突入魔王城
ヴィル達パーティーが魔王城に侵入して数刻……入った当人が驚くほどに城内は静まり返っていた。
床に罠が仕込まれている搦手も無く、驚く程順調にラストダンジョンを進んでいた。
正門から続く大廊下を真っ直ぐ進むだけの単調な道程の先に上階へと上がる大階段が現れた。
「エルフィル……この先が魔王の居場所か?」
大階段を前に立ち止まったヴィルが、魔王城経験者であるエルフィルに尋ねる。
「私が来た時と間取り変わってるけど……多分そう」
改装されたデパートを案内するノリでエルフィルが意見を口にする。
「周りには何もないな……行こう」
一応、念の為辺りも頭上も確認したヴィルが階段に足を踏み出す。
ゾロゾロと階段を上がる勇者パーティー御一行様方全員が階段の踊り場に上がったその時
ーシュウウウゥゥゥ!ー
踊り場に魔法陣が浮かび上がり、パーティーメンバー達を光で包んでいく。
「何? 移送魔法陣?」
魔術師であるミリジアが魔法陣を見渡すがそれが何なのかは分からない様子だ。
「まさか罠? こんなモノ以前は無かったはず……!」
魔王城経験者のエルフィルもすっかり狼狽えている。
(これってもしかして……)
リーダーのヴィルほ一人慌てる事なく自身の身体が楽になっていく事に不思議と違和感は感じていなかった。
そうこうしている内に青白い光も魔法事もすっかり周囲から消え去っていたのだった。
「皆、何か異常はあるか?」
後ろを振り返ったヴィルが全員の様子を確認するが……誰も特に変わった様子は無い。クロ達三匹に至るまで体調が心なしか良くなった印象すらある。
(やっぱり、ラスボス前の回復ポイントか……?)
現代の知識があるヴィルはよくあるRPGのラストダンジョン前にある、製作者の厚意で設置されているセーブポイント兼全快ポイントの事を思い出していた。
この世界は異世界とは言ってもゲーム世界では無い。しかし、このタイミングでこんなオブジェクトがあるというのは神様による作為的なモノを感じてしまう。
「私はへーきよ」
「私も、何かのトラップとかでは無さそうだしね」
「オレも、何ともない」
エルフィル、ミリジア、ミノさんの三人からは異常無しの報告がなされる。後はアリーナとトマス達だが……
「神聖なる輝きよ、今ここに降り、皆の心と大地を清廉に還し給え……ピュリフィケイション!」
ーパアアァァー
いつの間にか祈りを捧げていたアリーナは錫杖を高く掲げると眩い光でパーティーの全員を包む浄化の魔法を発動させた。
「念の為に皆さんを浄化の光で清めさせて頂きました」
アリーナはふぅ……と深く息をすると、皆に浄化の魔法を施した事を説明する。
これなら踊り場の魔法陣による光が何かしらの未知の呪いの類であったとしても、安心して戦えるというものである。
「すまない、アリーナ。それじゃ上がるぞ!」
ヴィルはアリーナに礼を述べると階段の上にある両開きの扉目指して階段を上り始めた。
長い階段を登りきったヴィル達の前には禍々しい装飾が施された両開きの扉が鎮座していた。
「よし、行くぞ。覚悟は良いな?」
背中から長剣を抜いたヴィルは後ろのパーティーメンバー達に声を掛ける。
皆が武器を手に深く頷いたのを合図にヴィルが両扉に手を掛けると
ーギギギギギィ……ー
大きく軋む音と共に両扉がゆっくりと開かれていく。扉の中は広大な石造りの玉座の間が広がっていた。
窓はなく、壁際には等間隔に魔法の明かりが灯されている。そんな部屋の奥に黒い人影が悠然とした態度で玉座に腰を下ろしていた。
「ついにここまで辿り着いたか。勇者ヴィルヴェルヴィントとその仲間たちよ!」
魔王に向けて歩き出したヴィル達に対し魔王が余裕たっぷりに語り掛けてきた。
勇者パーティーはヴィルを先頭にミノさんミリジア、アリーナ、エルフィルの四人がほぼ横並びで後に続き最後尾をトマス達が追う陣形だ。ヴィルが部屋の中程まで進んだところで
「恐れる事無く我が前に立ちはだかるか……面白い!」
ヴィル達が向かってくるのを見届けた魔王は、ニヤリと口元に笑みを浮かべるとゆっくりと立ち上がり身の丈程の両刃の大剣を担ぎ上げた。
ーズシャアアァァァッ!ー
立ち上がった魔王は二メートルはあろうかという長身の大男であり、髪は銀の短髪二本の黒く長い角が印象深い。
その肌は青白く筋骨隆々なフィジカルに秀でたその身体は漆黒の全身鎧で覆われた外見からも容易に推察出来る。
彼のその威風堂々としたその出で立ちはイケメンと言うよりは頼りがいのあるアニキの様な風格だった。
(くっ……!)
そんな魔王からの威圧感にヴィルも気圧され歩みを止める。そして、そんな彼の行動を見た魔王は
「勇者ヴィルヴェルヴィントよ! この魔王、ケイオスブラッド、散っていった四天王達に報いねばならぬ! 手加減はせぬぞ!」
魔王ケイオスブラッドは、これまでの戦いで失われた部下達の為に自らが全力で戦うつもりであるらしい。
(五対一か……仕方ないよな)
あからさまに数対有利な自分達の状況にヴィルは若干の引け目を感じていた。
しかし、ラスボス戦であればそれも仕方の無い話、いくら見てくれか一方的な袋叩きになるとしてもヴィルは勝たなければならないのだ。そんなヴィルが仲間達に魔王に向けての指示を出そうとしたその時だった。




