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掌編11『アルト・ザ・魔法の杖』



 異世界ファンタジーといえば魔法の杖らしい。魔王ミンハイ(パチンコ『からくりサイゴン』に出てくる期待値の熱い男。なんか敵の位置をやたら聞いてくる)の拳法とかじゃなくて。

 人類史が始まってから武器は様々な進化を重ねてきた。多くは必要に駆られてのことで、銃によってある程度は完成したとも言える。だって銃で撃たれたら大抵の生き物は死ぬからな。

 しかし異界ダンジョンが見つかり、銃器が制限される海中環境と異様に頑丈でタフな魔物の存在によって、局地的に水中用武器が進化を始めている。

 そんな中で作られたのが『魔法の杖』こと、ヴァルナ社の多機能型攻撃兵装『ガーダーメイス』って試作品だった。

 今回の仕事は冒険者数人雇って、それの実戦での試験を行うことだ。



「それにしてもごっつくて重てえなこれ」

 

 船から海に飛び込んで、両手で抱えている魔法の杖をどうにか振りながらそうぼやく。 

 ガーダーメイスは魔法の杖っていうよりハンマーみたいな形状だ。それも工作用金槌じゃなくてサイズ的に、パチのモンハンに出てくるやつみたいな。あれ外れる率高えんだよな……先端部は打撃力を高めるための機構が付いていて重たく、柄は水の抵抗を考慮して細い。

地上で持っても重たいんだが、海に入ると顕著に沈む。地上と違って海の中は足場がないので踏ん張れずに振り回すどころか振り回される。

 その対策の一つとして渡されたのが特殊な足ヒレ『ヴァハーナ』。足ヒレ型の水中スクーターみたいなもんだ。周囲の海水を吸い込み噴出する仕掛けが複数仕込まれている足ヒレで、操作をすれば前へ推進したり、まるで地面に足を付けているかのようにガチッと水中で固定したりすることもできた。

 言うまでもないことだが、水の中をふよふよと漂っている状態は静止しているわけではなく、重さで沈むか浮力で浮かぶか、或いは海流で流されている。そんな不安定な場所では軍人でもねえ冒険者からしても、銃の命中率が落ちるだろう。オレは当てるけど。そういうのにも、この足ヒレの足場固定機能は役立ちそうだ。もちろん、重たい武器を振り回すのにも。

 

「どっちにしても動きは遅くなりそうだぜ。センセイ、掴まらせてくれ」

『了解した』


 同じく、両手にガーダーメイスを持ったセンセイが返事をして後頭部についている出っ張りに掴まって移動することにした。

 他にも周囲には水中スクーターで来ているテスター依頼を受けている冒険者たちに、ヴァルナ社の武器試験用強化アーマー『十腕王(じゅうわんおう)』がスイーっと移動していた。

 十腕王は水陸両用型の人型強化アーマーで、仏像みたいに細長い腕が背中やら脇やらから合計10本生えているのが特徴だ。

 理論上は一機で10個の手持ち武器が装備できるのがウリなんだが、当然操作難易度はハチャメチャに難しくなる。基本的には予備の武器を別の腕でホールドしてる的な運用がされている感じだった。今まで海の中で見た動きの限りでは。

 その十腕王もガーダーメイスを四本持ち、他の腕には非常用の水中銃や魚雷ランチャーを保持しているようだった。

 また、データー取りなのか十腕王の近くにカメラなんかを持ったヴァルナ社のダイバーが数人付き添っている。


『こちら十腕王のアルジュナだ。目標地点に到着次第、集魔剤を散布して魔物を寄せる。今回の任務はガーダーメイスの試験だ。魔物はなるべくメイスで倒すように。他の武器を使った際には報酬を減額する』


 強化アーマーに乗っているやつから通信が届く。乗っているのはアルジュナか。ヴァルナ社のエースだ。センセイも居るから、魔物を寄せても滅多な危険はないだろう。

 集魔剤は魔物寄せのエサだ。信頼と実績がまっっったくないことで冒険者では有名だった。なんでかって言うと、魔物が集まってくることは確かなんだがその規模がコントロールできねえ。Aランクのごっつい魔物がぞろぞろ寄ってくるってこともあるので、いくら魔物を捕まえてカネにするのが仕事とはいえ、相当な準備をしないと自殺行為になる。

 予め説明されていたとはいえ、周囲に散っているガーダーメイスのテスター冒険者たちが嫌そうなうめき声を通信で漏らした。


「万能に対応できる武器ってハナシだから色んな相手と戦わせたいんだろうが……そもそも万能武器にしちゃ取り回しが良くねえんだよな。でけえし」

『強化アーマーならなんとか』

「もしくは重装冒険者だな」

 

 重装冒険者は準強化アーマーみたいな連中で、ダイバースーツ表面にごっつい追加装甲や強い筋力補助、そして移動に水中スクーターの強力なやつを持っている高価な冒険者だ。

 一張羅な強化アーマーと違って自分の好きなようにパーツを組み合わせていけるのがメリットだな。

 ちなみに遠近両用の万能武器ってのは割と冒険者に需要がある。なにせ冒険者は魔物の死骸やお宝を持ち帰らないと稼ぎにならないので、なるべく荷物は少なくしたいからだ。オレもやっている基礎的な銃(遠距離)、銛(中距離)、ナイフ(近距離)の三種持ちか、銛を捨てて二種持ちがメジャーだが、これが一本に集約されれば便利ではある。

 ただそれに該当するのが振り回しづらいハンマーな可能性は低い。


 アルジュナの十腕王が取り出した集魔剤(フエラムネみたいな形状をしている)に専用の拡散器を接続した。スプレー缶みたいなのだ。

 缶から大量のエアが噴出されフエラムネを削り溶かしつつ、中央に空いた穴が独特の音波を海中に響かせて魔物を呼ぶ。あれ本当にフエラムネじゃねえだろうな。集魔剤の作成方法は機密に包まれているらしい。


『周囲に反応。アルト、早速来るぞ』

「了解。オレらは西側を担当だ。そっちに集中しようぜ」

 

 予めそれぞれ担当していた方角へ冒険者たちは分かれる。戦力を均等に配分する関係上、西側はクッソ強い強化アーマーのセンセイがいる分、他はオレだけだった。

 まず近づいてくるのは周縁部に多数生息しているゴブリンフィッシュだ。雑魚だが群れると厄介だし、動きは多少すばしっこい。

 足ヒレのヴァハーナを操作。足の指で掴むような動きをすればその場に留まるようになっている。足指体操が必要だな。

 ガーダーメイスを両手で構える。片手でも使えるという説明だったが不安になるデカさだ。ゴジラさんみたいなモリモリマッチョの変態が片手で装備できるだけじゃないのか?

 

 魔物以外のごく一般的な魚類と違って魔物が狩りやすい理由は、あまり人間から逃げないことだ。害意を持って向かい来るので、追いかけずに済む。まあ目の前で仲間が撃たれまくったらさすがに逃げるが。

 大半の魔物は更に攻撃を回避するなんて高等な思考がないのか、素直に当たってくれるのも花丸をあげたいポイントだった。


「オラ! お亡くなりになりやが──れ!?」

 

 とりあえずは基礎機能。担いだハンマーで打撃を行おうと振ると、ぐいっと攻撃方向へ引っ張られるような感じがした。ハンマーのケツの部分にポンプジェット推進装置が付いていて加速させたらしい。

 そんで当てるクチの部分には棘っていうかカドが付いていて痛そう。

 水中で加速したガーダーメイスは、接近してきたゴブリンフィッシュの頭をゴリッと砕いてもぎ取った。

 しかしまあ、手応えは殆どなかったので思いっきり振ったガーダーメイスの動きに引っ張られて軽く体勢を崩した。ゴブリンフィッシュ相手にはオーバーキルすぎた。


『鈍器としてはなかなかだな』


 センセイは両手に二本持って振り回し、ゴブリンフィッシュを次々に仕留めている。さすがにデカくて重たいスペランクラフトジャケットで振る分には振り回されずいい感じに扱えているみたいだ。


「雑魚相手に殴って使うには過剰だろ。ええと、射撃モードで『毒』と『雷』が遠距離攻撃用に出せるらしい。やってみっか」


 正式名称だと『毒蛇神器(ナーガストラ)』と『雷神器(インドラストラ)』と言うらしいんだが長いから毒と雷でいいだろ。

 柄の部分を捻ってモードを切り替え、ハンマーの頭を数メートル離れたゴブリンフィッシュに向ける。まずは毒だ。

 トリガーレバーを引くと頭の部分から高圧で水よりも重たい毒液っていうか砂状に加工された毒物が前方へ向かって一筋射出された。数メートルの距離を拡散しながら進み、ゴブリンフィッシュに当たったかと思うと霧散する。

 なのだが、そのゴブリンフィッシュが周囲にいた数匹含めていきなり暴れ出して数秒したら動かなくなった。毒でやられたらしい。


「こわ。これ撒き散らして大丈夫なやつ?」

『一応カタログには魚類特効とあったが……』

「念の為センセイは触らないようにな」

『スペランクラフトジャケットを脱がないようにしよう』


 次はコボルトシャークが十数匹の群れでやってきていた。あいつも殴り応えがなさそうな軟骨魚類だな。


『次は私が雷を使ってみよう』


 センセイが前に出て、両手のガーダーメイスを構える。内部に仕込まれているのはヴァルナ社の新型バッテリーで、そこから放電する仕組みだ。

 ここ数年でバッテリーの技術は二段階ぐらい技術革新された。小型化したり大容量を溜め込めるようになったりしている。従来のモバイルバッテリーサイズでご家庭の電気を一日ぐらい賄える。その分お高いんだがな。

 ……バッテリーがついてる部分で殴り合うのって危なくないか? ちなみに進化しようがバッテリーは爆発する。だって小型で電気容量アップってのは爆弾で言うなら従来より高破壊力の爆薬詰め込みましたって言ってるようなもんだから。


『放電開始──む、エラーが出た』

「どうしたんだ?」

『ヘルプファイルを開くと……雷神器(インドラストラ)はインドラ神への敬意を持って、武器名を叫ぶことで発動する、とある』

「音声認識ィ!? 水中だぞここ!?」


 なに考えてやがんだヴァルナ社の連中。というかあいつら宗教キチだったわ。ヒンドゥー系の。


『仕方ない。やってみよう──インドラストラ!』

「微妙に発音しにくいのもメンドクセエな」


 センセイがそう叫ぶと二つのガーダーメイスからやや間があって、それから前方の海中広範囲に向けて電撃火花が蜘蛛の巣みたいに走った。 

 冒険者用の電撃装備は幾つかの種類が作られたが、主に電気ショッカーの類だ。銛や端子を魔物に直接ぶっ刺して電撃を流し込む。放電ってのは珍しい。海水で電気が無限に拡散しまくって効率が最悪だからだが。

 だが放った電流は前方の空間に滞留して、突撃してきたコボルトシャークの群れを絡みとって感電死させた。


『ふむ……集団戦にはいいかもしれないがやはり巻き込まないように気を使うのは難しいな。ランダムで放たれる』

「どうやって雷出してんだ?」

『魔物──高圧電気クラゲの触手をワイヤー状に加工し、リールで巻いて武器に収納しているようだ。それを前方へ射出してから電撃を放つ。高圧電気クラゲの触手は電気伝導率が非常に高く、海水内であっても電撃を遠距離まで伝えることが可能だ』

「微妙に迂遠だな……ワイヤー付きのハープーンガンぶち込んで電気流した方が早くないか?」

『ソロで敵集団相手に暴れる分には有効かもしれない。ああいう風に』


 何百メートルか離れている先で、両手に八本のガーダーメイスを持って暴れている十腕王をセンセイは指した。

 海水が透明だからよく見えるんだが、十腕王に小型から大型魔物がバーゲンセールみたいに群がっていた。集魔剤をダイレクトで持っていたからより多く集まったのかもしれない。

それに対して両手を器用に振り回して片っ端から殴り殺し、毒や電撃を撒き散らして駆除していっている。なんとかサバイバーみてえ。

 ちゃんと有効に打撃から電撃まで使いこなし、大型を直接ぶん殴って電撃をダイレクトに流し込み即死させたり、高速移動する小型の進路上に毒をばら撒いて始末したりしている。放電をやたら攻撃範囲の広いムチみたいに振り回すと敵を近づけさせない。

 そんでやや離れた場所から記録しているヴァルナ社の記録班たちに向かおうとする魔物も余裕で処理。エースの業前だな。


「思うにヴァルナ社が時々出すトンチキ武器って、アルジュナのやつが何でも使いこなしちまうテスト結果が元になって作られたんじゃねえかな」

 

 これまで発売されたけどほぼ売れずに消えた水中装備として、大型チャクラムドローン(でっかくて不評)や自動反撃機能のついた帯剣(ウルミ)(周囲の動く物体を何でも切り刻む殺人兵器)、弓型多機能銃(でっけえんだよ、だから!)などなど。

 

『あそこまで活用できれば作った者も感激だろう。私たちも適度に倒そう。アルト、あの近づいてくる鮫はなんの魔物だ?』

「ありゃ珍しいな。ニシニオンネンザメだ! 恐らく同時にヒガシニオンネンザメも出てきてるぜ、東側を担当してる連中のところに」

『同じ種類なのか……?』

「いや必ず西から出てくるやつと東から出てくるやつで違う種類らしいんだが……他にもミナミニオンネンザメとキタニオンネンザメが出てきて、最終的にAランクの巨大魔物チュウオウニオンネンザメが召喚される前触れだから気をつけようぜ」

『オンネンザメがゲシュタルト崩壊しそうだ』


 そんなことを言いながら、オレとセンセイも魔物をぶっ倒していった。食えそうなのは電撃で回収しながら。



 *******



 仕事が終わり、テスト参加者(少なくとも、五体満足で元気なやつには)はタブレットを渡されて評価項目を書き込み、提出することで報酬が貰える。冒険者の中には文字の読み書きが怪しいやつもいるが、そういうのはテスターに採用されない。

 東西南北中央であれこれ様々な魔物と戦い、ガーダーメイスの実戦評価もぼちぼち固まったようだ。

 ちなみにオレはこう。Aが超スゴイでEがカス。


 ******


・対魔物威力:A

・継戦能力:C

・扱いやすさ:D

・フレンドリーファイア:E

・装備の重さ:E

・この武器が販売されたなら貴方は使いますか?:E

・その他備考:足ヒレのヴァハーナはめっちゃ使いやすかった。



 ******


 後日。ヴァルナ社から便利な足ヒレ『ヴァハーナ』が発売され、冒険者のみならず世界中のダイバーから注文があったヒット商品になった。

 ガーダーメイスは一旦販売計画を延期し、改善を続けるのだとか。


 まあ、往々にして水中で魔物なんて変な敵と戦うための武器開発ってのは試行錯誤の繰り返しってことなんだな。

 とはいえ、試作品も結構な数を作っちまったわけで、転売不可を示すタグ付きだが格安で試供品を買わないかというメールも届いた。

 オレは買わなかったがセンセイは買ったらしい。その使い道だが……


 べちんべちん。


 エリザが両手でガーダーメイスを持ちながら、厨房で肉を殴っている。ステーキを作る際に肉叩きやビール瓶で肉を殴るように。

 センセイが購入した新兵器は寿司屋の調理器具として提供されたらしい。


「……専用の肉叩きでよくねえか?」

「アルトくん! これはね! ふう、ふう、叩きながら電流も流せるスグレモノなんだよ! お肉は電流を流すと熟成によって発生するイノシン酸が増えて美味しくなるんだからね! ふう、ふう」


 確かに殴って押し付ける度にバチバチと青白い火花が飛び散っている。高圧電気クラゲの触手を出さなくても、打撃時にも放電可能だった。


「めっちゃ疲れとる」

「それにこのクジラ型魔物『ウケナガスクジラ』のお肉は凄い弾力と潤滑性があって、生半可な肉叩きだと滑って大変なんだよ!」


 そんで、でっかいハンマーでガツンガツンとやっているわけか。いや理屈合ってんのか?


「間違っても毒は出すなよ」

「毒はウリンちゃんが欲しがって全部抜いてるから大丈夫!」

 

 そして叩いて柔らかくなったクジラ肉の寿司を食ったんだが、この肉は本来ヌルついて微妙に嫌な予感を感じさせる(傷んでヌルってるんじゃないかという)味わいだったのが、電気によってかいい感じにヌル成分が分解されて濃厚爽やかな肉寿司になっていた。

 ヴァルナ社のアホ開発部たちもたまには役に立つ調理器具を作るもんだ。

 

 電撃肉叩きの下処理映像をウリンが撮影し、魔寿司公式のアカウントで動画公開したところ、あちこちの肉屋からガーダーメイスの注文があったとか。

 肉寿司を食いにヴァルナ社の連中が来て釈然としない顔をして食っていったという。

 ちなみにヴァルナ社と一緒に来ていたアルジュナは、


「この寿司屋──カレーは無いのか」

「はい! シャリカレーです!」

「そんな注文も用意してんのかよ……」


 マイペースなアルジュナだけは肉寿司ではなくカレー寿司を食っていたが。やつはベジタリアンらしくベジタブルカレーだった。魔寿司はどんな厄介客にも用意できているお店だそうだ。




アルジュナさん(実はインド系イギリス人)

英国の海洋研究企業マクリル・マナナン社から派遣されてきた企業スパイ

派遣元はいつもアホ兵器の報告ばかり届いて頭を抱えている

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― 新着の感想 ―
オケアノスがオケアノス神信仰の熱烈な信奉者でヴァルナ社も宗教キチって事は同じように海神の名前な媽祖集団とマクリル・マナナン社もそっち系だと思うんですがエリザのバックにいる海幸山幸ももしかして怪しい組織…
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