14:廉は主役かヒロインか?
寝不足もあってか早めに眠っていた廉。目覚めたのは、まだ明け方の5時。しかし彼には二度寝の週間は無い。いそいそとベッドから起き上がり、辺りを確認・・・はて?
「俺、どうやって自分の部屋まで来たんだ?」
廉の記憶は、疲れと寝不足によって軽く眠ろうとソファで横になった所で途切れている。だが、目覚めればいつも通り、自分の部屋のベッドの上・・・。
第一、廉の部屋は2階だから、絶対に自分で起きて上まで行くならば、朧げながら記憶は残る。
だとすると、考えられるのは誰かが眠っている廉を、起こさずに部屋まで運んだ・・・という事だ。
一体誰が?
「・・・ま、いっか」
そこを深く追及しないのが、月島廉である。
ベッドから起き上がった彼は、いそいそと勉強机で“何か”の作業を始めた。
ピピッ!ピピッ!ピピッ
携帯のアラームが、彼女に朝の到来を告げる。数回の電子音がなり響き、タオルケットの中から手だけがゴソゴソと、音の出所を探し始める。
「んむぅ・・・」
手探りしても、無機質な音は鳴り止まない。ようやく彼女は顔を出し、視界に標的を捉えた。
ピピッ!ピ・・・
「むぅ〜・・・」
小さく呻く彼女だが、次第に意識を覚醒。スロースピードではあるが、ベッドから起き上がった。
立ち上がり大きくのび、腰を軽くひねると、パキポキと音が鳴る。パジャマは着ないようで、下着から露出した手足はスラリと細く、カーテンから覗く太陽の光が、彼女の絹肌を艶めかしく照らす。
「・・・っ痛!」
直後、彼女を襲った頭の痛み。だが、自業自得。なぜなら・・・
「うぅ・・・飲み過ぎたか?」
昨夜は自宅パーティーと称して、大量の料理とアルコールを消費している。特にアルコール類に関しては、缶ビールを10、スーパーで買った一升の麦焼酎の3分の2をひとりで飲んでいた。二日酔いにならないほうがおかしい。
「・・・着替えるか」
とりあえず、衣装箪笥から着る物を探し始めた。
居候生活も四日を過ぎれば慣れたもので、テーブルに人数分の朝食を並べている廉。時間的に、そろそろ瑞穂を起こしにいかなければならない。前掛け型のエプロンを外し、階段を昇ろうと一歩足を出した所で、
「少年・・・おはよぉ〜・・・うっぷ」
額に手をあてながら、弱々しく挨拶をした瑞穂が階段を降りてきた。
「頭痛ですか?」
「・・・二日酔い」
“二日酔い!?”廉は耳を疑った。あれだけの大食漢で、鉄の胃袋というイメージのあった瑞穂が、酒に負けた。どこと無く、瑞穂も自分と同じ人間だなぁと感じる廉。
「二日酔いの薬なら、えーっと・・・あ、あった」
「少年・・・なぜ少年が二日酔いの薬を持ってるんだ?」
「姉のですって!」
と、テレビ横の薬箱から顆粒状の薬と栄養ドリンクを取り出した廉は、ソファでぐったりとしてた瑞穂に差し出した。
「この朝食は無理でしょうから、別に何か作りましょうか?」
「・・・食べる」
「は?でも二日酔いなら、胃に優しいものの方が・・・」
「痛いのは頭、胃は大丈夫だ・・・第一、少年の作ってくれた料理なら、私が食べない訳が無いだろ?」
受け取った栄養ドリンクを飲み、問題無いと言わんばかりにテーブルの席に腰を下ろした瑞穂。
「ちなみにだが、後の三人を起こした方が良いと私は思・・・」
「おはよ!・・・ん〜いい匂い」
「おはよう廉くん。あら、朝から私達の分の朝食を用意してくれたの?お姉さんうれしいわ」
「はよ!廉、コーヒー入れといて!」
と、客間から夏希・真菜・瑠華の三人がリビングにやって来た。
「おはようございます。あれ、どうかしました?」
夏希と真菜は、いつもの雰囲気の廉に、少し戸惑っている。
「廉くん、昨日の事って覚えてる?」
「昨日?昨日は皆さんとパーティーをやった後、ソファに寝転んだ所までは覚えてますけど、後はさっぱり・・・俺、なんかしました?」
「ううん、ならいいのよ!気にしないで」
「?はぁ・・・」
何となく釈然としない廉だが、追及する事もせず、朝食を摂り始めた。
さて、今日は姉の店が休みという事もあってか、片付けを頼んだ廉は、いつもより早めに学校へと向かった。始業30分前という事もあってか、教室には、数人程度しか生徒はいない。
「はよ!今日は少し早いわね」
「おはよう佐原。起きたのが早かったからな」
早速席に着いた廉に挨拶をする咲。廉も挨拶を返しながら、他愛のない会話。
「そういやさ、今日は何の劇をするか決めるんだよね?」
「げ!思い出させるなよ・・・」
「何で?楽しみじゃない?あ、月島はなんであれヒロインだったっけ」
きっと、咲に悪気はないのだろうが、テンションの下がった廉は、机に突っ伏した状態のまま、午前中を過ごす事になる。
「で、なぜ俺は姫役なんだよ・・・」
「おいおい、佐原は浪人役だぞ。お前と大して変わらないと思うが・・・」
会議時間10分で、演目は決まった。タイトル未定ではあるものの、廉は姫役に。とはいえ、なぜ時代背景が江戸なのか、そして相変わらず納得のいかない廉は、級長の高上を一瞥しながら、東金と楽しそうに喋る咲に視線を向けた。
「毎回城を抜け出すじゃじゃ馬姫と、同じように城を抜け出しては、城下を散策する浪人姿の若殿様。そして悪者に絡まれていた姫を、偶然殿様が助けた事によって、二人の間には恋が生まれる・・・しかし、互いの素性を知らず、身分の差に苦悩する二人の結末は?・・・と、こんな感じの脚本だった」
「長々と説明ご苦労さん、しかしまぁ時代劇に有りがちなベタパターンだな」
「ベタの方が、何事にもはっきりしてわかりやすいだろう?」
“水戸○門”みたいに。と説明する高上。既に脚本が出来上がっている事には突っ込まず、姫役をやらされる事には納得していないが、諦めてはいる廉だった。




