第15話:冬の薪運び
マークバラードの冬は、静かで厳かな空気に包まれている。
丘陵の葡萄畑は葉を落とし、裸の枝が朝霧の中でひっそりと佇む。
カベルネ、シャルドネ、山葡萄の苗は私の時空魔法のおかげで根を深く張り、来春の芽吹きを準備している。
小屋の窓から見える村は、収穫祭やエールの宴の賑わいを思い出すと、まるで別世界のようだ。
雪は降らないものの、冷たい風が土埃を巻き上げ、村人たちの暮らしを厳しく試している。
そんな中、私の心は燃えていた。
葡萄畑の夢を育てるには、村のみんなが温かく過ごせる冬が必要だ。
今日の目標は、薪の確保と配布――アイテムボックスをフル活用して、村を温めるんだ!
「エレナ様、冬の寒さは油断なりませんな。薪運びとはいえ、貴女が無茶をしないか、ワタクシ、心配です。魔力の使い過ぎは禁物ですよ」
エルルゥが朝食のスープを運びながら、いつもの鋭い視線を向けてくる。
彼女の黒いメイド服は、村の埃っぽい風景に馴染んでいるけど、剣を携えた姿はまるで冬の寒さを切り裂く戦士のよう。
シルビアは暖炉のそばでローブを羽織り、栗色の髪を指でいじりながら少し震えていた。
「エレナ、クシナーダの冬はもっと寒かったけど、薪運びって大変そう……。でも、風魔法で運ぶの楽にできるよ! なんか、村のみんなと一緒にやるの、楽しみかも!」
「シルビア、ナイス! 風魔法で薪をふわっと運んでよ! エルルゥも、今日は剣より斧を持って、薪割りでカッコいいとこ見せてよね。村のみんなが温かい冬を過ごせるように、力を合わせよう!」
私はスプーンを握り、目を輝かせて言った。
エルルゥは眉をピクリと動かし、ため息をついた。
「ふむ、ワタクシの剣は貴女を守るためのものですが、斧なら少々腕が鳴りますな。ですが、クシナーダの噂が気になる以上、ワタクシの警戒は怠りませんよ」
「大丈夫だよ、エルルゥ! 今日は薪で村を温めて、みんなの笑顔を増やすんだ。アイテムボックスに薪も道具もバッチリ詰めてあるし、最高の冬の準備にするよ!」
私はウィンクして、アイテムボックスから斧や麻の袋、暖かい毛布を取り出した。
いつもと同じような流れにならないよう、今日は少し変化を加えたい。
薪運びをただの作業じゃなく、村人たちとの絆を深めるイベントにしよう! シルビアが「エレナ、なんか楽しそうな顔してる!」と笑い、エルルゥが「貴女の無謀さ、どこまで行くのですか」と呟いたけど、彼女の目も少し楽しそう。
私の胸は、村を温める計画で高鳴っていた。
朝のシャンティーの森は、霧が木々の間を漂い、静寂がまるで時間が止まったよう。
冷たい空気が頬を刺すけど、私の心は熱い。
アイテムボックスに詰めた道具を手に、エルルゥ、シルビアと一緒に森へ向かった。
薪集めは村人たちと分担するけど、まずは私たちで良質な木材を確保するんだ。
村の子供たちも「薪、集める!」とついてきて、トムが特に元気に跳ね回っている。
「エレナ様、森は魔獣の危険もあります。ワタクシの斧と剣に全てお任せを。貴女は無理をなさらず、子供たちを見ていてください」
エルルゥが斧を肩に担ぎ、剣を腰に構える。
彼女の凛とした姿は、冬の森に映える。
シルビアは風魔法で枯れ枝を軽く浮かせ、楽しそうに集め始めた。
「エレナ、風魔法で枝を運ぶの、めっちゃ楽だよ! クシナーダじゃ、魔法使いは薪集めなんてしなかったけど、なんか新鮮!」
「シルビア、最高! その調子でどんどん集めてよ! エルルゥ、薪割りは村の若者に教えてあげて。みんなでやれば、冬の準備も楽しくなるよ!」
私はアイテムボックスから麻の袋を出し、子供たちに枝を集める手伝いを頼んだ。
トムが「エレナ様、僕、たくさん集める!」と目を輝かせ、ほかの子供たちが「負けないぞ!」と競い合う。
森の中は、子供たちの笑い声と枝を踏む音で賑やかになった。
私の前世の記憶が囁く――冬の厳しさは、仲間との絆で乗り越えられる。
この薪集めを、ただの作業じゃなく、村の思い出にしたい!
でも、森の奥でガサガサと音がした瞬間、エルルゥが斧を構え、私を背中に庇った。
「エレナ様、シルビア殿、下がって! 魔獣の可能性です!」
「え、魔獣!? エルルゥ、任せた! シルビア、子供たちを守って!」
心臓がドキドキしたけど、エルルゥの頼もしさに安心感が広がる。
シルビアが風魔法で子供たちをそっと囲み、木の葉を巻き上げて視界をカバー。
出てきたのは、牙の小さなイノシシだった。
エルルゥが斧を一閃すると、イノシシは驚いて逃げ出した。
子供たちが「メイドさん、かっこいい!」と拍手し、私は笑顔でエルルゥにハイタッチ。
「エルルゥ、さすが! 魔獣じゃなくてよかったけど、めっちゃカッコよかったよ!」
「ふむ、ワタクシの斧も剣も、貴女を守るためにあります。子供たち、騒がず薪集めに専念なさい!」
エルルゥがクールに言うけど、子供たちに囲まれて少し照れてるのが可愛い。
シルビアが「エレナ、こんな賑やかな薪集め、クシナーダじゃありえなかったよ」と笑う。
彼女の笑顔に、クシナーダの影が少し薄れた気がしたけど、ふと彼女が遠くを見る目が気になった。
後でちゃんと話そう。
村に戻ると、広場で薪割り大会を企画した。
いつもと同じ作業の流れじゃつまらないから、今回はゲーム感覚で! ガルドや若者たちに声をかけ、薪割りのコツを競うイベントにした。
エルルゥが斧を手に、若者たちに切り方を教える。
彼女の動きは、剣術のように流麗で、村人たちが「おお、メイドさんがすげえ!」とどよめく。
「エルルゥ、めっちゃプロっぽい! 若者たち、ちゃんと見て学んでね!」
「ワタクシ、薪割りなど剣の延長です。エレナ様、貴女も試してみますか?」
「う、うん、やってみる!」
私は斧を握り、恐る恐る薪に振り下ろした。
ガツン! と音がして、薪が真っ二つ。
村人たちが拍手し、トムが「エレナ様、すごい!」と叫ぶ。
ちょっと力が入りすぎて腕が震えたけど、みんなの笑顔に胸が熱くなった。
シルビアが風魔法で割った薪をふわっと運び、広場に積み上げていく。
「シルビア、風魔法でこんなに楽になるなんて、最高! これなら村中すぐに温まるね!」
「へへ、クシナーダじゃ魔法は戦うか見せるかだったけど、こうやって役立つのは気持ちいいよ!」
シルビアの笑顔が弾ける。
でも、彼女が薪を運びながらふと呟いた言葉が耳に残った。
「エレナ、クシナーダの新王、戦争の噂、ほんと気になる。マークバラードがこんなに活気づいてるって、向こうも気づいてるかも……」
その言葉に、胸がざわついた。
エルルゥが斧を置いて、シルビアに鋭い視線を向ける。
「シルビア殿、クシナーダの動向、詳しく話していただけますか? ワタクシ、エレナ様と村の安全を第一に考えます」
シルビアが少し身を縮め、笑顔で誤魔化した。
「う、うん、ただの噂だよ。エレナの夢、こんなにすごいんだから、きっと大丈夫!」
私は彼女の手を握り、力強く言った。
「シルビア、クシナーダのことは気になるけど、私たちの村は負けないよ。薪も、葡萄畑も、みんなの笑顔で守るんだ!」
夕方、アイテムボックスに詰めた薪を村人たちに配った。
シルビアの風魔法で薪が各家にふわっと運ばれ、子供たちが「魔法、すげー!」と大騒ぎ。
ガルドが「エレナ様、こんな温かい冬、初めてだ」と笑顔で言う。
トムの母親が毛布を抱えて「これで子供たちが寒さに震えずに済む」と涙ぐむ。
夜、小屋に戻ると、暖炉の火がパチパチと音を立てる。
私はアイテムボックスからピザパンとキノコスープを出し、みんなで軽い夕食を囲んだ。
シルビアが風魔法で火を調整し、エルルゥが斧を磨きながら私を見た。
「エレナ様、今日の薪割り、村人たちの笑顔を確かに増やしましたな。貴女の無謀さ、いつも驚かされます」
「エルルゥ、ありがとう。君のカッコいい薪割り、みんなの憧れだったよ! シルビアも、風魔法でめっちゃ助かった!」
シルビアが暖炉のそばで膝を抱え、ぽつりと呟いた。
「エレナ、君の村、ほんと温かい。クシナーダじゃ、魔法使いは怖がられるだけだったけど、ここでは違う。ありがとう」
その言葉に、クシナーダの影を感じたけど、私は彼女の手を握った。
「シルビア、君はもうマークバラードの一員だよ。これからも、みんなで冬を乗り越えて、葡萄畑を咲かせるんだ!」
星空の下、村は薪の温もりと笑顔で満たされていた。
次の挑戦は、カルリスト領主の視察。
どんな試練が来ても、私たちの村は輝き続けるよ!




