死亡フラグ
「別に邪魔とかじゃ無いが……何かあったか?」
ヴィル以上にエルフィルがやってくるのが意外な状況に、思わずヴィルが尋ねると
「何もないけど? アンタがこっちに来てたらか何かあったのかなって思っただけ」
やってきたエルフィルの足元にペン太がすり寄っている。そんなペン太の頭を撫でるエルフィルに
「あ、浄化はもう終わりましたので……戻ろうと思ったんですよ」
アリーナが取り繕う様に何をしていたか簡単に説明するが
「あなた達はさ……魔王倒したらその後はどうすんの?」
奇しくもエルフィルはさっきと同じ話題を二人に振ってきた。
「魔王倒したらって、お前もかよ。それは倒した後で考えようって事にしたんだ」
ヴィルはさっきの結論を話して会話を終わろうとするが……
「私さぁ……森に帰っても家が無くなっちゃってるのよね〜。村の皆は避難先だしさぁ?」
「それなら避難先に帰れば良いんじゃないか? 森の復興手伝えよ」
村に帰ってもやる事無いとでも言いたな気なエルフィルをヴィルはあっさりと突き放す。
「森の復興にどれだけの時間が要ると思ってんのよ。私らの住宅造れる様になるのなんて数百年後なんだからね」
エルフィルはエルフなりの住宅事情を語る。さすがに長命なエルフだけあってか尺度が人間とはまるで違う。
チラッチラッとヴィルの様子を伺いながら話すエルフィルは、ヴィルからの何かしらの発言を待っている様だが……
「それならドライアードさんに頼めば良くね? 少しくらいなら成長早めてくれるんじゃないか?」
相変わらず彼女が期待する返答をしなたいヴィルに痺れを切らしたエルフィルは
「アリーナ! あなた、どーせ魔王倒した後もバカ勇者と旅でもするつもりなんでしょ!」
タゲをアリーナに変更して彼女を指差しながら迫る。そんなエルフィルにアリーナは
「は、はい……。ヴィルさんのお力になれればと……」
頬を赤らめ少し俯きながら小さな声で答える。するとエルフィルは得意満面な笑みを浮かべ
「そんなトコだろうと思ったのよ! 感謝なさい、私も付いてってあげるからさぁ!」
華奢な胸を張って自信満々な提案をしてきた。
「え、いや……家族んトコ帰れよ」
と、小さな声でボヤくヴィルに対し
「スカウト無しのパーティーなんか危ないったらありゃしないわよ! 運が良いわねアンタ達! 一流のスカウトが同行してあげるんだから!」
ーバシッバシッ!ー
「いてっ! いてて!」
ヴィルの背中を叩きながら力強く語るエルフィルにはヴィルもアリーナも苦笑で済ませる以外には無かった。
そんなヴィル達の傍目から見たらイチャイチャしている様子を林の影からこっそりと覗き見ている黒髪少年の姿があった。
(くそっ……あそこにはこの僕が居るべきなのに……)
嫉妬と羨望に顔を歪ませている彼の怒りの矛先は、彼等の真ん中で青髪の少女に気遣われながらもエルフの娘にシバかれている銀髪の青年に向けられていたのであった。
クロ達のトイレを済ませたヴィル達が休憩中だった他メンバー達の元に戻ると一行は再びハスヴィル村への移動を開始した。
森を抜ければすぐにハスヴィル村な為、森を抜けたら村にて一夜を明かす予定だ。
さすがに一般的なRPGゲームとは異なり、地方の簡素な村に宿屋が必ずあるはずも無い。
かと言って、住人の住居に泊めさせて貰える幸運が毎回ある訳でも無い。
ヴィル達は一応、数週間前に村を救った英雄ではあるのだが、6人を一晩受け入れるとなるとそれなりに負担は大きいモノである。
出来るとすれば、村の一角でテントを張らせてもらう許可を得る事位だろう。
「ふぅ〜、やっと着いたわね〜!」
ハスヴィル村に着いたヴィル達一行の先頭でエルフィルが振り返りながらヴィルに話し掛ける。
「そうだな。あれから特に魔王軍に襲われたりはしていないみたいだな」
村では住民達が普段の生活を営む以外にも王国の衛兵達が行き交う姿が目に付いた。
おそらく以前この村の視察に来ていたフィオレット王女がこの村の安全の為に手を回したのだろう。
「おや、勇者様御一行ですかな? あなた方のお陰で皆が平和に暮らせておりますぞ」
ヴィル達が村にやってきた事を知った村長が出迎える。
「俺達は明日、向こうに行くんだ。悪いが村の敷地を使わせて欲しい」
ヴィルはあえて魔王城に行く事を口にしないで村長にテント設営の許可を求める。
「そうですな。では教会の裏手は如何でしょう? あそこはしばらく空き地になっております」
村長はすぐに適当な場所を見繕ってくれた。
「わかった。そこで一泊させてもらう」
ヴィルはそう言うとパーティーメンバー達を引き連れて教会の裏に向かおうとするが
「もし。宜しければ聖女様に祝福をお祈り頂けますでしょうか?」
村長からそんな申し出がなされた。かれの話によると身体の調子が優れない村の老人達が、アリーナの治療の効果を忘れられずにいるらしい。
(なるほど、だから教会の裏を勧めてきた訳か……)
ヴィルがアリーナに視線を送ると……彼女は真剣な表情で静かに頷いて見せる。
「わかった。俺達は教会の裏に居るから、用事がある時に声掛けてくれ」
ヴィルはアリーナの意向を確認すると村長に了承の言葉を伝えるのだった。ヴィルの返答に村長は村の中へと消えていく。おそらく村の老人達に声を掛けに行くのだろう。
「アリーナ、俺が言うのも何だが大丈夫なのか?」
少し気になったヴィルがアリーナに尋ねるが
「女神様の信仰になるのなら……それに一人でも多くの人を救うのが私の役目ですから」
笑顔で応える彼女の献身にヴィルは少しの申し訳無さを覚えるのだった。




