親睦会という名の……
「さて、まずはゴブリンの洞窟についてだが……」
ヴィル達にとって今日はいつになく濃密な一日となってしまった。
朝にエルフィルと合流を果たせたのはともかく、午前中は教会でのミサ。しかも女神が神託を与えるというサプライズまで起きた。
午後はトマス探しから発展したゴブリン洞窟探索からの新人冒険者達の救出と四魔将グリンブルスティとの遭遇。
夜に街に戻ってからは四魔将トーデスエンゲルとも遭遇……と平凡な一日にしては詰め込み感МAXな一日だった。
「改めて、助けて貰って助かりました! 俺達、相手が…ゴブリンだからって舐めてました!」
新人冒険者パーティーリーダーの戦士風の少年がヴィル達に頭を下げる。
「トマスさんも早く逃げろって言ってくれたのに俺達がグズグズしてるから……本当にすみませんでした!」
ヴィル新人冒険者の彼が話す洞窟内でのトマスの判断にツッコむ事にした。
「トマス、皆で逃げる話になってるのにお前は何してたんだ?」
「それは……誰かがゴブリンの気を引かなきゃならないから……」
トマスが話すには洞窟で神官のベルナデッタが倒された後、ゴブリンの気を引く囮を自らが買って出たと言うのだ。
それを聞いたヴィルは若干イライラし始めていた。一方の新人冒険者の格闘家の少女が
「でも、彼の言う事を無視して援護に入ったのは私のミスだったんです! トマスさんの言う通り皆で逃げていれば……」
トマスの判断にフォローを入れてきた。しかし
「トマス、そもそも何でテイマーのお前がコイツ等と別行動してんだ。一緒だったら出来る事はもっと増えていた」
今のトマスの技量でどこまでクロ達を操れるかは分からない。だが、助けを呼びに行かせる。
或いはゴブリンへの牽制を率先して行わせるなどやりようは現時点でも沢山あったろうに思える。更に
「格闘家の娘が言うのもその通りだろう。単純に今のお前が頼りなく見えたんだ。任せといたら死ぬとな」
「ぼ、僕だって戦える……それを証明したかったんだ。ゴブリンくらい……」
ヴィルの言葉にトマスは悔しさを滲ませながら思いを語り始めた。彼には彼の理想とする冒険者像があるのだろう。
「今のお前には接近戦は無理だ。やるなら投擲武器の使い方を考えろ」
十五が成人とされる異世界であっても、トマスの体躯はまだまだ小柄で少年だった。
そんな彼ではゴブリン相手であっても種族差のアドバンテージは無きに等しい。
「トマス、理想があるのは分かるが一旦忘れろ。今のお前が出来る最善を選択しないと死ぬぞ」
全否定ではキレるか癇癪を起こして人の話を聞かなくなってしまいかねないトマスにヴィルは言葉を選びながら言い聞かせる。だが……
「ヴィルは良いさ! 勇者で剣聖なんだからな! それなのに何で僕は……テイマーなんて欲しくなかった!」
トマスから吐露される本心、ヴィルは初めて知る事になる彼の本心が明かされていく。
「僕は強くなってこの手で仇を討ちたいんだ! それなのに娼館に通ってるこんなヤツが良い思いして僕に能力が無いなんて不公平だよ!」
嫉妬と羨望、世界の理不尽と苛立ちもあったのだろう。娼館通いは今のヴィルに責任は無いのだが……
「それに娼館通いに飽き足らずパーティーをハーレムにする気だろ! 分かってるんだ! エルフィルだってアリーナだ……ぐえっ!」
ーギュウウウッ!ー
「誰がハーレム要員よ! 高貴なエルフ様がこんな馬鹿に身体も心も許す訳無いでしょ!」
弁舌に脂が乗ってきたトマスだったがそれ以上話させまいと実力行使に出たのはエルフィルだった。
「く、苦しい……死ぬ……」
彼女に首を絞め上げられたトマスはグッタリ泡吹き天に召される境界を彷徨っていた。
「あの、皆さん……私、これ持ってきたんで……適当につまんで下さい」
場の空気を感じたシルヴェリスが自身の道具袋からハードタックと乾燥肉、リンゴ幾つかを出してきた。
簡素な皿に盛られたソレは半日以上何も口にしていない一同には堪らなくご馳走に見えてきた。
「お水と果実酒もありますから……ご遠慮無く」
シルヴェリスはどれだけの量を入れていたのか、道具袋から人数分のコップと果実酒の瓶、水が入った革袋をテーブルの上に置いた。
「あら、気が利くじゃない。ダークエルフの割には」
トマスを解放したエルフィルはテーブルに戻るとハードタックをガリガリとかじり始めた。
その行動に引き摺られる様に皆もハードタックや乾燥肉にそれぞれ手を伸ばし始め、ささやかながらも夕食会が始められたのだった。
「トマス、俺のパーティーでやっていくなら少しは考えを……」
さっきはエルフィルに話の腰を折られてしまったがトマスの考え方を変えなければ同じ事の繰り返しでしかない。
また、そんなミスを魔王戦の最中にやらかされたらたまったものでも無い。
ヴィルは明日こそトマスの心構えを叩き直そうと、それを彼に伝えようとしたその時だった。
「あの、その仕事……私にやらせては貰えませんか?」
総発言してきたのは意外にもダークエルフのシルヴェリスだった。
お互いに確執があるヴィルが教えるよりは、初対面でも何のしがらみも無いシルヴェリスの方が……トマスが素直に言う事を聴くかもしれないが……。しかし
「何でだよ! しかもそいつは冒険者ですらないじゃないか!」
トマスの言う事も正論である。シルヴェリスはダークエルフというだけで彼女の実力などさっぱり分からないからだ。
「私、これでも斥候としてはそれなりに経験があるんですよ。それにほら」
ーシュウウゥゥ……ー
彼女は何処からとも無くサラマンダーを呼び出し自らの肩の上に乗せてみせたのだった。




