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世界を救う勇者なんですが役立たずを追放したら破滅するから全力で回避します。  作者: 大鳳
第二部 超越者打倒編

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ドワーフの鍛冶屋

「ヴィルさん? そちらの剣、見て貰ってはどうですか?」

 ヴィルの後ろからアリーナが提案してきた。考えてみたら魔王戦の後から一度も手入れなどした覚えが無い。

 魔王からの剣撃をあれだけ受けたのだからそれなりにダメージを負っていても不思議は無い。

「そ、そうだな。ペンダントの修理が終わったら聞いてみるよ」

 アリーナの提案に答えるヴィルの言葉はどこか歯切れが悪い。そんなヴィル達が待ち時間を手持ち無沙汰に店内を見て回っていると

「おう、若者。ちょっとこっち来い」

 修理作業中のドワーフが手招きしてきた。もう済んだのかとヴィルが近付いてみると

「剣のガタが来とるのか? 見せてみい!」

 半ば強引にヴィルから剣を奪い取ろうとしてきた。

「ちょっと待った、これには訳が……」

 頑なに剣を見せようとしないヴィルにドワーフは

「そんなくたびれた剣持って店から出ていかれたらこっちが笑いモンになってまうわい! ほれ寄越せ!」

 自らの沽券と矜持に関わるのだろっ。鍛冶屋の中で突如発生したドッタンバッタン大騒ぎが人目を引かないはずもなく

「あの、お二人ともどうかされたんですか?」

 クロ達とじゃれていたアリーナが心配そうに声を掛けてきた。

「あ、いや……何でも無いんだ。何でも……」

 どことなくアリーナに知られたくないオーラを漂わせているヴィルの言動は歯切れが悪い。

「嬢ちゃんからも言ってくれぃ! こいつなんか遠慮しとるんじゃわい!」

 ドワーフは腕を組んでヴィルの言動に首を傾げている。

「鍛冶屋さんの言う通りに見て頂いた方が良いですよ? 命に関わってきてしまう話ですし……」

 さっきの話を蒸し返した格好になるが、アリーナは元から剣の点検に賛成していただけあって圧が強い。そんな彼女の態度にヴィルは観念したらしく

「な、なぁ……剣の補修ってそんなに安くは……ないッスよねぇ……」

 どうやらヴィルは金銭的な事情で剣の整備を躊躇っていたらしい。そんな彼の態度に

「装備品のお手入れのお金なら私に任せて下さい。その為にさっき下ろしてきたんですから……」

 アリーナは金銭面は自分に任せて心配しない様に説得するが……

「そ、それは悪いって。俺、年上だし……その、なんつーか申し訳ないし……」

 ヴィルが気にしていたのは自身の年上としての世間体だった様だ。そんなヴィルに呆れたのか

「なんじゃ! ケツの穴の小さいヤッチャのう! とにかく見せてみい!」

 ヴィルの背中をバシバシ叩いてきた。そんな彼の力に諦めたヴィルはやむなく長剣をドワーフに差し出すのだった。



「これは……確かにガタ来てるのう。これからも使っていくなら手入れは必要になるが……どうする?」

 ドワーフは長剣を少し見ただけで要修理を判断してしまった。

「あの……どうしても直さなきゃダメか?」

 重病が見つかって手術を提案された人みたいな反応を見せたヴィルに

「修理して頂けるなら今の方が良いですって。お金なら心配しないで下さい。私が何とかしますから」

 アリーナは付き添いの家族みたいな事を言っている。これではどちらが保護者か分からない。

「良いから、ワシに任せとけ。ゴブリン十匹斬り伏せてポッキリ逝ったらどうすんじゃい」

 ドワーフはヴィルからあっさり長剣を奪うといそいそと鍛冶場へと行ってしまった。そんなドワーフの背中にヴィルが

「なぁ、ペンダントってどうなったん……」

 途中まで言い掛けたところでドワーフは器用にペンダントを放り投げてきた。

「もう直っとるわい。これだけじゃ肩慣らしにもならんから、こっぢも仕上げといたるわい」

 ヴィルが自分の手に握られているペンダントを見ると、トマスに千切られていたチェーンが綺麗に修復されているのが分かった。それと

(……これは?)

 蒼く輝く宝石があしらわれた銀色のリングも手の中にあった。

「早くそれを嬢ちゃんに返してやらんか。この剣は明日までには仕上げといたるわ」

 ドワーフは相変わらずこちらを見ずに背中で語っている。

 素直に考えれば、この銀の指輪はドワーフからのサービスとも受け取れるが……

(…………)

 下手をすれば悪質な抱き合わせという可能性も捨て切れない。何しろここは異世界、何処かの世紀末程では無いにしろ治安の悪さは折り紙付きである。

(これ、どう見ても……アリーナのサイズだよな)

 あまり考えたくはないがドワーフの指輪の対象が自分だったらと考えてヴィルは背筋を凍らせる。

 だが、指輪のサイズはどう見ても小さく、女の子用にしか見えない。

「アリーナ、ペンダント直ったそうだ」

 指輪については一旦保留する事にしてヴィルはアリーナにペンダントを手渡す。

「あ、ありがとうございます! これ、私の大事な御守りなんです。良かった……」

 手渡されたペンダントを早速身に着け服の胸元に仕舞ったアリーナからは久しぶりに心から安心した笑顔が戻った様だった。

「それじゃ、俺達はまた明日来るから……よろしくお願いしま〜す」

 剣が直るのは明日ではこれ以上鍛冶屋に居ても冷やかしにしかならない。

 ヴィルはまた明日来る事を店主に告げるとそのまま店を後にするのだった。



 ドワーフの鍛冶屋を出たヴィルはアリーナに何かしら用事が無いか尋ねてみる事にした。

「アリーナ、お前は何か用事は無いのか?」

 ヴィルがアリーナに尋ねてみると、彼女は若干申し訳無さそうにしながら

「あ、あの……無くしてしまった錫杖を……なんとかしなくてはならなくて……」

 トマスに襲われた過程で魔王城に置いてきてしまった装備品の代わりが必要な事を打ち明け始めた。

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