第21話：エレナ、14歳の挑戦

　マークバラードの春は、葡萄畑に新しい緑が息づき、村全体が希望の色に染まる季節だ。

　小屋の窓から見える丘陵では、カベルネ、シャルドネ、山葡萄が朝陽に輝き、うどんこ病を乗り越えた強さを見せている。

　ワイナリーの基礎も着実に進み、村人たちの笑顔が私の心を温める。

　クシナーダの視察や病気の危機を乗り越えたことで、マークバラードは王国に名を知られる存在になりつつある。

　前世の記憶が囁く――ワインは時間と愛情の結晶だ。

　今日、14歳の誕生日を迎える私は、新たな決意を胸に、村のみんなと夢を大きくする！

　朝食のスープをすすりながら、私はアイテムボックスから葡萄の管理記録を取り出す。

　山葡萄の奇跡で救われた畑だけど、収穫量を増やすにはもっと工夫が必要だ。

　エルルゥが剣を磨きながら、いつもの鋭い視線を向けてくる。

　彼女の黒いメイド服は春の陽気にも凛々しく、まるで村を守る女騎士のよう。

　シルビアは暖炉のそばでローブを羽織り、栗色の髪をいじりながら、そわそわしている。

「エレナ様、14歳の誕生日、おめでとうございますな。貴女の無謀な夢も、こうして一年大きくなりました。ワタクシ、今日は剣を置いて、祝いの準備に協力しますよ」

　エルルゥの声には珍しい柔らかさが混ざっている。

　私はスプーンを置いて、目を輝かせる。

「エルルゥ、ありがとう！　誕生日、めっちゃ楽しみ！　でも、畑も気になるから、午前はチェックして、午後はみんなでお祝いしようよ！」

　シルビアがスープをこぼしそうになりながら、慌てて言う。

「エレナ、誕生日だよ！　クシナーダじゃ、誕生日は魔法で花火とか派手にやるけど……私、風魔法で何か楽しいことできるかな？　ほんと、おめでとう！」

　彼女の声には故郷を懐かしむ響きがある。

　私は彼女の手を握って、笑顔で答える。

「シルビア、ありがとう！　風魔法でキラキラした演出、期待してるよ！　エルルゥも、今日はメイド服でケーキ作り手伝ってね。村のみんなと、最高の誕生日パーティーにするんだ！」

　エルルゥが眉をピクリと動かし、ため息をつく。

「ふむ、ワタクシの剣は貴女を守るものですが、ケーキ作りなら腕を振るいますな。ですが、クシナーダやカルリストの動向が気になる。警戒は怠りませんよ」

　私はウィンクして、アイテムボックスから小麦粉、卵、蜂蜜、干し葡萄を取り出す。

　シルビアが「エレナ、ほんと何でも出てくるね！」と笑い、エルルゥが「貴女のアイテムボックス、まるで魔法のパン屋ですな」と呆れながらも楽しそうに呟く。

　私の胸は、誕生日と畑の未来への期待で高鳴っていた。

　でも、どこかで小さな不安がざわめく。

　クシナーダの噂、カルリストの視線……今日くらいは、みんなの笑顔で忘れたいな。

　朝の畑は、春の陽光に浴して活気づいている。

　カベルネの力強い緑、シャルドネの繊細な輝き、山葡萄の野性味溢れる蔓が、丘陵を彩る。

　村人たちが集まり、ガルドが杖をついて「エレナ様、誕生日おめでとう！」と笑う。

　トムが「エレナ様、14歳！　僕より年上！」と目を輝かせ、子供たちが「ケーキ食べたい！」と騒ぐ。

　私は笑顔で手を振るけど、畑のチェックも忘れない。

　山葡萄のスプレー液のおかげで、うどんこ病は落ち着いたけど、葉の色がまだ少し弱い気がする。

「みんな、今日は畑のチェックと誕生日パーティーの準備だよ！　葉っぱの元気を確認して、午後は一緒にケーキ食べよう！」

　村人たちが頷き、畑に散らばる。

　シルビアが風魔法でそよ風を起こし、葉を揺らして見やすくする。

　エルルゥは虫眼鏡を手に、子供たちに「丁寧に見なさい」と指導しながら、畑の隅々をチェック。

　私はカベルネの葉を手に取り、裏をじっくり見る。

　斑点はほとんどないけど、成長が少し遅い。

　前世の知識が閃く――土壌の栄養が足りないのかも。

　アイテムボックスに堆肥の材料があるから、調合してみよう！

「エレナ様、畑に気を取られすぎですな。今日は誕生日、少しくらい羽目を外してもいいのでは？」

　エルルゥが私のそばに寄り、珍しく柔らかい笑みを浮かべる。

　私は笑って答える。

「エルルゥ、畑は私の夢の一部だよ！　でも、誕生日パーティーも全力で楽しむつもり！　シルビア、風魔法で堆肥運ぶの、助けてね！」

　シルビアが風魔法で枯れ葉や肥料をふわっと浮かせ、畑に撒く。

　彼女の魔法は、まるで風の精霊が畑を撫でるよう。

　ガルドが「エレナ様、こんな若いのに畑まで気にするなんて！」と感心し、トムが「僕も堆肥運ぶ！」と駆け回る。

　私はアイテムボックスから堆肥用の薬草と魚の骨を取り出し、調合を始める。

　山葡萄の汁を少し混ぜれば、栄養たっぷりの肥料になるはず！

「エレナ、ほんと畑愛してるね！　クシナーダじゃ、こんな風にみんなで畑いじるの、なかったよ」

　シルビアの言葉に、胸が温かくなる。

　私は彼女に笑顔を向け、言う。

「シルビア、この畑はみんなの夢だよ。14歳の私、もっと大きくするんだから！」

　午後、村の広場はパーティーの準備で大賑わい。

　村人たちがテーブルを並べ、ガルドが「エレナ様の誕生日、村の祝い事だ！」と杖を振る。

　子供たちが花の冠を作り、トムが「エレナ様、これかぶって！」と私の頭にそっと乗せる。

　私はアイテムボックスから小麦粉や蜂蜜を出し、エルルゥとシルビアと一緒にケーキ作りを始める。

　エルルゥが意外と器用に生地をこね、シルビアが風魔法でオーブンの火を調整。

　甘い香りが広場に広がり、村人たちが「おお、美味そう！」と集まってくる。

「エルルゥ、ケーキ作り上手すぎ！　シルビア、火の調整バッチリだよ！」

「ふむ、ワタクシ、剣も包丁も同じです。エレナ様の誕生日、完璧に祝いますよ」

「へへ、風魔法で火加減楽ちんだよ！　エレナ、誕生日ケーキ、めっちゃ楽しみ！」

　ケーキが焼き上がり、干し葡萄と蜂蜜で飾った素朴なケーキがテーブルに並ぶ。

　私はアイテムボックスから白葡萄ジュースを出し、みんなで乾杯。

　村人たちが「エレナ様、14歳おめでとう！」と声を揃え、トムが「ケーキ、僕が一番食べる！」と叫ぶ。

　ガルドが杖をつきながら、しみじみ言う。

「エレナ様、14歳でこんな村を引っ張るなんて、昔じゃ考えられん。わしら、誇りに思うよ」

　その言葉に、胸がじんわり熱くなる。

　シルビアが風魔法で花びらを舞わせ、広場がキラキラと輝く。

　子供たちが「わあ、魔法みたい！」と騒ぎ、村人たちが拍手する。

　エルルゥがケーキを切り分け、みんなに配る。

　彼女の動きは、剣術のように正確だ。

「エルルゥ、ケーキ切る姿、カッコいいよ！　シルビア、花びらの演出、最高！」

「ふむ、ワタクシ、貴女の笑顔のために腕を振るいました。エレナ様、良い誕生日ですな」

「エレナ、クシナーダの花火もいいけど、こうやってみんなで祝うの、ほんと素敵！」

　パーティーの最後、村人たちが突然集まり、私を胴上げし始めた！　トムが「エレナ様、もっと高く！」と叫び、ガルドが「気をつけな！」と笑う。

　私はびっくりしながらも、笑顔が止まらない。

「みんな、ありがとう！　14歳の私、もっとすごいことするよ！　マークバラードを、ワインの里にするんだ！」

　村人たちが「おお！」と歓声を上げ、広場は笑顔と笑い声で溢れた。

　夜、小屋に戻ると、暖炉の火がパチパチと音を立てる。

　シルビアが風魔法で火を調整し、エルルゥが剣を磨きながら言う。

「エレナ様、今日の誕生日、村人たちの絆を強くしましたな。ワタクシ、貴女の無謀さが村を一つにするのを見ました」

「エルルゥ、ありがとう。シルビアの花びらも、みんなの笑顔も、最高のプレゼントだったよ！」

　シルビアが膝を抱え、ぽつりと呟く。

「エレナ、クシナーダじゃ、誕生日って王族の派手な宴だったけど、こうやってみんなでケーキ食べるの、ほんと温かい。……でも、噂が気になる。カルリストやクシナーダ、動くかも」

　私は彼女の手を握り、力強く言う。

「シルビア、どんな噂が来ても、私たちの村は負けないよ。14歳の私は、みんなと一緒に、もっと大きな夢を描く！」

　星空の下、葡萄畑が静かに揺れていた。

　14歳の誕生日、村人たちの笑顔と絆が、私の心に新しい火を灯した。

　次の挑戦は、子供たちと一緒に畑を守ること。

　どんな試練も、みんなで乗り越えるよ！