第13話 ―人獣・その6―
闇夜の草原。
月光を浴びる巨躯の人影が、疾風をまとい駆けている。
狼の貌を持つ、2mを超える筋骨隆々の偉丈夫――ガウラス・ガレスは、己の身体能力と魔道を駆使して、フォーゼルハウト帝国領内を全力疾走していた。
(姫様……!)
ルヴィア・ルヴィリス。今はルルと名乗る、己が忠を捧げる姫君。
彼女を探し続け数日間、フォーゼルハウト領内を駆けずり周っていたのだ。
彼女が、“人獣”を狩り回っていることは知っている。だが、広大な領土を誇るフォーゼルハウト帝国の領地に潜んでいる構成員をどうやって探り当てているのか、彼女と同じ狼人であるガウラスにも見当すらつかず、ひたすらに後手を踏み続ける歯痒い日々が続いていた。
何故、彼女は自分を置いて消えてしまったのだろうか。
心当たりは、いくつかあった。
そのうちの一つが、ガウラスの脳裏をよぎっている。
(……俺は、あの場にいられなかった。その無念と悲憤を、真に姫様と共有できてはいない……あるいは、姫様にそう思われてしまったのかもしれん)
ルヴィリスを守護するべき戦士の筆頭でありながら、ガウラスは祖国の終焉に何もできなかった。
主が、妻が、娘が、同胞たちが地獄のような時を過ごしている間、自分は呑気にも武術大会に出場するための旅路の途中であった。
主からの命令だった、ルヴィリスの未来を思えば必要な役割だった。
仮にあの場にいたとしても、“獣天”シド・ウォールダーの相手にもならずに屠られていた可能性が高い。
そんなふうに自分を誤魔化すことはガウラスにはできず、あの日から続く痛恨の念が今も自らを苦しめている。
あの日――ルヴィリスが滅びたという噂を聞き、血相を変えて踵を返し、そして、祖国へと帰還した日のこと。
魔法まで用いて全力疾走したガウラスは、激しい頭痛に苛まれ、今にも倒れそうな身体をひきずるようにしながら、ルヴィリス王都へと足を踏み入れた。
漂うのは、なかば腐敗した血と肉の匂い。
視界に広がるのは、腐りかけた同胞たちの無数の亡骸。
王が、妻が、友が、守るべきルヴィリスの狼人たちの骸が、愛すべき故郷に散乱していたのだ。
悪夢だと思った。
しばし、脳が現実を受け入れることを拒否していた。
迷子のように彷徨い、一人一人の名を呼びながら、その虚ろな死に顔を目に焼き付けていた。
そして、ルヴィアとシャーレの姿が見えないことに気付く。
自分に次ぐ、あるいは伍する実力に至った姫君と、彼女にすら劣らぬ才覚を発揮する愛娘。
あの二人ならば、あるいは。
ガウラスは縋るような思いに衝き動かされながら、這いずるような痕がわずかに残る川の方へと歩いていった。
同胞たちが汗水を流し、ルヴィリスの未来のために進めていた水道工事の痕跡を辿り、水のせせらぎが聞こえる川辺へと。
そこで、ガウラスは愕然と立ち尽くした。
穴が、開いていた。
巨大な“何か”が降臨したような破壊の痕。
川辺の地形は崩壊し、その穴に水が流れ込み、小さな湖のようになっていた。
そして、荒れ果てた川辺にひときわ異臭を放つものが転がっている。
人間の手と、足。
片方ずつしかないそれは、その持ち主が女性であると察せられる細さであった。
すでに腐敗がはじまっているが、それでもその手足からは、ガウラスのよく知る者の匂いがした。
……愛娘である、シャーレの。
涙をこらえた笑顔で父を見送った、寂しがり屋で気丈な娘の匂いが。
周囲の岩が黒ずんでいるのは、大量の血痕なのだろうか。
もう、立っていられなかった。
崩れるように、その場に膝を付いた。
絶叫した。
娘の手足を胸元にかき抱き、何時間も、何時間も――ありったけの赫怒と悲哀を、喉から迸らせ続けていた。
体力と気力を使い果たし、いつの間にか意識を失っていた。
そして再び目覚めた時には、いくばくかの冷静さ取り戻すことができていた。
主君を、妻子を、同胞たちを失ってもなお、戦士として数多の修羅場を生き延びたガウラスの思考と肉体は、己に最善の状態を課そうとする。
まず脳裏に浮かんだのは、ルヴィアのことだった。
彼女だけは、その身体の一部すら見つかっていない。
シャーレの肉体を砕いたと思しき破壊によって、跡形すら無くなってしまったのかもしれない。
……だが、死んだと決まってもいないではないか。
ガウラスは、縋るように考える。
その願望交じりの思考に寄りかかるようにして立ち上がり、家族や同胞たちの亡骸をルヴィリスの作法で弔い、失われた祖国を後にした。
フォーゼルハウト帝国の調査隊が到着したのは、そのすぐ後のことだったという。
その後ガウラスは、ルヴィアを探すため、ルヴィリスを滅ぼしたという“人獣”の情報を集め、報復の機会を得るために、“鋼翼”に加わる。
国家という枠にとらわれずに依頼次第で世界各地を渡り歩き、様々な特権を得られる“序列者”、そして“九傑”になることが、己の目的を果たすための近道であると考えたからだ。
そして、罪も無い夢人の少女を追い詰めるというひどく不本意な役目を与えられた際、ガウラスはついに目的の一つを果たす。
美しく成長したルヴィアと、再会することができたのだ。
彼女は、その首に奴隷の首輪を付けていた。
過酷な日々を送っていただろうと思った。
きっと、王族として、女性として、人間として、尊厳を守ることなど許されない屈辱が続いていただろう。
かつての名残を残しつつも、どこか変わってしまったその身体の匂いからもそれは察せられた。
それでも、ルヴィアは――今はルルと名乗る彼女は、ガウラスの知る彼女として、そこにいた。
あの白髪の少年をはじめとした、彼女を取り巻く人々のおかげでもあったのだと思う。
「……む」
状況の変化に、ガウラスの思考は打ち切られる。
ガウラスの目の前には、森林に覆われた丘陵地帯。
狼人の嗅覚が、風に混じったよく知る匂いを感じていた。
「姫様……やはり、来られたのか」
実のところ、ルルを追おうとすることは、すでに諦めていた。
ガウラスが行っていたのは、“人獣”を追うことだ。シド・ウォールダーの命と思しき指示によってフォーゼルハウト領地に潜伏している“人獣”の一団の一つを発見することができれば、そこに彼女が現れるのでは、と。
“鋼翼”の人脈も活用し、相当な費用も費やしたことで、ようやく構成員が潜んでいる可能性が高い一帯を絞り込むことに成功していた。
あえて噂話を流してもらった甲斐もあったのだろうか。
ガウラスの狙い通り、彼女はこの場に現れたようだ。
しかし、すでに事が終わっている可能性もある。急がねばなるまい。
「――魔法具象――」
ガウラスは“人獣”の奇襲に対する警戒も兼ね、自らの魔法である<颶鎧狼>を具象した。
月光に照らされる鈍色の装甲、嵐を宿す魔道の鎧に身を包み、巨漢の狼人は森に包まれた丘へと侵入する。
警戒していた奇襲は、こなかった。
ルルの、そして血の匂いを辿り、ガウラスはあっさりと目的地に到着する。
「ひっ、ひぃぃ……」
「……やめて、殺さないで、お願い」
丘の中腹、ここに“人獣”が潜んでいたのだろう。あの者たちが攫ってきたと思しき半裸や全裸の女性達が、恐慌寸前の表情で身を寄せ合って固まり、あるいは気を失っていた。
全員、少なくとも生命は無事のようだ。心はともかく、身体については今すぐ処置を要するような怪我もしていない。
そのことを確認し、ガウラスは女性たちが怯えた眼差しを逸らし続けている方へと、顔を向ける。
彼女は、そこにいた。
「姫……様……」
紅の森。
鮮血と臓腑に彩られた、狂気の景観だ。
地面に散乱し、あるいは樹木の枝に引っかかっている、かつては人間であっただろう原型を留めぬ無数の物体。
それが何人分の残骸であったのか、ガウラスには見当も付かなかった。
「……姫様!」
その中央に、ルルは立っている。
隙間から差し込む月光が、まるで歌劇の演出のように彼女を照らしていた。
「……ガウラス」
ゆっくりと振り返るルル。
淑やかな美貌は、返り血の化粧によって凄絶に彩られていた。
琥珀の瞳が、静かにガウラスを見つめる。
その表情と口調は、穏やかですらあった。
「私を、追ってきたのですか?」
「――――」
だがガウラスは、絶句した。
違う、決定的に、致命的に違う。
彼女は、自分の知るルヴィア・ルヴィリスではない。
絶対零度に凍りついた漆黒の狂気が、その美貌の下に渦巻いている。
それはまさしく、狂人の貌であった。
まるで石ころのように投げ捨てたのは、抉り取った眼球か。
仮面じみた微笑を浮かべ、世間話でもするような口調で言う。
「このまま“人獣”を叩いていけばシドが顔を出すかもと思っていましたが、なかなか上手くいかないものですね。それに、今回は少し失敗してしまいました。まさか、こんなに簡単に破裂してしまうなんて。シドの居場所を聞き出せることはあまり期待していませんでしたが、もうしばし悶え苦しませるつもりだったのですが」
「……っ」
ここまでか、これほどまでだったのか。
かつての彼女と変わらぬように見えたあの振る舞いの下に、ここまでの闇を宿していたのか。
自分はあの姿に安堵し、この闇に気付くことができなかった。
「おかしいとは思いませんか? この者たちは、そこの娘たちの男家族を皆殺しにし、自分たちの欲望のままに辱めておきながら、私のことを悪魔と言うのです。いったい、どの口でそのようなことを言うのでしょうね。自分たちだけは、何をしても許される特別な存在だとでも思っていたのでしょうか」
何という不明。何という蒙昧。こんな様で、自分は彼女の――いや。
「姫様、お聞きください」
ガウラスは自責と懊悩に沈みかけた己を奮い立たせ、飲み込みかけた言葉を続ける。
話したいことも、聞きたいことも色々とある。
だが、まず言わなければならないことは、決まっていた。
「どうか、ユウ達のところにお戻りを」
「……」
ユウ。その名に、仮面じみていたルルの表情がわずかに揺らぐ。
その瞳に切なげなさざ波が立つのを、ガウラスは見逃さなかった。
「このようなことは、お止めください。これは鬼の所業。人の為すことではありません」
「ルヴィリスの恨みを、報復を、諦めろと言うのですか?」
「そういうことを言っているのではありません、姫――ルル様」
ふたたび仮面めいた微笑みで感情を覆い隠したルルに向け、ガウラスは真摯な声で続ける。
「“人獣”は滅ぼすべきです。シド・ウォールダーは討つべきです。ですが、そのためにルル様が人の道を踏み外す必要はないのです。あなたはもっと堂々と胸を張れるところで、あの外道どもと相対するべきでしょう。誇りを重んじる、ルヴィリスの狼人であるならば――」
「――ルヴィリスはもうありません!」
魂が軋むような声色に、ガウラスは思わずたじろいだ。
百戦錬磨の戦士である彼が気圧されるほどの狂念が、ルルの声から溢れ出ている。
続く物言いは、まるで泣き喚く幼子のよう。
「私には、もうルヴィリスの誇りなど持つ資格などないのです! 母も、シェルシィも、同胞たちも、守るべき皆の命を奪ったのは、私なのですよ!? そんな私が、今さらどのような誇りを持てと言うのですか!? 夢幻城で、こんな私の顔をあなたに見せるかどうかすら、どれほど悩んだか……!」
知っている。
妻や王たちの遺体を葬った時、彼女たちの命を奪ったのがルヴィアの<颶嵐煌弓>であろうことは、察しが付いていた。
それだけの理由があったということもだ。
「ルル様! ですが――」
「私には、これしかないのです! 同胞たちの無念を晴らすためだけに、この身と心は汚れながらも永らえてきたのです! あの鬼畜どもに、同胞たちの味わった地獄の一部でも味あわせることが、私に残されたたった一つの存在理由なのですから!」
「ですが! 彼らの傍らにいた貴女は、楽しげに笑っておられた!」
「……っ」
今度は、ルルが言葉を飲み込む番であった。
自分は舌戦が苦手だ、器用な頭も舌も持ち合わせていない。まともに言い合いになれば彼女にはとうてい適わないだろう。
反論される前に、畳み掛ける。
「夢幻城で再会したあの時、貴女が今のようあったならば、私も共に鬼へと堕ちる決意を固めていたでしょう! しかし貴女は、共に戦う仲間たちを心より案じられておられた! ユウの名を、愛おしげに口にしておられたのです! あの帝都で、貴女はルヴィリスでも見つけられなかった幸福を得ていたではないのですか! 今の貴女には、もう新しい居場所が、」
「やめてください!」
そう言ったと認識するだけで精一杯の、悲鳴じみた訴えであった。
ガウラスを見つめるルルは、見たこともないような表情をしている。
「新しい居場所……? よりにもよって、あなたがそれを言うのですか? ルヴィリスの戦士である、あなたが……!」
「ルル様、私はただ……!」
ガウラスの言葉を拒絶するように、ルルは背を向ける。
咄嗟に引き留めようとするが、今にも泣き出しそうな美貌がちらりと振り返り、
「あなたは、こちらには来ないで」
制止の声を発する間もなく、一瞬で姿を消していた。
「……馬鹿な」
ガウラスは、目を見開いて驚愕していた。
凄まじいスピードである。果たして、ガウラスの全力でも追いつけるかどうか。
ましてや、帝国領内を駆けずり回って消耗していたガウラスでは、とうてい追跡など不可能であった。
かつての第三位階の魔道師ルヴィアでは絶対に不可能であった超絶の速度。
己の魔法を失ったはずの彼女が、如何にしてそれを実現させているのだろうか。
“人獣”を次々と捕捉している力の秘密も、その力の一端なのかもしれない。
ルルは消え、闇夜の森には散乱する“人獣”の死骸と、発狂寸前に怯える娘たち、そして力無く立ち尽くすガウラスが残される。
「姫様……それでも、あなたには……」
その続きを語り聞かせるべき相手は、もうこの場にはいない。
牙を噛み締め、血が滲みそうなほど拳を握りしめながら、ガウラスは無力感の混じった唸りを漏らすのだった。
一方、帝都アディーラ。
粕谷京介は自室にて、汗だくでぐったりとベッドに寝そべっていた。
主の胸板に顔を預け、全裸のエスタはうっとりと微笑んでいる。まだまだ余裕たっぷりという様子であった。
その表情に、粕谷は呆れ混じりの呻きを漏らす。
「お前、つくづく底なしだな……」
「兎人ならふつーですよぅ。エスタはまだまだ経験不足なぐらいですよ? まあ、エスタみたいに子供はできなくてもいいやって思ってるのは少数派ですけど」
「……そうかよ、イカれた場所だな」
「うーん、亜人はほんと子供ができ辛いから、この辺はかなり切実な問題なんですけどねー。普通の人間と同じような生活してたルヴィリスとか、人口がぜんぜん増えなくてすっごく苦労してたって聞きますよ? ま、もう滅びちゃったんですけど」
よく口が動く。今日も娼館で働いてきた後のことだというのに、いまだ体力が有り余っているらしい。
「エスタ、お前……」
「はい?」
「いや……何でもねえよ」
さすがの粕谷も、彼女の振る舞いにはだんだんと面食らいつつあるのも否めなかった。
前の奴隷の時とは違う。
従順なのは同じであるが、エスタにはどこか不気味な底知れなさが感じられたのだ。
ティオは粕谷に怯えていたが、今はまるで、自分がエスタに――
(……何だと?)
――怯えている?
自分が、怯えているというのか?
選ばれし血筋の人間である、この粕谷京介が?
血が、頭に昇っていく気がした。思考が、沸騰する。
「ふざけんな!」
「きゃふっ!?」
叫びながら上体を起こした粕谷。
エスタは目を丸くしてベッドの上にころんと転がる。
きょとんとこちらを見上げてくるエスタの視線を感じながら、粕谷はひとりごちていた。
(くそ、くそ、くそ……! そうだ、俺は、あの時も……!)
思い出すのは、神護悠との決闘。
覚醒した悠に無残なまでの敗北を喫した、屈辱の記憶。
あの時、自分はどうしていた?
悠に、どのような感情を抱いていた?
(ビビっていた……あの、モヤシに、心底ビビっちまってたんだ……! だから、<機甲蟷螂>も……!)
すべてを奪い、壊し、支配するという粕谷の魔法の化身たる<機甲蟷螂>。
その著しい弱体化の原因は、あの時に抱いた恐怖にあるのではないのか?
蹂躙者、征服者たらんとする己の魂に、あの恐怖が今も亀裂を与えているからではないのだろうか。
そうであるならば、自分は今も、あの忌々しい白髪頭に……!
「ちくしょうがぁぁぁぁぁ!」
「キョ、キョウスケ様?」
唸りを上げた粕谷は、そのまま手を伸ばす。
その先には、テーブルに置いてあった瓶があった。
中には、鮮血のような赤い液体が入っている。
エスタが非合法な店で見つけてきたと言っていた、魔道強化の効果があるという何とも胡散臭い薬だ。
何やら嫌な予感がして、とりあえずは放置していたものだった。
(もう二度と、ダセぇ真似するかよ……!)
そのためには力が要る。
神護悠にも、誰にも負けないほどの、圧倒的な力が。
そのためならば、手段など選ぶものか。リスクなど、知ったことでは無い。そんなものに、自分はもう二度と怯えたりなどしない。
蓋を開け、一気に飲み干す。
原料に何かの生き物の血でも使われているのだろうか、この世界に来てからは馴染が深くなった、鉄錆めいた味が口の中に広がる。
ひどく不味い、吐き出しそうになった。
だが粕谷は、その不快感もろとも強引に胃の中へと収める。
「うっ……」
ドクンと、心臓が跳ねるような衝動。
全身の血流が、一気に加速したような高揚感。
細胞という細胞に、何かが満ちていくような充実感。
「キョウスケ様……エスタのこと、信じてくれたのですね」
自分の持ってきた薬を飲んでくれたことが嬉しかったのか、エスタは表情を輝かせている。
もちろん、一糸まとわない裸身のままだ。
小柄だがスタイルの良い肢体、その瑞々しい肌が汗ばみ、上気している。
彼女に搾り取られて精根尽き果てていたはずの粕谷は、荒い息を吐きながら、彼女に乱暴に覆いかぶさった。
耐え難いほどの熱い疼きが、彼の身体を衝き動かしている。
「やぁんっ」
媚びるような悲鳴を漏らしながら、エスタは為すがままになる。
粕谷はぎらついた眼差しで彼女を見下ろしながら、有無を言わさずにその肢体を貪りはじめた。
ベッドの軋む音、粕谷の獣のような唸り、エスタの甘ったるい声が、熱っぽい空気に溶けていく。
「魔素中毒になっちゃいました……? こういう効果もあるかなって、実はちょっと期待してたんですけどぉ……思ったより上手くいっちゃったみたいですね」
嬉しげに、エスタは粕谷を抱き締める。
「本当に……思ってた以上に上手くいっちゃった」
妖しく微笑む彼女の表情は、粕谷には見えていない。
粕谷がラウロの提案を飲むことを了承したのは、その翌日のことである。
たいへん間が開いて申し訳ありません、仕事が忙しすぎて執筆がぜんぜん進められませんでした。
5章はそろそろ前半が終了、後半はほぼバトルパートとなります。




