思わず、朱音は少し驚きながらも頷いた。


「それは、まあ……」


 美虎は、朱音に目線を向けながら、


「……大した奴だな。お前も、神護も」


 更に意外なことを言い出した。

 自分が言えた義理ではないが、あのぶっきらぼうな印象の強かった美虎が、朱音と悠を褒めている。

 その美貌の口元は、少し綻んでいるように見えた。


「いくら友達ダチのためでも、そこまでやれる奴はなかなかいねーさ」


「鉄さん……」


美虎みこでいいよ、オレも朱音でいいか?」


 美虎の友好的な態度に、朱音は口元が緩むことを止められなかった。

 今も苦しんでいる皆がおり、緊急事態なのは分かってはいるのだが、こういうのにはまだ慣れていない。

 心のとても敏感な場所をくすぐられているような、気持ち良さがある。


 朱音は頬を赤らめながら、こくんと頷いた。


「は、はい……美虎さん」


 美虎は応え、快活な笑みを見せる。


「おう、よろしくな、朱音」


 以前、悠や冬馬と話している時や、悠と粕谷の喧嘩の証言の際には見せなかった、親しげな顔である。

 美虎の取り巻きに見せていた顔と同じだ。それは、彼女の朱音に対する親愛の表現なのだろうと、朱音も少しぎこちない笑みで返した。


 そんな二人に、割り込んでくる少女の声がある。


「美虎姉さん! 何でそんな女に構うッスか!」

「……姐さん、寝取られ?」


 ショートカットの快活そうな少女と、どこか眠そうなぼんやりとした印象の少女。

 美虎の取り巻きである第二位階のメンバーであった。

 美虎は面倒くさそうに頭を掻きながら、


「別にいいじゃねぇか、オレが朱音を認めたんだ、文句あっか」


 その言葉に、二人は「ぐぬぬ」と黙る。

 二人は、どこか恨めしそうな目で朱音を見ていた。

 しかし、彼女達は美虎のクラスメートのはずである。なのに彼女に対する呼び方は違和感を覚えるものであった。


「姐さん……?」


「ああ、オレはダブってんだよ。交通事故で2年入院しててな」


 彼女達も朱音と同じ高校1年のはずだ。

 そこから2年ということは、美虎は省吾達と同い年ということか。


 美虎との間に流れた暖かな空気を、ルルの緊迫した声が破る。


「……皆様! 魔族の姿が見えました!

 ミコ様は魔法ゼノスフィアの具象を願います!」


 建物の屋根から見張りをしていたルルが、魔族の襲来を告げる。

 場の緊張感が、一気に張り詰めていく。


 美虎は一瞬で表情を切り替え、高々とその場の皆に檄を飛ばす。


「……っし。

 おら、お前ら気合を入れろよ! 朱音も期待してんぞ!」


「っス!」

「……りょーかい」


 取り巻きの二人が即座に返事をし、朱音も遅れ、


「……はい!」


 しっかりと頷き返す。

 美虎が獰猛な笑みで返し、己の魔法の具象を始めるべく、詠唱を開始した。

 それは優しく、そして悲しい声色だった――






「あなたはとても強い人――」


 美虎には、幼い頃からの幼馴染がいた。

 同じ年で、赤ん坊の頃から互いを知る姉妹のように育った親友であった。

 美虎は気弱で大人しく、彼女は男勝りで活発な性格をしていた。


「死神ですら、あなたを汚すことは出来なかった――」


 だが彼女は、とある難病に侵されていた。

 後に知ることだが、毎日のように地獄のような痛みや苦しみを伴う病気であったらしい。

 殺してくれと願い出る者、あるいは耐え切れず自殺する者が大半であるほどに。


「その強さが、わたしは悲しい――」


 彼女は美虎の前で、そんな姿を一度も見せなかった。

 最後に会った日もベッドで寝たきりではあったが、ずっと嬉しそうに笑っていた。美虎に手を振り見送る姿に、死相など微塵も見えなかった。

 美虎が彼女の病気の正体を知ったのはその2日後、彼女が死んだ後である。


「その痛みを知りたかった、その苦しみを知りたかった――」


 彼女がそんなに苦しんでるなど、知らなかった。

 何故、気付いてあげることが出来なかったのだろう。

 あの時のわたしは、本当に馬鹿だった。あるいは、今も――


「だから教えて。分かち合いたい。

 あなたの痛みと苦しみを、どうかこの身に与えて欲しい――」


 大切な人の痛みを分かち合いたい。

 願わくば、変わってあげたい。  


「例えこの身が血に伏せようと――」


 構うものか、望むところだ。


「それは、わたしの愚かさへの罰なのだから――」


 それが鉄美虎の魔法たましい、その切なる願いである。


「――魔法具象ゼノスフィア――」


 それはとある拷問器具の銘。

 今も尚、自らを責め続ける美虎が己に課す魂の刑罰だ。


「“拷問台の鋼乙女(アイアン・メイデン)”」


 美虎の魔法が具象化する。

 彼女の周囲に、魔素により形成された鋼の“盾”が生み出される。

 それは無数に彼女の周囲に浮かんでおり、本来取っ手が付いているであろう裏側には、無数の針が突き出ていた。それは残らず、主たる美虎自身に向けられている。


 それはまさに、責め苦を受ける乙女の如き凄惨な様相である。

 だが美虎は腕を組み、堂々とその場に立っている。

 何も怖れてなどいないと、如何なる痛みも受け入れてみせようと、強靭な意志の光をその目に宿し、屹然とした様子でそこに在る。







 美虎の猛き声が、これより戦場となる広場に響いた。


「全部オレが受け止めてやる! 遠慮なく暴れろよてめぇら!」


 威風堂々たるその声に、皆の戦意が高揚していく。


 朱音もまた、胸が高鳴っていくのを感じた。

 美虎の魔法ゼノスフィアは、他者に作用するタイプである。その加護が、朱音の身をも包んでいることを実感した。


「来ます!」


 ルルの声から間を置かず、廃都の陰から異形が飛び出てきた。


 人型である。質量は成人男性とさほど変わらないのではないだろうか。

 しかし、頭部が異様に大きい。大き過ぎる。

 対してその胴体は異様に小さく、子供ほどしかなかった。


 小人の胴体に巨人の頭部が乗っていると表現すれば分かり易いだろうか。

 その頭部の目鼻などのパーツは、福笑いの如くデタラメに配置されていた。

 見ているだけで著しく不安を掻き立てられる、悪趣味な芸術品の如き異形である。


 その気配は、いつも遭遇している魔族とは異なる“濃さ”を感じる。

 あの森で遭遇した魔竜と同質の気配であり、あの魔族が中位魔族にカテゴリーされる強力な個体であると、朱音は感覚的に気付いた。


 魔族は、こちらを見ている。

 正確には、朱音達の背後の無力な皆を。


「させない……!」


 朱音は、駆け出した。

 断じてあれを皆に近付ける訳にはいかない。


 油断なく慢心なく、しかし恐れること無き足運びで朱音は魔族との距離を詰めていく。

 

 背後で、ルルの魔術である風の矢が放たれる気配がある。

 風の矢は、魔族の頭部に命中し直撃するが、その身は僅かに傾いだのみであり、目立ったダメージは見受けられなかった。


「はぁぁぁぁぁぁ!」


 しかしその僅かな隙に、肉薄していた朱音の渾身の蹴りが直撃する。

 魔族は更に身を傾がせ、たたらを踏んだ。


「藤堂、伏せろ!」


 冬馬の声が聞こえる。

 朱音はその言葉に従い、その身を伏せた。


 朱音の頭上を、不可視の衝撃が通過していく。

 それは冬馬の魔術である砲撃だ。 


 直撃。

 魔族の異形は、吹き飛び、石造りの建物にめり込んだ。


 朱音はすぐに身を起こし、


 しかし復活した魔族に一瞬で間合いを詰められる。


「なっ……!?」


 その異形に見合わぬ、素早い動き。

 魔族の頭部が変形し――そこから、人の身の丈ほどもある巨大な剛腕が生み出された。


 回避は、間に合わない。

 そしてその身を、魔族の剛腕が薙ぎ払った。


「くぁっ……!」


 人の身体を容易に粉砕するであろう剛力が、朱音の細い肢体を打ち据える。

 あの森で、朱音を戦闘不能に追い込んだ竜の一撃にも劣らない破壊力が朱音の身体を襲った。


 ……だが、朱音の身体にダメージは無かった。


「っ……!」


 代わりに、変化は朱音の後方で起こった。

 何か硬いものを叩くような音が聞こえる。

 同時に、美虎が僅かに顔を顰め呻いた。


 音の正体は、美虎の周囲に浮かぶ“盾”の一つが歪んだ音である。

 その“盾”は、すぐに元の形状を取り戻していった。


「このっ……!」


 その身にダメージを受けていない朱音はすぐさま体勢を整え、反撃カウンターの蹴りで魔族の異形を吹き飛ばして距離を取った。


 魔族は、僅かに身をよろめかせながら立ち上がる。

 明らかに、弱りが見え始めている姿であった。


 これが、第二位階と中位魔族との戦いである。


 中位魔族が常時纏っている魔力の見えざる装甲は、より上位の概念である魔法でないと貫くことが出来ない。

 魔術で抗する場合には、こうやって地道に削り続けるしかないのだ。

 PRGゲームのHPのようなものだと理解すれば分かりやすいだろう。


 そしてその戦術を可能にしているのが、美虎の魔法ゼノスフィアである。


 ――仲間が受けたダメージを、自己再生する己の“盾”に、仲間が受ける痛みを、己が身で引き受ける。


 それが、鉄美虎の魔法“拷問台の鋼乙女(アイアン・メイデン)”の能力であった。

 まさに金城鉄壁を具現したような魔法である。

 他にももう一つの能力があるが、現状では発動条件を満たしていなかった。


「おら朱音!、オレの方を気にしてるんじゃねぇよ!

 とっとと削り殺しちまえ!」


 自分のことなど気にするなと、朱音のダメージと痛みを引き受けた美虎は叫ぶ。

 それは、仲間に対する檄の声だ。

 美虎の魔法は、仲間にしか作用しないのだから。


「はい!」


 朱音は頷き、中位魔族に肉薄していく。


 同時に、新たなる魔族の姿が現れる。

 その数、3体――






 悠と粕谷の決闘は、五分の均衡に持ち込まれていた。

 十の白刃を操る悠を、粕谷が憤怒と焦燥の形相で追いかけている。


 一見すれば、戦況は悠に傾いているように見える光景だ。

 しかし、悠の消耗は相当に激しい。いつ集中力の糸が切れるかそれは本人にも分からないだろう。


 マダラは、そんな勝負の様相を紫煙を燻らせ眺めている。

 その背に、人の形をした邪悪の気配を感じながら。


「まったく、儂の面子が丸潰れじゃわい。小僧共の追及が面倒じゃのう。

 儂に何ぞ恨みでもあるんかい、若造」


 マダラは、足元のティオには聞こえぬように調整した声で、その邪悪へと言葉を放つ。


「……はっ、俺のやる事に理由を求めるかよ、ジジィ


「ま、そりゃあそうじゃな」


 子供が大勢いる。

 魔界の界層を落とせば阿鼻叫喚となるだろう。大勢死ぬかもしれない。

 では、落とそうか。


 恐らく、そんなところであろう。

 この男の今までの所業に比べれば、善行と呼んでもいい気すらしてくる。


「お主に“帝国フォーゼルハウト”のことを教えたんは儂じゃがな。早過ぎるわ。

 “鋼翼ギルド”の六位と三位に狙われとったんじゃなかったんかい」


 ギルドという名の付く組織は多数ある。

 しかし、あえて“鋼翼ギルド”と称する場合には、この世界では一つ組織を指す。

 即ち、鋼の鳥の紋章を抱く、傭兵ギルドである。


 世界規模の影響力を持つその組織において、実力と実績に応じて与えられる序列がある。

 その序列の一桁は、世界でも有数の実力者の証である。


 “天”には及ばないまでも、面倒な相手には違いない。


「今も殺り合ってる最中だよ、あの女、コソコソ隠れて面倒臭ぇ。

 それにジジィが言うから来てやったんじゃねぇか。せいぜい涙流して感激しろや」


「呵呵っ、言っとれ」


 マダラの背後にいる気配は、本体では無い。

 そこに在るのは、“影”である。

 その本来の実力の1分にも満たないであろう、力の欠片に過ぎない。


 そして、その“影”だけでマダラを除くこの魔界の全員を容易く轢殺できるであろう。

 同時に、この男は半ば本気でその実行を遊び半分で考えており、それをマダラが牽制していた。


 この男の名は、シド・ウォールダー。

 “獣天”として、その名は災厄そのものとして認識されている。


 悪魔、鬼畜、外道、悪鬼――この男の邪悪さを評する言葉として、どれも余りに優し過ぎる。この男の邪悪さを一言で表す概念は、恐らくどの世界にも生まれていまい。

 故に、この男はただ邪悪であると評する他無いのだ。


「……懐かしい顔があったな、生きていやがったか、あの女」


 シドの影が、何かに思いを馳せる様子を見せる。

 恐らくは、あのルルと名乗る狼人ワーウルフの少女の姿を脳裏に思い浮かべているのであろう。

 舌なめずりの気配は、昔食した美味を思い出すような雰囲気がある。


「ふむ、覚えとったんかい」


 シドの“影”が愉快げに嗤う。


「あの女は特に“愉しめた”からよぉ。教えてやろうか?

 あの女はなぁ――」


「……止めとくわ、今宵の飯が不味ぅなる」


 シドの言葉を切ると同時、その“影”が薄くなっていく。

 恐らくは、“鋼翼ギルド”の序列六位と序列三位との本格的な戦闘になったのだろう。

 如何に“天”と言えど、手を抜いて相手をするには危うい相手だ。


「……ジジイの言う通り、確かに面白いかもしれねぇな」


 最後に、そう言い残してシドの“影”は消えていった。

 恐らくは、あの白の少年の姿を見ながら。


「……やれやれじゃな」


 マダラはため息を吐きながら、悠と粕谷の決闘に注目を戻した。

 そんな彼に、続けて言葉がかけられる

 それは、彼の足元から聞こえてきた。


「マダラ様」


 ティオだ。

 彼女が、マダラを真っ直ぐに見上げていた。

 今にも泣きだしそうであった様子は既に無い。その表情には、確かな覚悟が見て取れた。


 マダラは、意外さを覚えながら彼女の声に応える。


「何じゃい、森人エルフのお嬢。

 爺は今、ちっと疲れとるんじゃがな」


「お手数はおかけしまセン」


 ティオは首を横に振り、そしてもう1度、マダラを見上げ、


「私も、皆の所に行かせてくだサイ」


 はっきりと、臆する様子も無く


「私も、戦いマス」


 そう、言い切ったのだ。

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