12:三人の絆
前日同様、早めに店を閉めた瑞穂。こんなんで商売がやっていけるのか?と思う廉ではあるが、素人が口を挟む事ではないと、閉口した。
「さーてさて、今日は嬉しい給料日〜!の、前に」
浮かれ気分の瑞穂は鼻歌混じりに廉を見る。
「少年に報告しておきたい事がある」
「なんですか?」
「うむ、少年の作ったネックレスだが、予想以上に評判が良くてな。常連客に譲って欲しいとお願いされてるんだ。まあ売り物ではないと断ったんだが」
それは、廉の作るネックレスが世間に認められた事を証明する言葉。嬉しさよりも、驚きのほうが勝った廉は、あんぐりと口を開けたまま硬直・・・。
「おい、聞いてるのか?少年?」
「・・・あ、す、すみません!ちょっとびっくりして・・・」
「結構売って欲しいってお客さん、多かったのよ〜!!」
「この話、ホントよ。瑞穂じゃ信憑性に欠けるから、私らが証明するけど」
「なぁ、私ってそんなに信頼無いか?」
「「無い」わ」
「少年〜!二人がイジメる〜!!」
二人の見事なハモりに、瑞穂はいじけて廉に泣きつく。
「まぁまぁ・・・でも、嬉しいです!」
「私もさ、実は欲しい作品があるのよ〜!できれば譲って欲しいな〜・・・なんて」
「夏希、さすがに図々しいと思「いいですよ」いいの!?」
なんともあっさり快諾した廉に、真菜も思わず声を上擦らせた。
「えっ、だってやっぱり欲しい人が身につけるのが当たり前だし・・・」
「ホント!?やった!さっすが廉くん太っ腹!!」
「じゃあ私も・・・実は気になってるのがあるのよ・・・」
ショーケースに飾られた廉作のアクセサリーを嬉々として物色する夏希と真菜。その光景を、嬉しそうに見る廉と、唖然と見つめる瑞穂。
「いいのか?」
「はい!ただ飾られてるより、やっぱり身につけてもらった方が嬉しいかなぁと思って。だから、欲しいって言われたら、譲ってあげて下さい!」
昨日から、考えていた事。もし、もしも、自分の作ったアクセサリーを気にいってくれる人がいるならば、感謝を込めて譲りたい。“ありがとう”と、気持ちを込めて。“自惚れ”“自信過剰”だと、廉は自分に苦笑。けど、三人の話を聞いて、思いをはっきりとさせる事が出来た。
「瑞穂さん、ありがとう!」
「?イマイチ理解出来ないが、まぁ、どういたしまして」
今日は嬉しい給料日♪美味しいお料理食べましょう!美味しいお酒も飲みましょう!!
テンションが一層高くなった瑞穂。ケースからお気に入りを物色した真菜は、事務所の金庫から封筒を三枚取り出した。
「これは瑞穂のお給料、こっちは夏希、これは私の分」
「「ありがとうございます!!」」
ニコニコ笑顔で封筒を受け取る瑞穂と夏希。だが、何となく構図がおかしい。
「あれ?瑞穂さんがこの店のオーナーですよね?でも・・・」
「ああ、真菜はこの店の経理が主な担当だ。ちなみに夏希は接客担当。まあそれぞれ適材適所の役割を果たしてるし、私と夏希は経理が苦手。夏希と真菜は、デザインから物を作り出すのが苦手。私と真菜は、接客が苦手・・・って具合」
「成る程!」
「それからもう一つ。少年は勘違いしてるかもしれないから言っておくが、この店は三人が出資して出来たんだ。その中で出資額が1番多かったのが私。だから、オーナーなんて肩書だけさ。考えてもみろ、この歳で自分の店を持ってるなんて、よほどの大金持ちぐらいなものだろ?」
瑞穂の説明は簡単でありながら、廉を納得させるには充分だった。
「誰がオーナーだろうが関係ないさ。この店は三人で一つの店なんだから」
「そうそう!それに私はオーナーってガラじゃないし!」
「オーナーって役を押し付けたのは私達だし、逆に瑞穂のおかげでのびのびと仕事出来てる。私と夏希も、瑞穂には感謝してるのよ・・・」
けして“ありがとう”と口には出さない真菜だが、その声色でわかる。互いを信頼しているからこそ、この店は成り立っている。
目には見えなくても、そこにはちゃんと“絆”がある。廉は三人を、微笑ましく眺めていた。




