第18話:ワイナリーの基礎
マークバラードの春は、丘陵に新しい緑が芽吹き、希望の香りが漂う季節だ。
小屋の窓から見える葡萄畑では、カベルネ、シャルドネ、山葡萄の苗が力強く枝を伸ばし、初収穫の失敗を乗り越える準備をしている。
あの苦い経験は胸に残るけど、村人たちの笑顔とエルルゥ、シルビアの支えが私の心に火を灯した。
前世の記憶が囁く――ワインは失敗と情熱から生まれる芸術だ。
今日から、ワイナリーの建設を始める。
葡萄畑の夢を形にする第一歩。
マークバラードをワインの里にするんだ!
「エレナ様、ワイナリーの建設とは大胆ですな。貴女の無謀さは認めますが、魔力の使い過ぎと無茶な計画は禁物ですよ。ワタクシ、貴女の安全を第一に守ります」
エルルゥが朝食のスープを運びながら、いつもの鋭い視線を向けてくる。
彼女の黒いメイド服は春の陽気に少し汗ばみ、剣を携えた姿はまるで戦場に立つ女騎士のよう。
シルビアは暖炉のそばでローブを羽織り、栗色の髪を指でいじりながら、目を輝かせて言った。
「エレナ、ワイナリーって本格的だね! クシナーダじゃ、ワイン蔵はでっかい石造りだったけど、風魔法で作業を楽にできるよ! なんか、ワクワクする!」
「シルビア、ナイス! 風魔法で資材の運搬や作業効率アップ、お願いね! エルルゥも、今日は剣よりハンマー持って、村人たちと一緒に建設を手伝ってよ。ワイナリーの基礎、みんなで作るんだから!」
私はスプーンを握り、胸を張って言った。
エルルゥは眉をピクリと動かし、ため息をついた。
「ふむ、ワタクシの剣は貴女を守るためのものですが、ハンマーなら少々腕が鳴りますな。ですが、クシナーダやカルリストの動向が気になる以上、ワタクシの警戒は怠りませんよ」
「大丈夫だよ、エルルゥ! アイテムボックスに資材も道具もバッチリ詰めてあるし、時空魔法で木材の乾燥を早めて、最高のワイナリーを建てるよ!」
私はウィンクして、アイテムボックスから木材、釘、石材、設計図を取り出した。
シルビアが「エレナ、ほんと何でも出てくるね!」と感心し、エルルゥが「貴女のアイテムボックス、まるで魔法の工房ですな」と半ば呆れたように呟いた。
私の胸は、ワイナリーの完成を想像して高鳴っていた。
失敗を乗り越え、村人たちと一緒に、夢の第一歩を踏み出すんだ!
朝、村の広場は活気に溢れていた。
ガルドが杖をつき、村人たちに指示を出し、畑の近くにワイナリーの建設用地を整えている。
子供たちが「エレナ様、ワイン作るの!?」と目を輝かせ、トムが「僕も手伝う!」と駆け回る。
私はアイテムボックスから木材と石材を出し、村人たちに設計図を見せた。
「みんな、聞いて! ここにワイナリーを建てるよ。葡萄を醸造して、マークバラードのワインを王国中に届けるんだ! 一緒に作ってくれる?」
村人たちが「おお!」とどよめき、ガルドが「エレナ様、こんな大それたこと、昔じゃ考えられん!」と笑う。
私は拳を握り、胸を張った。
「ガルドさん、昔のマークバラードじゃないよ。みんなの力で、夢を形にするんだ!」
建設が始まった。
村の若者たちが木材を運び、女性たちが石材を並べる。
シルビアが風魔法で木材をふわっと浮かせ、正確に配置していく。
彼女の魔法は、まるで風の精霊が踊っているよう。
エルルゥはハンマーを手に、村の若者に釘打ちのコツを教える。
彼女の動きは剣術のように正確で、若者たちが「メイドさん、すげえ!」と感心する。
「シルビア、風魔法でこんなにスムーズに進むなんて、最高! エルルゥも、めっちゃカッコいいよ!」
「へへ、風魔法で運ぶの、楽ちんだよ! エレナ、時空魔法で何かすごいことする?」
「うん、木材の乾燥を早めるよ! 自然だと時間がかかるから、ちょっとだけ魔法で助けるんだ!」
私は手を広げ、時空魔法を発動。
青白い光が木材を包み、時間を少しだけ早送りする。
木材の表面がみるみる乾き、建設に最適な状態に。
村人たちが「おお、魔法だ!」とどよめく。
でも、魔法の負担がじわじわ体に響き、頭がクラッとした。
「エレナ様! また無茶を!」
エルルゥが素早く私の腕を支え、シルビアが「エレナ、無理しないで!」と駆け寄る。
私は息を整え、笑顔で答えた。
「大丈夫、ほら、木材バッチリ乾いたよ! これで建設、めっちゃ進む!」
村人たちが拍手し、トムが「エレナ様、すごい!」と叫ぶ。
ガルドが杖をつきながら近づき、感心したように言った。
「エレナ様、こんな魔法、見たことねえ。ワイナリー、ほんとにできるんだな!」
「うん、ガルドさん! みんなで作れば、絶対できるよ!」
その時、シルビアが風魔法で石材を運びながら、ぽつりと呟いた。
「エレナ、クシナーダの噂、ますます気になる。ワイナリーの話、カルリスト経由で向こうに伝わるかも……」
エルルゥがハンマーを置いて、鋭い視線をシルビアに投げた。
「シルビア殿、その噂、詳しく話していただけますか? ワタクシ、クシナーダの動向を注視します」
シルビアが少し身を縮め、笑顔で誤魔化した。
「う、うん、ただの噂だよ。エレナのワイナリー、こんなにすごいんだから、きっと大丈夫!」
私は彼女の手を握り、力強く言った。
「シルビア、クシナーダのことは気になるけど、私たちの村は負けない。ワイナリーはみんなの夢の象徴だよ!」
夕方までに、ワイナリーの基礎が形になり始めた。
石材の土台がしっかりと組み上がり、木材の枠組みが立ち上がる。
村人たちが汗を拭いながら笑い合い、子供たちが「ワイン、楽しみ!」と騒ぐ。
私はアイテムボックスからピザパンとキノコスープを取り出し、みんなで休憩タイム。
シルビアが風魔法で涼しい風を起こし、村人たちが「気持ちいい!」と笑う。
「シルビア、風魔法でこんなに快適になるなんて、最高! エルルゥも、釘打ちめっちゃ上手いね!」
「ふむ、ワタクシ、剣もハンマーも同じです。エレナ様、貴女の無謀さが村を一つにしましたな」
エルルゥが珍しく柔らかい笑みを浮かべる。
シルビアがピザパンを頬張りながら言った。
「エレナ、クシナーダじゃ、こんな風にみんなで何か作ること、なかったよ。君の夢、ほんとすごい」
その言葉に、胸がじんわり温かくなった。
トムの母親が私の手を取り、「エレナ様、失敗したって、こうやって前に進んでる。村のみんな、信じてるよ」と笑う。
ガルドが「ワイナリーができたら、俺もワイン飲んでみたい!」としみじみ言う。
私は涙をこらえ、拳を握った。
「みんな、ありがとう。ワイナリーは、私だけの夢じゃない。みんなの夢だよ。絶対、完成させる!」
夜、小屋に戻ると、暖炉の火がパチパチと音を立てる。
シルビアが風魔法で火を調整し、エルルゥがハンマーを磨きながら言った。
「エレナ様、今日の建設、村人たちの団結を感じました。ワタクシ、貴女の夢が少しずつ形になるのを誇りに思います」
「エルルゥ、ありがとう。シルビアも、風魔法でめっちゃ助かったよ。これからも、みんなで夢を大きくするんだ!」
シルビアが膝を抱え、ぽつりと呟いた。
「エレナ、クシナーダの視察が来るかもしれないって噂、ほんと気になる。でも、君の村なら、どんな視察も乗り越えられるよね」
私は彼女の手を握り、笑顔で答えた。
「シルビア、どんな視察が来ても、私たちの絆は負けないよ。ワイナリーは、マークバラードの未来そのものだ!」
星空の下、建設中のワイナリーが月明かりに照らされていた。
次の挑戦は、クシナーダの視察。
どんな試練が来ても、村人たちとエルルゥ、シルビアと一緒に、夢を形にしていくよ!




