特務部隊
「そろそろ帰りましょう。行きますよ、皆さん」
アリーナが三匹に声を掛け街に戻ろうとしたその時だった。
ースタッ!ー
頭上から突然降り立ったのは黒マントを羽織った人影だった。
「アリーナ・ルミナスフォールだな? その命貰い受ける!」
あまりにも突然の事にアリーナも理解が追いついていなかった。
「あ、あの……貴方は一体……?」
「問答無用!」
黒マントの男は戸惑うアリーナお構い無しに距離を詰めてショートソードで薙ぎ払いを仕掛けてきた。
「くぅ!」
ーブンー
非戦闘員とは言え、アリーナも勇者パーティーの一員だけありショートソードを避けるのに不安は無かった。
「貴方、一体何者ですか!」
攻撃を避けながらアリーナが黒マントの男に問う。しかし返ってくるのはショートソードによる応酬ばかり。その時
「バウッバウッ!」
「キキィッ!」
クロとモン吉二匹がアリーナの加勢に入った。
「な、なんだこの魔物は!」
ーピィー!ー
二匹に集られた黒マントの男が口笛を吹くと
ースタッ! スタッ! スタッ!ー
アリーナ達を取り囲む様に新たな黒マントの者達が現れたのだった。
周りを取り囲まれたアリーナに逃げ道などは無く、正面に居る最初の黒マントの男の脇しか無い。
だが、それでも黒マントの男をすんなりとやり過ごせるとは思えなかった。
「偉大なる女神様、迷える者を導く光をお示し下さい……ホーリーライト!」
ーパアアァァ!ー
アリーナは手早く詠唱を済ませると手にした杖から眩い光を辺りに放つ。
「うおっ!」
「ぐあっ! 目がぁ!」
「くっ、生意気な小娘だね!」
閃光弾の様なホーリーライトの強烈な閃光に周囲の黒マントの者達の動きが止まる。
正面の黒マントの男にはクロとモン吉が襲い掛かっているだけあって隙だらけになっており、アリーナが彼の横をすり抜けるに難は無かった。
「逃がすか、小娘!」
クロとモン吉を振り払った黒マントの男が横を通り過ぎるアリーナに手を伸ばしたその時
ーズボッ!ー
「ぬおっ! こんな所に落とし穴だと!」
黒マントの男はアリーナを捕まえる事も出来ずに
ーズシャアッ!ー
地面に空いた陥没に足を取られ男は無様に転がった。
「クェ〜」
切羽詰まった状況の中、サンドペンギンのペン太が地面の下から顔を覗かせる。
「クエッ!」
ーザッザッザッ!ー
辺りを見回したペン太は地面を掘り始め再び潜ってしまった。
「皆さん、着いてきて下さい! 街まで走りますよ!」
黒マントの男達から距離を開けたアリーナが振り返り、三匹に着いてくる様呼び掛けている。
アリーナはクロとモン吉が自分より先に逃げ出せたのを見て自分も街へと駆け始める。
「逃がすな、追え!」
「多少は見られても構わん! 殺せ!」
ーピュン! ピュン!ー
黒マントの男がアリーナを足止めしようと投げナイフを投げつけたが……
「何をしている! 下手くそめ!」
投げナイフはアリーナ目掛けて飛んでいったかに見えたが途中で軌道を変えて地面へと落ちていった。
後ろでは黒マントの男達が地面の陥没に足を取られてアリーナの後をうまく追えずにいた。そんな中
「あの小娘! やってくれるじゃないの!」
ーヒュンヒュンヒュン!ー
青髭が目立つ角刈りの男が鞭を取り出し逃げるアリーナに向けて放つ。
ーギュッ!ー
「きゃっ!」
逃げるアリーナの足首に巻きついた鞭に彼女は動きを止められてしまい
ードシャッ゙!ー
「あうっ!」
アリーナは無理矢理地面に転ばされてしまった。
ーカランカラン!ー
転ばされた拍子にアリーナは大事な杖も手放してしまう。
「や、やだ……離してっ! 離して下さい!」
アリーナは急いで立ち上がろうとするが片足を引っ張られ、抵抗虚しく彼女は黒マントの男達の元に引き摺られていく。
「これで終わりだ!」
「よくも手間をかけさせてくれたな!」
「己の不運を呪うが良い!」
アリーナを始末すべく黒マントの男達がにショートソードを振り下ろす。
「い、いやぁっ! 助けて! ヴィルさぁぁぁん!」
地面を掴んで何とか抵抗していたアリーナは思わず目を瞑りながら助けを叫ぶ。その時
ーガキィーン!ー
「うちの聖女様に何してくれてやがるんだ!」
黒マントの男達のショートソードを長剣を頭上に掲げた腰溜め姿勢で受け止めるヴィルが、アリーナとの間に割って入っていた。
ースパッ!ー
ヴィルはショートソードでアリーナを捕らえていた鞭を切ると
「アリーナ、少しじっとしててくれ。コイツら追い払うからな」
ーブウォン!ー
「ぬおっ!」
「ぐわあっ!」
「くっ、抵抗するか!」
ヴィルは長剣でショートソードごと黒マントの男達を吹き飛ばすと
「シャルゲシュベルト!」
大きく振りかぶった長剣をそのまま袈裟斬りの様に振り下ろし
ースパッ!ー
「ぐわあっ!」
黒マントの男の一人をいとも簡単に真空波で斬り裂いた。
「くそっ! 引き上げだ!」
「あと少しのところだったのに!」
「あらあら、良い男じゃな〜い。また後でね」
黒マントの男達は形勢不利と見て次々に森の中へと消え始めた。
「逃がすかっ!」
ヴィルが逃げる黒マントの男達をさらに追撃しようとしたその時
「ヴィルさん、待って! 待って下さい!」
立ち上がって戦いを見守っていたアリーナから制止の声が飛んできた。




