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飲んべぇ令嬢は時空魔法でワイナリーを運営します!  作者: 海老川ピコ


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12/21

第12話:秋の収穫祭

 マークバラードの秋は、朝霧が丘陵を優しく包み、葡萄の葉がほのかに赤みを帯び始める季節だ。

 小屋の窓から畑を見ると、カベルネ、シャルドネ、山葡萄の苗が私の時空魔法とシルビアの風魔法のおかげで力強く育ち、緑の海に小さな実がちらほら顔を覗かせている。

 燻製魚やピザパンの成功で、村人たちの笑顔も増えたけど、今日は特別な日――秋の収穫祭。

 葡萄はまだ本格的な収穫には早いけど、村の麦や野菜、そしてシャンティーの森の恵みを祝う日だ。

 私の前世の記憶が囁く。

 ワインは、土地の恵みと人々の笑顔があってこそ輝く。

 この祭りが、村のみんなの心を一つにする最高の舞台になるはず!


「エレナ様、朝からまた妙に気合が入っておりますな。収穫祭とはいえ、貴女の無謀な計画が心配です。魔力の使い過ぎは禁物ですよ」


 エルルゥが朝食のスープを運びながら、いつもの鋭い視線を向けてくる。

 彼女の黒いメイド服は、村の埃っぽい風景にすっかり馴染んでいるけど、剣を携えた姿はまるで戦士のよう。

 シルビアはテーブルでパンをちぎりながら、栗色の髪を揺らして笑った。


「エレナ、収穫祭って楽しそう! クシナーダでも秋のお祭りはあったけど、こんな小さな村のって初めて。風魔法で何か派手なことやっちゃおうかな?」

「シルビア、ナイス! 風魔法で祭りを盛り上げてよ! エルルゥも、今日は剣を置いて一緒に楽しもうよ。イボイノシシを狩って、ピザパンやキノコスープでみんなを驚かせるんだから!」


 私はスプーンを握り、目をキラキラさせて言った。

 エルルゥは眉をピクリと動かし、ため息をついた。


「ふむ、ワタクシの剣はエレナ様を守るためのものですが……イボイノシシなら、少々腕が鳴りますな。ですが、くれぐれも無茶はなさらず」

「大丈夫だよ、エルルゥ! 今日はみんなで笑って食べる日! アイテムボックスに材料もバッチリ詰めてあるし、最高の収穫祭にしよう!」


 私はウィンクして、アイテムボックスから狩りの道具や調理用のハーブ、ピザパンの材料を取り出した。

 シルビアが「なんでも出てくるね!」と感心する中、エルルゥは「貴女のアイテムボックス、底なしですな」と半ば呆れたように呟いた。

 私の胸は、祭りの成功を想像して高鳴っていた。

 村人たちと一緒に、葡萄畑の夢をまた一歩進めるんだ!



 朝早く、私とエルルゥ、シルビアはシャンティーの森へ向かった。

 収穫祭のメイン料理にふさわしいイボイノシシを狩るためだ。

 森は秋の気配に染まり、木々の葉が赤や黄色に色づき、地面にはキノコが点々と顔を出している。

 私の前世の知識が教えてくれる――シャンティーの森のキノコは、濃厚なスープにぴったり。

 イボイノシシのジューシーな肉と合わせれば、村人たちの舌を唸らせる料理になるはず!


「エレナ様、森は魔獣も出る場所。ワタクシの剣に全てお任せを。貴女はキノコ採りに専念なさい」


 エルルゥが剣を手に、鋭い目で周囲を警戒する。

 彼女の凛とした姿に、いつも心強さを感じる。

 シルビアはローブの裾をたくし上げ、風魔法で木の葉を揺らしながらキノコを探す。


「エレナ、キノコってどれがいいの? クシナーダじゃ、キノコスープはあんまり食べなかったけど、なんか楽しそう!」

「シルビア、茶色くてふっくらしたやつ! ほら、あそこにいっぱいあるよ!」


 私はアイテムボックスから麻の袋を取り出し、キノコを摘み始めた。

 ふわっとした土の香りと、キノコの素朴な匂いが鼻をくすぐる。

 シルビアが風魔法でキノコをそっと浮かせ、袋に集めてくれるから、作業がめっちゃ楽! でも、彼女の動きが少しぎこちない。

 クシナーダの過去がちらつくのか、時々遠くを見つめる彼女の目に、複雑な感情が宿っている気がした。


「シルビア、大丈夫? なんか、考え事してる?」


 私はキノコを摘みながら、そっと聞いた。

 シルビアがハッとして、笑顔を取り繕う。


「う、うん、大丈夫だよ! エレナの夢、ほんと楽しそうだから、ついワクワクしちゃってさ」


 彼女の笑顔は明るいけど、どこか無理してるみたい。

 エルルゥがチラリとシルビアを見て、剣の柄に手を置く。

 彼女の鋭い視線は、シルビアの過去をまだ完全に信じていない証拠だ。

 でも、私はシルビアの手を握った。


「シルビア、君がいてくれるから、今日の祭りも絶対成功するよ。一緒に、最高のキノコスープ作ろう!」


 シルビアが少し潤んだ目で頷き、「うん、エレナ、ありがとう」と小さく呟いた。

 その瞬間、森の奥からガサガサと音が! エルルゥが素早く剣を構え、私を背中に庇う。


「エレナ様、シルビア殿、下がって! イボイノシシです!」


 木々の間から、毛むくじゃらの大きな影が飛び出してきた。

 イボイノシシだ! 牙が鋭く、目はギラギラしてるけど、なんだか愛嬌のある顔。

 前世の記憶では、こういう獣の肉はワインと相性抜群だ。

 私の心が燃えた。


「エルルゥ、任せた! シルビア、風魔法でサポートして!」

「ワタクシに任せなさい!」


 エルルゥが剣を振り、まるで舞うようにイボイノシシに飛びかかる。

 シルビアが風魔法で木の葉を巻き上げ、獣の視界を遮る。

 イボイノシシが混乱して唸る中、エルルゥの剣が一閃! 見事な一撃で仕留めた。

 村人たちが後で聞いたら「メイドさんが魔獣を倒した!」と大騒ぎするくらい、カッコいい瞬間だった。


「エルルゥ、めっちゃカッコいい! シルビアも、ナイスアシスト!」

「ふむ、ワタクシの剣は飾りではありません。エレナ様、キノコは十分ですか?」

「バッチリ! これでスープもメイン料理も完璧だよ!」


 私はアイテムボックスにイボイノシシとキノコを収納し、胸を躍らせながら村へ戻った。

 エルルゥのクールな表情と、シルビアの少しホッとした笑顔が、私の夢を支えてくれる。

 村人たちと一緒に、この収穫祭を最高の思い出にするんだ!



 村の広場は、収穫祭の準備で大賑わいだ。

 木のテーブルが並び、麦や野菜が色とりどりに飾られている。

 子供たちが花の冠を作り、ガルドが「今年は豊作だ!」と笑顔で叫ぶ。

 私はアイテムボックスからピザパンの材料やキノコ、調理道具を取り出し、村の女性たちと一緒に料理を始めた。

 シルビアが風魔法で火を調整し、エルルゥがイボイノシシの肉を豪快に切り分ける。


「エレナ様、こりゃすごい肉だ! こんなご馳走、村じゃ何年ぶりだか!」


 ガルドが目を輝かせ、子供たちが「美味そう!」と騒ぐ。

 私はキノコスープを煮込みながら、みんなに作り方を教えた。

 シャンティーの森のキノコは、濃厚な旨味がスープに溶け出し、香ばしい香りが広場に漂う。

 ピザパンも、リナと一緒に焼き上げ、燻製魚やチーズをたっぷりトッピング。

 村人たちが「この匂い、たまらん!」と集まってくる。


「シルビア、火の調整バッチリ! エルルゥ、肉の切り方、めっちゃプロっぽいよ!」

「へへ、風魔法で火を操るの、得意なんだ。エレナ、スープの味、どう?」


 シルビアがスプーンでスープをすくい、私に差し出す。

 私は一口飲んで、目を輝かせた。


「うわ、最高! キノコの旨味がギュッと詰まってる! これ、みんな喜ぶよ!」

「ワタクシ、肉を切るくらい造作もないことです。エレナ様、貴女の無謀な計画、今日も成功しそうですな」


 エルルゥが珍しく柔らかい笑みを浮かべる。

 私は彼女の手を握り、胸の奥で熱いものがこみ上げた。

 エルルゥもシルビアも、村人たちも、みんなが私の夢を一緒に作ってくれる。

 この村は、私一人の力じゃなく、みんなの笑顔で輝いてるんだ。



 夕暮れ時、収穫祭が本格的に始まった。

 広場には松明が灯り、テーブルにはイボイノシシのロースト、キノコスープ、ピザパンがずらりと並ぶ。

 私はアイテムボックスから白葡萄ジュースと、王都で買った軽い白ワインを取り出し、村人たちに配った。

 子供たちはジュースを、大人たちはワインを手に、みんなが「乾杯!」と叫ぶ。

 ガルドがグラスを掲げ、しみじみと言った。


「エレナ様、こんな祭り、村の歴史始まって以来だ。燻製魚もピザパンも、このスープも、全部が奇跡だよ!」

「ガルドさん、奇跡じゃないよ。みんなの力があってこその祭りだよ! これからも、葡萄畑も、ワインも、こうやってみんなで作っていこう!」


 私の言葉に、村人たちが「エレナ様!」と歓声を上げ、子供たちが「スープ、うまーい!」と叫ぶ。

 トムの母親が私の手を取り、「あの時、トムを助けてくれてありがとう」と涙ぐむ。

 私は彼女の手を握り返し、笑顔で答えた。


「トムが元気で笑ってるのが、私の宝物だよ。これからも、みんなで笑顔を増やしていこう!」


 シルビアが風魔法で小さな風を起こし、松明の炎を揺らして祭りを盛り上げる。

 子供たちが「魔法、すごい!」と手を叩き、シルビアが照れ笑い。

 エルルゥはテーブルにピザパンを並べながら、子供たちに「はしたなく食べないでくださいね」と注意するけど、彼女自身もピザパンを頬張ってる。

 ふふ、エルルゥ、楽しんでるよね?

 夜が更け、村人たちが歌い始めた。

 素朴な民謡だけど、みんなの声が重なると、なんだか心が震える。

 私はシルビアとエルルゥの手を引き、歌の輪に加わった。

 シルビアが「クシナーダの歌も負けないよ!」と笑い、エルルゥが「ワタクシ、歌は得意ではありませんが……」と渋々歌う。

 その声が、意外と綺麗で、みんなが「おお、メイドさん、うまい!」と拍手する。


「エルルゥ、歌までカッコいいなんて、ずるいよ!」

「ふむ、ワタクシはエレナ様を守るだけで十分です。歌など、ただの余興ですな」


 エルルゥの頬が少し赤い。

 シルビアが「エレナ、ほんとこの村、最高だね」と囁き、私は彼女の手を握り返した。


「シルビア、君がいてくれるから、もっと最高になるよ。これからも、みんなで夢を大きくしよう!」


 月明かりの下、広場は笑い声と歌で溢れていた。

 ピザパンの香り、キノコスープの温かさ、村人たちの笑顔――全部が、私の夢の色だ。

 収穫祭は、葡萄畑の未来を約束する一夜になった。

 次の挑戦は、小麦の豊作と王都への挑戦。

 マークバラードは、もっともっと輝くよ!



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