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世界を救う勇者なんですが役立たずを追放したら破滅するから全力で回避します。  作者: 大鳳
第一部 魔王討伐編

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隔世せしモノ

「や、止めて下さい!」


ードンッ!ー


「うわっ!」

 口移しでエリクサーを飲ませようとしていたトマスをアリーナが突き飛ばしてきた。

(くそ、僕の気持ちを知っていてヴィルなんかに尻尾振りやがって……)

 尻餅を付いて彼女を見上げるトマスを放って、魔王を攻撃しようとしているヴィルに向けて魔法の準備を始めたアリーナのその姿はトマスにとって既に憎悪の対象となっていた。

(ちくしょう……ちくしょう……許さない! 許さないからな!)

 そうこうしている間にもヴィルは突撃し、アリーナの魔法の援護のお陰もあってか魔王は


ーズドオォォッ!ー


「ぐはあっ!」

 いとも簡単にヴィルに打倒されてしまった。

(くそっ、魔王はこの僕が倒すはずだったのに……)

 トマスが羨望と嫉妬の入り混じった感情のままヴィルを見ていたその時


【スキル・全種族絶対隷属が解放されました】


 トマスの頭の中に無機質な女性による淡々とした読み上げ音声が響き始めた。

(こ、これは……?)

 頭の中にはスキル性能と使い方の説明が淡々と響いてくる。また、それだけでは無く

(なんだ、これ……記憶か? そうだ俺は……)

 トマスが決して知り得ない過去の記憶が蘇り始めた。それはまるで、遠い遠い遥か過去からの記憶……。

 だが、それらがまるでついさっきまで見ていた夢の様な、確かなモノとして今のトマスの中に着実に定着していくのであった。

「トマス、ちょっと疲れたからポーションよこしなさいよ」

 トマスが自分自身を自覚している横からエルフィルがポーションを催促してきた。

(このエルフ……面白い……試してやるか)

 トマスは口角を上げると右手をエルフィルに向け

(絶対隷属!)


ーキイィィン!ー


 心の中で念を込める。すると……エルフィルは生気が抜けたようになり、ゆっくりとトマスの足元に跪いた。

「ちょっと、アンタ何して……」

 エルフィルの行動に不審を感じたミリジアもトマスに事情を聞こうとしたが

(お前達も絶対隷属!)


ーキイィィン!ー


 片手をミリジアとミノさん、もう片方の手をオーガやルナフィオラ達魔王軍残党に向けたトマスのスキルは、その場にいたヴィルとアリーナを除く全ての生物を自分の足元へと跪かせてしまったのだった。

(こいつはいいや!)

 今まで自分の事など歯牙にもかけなかった連中が皆、揃いも揃って頭を垂れている。

(さて、どうすっかな……)

 この調子ならヴィルやアリーナを従えるのも訳はないだろう。だが、それでは面白くない。二人を簡単に隷属させるだけでは……あの二人には自分を見下してきた報いを受けさせなければ……。

 奴等には心から悔いて、この自分に対し許しを乞わせなければ面白く無い。そんなトマスが自身の考えを纏め終えた頃

「ヴィルさん! だ、大丈夫ですか?」

 アリーナか心配そうにヴィルに駆け寄っていくのが見えた。トマスは隷下の皆を立ち上がらせると、エルフィルに向けてある指示を念じた。だが

「……うぅ…………」

 エルフィルはトマスからの念を拒もうとしてきた。だが、トマスは意に介さず再び彼女に念を送る。

(俺の意のままに! 絶対隷属!)


ーキイィィン!ー


 トマスの念に応える様に、エルフィルは弓に矢を番えるとある一点に向け狙いを定め……


ーギリギリギリ……ー


 番えた矢を十分に引き絞り


ーピュン!ー


 エルフィルの弓から放たれた矢は一直線に飛んでいき


ードズッ!ー


「ぐあっ!」

 突如背中から自分の胸にかけて鋭く熱い何かを感じたヴィルが自身の胸元を見ると

(な、何だ? これは……)

 アリーナの方を降り向こうとしていたヴィルは何かに背中から胸を貫かれ、そのまま床に崩れ落ちた。


ードシャッ!ー


「い、嫌ぁぁぁ! ヴィルさん!」

 動かなくなる身体をどうする事も出来ないヴィルは、自身に駆け寄ってくるアリーナの姿と、こちらを冷徹な目で見るトマスやエルフィル、ミリジアや他の者達の姿をただ見ている事しか出来なかった。

「ヴィル、お前の勇者としての役目は終わりだ。後はこの俺が引き継いでやるよ」

 ヴィルを見下ろしながら吐き捨てる様に話し掛けてくるトマスの態度は、それまでの彼とは明らかに別人だった。

「な、何を言って……ぐふっ!」

 力の入らない身体で立ち上がろうとするヴィルだったが、身体はまるで言う事を効かない。

「ヴィルさん、動かないで下さい! 今、治療を……!」

 アリーナがオロオロとしながらも、ヴィルの怪我を治す為に魔法の詠唱と祈りに入る。

「ヴィル、お前知っていたんだろ? 俺のレベルアップが寸前だったのを。そして、スキル取得寸前だったのをさ」

 ヴィルの状態などお構い無しに自分語りを続ける彼の言葉にヴィルは血の気が引くのを感じた。

「ま、まさかお前……!」

「やっぱり知ってやがったか! よくもやりやがったな!」

 トマスは一気に感情を高ぶらせると


ーバキッ!ー


「ぐあっ!」

 床に倒れたままのヴィルの頭を足蹴にしてきた。

「な、何をするんですか! 止めて……止めて下さい!」


ーグイッ!ー


 祈りに入ろうとしていたアリーナだったが、足蹴にされたヴィルを庇うためトマスを止めようと彼に抱きつきヴィルから離そうとした。そんなヴィルに健気な彼女をトマスは一瞥すると

(絶対隷属!)


ーキイィィン!ー


 アリーナに向けてスキルを発動する。しかし


ービービービー!ー


 トマスの頭の中に警告音が鳴り響き


【対象に対スキル・抵抗アイテム有り】


 無機質な女性の音声と共にアリーナの胸元が明滅している映像がトマスの目には映し出されていた。

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