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世界を救う勇者なんですが役立たずを追放したら破滅するから全力で回避します。  作者: 大鳳
第一部 魔王討伐編

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困難な道程

「さぁ、もう出発するぞ」

 一夜明けたハスヴィル村の教会の裏手、テント一式を片付けたヴィル達は身支度をそれぞれ整えていた。

 このハスヴィル村から魔王城までは人の寄り付かない未踏の地に近い。

 もっとも、単独で魔王城に潜入してきたエルフィルが居るのだから辿り着けない事はないだろう。

「魔王城は森の奥深くだから、気をつけなさいよね! 見通し悪いんだからさぁ!」

 一度行った事があるだけにエルフィルの存在は非常に心強い存在だ。

 しかし、一般的なエルフの例に漏れずエルフィルも身軽で身体能力が高く、それだけにアリーナやミリジアの様な肉体労働不得意なメンバーには難しい道程であるかもしれないのだ。

 先頭を進むエルフィルと後衛のアリーナ達との調整をリーダーであるヴィルがこなさなければならない。

「あんまり一人で突出すんじゃねーぞ」

 ヴィルは念の為足の速い先頭のエルフに釘を差すが

「そんなの遅い方が悪いのよ。危険地帯はさっさと抜ける! これが一番安全なんだからね?」

 一流のスカウトだけあるエルフィルは持論を展開する。

 まるで十九世紀当時の寒冷地における外洋航行の基本原則の様な物言いだ。

(まぁ、陸地だから氷山にぶつかるなんてこたー無いが……)

 エルフィルも馬鹿では無いのだから先行しすぎたと思えば待つだろう。そう考えたヴィルは後続のメンバー達に気を向けるのだった。

 隊列はエルフィルを先頭にヴィル、アリーナ、トマス、ミリジア、ミノさんの単縦陣である。

 流石に殿がアリーナやトマスでは不安が残る。ミリジアが後方だといざという時の魔法の射線が取れないかもしれないが……。

 その辺りは自分が前線で踏ん張れば良しと割り切る事にするのだった。

 暫く薄暗い森を突き進んだ一行は遥か先に森の外への明るい光とそこに急ぐエルフィルの後ろ姿を見つけた。


ーザワザワ……ー


 森を歩く間、鬱蒼とした森の奥から木々の葉が擦れる様な物音がずっと聞こえてきていたが、何時間も続いたせいか皆が慣れ切ってしまっていた。

 音はすれども姿は見えず……ただただ深い森が続いていただけだ。

 そんな森を進んできたヴィルだったが、少し前からある事に悩まされ始めていた。それは……

「なぁ、アリーナ? この前の返事聞かせてくれよ〜」

 トマスがアリーナに執拗に話し掛けていたのだ。彼を刺激したくないヴィルはトマスが諦めるのを待ってみたのだが……

「あ、すみません……。森を抜けるまで待って頂けませんか……?」

「なんだよ。はいかいいえで良いんだからさぁ。勿体ぶらなくても良いだろ〜?」

 アリーナはどう答えるか考えている様に見える。それはもちろんトマスを傷付けない方法が無いかの思案だろう。

 彼女なりにどう答えれば良いのか最善を模索している様だ。

 しかし、いつもなら道具持ちでへばっている頃のハズがシルヴェリスに鍛えられたせいか、体力に余裕が出来ていた。

 その成長が完全なマイナスに働いている印象だった。

「アリーナ、頼むよ。今知りたいんだよ〜」

 そう話すトマスが前を歩くアリーナの肩に手を掛け、ヴィルがトマスを注意しようとしたその時

「おい、トマス。いい加減に……」


ーガツッ!ー


「うわっ!」

 地面の木の根に躓いたトマスがアリーナの肩に手を置いたまま前に倒れ込んでしまった。


ーグラッ!ー


「きゃっ!」

 肩を掴まれたアリーナも仰向けに倒れそうになる。

「危ねぇっ!」


ーガシッ!ー


 たまたま後ろを見ていたヴィルがアリーナの腰に手を回し彼女を支えた事で彼女は事無きを得……


ードシャッ゙!ー


 トマス一人が前のめりにずっこけたのだった。

「トマス、俺達はピクニックに来てるんじゃねーんだぞ。気を引き締めろ」

 ヴィルが悪い方向に余裕が出てきたトマスになるべく柔らかい苦言を呈する。その時

「あ……」

 反射的に抱き抱えたアリーナの顔が直ぐ側にあるのに気付いた。

「す、すみません……ヴィルさん……」

 上目遣いにこちらを見る彼女は倒れそうになった時、反射的にヴィルの肩に手を置いていた。

 そのせいか、お互い意図せず抱擁する様な姿勢を取ってしまっていた。

「わ、悪ぃ! だ、大丈夫だったか?」

「は、はい。すみません……」

 ほんの僅かに見つめ合った二人は、すぐに離れそれぞれ顔を赤くしながら身支度を整える。

 一方、地面に四つん這いになっているトマスは中々立ち上がらずに居た。

「おい、トマス。早く立て。後ろが詰まっちまうだろ」

「そうよ。早くしなさいよ。鈍臭いわねぇ」

 追いついたミリジアがトマスに悪態をつく。

「ヴィル……。お前はどこまで僕の邪魔をするんだよ!」

 立ち上がったトマスは殴り掛からんばかりにヴィルに詰め寄ってきた。

「僕達には絆が有るんだ! 娼館通いばっかの汚いお前なんかに渡すもんか!」

 要領を得ないトマスからの言い掛かりにヴィルの頭には若干の疑問符が並んでいた。

(トマスの奴が俺にキレるのは分かるが……それとアリーナと何の関係が……?)

 中身転生者なヴィルは精神年齢だけなら二十代半ばな為か、高校生くらいの年齢のアリーナからの気持ちには気付いていなかった。

 また、気付いていたとしても、清楚で品行方正で気立ての良い彼女にはいつか彼女に相応しい相手が見つかるものと考えていた。

「おい、トマス。落ち着け……」

 駄々っ子の様にパンチを繰り出し続けるトマスをあしらうヴィルだったが

「うるさいうるさいうるさい! お前の事は気に入らなかったんだ! お前みたいな奴なんか……!」

 トマスは感情のままに両腕を振るい続ける。その時

「や、止めて下さい!」

 森の中にアリーナの大きな声が響き渡った。

「な〜に、どうしたの? さっさと森抜けちゃわないと危ないって……」

 その声の大きさは先行していたエルフィルを呼び戻してしまう程だった。そんな大きな声を発したアリーナにパーティーメンバー達の注目が注がれる。

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― 新着の感想 ―
くっ……ヴィルとアリーナのドキドキ接近イベントが嬉しい一方、トマスからヴィルへの心証が悪化しててハラハラします!トマスがレベルアップしたら本当に大変なことになってしまう……!
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