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第8話 ―抱擁―

 悠と玲子の喧噪は、浴室の朱音にも聞こえていた。


「人の胸を何だと思ってるのよ……!」


 朱音はよく磨かれた石造りの浴室で、その裸身を洗いながら毒づいた。

 艶やかな黒髪や瑞々しい肌から雫が滴り落ちる。

 玲子と一緒に風呂に入るような事態は極力避けようと心に誓う。もしかして、そっちの趣味の人なのだろうかと朱音はうすら寒いものを感じていた。


 だが、しかし、


(……悠も、やっぱ興味あるんだ)


 朱音は、自分の掌に収まらないほどに育ってしまった胸の膨らみに目を落とす。

 重力に逆らわず、さりとて負けもしない双丘は、瑞々しい張りを主張しながらその丸みに雫を滑らせている。


 武術に通じる者としては邪魔でしかないのだが、こういうものを好む性癖があることは自覚していた。

 

 悠も、やはり触ってみたいと思うのだろうか。

 そういえば、メドレアで一緒のベッドで眠った時は寝ぼけた悠に散々に――いや、忘れよう。


(こんなの、何がいいんだか)


 朱音は唇を尖らせながら、何となしに手を伸ばした。

 指が肌に埋まり、柔らかな弾力が指を包み込む。

 

 特別、何も感じない。

 特に気持ち良くも無ければ、幸福感があったりする訳でもない。

 自分のものを、自分で触れているからだろうか。


 他の誰か、例えば悠に触れられたら――彼の指が自分の胸に伸びることを想像し、


「……んっ」


 そう思った時、身体の奥に甘い痺れのような感覚が走った気がした。

 それは朱音にとって未知の感覚であり、そしてどこか飢餓感を煽るような感覚である。

 何だろう、これは。


 朱音の想像は、更に膨らんでいく。

 悠が第三位階の後遺症に苦しんでいた時、もしルルではなく、自分が傍にいたら――自分は一体、どうしていたのだろうか。

 そして、自分が万が一にも第三位階に目覚め、悠と同じ後遺症に苦しむことになり、もし誰かに鎮めて貰わなければならなくなったら――


「……ふぅっ……あっ……」


 朱音は両の手を動かしながら、その未知の感覚の正体を探っていた。

 脳の芯が、熱を帯びていくような感覚がある。

 これは、いけない感覚だ。その自覚がありながらも、朱音の手は止まらなかった。

 その熱は身体の内にもあった。それは、もっと下の方、下腹部の辺りに、


「……ゆ――」


「――アカネ様、よろしいでしょうか?」


「うひゃぁっ!?」


 無意識に片手を腹の下辺りに伸ばしていた朱音は、突然の声に素っ頓狂な叫びを上げた。

 朱音は、真っ赤になった顏で振り向く。

 脱衣場の向こうにルルが立っていた。そして、


「……え?」


 ルルの傍らには、裸になっている小柄な少女の姿がある。

 金髪の愛らしい顏をした、耳長の少女。

 ティオだ。

 あの粕谷に嬲られていた奴隷の少女が、何故かそこに立っていた。


「て、ティオ? どうして?

 ……もしかして、粕谷から助けられたの?」


 胸中に湧き起こる淡い期待を、しかしルルは渋面で頭を振り否定した。


「1日だけです。今日一日だけティオはユウ様方と行動を共にすることが出来ます」


「……そう」


 朱音は、落胆も露わに俯いた。

 が、しかし1日はティオがあの粕谷から解放されるという事実を思い、気を取り直す。

 朱音は、所在なさげに立っているティオを見遣りながら、


「ティオも、身体を洗うの?」


「はい、かなり汚れてしまっておりますので……。

 それで、アカネ様にお願い致したいことがあるのですが」


 申し訳なさそうなルルが何と言うかは予想が付く。

 それに、彼女にはやって欲しいことがあった。


「いいわよ、ティオは任せて。

 それより、玲子さんをしっかり抑えててよ」


 尚も外からは玲子と悠の言い合いが続いている。

 詳しい会話は聞こえないが、悠が劣勢のようにも感じられた。


「……畏まりました」


 ルルは苦笑しながら一礼し、浴室を去って行った。


「…………」

「…………」


 そして浴室には、お互いに一糸纏わない裸身を晒す、朱音とティオが残される。

 沈黙が、浴室に落ちていた。

 お互いに相手を見ながらも、しかし言葉が見つからずに押し黙っている。


 何と話しかければいいだろうか。

 あのメドレアで共有した短いひと時では、ティオは人懐っこい笑顔で朱音の武術やプロポーションを褒めてくすぐったい気持ちにさせてくれたものだ。だが自分から彼女にどう接するべきか。

 朱音は悩みながらむっつりとした顏で、ティオの小柄な身体を見ていた。


 ……正確には、するべき事は分かっていた。だが、勇気が出なかった。

 こういう時、人懐っこい悠ならば悩むこともなく行動できるのだろうが、朱音にとってはやや難度の高い課題と言える。


 ティオは、おどおどとした様子で朱音を見ていた。

 ……少し、怖がっているようにも見える。

 自分が怖がらせてしまっているのだろうか。あのクラスの皆に対してしていたのと同じように。

 悩むあまり、少し表情が強張っているのかもしれない。


 だがティオは意を決したように朱音を真っ直ぐに見ながら、


「……ア、アカネ様、お背中をお流ししマス」


 そう言いながら、慌てた様子で駆け出した。

 明らかに焦っており、その足取りは危うい。

 そして床は濡れる磨かれた石である。つまり、それなりに滑る。


 更に間の悪い事に、その床にはルルの登場に驚いた朱音が取り落とした石鹸が転がっていた。

 嫌な予感が朱音の胸中を満たす。

 その予感のままに、朱音は動いていた。


「……あっ」


 そして案の定、ティオは石鹸を思い切り踏み付け、盛大に体勢を崩した。

 足を滑らせた小柄な身体が宙に浮き、そして石の床に落下しようとして、


「危なっ……!」


 しかし、それより早く動いていた朱音が、ティオが床に身体を打つ前に、その小柄な身体を抱き締めていた。

 朱音はティオを抱き締めた体勢のまま、濡れた床を転がる。


 朱音の受け身のおかげで、二人とも特に怪我をすることもなく浴室の床に身を横たえていた。


「……ティオ、大丈夫?」


 朱音は自分の胸に顏を埋めているティオに声をかける。

 ティオはすぐさま顏を上げるが、その表情には絶望的なまでの怯えが浮かんでいた。

 その瞳はみるみると潤んでいき、頬を涙が伝っていく。小さな唇が、わなわなと震えていた。


「ア、アア、アカネ様! 申し訳ありまセン! 申し訳ありまセン……! お許しくだサイ……! ごめんなさイ……!」


 ティオは跳ねるように朱音の腕の中から飛び退いた。

 そして浴室の隅で、何かから身を守るように身体を丸めて震えながら、謝罪の言葉を繰り返している。

 大粒の涙を零すその見開かれた瞳は、朱音を通じて誰かを見ている風だった。

 その誰かから、とても酷い目に遭わされたのだと容易に想像ができる。小柄なティオの身体には、良く見れば痣らしきものも認められた。


 粕谷京介。

 あの顏を思い出し、朱音は密かに歯噛みした。

 許されるなら――否、許されなくてもあの憎たらしい顔を蹴り飛ばしに行きたい。


 が、それは今重要な事ではない。

 大切なのは、この怯える少女の心を如何に慰めてあげるかだろう。


 朱音はそれをするのには、若干の勇気が必要であった。

 だが、過去に1度出したことのある勇気だ。同時に、空振りに終わってしまった勇気でもあるのだけど。

 朱音は当時の――悠と出会った時の気持ちを思い出しながらティオへと歩み寄る。


 ティオは、頭を抱えるようにして目を瞑り、震えていた。息は荒く、苦しそうにも関わらず壊れた機械のように謝罪を続けている。


 朱音はしゃがみ込んで、その小柄な肢体を、そっと抱き締めた。

 ティオの金髪の頭を、その豊かな胸に抱き止める。


「……アカネ、様?」


 呆然と見上げるティオに、朱音は優しい表情を見せて頭を撫でる。

 それは、悠との初対面の時に見せた、あの表情だ。

 緊張しているであろう悠を安心させてあげようと、そして自分を好きになって友達になってもらおうと、そんな自分の気持ちを真っ直ぐに表現するために練習した笑顔であった。


 そして、ティオの身体の震えを抑えんばかりに、その全身を強く、そして柔らかに包み込む。

 何も心配は無いと、朱音の心が肌を通じて伝わるようにと。


「大丈夫よ、ティオ。私は……私達は、ティオを苛めたりなんかしないから。ティオの味方だから。だから、安心してよ」


 ティオは、抱き締められ、頭を撫でなられながら、朱音の顏をじっと見ていた。

 その顏が、くしゃっと歪む。

 愛らしい大きな瞳から、涙がぽろぽろと零れ始めた。


「……ふゃっ!?」


 ティオが、朱音の胸に顏を埋め、そのまま嗚咽を漏らし始めた。

 その口から漏れる泣き声は、先程までの怯えではなく、安堵からの緩んだ泣き声である。


 ティオが粕谷の奴隷となってまだたったの数日だ。

 その数日にティオはどれだけの辛い目に遭ってきたのだろうか。

 そして明日になれば、また――


 今日だけは、ティオをそんな苦痛から解放してやれるのだ。


 朱音は、ティオの身体を一層強く抱き締めた。

 ティオも、朱音の身体を抱き返す。


 ティオが泣き止むまで、朱音は彼女を抱き締め続けていた。






「……アカネ様、やっぱり自分でするデス……」


「いいのよ、やって貰ったんだから、お返し」


 朱音はティオの背中を擦りながら、彼女の遠慮の声を遮った。


 泣き止んだティオは、今度こそ朱音の背中を流させてほしいと申し出、朱音はティオに身を任せて身体を洗って貰った。彼女はドジかもしれないが、仕事自体は丁寧であり、とても細やかであった。朱音の身体はすっかり綺麗になっている。


 そして今度は自分の番だと、朱音は遠慮するティオは腕力と体術で強引に座らせ、今はティオの小柄な肢体を洗ってやっている。

 ティオは遂に観念したのか、朱音の成すがままになっていた。


「どこか痒いとこ無い?」


「大丈夫デス」


「気持ちいい?」


「んっ……とってもいいデス……あふっ……すごくお上手デス。すごく慣れてますネ」


「病気で動けないお姉ちゃんをお風呂に入れてあげたりしてたから。もう、死んじゃったけどね」


「す、すみませン」


「いいって」


 ティオの肌には、やはり幾つか痣が出来ていた。

 あからさまな怪我や傷の類は無かったが、粕谷は相当に遠慮なくティオの身体を扱ったらしい。

 その時浮かべた朱音の表情がティオに見られなかったのは、幸いだったろう。

 

「……ねえ、ティオ」


「何でしょう、アカネ様」


 朱音は、先程からずっと言おうと思っていた言葉を遂に口にする決意を固める。

 頬が紅潮し、心臓の鼓動は明らかに早まっていく。

 

「その、友達って……いる?」


「友達……帝国には、いないデス」


 ティオが俯き、沈んだ様子の声を漏らす。

 その姿は、とても心細そうだった。

 そう、友達がいないというのは、とても寂しくて心細いのだ。


「だ、だったらさ……その……あの、ね……あ、あたしと……友達にならない?」


 その言葉を口にするのに、かなりの勇気を要した。

 ティオのような、朱音に対して何の先入観も持っていない人間だから言えたことだ。クラスの皆には到底無理だろう。悠の時は話の流れと空気が助けてくれた。

 我ながら随分とぼっちを拗らせたものだと呆れ返る。


 冬馬や綾花、澪が朱音が溶け込めるように気を使ってくれている節があるのは分かっているし、申し訳ないと思う気持ちはあるのだけど、やはり無理なものは無理だった。


 自分の気持ちを素直に出せる悠が、本当に羨ましい。

 元の世界に帰れれば、きっと悠は将来、多くの友人に囲まれて生きて行く。高校を卒業して社会に出るか、大学に進学するか――いずれにしても、あんな異常な環境にいなければ悠は上手くやっていけるはずだ。

 ……あの容姿だって、整っているという意味ではこの上無い。彼に好意を寄せる異性も、たぶん多い……はず。


 自分は、どうなのだろうか。

 どんな未来を歩んでいくのだろう。


「……どう?」


 朱音の言葉を、ティオはきょとんとした顔で聞いていた。

 しかし意味を理解すると――表情を、暗くした。


「アカネ様……わたしは、奴隷デス。だから……」


 ……無理か。

 朱音は怯みかけたが、気力が萎えるのを抑えて食らい付いた。


「べ、別にいいじゃない、あたしは地位とか身分とか気にしないし!

 ……あたしと友達になるの、いや?」


 朱音は、変わりたい。

 もっと、自分の気持ちを素直に表せる人間になりたかった。

 今まで朱音が躊躇いなく外に表していたのは、敵意や怒りといった負の感情が殆どだった。それが、今の朱音の人生と人格を形成してしまっている。

 朱音が抱いている感情は、そんなものばかりではないというのに。

 もっと人に伝えたい感情がある。想いがあった。


 ただ、怖くて伝えられないだけだ。

 周囲は朱音のことを勇気がある、勇敢であると評するが、それは己の力が足りるから行動出来ているだけのことだ。

 本当の勇気とは、己の力の不足を知っても行動の取れる心の強さであると父は語り、朱音も全くの同意であった。


 悠の時は、彼の方からも歩み余ってくれた。だが自分から他者に歩み寄り、心を通わせなければいけないと朱音は思う。そういう人間になりたいと思う。

 ティオと友達になれれば、その切っ掛けになるかもしれない。

 それは、悠との初対面の時に失敗してしまった行為のやり直しでもあった。

 ティオを助けたいと思いながらも、そんな利己的な意思も含まれていることを自覚し、朱音は密かに恥じていた。


「そ、そんなことないデス!」


 ティオは朱音の不安そうな問いかけを、慌てて否定した。

 朱音を見上げるティオの瞳は、とても煌いている気がする。

 ティオは両拳を握り、力説する。


「アカネ様は綺麗だし、優しいし、それにとてもお強い方だとも聞いていマス!

 お胸も大きいし背も高いし、憧れます、わたし!」


 余計な一言が聞こえた気がしたが、ティオの賛辞の言葉に、朱音は心のとても敏感な部分をくすぐられているような心地を覚えた。


「そ、そう……?」


「はい! わたし、アカネ様みたいな人になりたいでス!」


 朱音はどんな表情をしたらいいか分からずに、照れ臭さに身体をもじもじさせる。

 自身に真っ直ぐ向けられる、ひた向きな好意。

 あの日、悠に向けられていた目と同じ種類の眼差しであった。

 頬が紅潮し、その顏を真っ直ぐ見られずに朱音は目線を泳がせる。


「……だったら、友達になってくれてもいいのに」


 つい、唇と尖らせそんなことを呟いてしまう。


 ティオはそんな朱音の言葉にしゅんと俯いてしまった。


「……奴隷は、帝国民の方々とは対等に接してはいけないので、下手をすれば、アカネ様が処罰の対象となってしまいまス。アカネ様方のご身分は、帝国の軍人ということになっていますのデ。

 ……ルルさんみたいに、要領が良ければいいのですガ、わたし、不器用だかラ……」


 朱音にとっては自身の立場も半分奴隷のようなものだと思うのだが、少なくとも対外的には真っ当な身分が与えられていた。


 帝国の奴隷に関しては、何やら宗教も絡んだ厄介な問題があるそうだ。

 別にこちらから求めているのだから、他者がどうこう言う筋合いではないではないか、と憤りは感じるが、ティオの立場を鑑みればやはりこちらが引き下がるべきなのだろう。

 しかし、


「……じゃあ、こうして二人っきりの時ぐらいは友達として付き合ってもいい?

 誰も見て無いんだし、様とかも抜きで……」


 せめてもの抵抗として、朱音は妥協案を口にする。

 朱音は自覚していなかったが、その顏は「断られたらどうしよう」という不安に満ち満ちていた。

 端的にいえば、泣きそうな顔だった。


 ティオは、そんな朱音の顏をじっと見上げ――


「――はい! よろしくお願いしまス、アカネさ……アカネ!」


「……うん。 よろしくね、ティオ」


 花咲くような笑顔を、交し合うのだった。






「……お使い、ですか?」


 悠は、玲子の言葉にきょとんとした顔を見せた。

 悠の自室には、悠、玲子、省吾の各々に3人がくつろいでいた。ルルが、お代わりのお茶を淹れており、新たな芳香を部屋に漂わせている。


 ティオの世話を焼いてあげているのだろうか、朱音は随分と浴室から出てこない。


 玲子は、悠の言葉に人差し立てながら、得意顔で語る。


「そ、地球での知識を活かして帝都の商人と付き合いを作っててね。ちょっと、その人の所に持って行って貰いたいものがあるの。

 ……ただ、私はちょっと用事が出来ちゃって」


 基本的に悠達に行動が許されているのは、魔道省の管理する一定の敷地内である。

 だが、一定の手続きの上で許可を取れば帝都への外出が許されることは、ベアトリスから渡された書類に書かれていた。


「許可は取ってあるからさー、お願い!

 4人までは一緒に出られるから」


 玲子は、悠を拝むように手を合わせ、頭を下げて来た。

 悠が、この高台の敷地から見下ろせる帝都には大変に興味を惹かれていたのは事実である。


 それに、ティオを帝都に連れてゆけるというのは実に悪くない気がした。


「……でも、僕なんかで大丈夫なんですか?」


 玲子が出向く予定だったとするなら、自分などにその代役が務まるだろうか。

 失礼など働いてしまったら、玲子の顔を潰すことにもなってしまう。

 はっきり言って、自信が無かった。


 そんな悠の不安を、玲子はパタパタと手を振り、気楽な様子で一笑に付す。


「大丈夫よ、むしろ悠君の方が適任かもって思ってるぐらいなんだから」


「…………?」


 玲子の物言いに、悠は小首を傾げる。

 玲子は肘を突いた両手に顎を乗せて、「んふふー」と奇妙な笑みを浮かべていた。

 省吾が、悠に同情するような目線を送り、ため息を吐いている。


 省吾は何か知っているのだろうか。

 悠がどういうことかと聞こうとすると、


「お待たせ」


 朱音とティオが浴室から出て来た。二人ともさっぱりとした様子に見える。

 朱音が来ている服はこの世界のものだが、地球の服装で例えるならばTシャツとホットパンツに近い。朱音の高校生離れしたプロポーションと、すらりと伸びる脚がとても映える服装に思えた。

 ティオは、ルルが用意していた別のメイド服を着ていた。ティオの容姿と相まって、とても可愛らしい。

 

 二人は、手を繋いでいた。


 大抵むっつりと無愛想な顏をしている朱音の表情は、少し和らいでいた。

 おどおどしていたティオの表情は、少し安らいでいるようだ。


 そんな二人を見て、悠の口元が綻ぶ。


 今日は、きっといい日になるだろう。 

 悠は、そんな希望を抱きながら、窓から見える帝都の景色に目を遣った。


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