死闘
ヨロヨロと立ち上がり再び長剣を構えるヴィルだが戦況は厳しい。
魔王ケイオスブラッドのフィジカルはヴィルのそれを明らかに上回っていた。
おまけに、彼はまだ本気を出している様にも見えなかった。そんな戦況に
「ミリジア! 爆裂魔法とか使わないのかよ! このままじゃ……」
トマスが強力な破壊魔法による一発逆転の一手を提案するが
「アンタ馬鹿ぁ? こんな閉鎖空間で爆裂魔法なんか使ったら私らがお陀仏よ!」
ミリジアからはトマス全否定の罵倒と返事が返ってきた。
「俺はまだ動ける。大丈夫だ」
ヴィルは皆に視線を送ると長剣を正面に構えて魔王ケイオスブラッドを見据える。
やはり遠距離戦では無く接近戦に持ち込まなければ勝てる見込みは無い様に思える。
ヴィルがこうして魔王と対峙している間にも後方では
「グオオオオオッ!」
ードガッ! ガッ!ー
ルナフィオラ指示のもと、オーガやサイクロプス達が光の壁を破ろうと棍棒でひたすら叩き続けていた。
「よし、交代しろ。次はお前達だ! 必要なら階段を下りて魔法陣で回復してこい!」
ルナフィオラはオーガ達を誘導して、なるべく効率よく光の壁を叩ける様に簡易的なローテーション体制を構築していた。
まだアリーナの祈りが天に通じているのか、今は光の壁は持ち堪えている様だが……それもいつまで保つかは分からない。
「エルフィル、ミリジア! 援護頼む!」
呼吸を整えたヴィルは再度魔王に向けて突進を開始した。
「はあああーっ!」
ーババババババッ!ー
ヴィルは一気に距離を詰めるとあらゆる斬撃を連続で繰り出し始めた。
並の相手であれば瞬時に斬り裂かれ絶命するのだろうが……
「ぬうううぅぅん!」
ーキンキンキン!ー
「ぬるいぞ! 勇者ヴィルヴェルヴィント! この魔王をもっと楽しませてみせろ!」
ヴィルの剣撃を手にした大剣で全て受け流す魔王には焦りの様子は全く無い。
小回りの利かない大剣で防ぐ魔王の技量は傍目にも、ヴィルの数段上をいっている。だが、ここで攻撃の切れ目を見せてはマズイと判断しているヴィルは
ーバババババッ!ー
魔王の死角に回り込むべくステップを絡めながら剣撃の連撃を叩き込み続けている。
目まぐるしく立ち回る二人の戦いをエルフィルもミリジアも援護の手が出せずに居た。戦況を見守るミリジアは
「アリーナ、貴女光の壁はもう一枚張れる?」
アリーナに魔法が追加で発動出来るか尋ねる。
「え、はい。ですが、今張っている光の壁の持続は出来なくなります。ほんの少しの時間で消えてしまうはずです」
アリーナは光の壁を複数展開する事は出来ないらしく、最初に張っていた方は持続時間が切れたら消滅してしまうそうだ。
「それでもすぐに無効化しちゃう訳じゃ無いわよね。それなら、私が合図したら直ぐに唱えられる様にしといて」
ミリジアには何か考えがある様だ。そんな彼女の言葉に小さく頷くと、アリーナは再び光の壁の維持の為の祈りに戻る。
一方のエルフィルは、ミリジア達のやり取りを確認しながらも、魔王と戦っているヴィルの援護を考えていた。
だが援護しようにも動き回る二人の立ち回りに割り込む事が出来ない為、反対側のオーガ達の様子と交互に確認し全体の戦況を推し測っていた。
今はアリーナの光の壁で後方のオーガ達は防げているが、いつまで保つかは彼女次第だ。
神への祈りも自身の精神力を消費する為、永遠に続けられるモノでも無い。
「ぬあああっ!」
ーカギィィィーン!ー
「ぐわあっ!」
度重なる連撃も魔王には通じず、剣筋も見切られたヴィルは一瞬の隙を突かれ魔王の大振りの大剣によって大きく吹き飛ばされてしまった。
ーズザアァァァッ!ー
再びミリジア達の居るパーティーの中衛までボロ雑巾の様に地面を転がされてきたヴィルの姿を見た魔王が
「喰らえ、ダークネスブレイド!」
ーシュウウウゥゥゥ……ー
ヴィルに追撃の闇魔法を放とうとするのと同時にミリジアも
「アリーナ、準備は良い? いくわよ、ギガンティック・エクスプロー……」
ーブウウウウン!ー
既に魔法の詠唱を終えていたミリジアが、極大爆裂魔法の発動させた次の瞬間
「お前達、行け! 魔王を仕留めるんだ!」
パーティーの真ん中から予想外のトマスの声が聞こえてきた。
「バウッ!」
「キキッ!」
「グエッ!」
トマスの指示に呼応したクロ達三匹の魔物が一斉に魔王へと向かっていく。
そんな誰もが予期しなかった彼の行動に
「馬鹿! アンタ何してんのよ!」
魔法発動を止めざるをえなくなったミリジアのトマスへの怒号が飛ぶ。しかし、この一瞬で動揺したのはミリジアだけでは無く、アリーナも同様だった。
(光の壁は……駄目、あの子達が……)
光の壁をヴィルの前面に張ればパーティー全員の安全は守れるが、既に飛び出したクロ達三匹は守れない。それに考えている間にも魔王はヴィルにトドメを刺そうとしている。
(駄目っ! ヴィルさんが……!)
思考より先に駆け出したアリーナがヴィルと魔王の間に割って入ったと同時に
「ぬううぅん!」
ーシュパァッ!ー
魔王の大剣から放たれた黒き刃がアリーナ目掛けて一直線に向かってきた。
両腕を横に広げアリーナがヴィルを守る盾となり、黒き刃をその身に受けたその時だった。




