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世界を救う勇者なんですが役立たずを追放したら破滅するから全力で回避します。  作者: 大鳳
第二部 超越者打倒編

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温かい食事

「ああ、クレアさん。これ美味しいですよ。ありがとうございます」

 ヴィルは見た目年上なクレアに敬語でのお礼の言葉を口にする。

 前世から含めると年齢的にはヴィルと同年代だろうがそこは元社会人。初対面の相手にはきちんと敬語で意思疎通する癖が身体に染み付いているのである。加えて……

(この人……なんか違うよな。……うん)

 見た目聖職者だがクレアから発せられる底しれぬ雰囲気が、生存本能の導くままにヴィルは下手に出たのであった。

「おぉ〜そうかそうか! もし余ったらお代わりしても良いからな、少年!」


ーバンバン!ー


 料理に対する高評価にクレアはご満悦な表情でヴィルの肩をバシバシ叩いてきた。そんなクレアの打撃に

(い、痛ぇ……)

 ヴィルは本気で痛がっていた。それは自らの本能が正しかった事を再認識する良い機会でもあった。

「クレア姐さんのポトフはこれでも評判なんだ、ハッハッハッ!」

 クレアは自分の分の食事を載せたトレーを手に、ヴィルの隣にドカッと腰を下ろすのだった。



「それにしてもお前達、魔王討伐はどうしたんだ? しかも他の奴等はどうした?」

 隣に座ったクレアはヴィルを質問攻めにしてきた。そんな彼女の口振りからすると、ヴィルが魔王討伐を果たした事実はまだ北の街までは届いていないらしい。

(…………)

 ヴィルはふと考えてみたが……ここで隠す理由も無いが、わぞわざ打ち明ける必要も無い様に思える。

「魔王は倒した事は倒したんですが……色々あって北の平原にアリーナとそこの魔物達とで転移させられて仲間達と逸れちまったんですよ」

 魔王は倒したもののこれで世界が平和になっていく確信が持てないヴィルは曖昧な言い方に終始した。

「そうか、アリーナ本当か? そうなるとお前の旅は終わりなんだろ?」

 ヴィルの言葉を受けてクレアはアリーナに確認する。すると

「はい。魔王は倒したんですが……別れてしまったパーティーの皆さんを探したいと思ってます。ですから……」

 そんなアリーナの言葉にクレアは反対な様で見るからに渋い顔をしている。

「だが、お前は戦いに向いた性格してないだろ? 冒険者で無理して暮らしていかなくてもここでゆっくりスローライフしていくのがお前のためだ。そうだろ?」


ーガシッ!ー


「あがっ!」

 クレアは話の結論をポトフに舌鼓を打っていたヴィルに振ってきた。ヴィルの頭を小脇に抱え、有無を言わせずクレアへの同調圧力を強いている。

「い、いや……俺はアリーナが思う様にすれば良いと思……いでででで!」

 ヴィルが途中まで言いかけるとクレアはすかさずヘッドロックに移行しヴィルを締め上げ始めた。

「あ、アリーナには安全な場所に居て欲しいです! 危険な事は控えて欲しいと思ってます!」

 ヴィルがクレアに慮った意見を口にすると、クレアは満足そうにヴィルを解放し

「聞いたか? やっぱりお前はここに居るのが一番だ。仲間の事はこいつに任せてここに残れ」

 自分の意見にヴィルの後ろ盾を加えてアリーナの説得に掛かる。

「ヴィルさん、私じゃ……お役に立てませんか?」

 アリーナは下を向いて俯きながらヴィルに問い掛けてきた。少し声も震えている様に聞こえる。

「そ、そんな事はないさ。アリーナの治癒魔法は誰にも真似できないくらい大したもんだし……細やかな気遣いもしてくれて本当に助かってる」

 ヴィルはこれまでの旅路を振り返りながらアリーナに本音を打ち明けていく。

「でも、魔王は倒せたんだから今からわざわざ危ない目に遭ったりして欲しくないんだ。アリーナには平穏で幸せな人生を送っていって欲しいと思ってる」

 そんなヴィルの気持ちを聞いたアリーナは

「私もです。私もヴィルさんに危険な事は止めて静かに暮らして貰いたいと……でも、もし……ヴィルさんが危険な事をしなければならないのならお手伝いをしたいと思ってます」

 二人の話を黙って聞いていたクレアが

「なんだ、じゃあお前達ここで暮らしていけば問題解決じゃないか。なぁ?」

 話は終わりとばかりに雑な纏めに入ろうとしていた。勝手に話を進められても困るヴィルは

「クレアさん、俺の仲間達が面倒臭い事に巻き込まれてまして……」

 ヴィルはここで初めてトマスにまつわるトラブルの一連の流れをクレアに掻い摘んで説明するのだった。



 ヴィルが話し終えた時、アリーナもクレアも二人とも黙ってしまっていた。

 トマスが手にしたスキルについては女神からの知識をそのまま伝える訳には行かないのでテイマーの能力の上位互換という事にしてボカしたのだが……それでも他人を意のままに操る能力など規格外なのだろう。

 能力が通用すればそれこそ無敵の能力なのだから……

「それは……捨て置く訳にはいかないな。アリーナが仲間を助けたいと思うのも無理は無い」

 少し考えた様子のクレアが静かに口を開いた。そして

「それで……そんな奴相手に勝算があるのか?」

 問題の本質をヴィルに尋ねてきた。

「トマスの奴は明らかに俺を敵視している。だが、この数日俺達に何もしてこないところを見ると……居場所が分からない相手には何も出来ないらしい。それに……」

 ヴィルはトマスがスキルを手にしてからの現在までの経験を元にした見立てを説明する。

「当然だが、他人を操れるだけでトマス自身の実力に変化は無い」

「つまり、能力を使う前に仕留められれば勝機はあるという事か?」

 単純な話だが現状から導き出される対策はそれくらいだろう。トマスがどれだけスキルに熟達しているかトマス自身にどれだけ隙があるか、それらが勝敗を分ける事になるのだろう。

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