プロローグ
初めまして、夏臣です。
超ド素人のため、前書きと後書きがなんなのか理解してませんで……
これからはこのスペースもきちんと書いていこうと思います。
稚拙な文章ですが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
「なぜ」
鼻歌を歌いながら少女の髪を結っていた女は手を止め、鏡ごしに少女を見て首を傾げる。
「なぜ、協力してくださるのですか?」
堅い少女問いかけに対し、女の答えは羽のように軽い。
「だって、面白そうでしょ?」
不快感を隠そうともせず、少女は眉根を寄せる。しかし女はそんな反応を気にする様子もなく、ただただ楽しそうに続けた。
「私、てっきり貴女が殺しにくると思っていたの。だって普通に考えば、そうでしょ?貴女の最大の秘密を知ってしまったのだから。邪魔者は消すのがこの世界の鉄則。だからね、とっても驚いたわ。まさかこんなお願いされるなんて――いつたい誰に想像できたかしら」
クスクスと女は笑う。
「……殺されたかったのですか?」
少女が部屋に来たとき、女は独りだった。護衛どころか、侍女すらいなかった。殺されるかもしれないと思っていたのに、女の他には誰もいなかった。剣を握ったこともない、とても綺麗な手を見ながら、少女は問う。
女はその問いに「えぇ」と応じた。
「貴女なら躊躇うことなく、一撃で仕留めてくれると思ったの。私ね、痛いの嫌いなの」
でもね、と女は続ける。
「もう少し生きてみるのも、悪くないと思ってしまったから。貴女の選択の結果を見ずに死ぬなんて、つまらないでしょ?」
髪を結い終えた女は、今度は少女の前に回りこみ、顔を覗きこむ。
「むむむ。太陽の下で剣を振るっているとは思えないくらい白いわね。シミ一つないなんて、妬けちゃうわ。貴女、ちゃんと稽古してるの?」
「身をもって鍛練の成果を確認されたいと仰られるのなら、別に止めはしませんが」
「結構よ。貴女の剣の腕前は、城中に知れ渡っているもの。それに、今私が死ぬのは困るでしょ、お互いに」
女は少女の顎を持ち上げ、注意深く観察する。
「これだけ綺麗な肌なら、白粉は必要ないわね。頬紅と口紅だけで十分よ」
そう独りごち化粧を始めた女が、今度は少女に問う。
「ねぇ、どうしてこんなことを、つまり、今までの生き方を否定するようなことをしようと思ったの?」
少女は女を見る。女の真意を探るように。
女は視線を反らさず、ただ少女を受け入れるように、微笑む。
しばしの沈黙の後に
「……あるべき姿に、戻りたいと、戻る必要があると、そう思ったから」
少女は答えた。
「……何の、ために?」
少女は口紅に彩られた唇を持ち上げる。その途端、少女の瞳に宿った強い熱に、女は飲み込まれた。
「欲しいものが、あるの」
熱に浮かされたような、艶っぽいその告白に、女は確信する。
(この子は、女だ)
目の前の少女はまだ14歳である。しかし、彼女はもう全てを投げ出してしまうくらいの感情を覚えてしまったのだ。そして、その感情を成就させる覚悟を決めてしまったのだ。
(まだ14歳なのに……)
その、あまりの純粋さに、愚直さに、女は愛しさを感じた。
「そう――それは、是非手にいれてもらいたいわ」
皮肉ではなく、女は心からそう思った。
「さて」と、女は気分を変えるように勢いよく立ち上がると、いたずらっぽい笑みを浮かべる。
「まず最初に、貴女の名前から決めないと。何か案があって?」
女に倣うように少女も立ち上がると、声高らかに自身の名を宣言する。
「マリアンヌ」
女は怪訝そうな顔をして首を傾げる。
「それは、貴女の憎んでいる女の名前ではないかしら?」
次の瞬間、少女の顔に浮かんだ絶対零度の微笑みに、女は戦慄する。
「“マリアンヌ”この名を、わたくしだけの物にしてみせますわ。“マリアンヌ”と聞けば、誰もが私を思い浮かべるように。あの女の存在など、最初からなかったように」
それは、深い憎しみの果てに少女が導き出した復讐の方法だった。躯を生かし、心を殺す。プライドの高いあの女に、一番効果的な方法。その方法を迷うことなく選ぶ少女の冷酷さを目の当たりにし、女は思う。
(私は、とんでもない化け物を生み出そうとしているのかもしれないわね)
(けれど、それでも、いいわ。それで、いいわ)
この少女の願いを叶えるために、自分は王室に入ったのだと、女にはそう思えてならなかった。こうなる運命だったと、これが自分の使命だと、そう思った。
女は夜会で魅せるように、優雅に微笑む。
「ようこそ、マリアンヌ・アルシュタイン。貴女の誕生を祝福するわ」
少女は女を見据える。夜のような瞳に、決意の炎を灯して。
読んでいただき、ありがとうございました。




