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誕生パーティ3



大変お待たせいたしました!



では、どうぞ!!






 マリアンヌはシープが出て行ってからしばらく待って、会場に戻った。最初と違い、今度は皆の注目を集めることのなかったマリアンヌはそのまま気配を消しつつ壁際を進む。まだ挨拶は半分ほどしか終わっておらず、国内の貴族の大半は並んでいる状態だ。


 マリアンヌの信者は国内の者なので、今は比較的穏やかに過ごせそうだとマリアンヌは少し安堵する。が、次の瞬間、背筋に悪寒が走る。


 (くっ、メイシャね……)


 見ていないが、メイシャが自分に向かって来ていることを察したマリアンヌは、すぐに移動を開始した。歩く速度ならマリアンヌのほうが上だ。人を縫うようにして進む。


 「お姉さま~」という声が後ろから上がっているが、幻聴だと自身に言い聞かせる。私は知らない。


 周りの人も、どこか鬼気迫る様子のマリアンヌに声をかけることが出来ず、また周りに声をかけられても無視をしているのであろうメイシャの鬼ごっこは中々終わらず、会場をニ周したところでマリアンヌは不審に思った。


 (おかしいわね。運動音痴のメイシャがわたくしにこれほど追いすがれるはずがないのだけれど……)


 仕方なく、曲がった時に後ろを振り返ってみれば……


 「あちらにいました!」とマリアンヌを差しながら、自分の手柄を主張している若い男が居た。しかも、一人じゃない。ぱっと見ただけでも5人はいた。つまり、こういうことか……マリアンヌを追うことは一人では無理だといい加減悟った為、会場中に協力者をばらまいておいた、と。恐らく使われているのはメイシャに近づきたい男子諸君だろう。


 どんなお姫様だと呆れてしまい、思わずその人物を探して……マリアンヌは深く後悔した。


 マリアンヌの視線の先には――貴族の子息に背負われ、進む方向を指し示す妹の姿が……


 (……あれでは、お姫様というより女王様ね……いえ、そんな問題ではないわ)


 自分が王族であるという意識があの馬鹿にはあるのだろうか、いいや、あのお花畑な頭ではきっと理解していないに違いない、とマリアンヌは頭痛に襲われる。国の面子丸つぶれだ。すぐに止めさせなければならないが、そんなことをマリアンヌがすればメイシャの思う壺だ。きっとこれに味をしめて次からも行なうに違いない。


 しかし、メイシャをがっつり止められるであろう王も王妃達もまだ挨拶の最中だ。いや、フリージアから絶対零度の睨みが向けられているが、興奮しているのか気付いていない。馬鹿とは何と恐ろしい生き物なのだろう、とマリアンヌは絶望する。


 こうなれば実の兄弟に任せるのが一番だと、マリアンヌはルーファスを探す。しかし、あの歩く性欲は必要な時にいつもいない。これでどこかの部屋に女を連れ込んでいたとかだったら去勢してやる、とマリアンヌは決心する。


 第三王女のアメリアも、どこぞの貴族との話に花を咲かせている。まぁ、あの女もそろそろ嫁ぎ先を決めなければならない時期だ。というか、このままだと婚期を逃すため必死だろう。


 (と、なると……)


 マリアンヌは目当ての人物を見つけるともの凄い勢いでそちらに向かう。誰かと話していたが、そんなことには構っていられない。お前の妹なんだから少しは面倒を見ろ、とマリアンヌはやけくそ気味にその輪の中に入っていった。


 「ごきげんよう」


 花の咲くような柔らかな声で話しかければ、その輪に居た全員がマリアンヌに視線を向けた。


 「こ、これは、マリアンヌ様!」

 「貴女様からお声をかけていただけるとは……」

 「今日のドレス、とてもお似合いです。まさに黒薔薇の名に相応しい」


 と外野から声をかけられ、マリアンヌは微笑みを一つ。それだけで、外野の男どもは恍惚とした顔を晒し、みっともなくマリアンヌに見惚れた。その隙に、マリアンヌは用事を済ませることにする。


 「エドワードお兄様、ちょっと……」


 マリアンヌの視線の先には、いつものように地味目な顔を青白くさせた第二王子のエドワードがいた。エドワードは驚いた顔をすると、マリアンヌに言われたままに耳を寄せる。その耳に、マリアンヌは底冷えするような低い声で命令した。


 「今、すぐ、貴方の憐憫の情さえ抱いてしまうほど愚かな妹をお止なさい」


 「えっ……?」


 どうやらこの兄は周りの状況が見えていないようだ。


 マリアンヌは視線でメイシャを示す。それに気付いたエドワードは、ただでさえ青い顔を更に青くし、慌ててメイシャの元に駆けていった。


 体だけでなく精神も弱いエドワードに暴走特急と化したメイシャを止められるかはわからないが、とりあえずこれでマリアンヌは逃げることができるだろう。


 やっと解放され、マリアンヌは再び壁の花を決め込もうと動き出し――


 「貴女にも、苦手なものはあるのですね、マリアンヌ様」


 その声に、足を止めた。


 声の方へ振り返り相手の姿を視覚に捉えて、マリアンヌは親しみの籠った笑みを浮かべる。


 「……お久しぶりね、将軍」


 マリアンヌの視線の先には、陽に焼けた肌に黒い髪の壮年の男性がいた。鷹を思わせる鋭い眼光の瞳は鳶色で、顔立ちは潜り抜けてきた修羅場の数を物語るように厳つい。しかし、マリアンヌの言葉に苦笑を浮かべると、その顔がずいぶんと幼くなった。


 「もう将軍ではありませんよ。貴女が王子から王女に変わったように、私も将軍から総帥に変わりましたから」


 「そうね。……でも、なぜかしら。貴方を総帥にしたのはわたくしなのに、貴方はわたくしにとっては将軍のまま、変わらないわ」


 聞く人によっては侮辱と取られかねない言葉を聞いて、しかし男は嬉しそうな顔をした。


 「そう言われて、喜んでしまう私はまだまだ未熟者ですね」


 「将軍のまま、戦場を駆けていたかった?」


 「そうですね……剣を振るえば、多くの血が流れ多くの命が散っていきます。それは決して良い事ではありませんが、敵がはっきり分かっていた分、何をしなければならないか分かり易かった。私はずっと軍で生きてきた人間ですから、今の様な戦場は、正直未だに慣れません」


 マリアンヌは男の正直な言葉に苦笑する。そして、まじまじと男の顔を見た。




 マリアンヌが男と出会ったのは、戦場だった。

かつて、まだマリアンヌがレオナルドとして生きていた時、レオナルドが黒薔薇の二つ名を貰うきっかけになったユグドラシル戦争で、男は敵国リヴィシアの大将軍だった。幾度も戦場で相見え、お互いに戦略をぶつけ合い、時には剣すらも交えた。命のやり取りをしてきた相手。知にも武にも長けたレオナルドに、何度も危機を味合わせた相手――名を、ダイハン・エルキオ・レーウッドという。


 戦自体は、ダイハンをレオナルドが捉えたことで一気に終息へと向かった。そして何度もアルシュタイン王国に辛酸を嘗めさせた将軍を打ち首に、という声が上がったが、レオナルドがその意見に反対しダイハンを総帥の地位に就け、リヴィシアの王を飾りの王とした。リヴィシアの王が愚王であったことと、ダイハンが殺すには惜しい男だったからだ。


 結果、リヴィシアは安定しアルシュタイン王国に益を齎すようになり、ダイハンは歳や性別を越え、レオナルドの、そしてマリアンヌの良き友となった。




 恐らく、唯一友と呼ぶことができる男に、マリアンヌは肩を竦めてみせる。


 「お互い、苦労しているわね。わたくしも、王女となったばかりに、色々と面倒な事が増えたわ」


 「妹姫ですか……何というか、個性的な方ですね」


 「将軍、変な気遣いは無用よ。はっきりと『頭の残念な妹』と仰ってくれた方が、こちらも諦めがつくというもの」


 「……しかし、どんな非情な攻撃にも逃げることのなかった貴女が、あのような非力な存在から逃げるようになるとは、人生何が起きるか分かりませんね」


 立場的に賛同する訳にもいかないダイハンは、そう話の流れを変えた。他の者が同じ事を言ったのなら、マリアンヌはきっと嫌みと受け取っていただろうが、ダイハンの言葉に腹を立てることはなかった。この男の言葉は、いつだって真っ直ぐなのだ。


 それに、実際マリアンヌ自身がこんな未来を予想だにしていなかった。


 「……そうね」


 可愛いだけが取り柄の妹に追いかけ回されるなんて。


 王位継承権から遠ざかるなんて。


 あの女の呪縛から逃れるなんて。


 ドレスを着てパーティに出るなんて。




 愛する人が、出来るなんて。




 レオナルドであった頃の自分には、想像も出来なかった、今。


 「……けれど、わたくしは、今のわたくしの方が好きだわ」


 マリアンヌにしては珍しい、小さな呟きに、ダイハンは父のような優しい目を向ける。


 「……私も、今の貴女の方が好きですよ」


 じんわりと、心に浸みるような言葉だった。


ローズマリーが居たならばきっと歓声をあげながら彼に抱き付いただろう、と想像して、マリアンヌは可笑しそうに笑った。


 「素敵な口説き文句ですこと。けれどそんな事を言うと、奥さまが焼きもちを妬かれるのではなくて?」


 「私の妻は、この程度で焼きもちを妬く程狭量ではありません」


 自信満々な返答に、マリアンヌは「お熱い事」とわざとらしく扇子で煽いでみせた。





 国王への挨拶が終わり、会場を和やかな雰囲気が包む。食事や飲み物が出され、それを片手に人々は思い思い会話を楽しんでいた。


 そんな中、庭に面した壁一面の窓が開け放たれ、冷気と共に一人の美青年が現れた。途端、会場から黄色い歓声が上がる。青年は女性を虜にして止まない頬笑みを浮かべると、一度礼をしてから声を張り上げた。


 「今宵は、我が父の為に御集り頂き、誠にありがとうございます。感謝を込めまして、嫡子を代表し、ささやかながらも催し物を御用いたしました。是非、ご参加下さい」


 ルーファスは芝居がかった動作で、開け放った窓の外を示す。白い雪に覆われた庭に、松明が灯されて――白い大理石で出来た巨大な何かが、現れた。







読んでいただき、ありがとうございました!


すいません、違う話書いてたら遅くなってしまって・・・

そっちはとりあえず完結したんで、こっちに本腰入れたいと思います!


そして次回こそ、ルーファスのとっておきの全貌が・・・!



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