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兎狩り


今回はちょっと余裕を持って投稿!


気づいたのですが、この話って、ファンタジーではないですよね(^_^;)


というわけで 、5月17日付でファンタジーから恋愛に変更します!


 2年ほど前まで、アルシュタイン王国の王子は5人だった。


 第一王子ルーファス――華やかな外見を持ち、社交的で革新的な王子


 第二王子エドワード――頭の出来は上々だが病弱で、内向的性格の王子


 第三王子エリオット――名家、ウィーンスロッド家の血を受け継ぐ血統書付きの、傲慢王子


 第五王子リュオン――第四王妃ユーリの唯一の子であり、目立つことは一切せず、ただひたすら耐える、忍耐の王子




 そして、もう一人、英雄と云われた王子がいた。



 名はレオナルド。


 ウィーンスロッド家と肩を並べる名家の血を継ぎ、10年続いたユグドラシル戦争を勝利に導いた、奇跡の人。


 国民は心から彼を愛し、王家の紋章である黒薔薇を、王子の二つ名とした。



 けれど、彼の王子はもういない。





 否





 王子など、最初からいなかった。


 いたのは、女の躯を鎧で隠し、血の滲むような努力で男を演じていた、一人の王女だった。





 王を欺き、国を騙した少女。



 しかし、国民は今も敬意をもって彼の王女をこう呼ぶ。





――黒薔薇、と。















 「――レオナルドは死んだのよ、ルーファス。そして、わたくしは紛れもなく女だわ」


 置物のような衛兵と、3人以外の人間がいない静かな廊下に、まるで神の啓示であるかのような厳かな口調のマリアンヌの言葉が響いた。


 「知ってるよ、そんなことは……でも、本当にレオナルドがいたら、王位を継いでいたのは確実にレオナルドだった。エリオットだって、口では『負けてない』なんて言ってたが、本心じゃ負けを認めてたんだ。それなのに、突然レオナルドがいなくなって――チャンスが転がりこんできた……そりゃ、誰だって王を夢みるだろ?王子として生まれたんだ。きっと、病弱なエドだって考えたさ。『ひょっとしたら……』って。……だから、王位継承争いが起きたのは、お前のせいだ、マリアンヌ。……レオナルドがなくなったから俺だって……王になろうなんて馬鹿な夢、みちまったんだ……」


 ルーファスの苦い告白を、しかしマリアンヌは冷めた顔で聞いていた。



 「――甘ったれるのもいい加減になさい、ルーファス。砂糖細工を蜂蜜とチョコレートでコーティングしたみたいに甘過ぎて、吐き気がするわ」



 ルーファスは顔を上げ、静かな怒りを宿したマリアンヌの瞳を見つめる。


 「レオナルドがいなくなったから、王位継承争いが起きた?何土地狂ったことを言っているの、ルーファス?レオナルドは最初から存在しない、幻の王子。振り出しに戻ったに過ぎないわ。それと、レオナルドがいなくなったから、王になる夢をみた?嘘よ。貴方の中に『王になる』という願望がなければ、そんな夢、うまれるはずがないもの。貴方の中には最初からその夢があった。けれど、レオナルドという抜きん出た者が現れたために、始める前に諦めてしまったのでしょう?どうせ勝てないと、やっても無駄だと、無様に敗北するくらいなら、最初から舞台に立つまい、と」


 「…………」


 「何て器の小さい男かしら?まだ、喚き散らしながらも正面から挑んできたエリオットのほうが、見込みがあるわ。そうは思わない、ルーファス?」


 ルーファスは端正な顔を苦い物でも飲み込むかのように歪ませる。



 「……嫌な奴」



 「わたくしが嫌な奴なら、貴方は卑怯な奴だわ。何もかもわたくしのせいにして、自分の弱さや醜さから目を反らしている――そんな貴方が、一国の王になる?笑いが止まらなくてよ、ルーファス。貴方がみているのは“夢”ではなく、ただの“妄想”だわ」


 マリアンヌの言葉は、まるでナイフだ。突き出せば深く刺さり、振り下ろせば鮮血を噴き出させ、捻れば肉を抉る。


 ルーファスの自尊心や虚栄心はズタズタに引き裂かれ




 ――あははははははははははっ!!




 もはや笑うことしかできない。


 乾いた笑い声が廊下に響くのを、マリアンヌは黙って聞いていた。


 「……あーあ、だからお前と話すの嫌なんだよ。遠慮なんか欠片もなくて、人が必至に隠してる見栄とか野望とか、そんなものを暴き出して、非難する……お前と対峙すると、自分が裸の赤ん坊になったみたいだ……」


 ひとしきり笑い終え、ルーファスは諦めたように脱力する。

 その顔には、先程までの苦虫を噛み潰したような表情はない。


 「わたくし、貴方より人生経験が豊富だもの」


 マリアンヌは自身より10も歳上のルーファスに、そんなことを言ってのけるから


 「あーあーそーですよ、お前のほうが経験豊富だし、精神年齢も上ですよ」


 やけっぱちに、ルーファスは本心を告白する。


 「だから諦めたんですよ。試合放棄したんですよ。負けるとわかってる勝負をしちゃうほど、俺、熱血漢じゃないし、周りだってそんなの俺に求めてないし。スマートに格好良くってのが俺の信条だからさ」


 ニヤリと、ルーファスはニヒルな笑みを浮かべる。


 「……その信条を捨てれば、もうちょっとマシになると思うけれど」


 「おいおい、この信条を捨てたら、俺じゃなくなっちまうだろ。そんなのはごめんさ」


 くるりと踵を返し、ルーファスは背を向ける。


 「あーあ、なんかスッキリしちゃったな……ま、いいか……おい、マリアンヌ、よく見とけよ。お前の捨てた王座に、俺か座るのを。そして――」


 ルーファスは首だけで振り返り、今までで一番真剣な顔をして言う。




 「でっかい後宮を作るのを、な」







 遠ざかっていく広い背を見ながらマリアンヌは心底残念そうに呟く。



 「あれは死んでも治らないわね」







読んでいただきありがとうございました。


この回は書いてて緊張しました…


まったく名前出てこないけど、ローズマリーはちゃんとこの場にいます!




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