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世界を救う勇者なんですが役立たずを追放したら破滅するから全力で回避します。  作者: 大鳳
第一部 魔王討伐編

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退却戦

「ケッケッケッ……」

「キャキャキャッ!」

「キャーッキャッキャッキャ!」

 トマスが居た空間は予想以上に広かったらしい。松明一つでは到底賄えない程な広さがある。

 ヴィルが背中の長剣を抜いても差し支えない程の広大な空間が広がり、多数のゴブリン達がひしめいているのが分かった。

「トマス、てめぇはさっさと出口に走れ!」

 多数のゴブリンを相手にトマスが何かやらかさないか気にしながら戦いたくはない。ヴィルはトマスに退却を指示するが

「僕だって勇者パーティーの一員なんだ! ゴブリンなんかに負けたりしない!」

 ショートソードを手に防戦の構えを見せた。

(こいつ……なんで言う事聞きやがらないんだ。反抗期か畜生!)

 ヴィル目線でトマスがグズグズしている間にもゴブリンの大集団は二人を包囲する様に近付いてきていた。

「ケーッケッケッケッ!」

「キャッキャッキャッ!」

「少しは骨のある奴が居るじゃねぇか」

ゴブリン達の笑い声に混じって声質的に肥満体っぽい男の声が聞こえてきた。


ーズシャッズシャッズシャッー


 重そうな足音と共に現れたのは牙の生えたオークの様な顔をした緑色の太った何かだった。

「オーク……じゃないな。何だ……?」

 長剣を構えるヴィルの前に現れたそれは下半身が毛むくじゃらで悪魔の羽と尻尾を生やした明らかにオークとは異質な存在だった。更に

「バリバリバリバリ……」

 彼は緑色の紙製の筒から何かを取り出し、絶えずそれらを口に放り込んでいる。

「ポテトチップ……? なんで異世界にそんなモノが……!」

 転生者の記憶があるヴィルには馴染みのある形成ポテトが入れられたメジャーな品物を何故目の前の異形が持っているのかさっぱり分からなかった。

「なんだお前、これが知ってるのか? ……異世界人なのに?」

 ヴィルが知っている素振りを見せると偉業は慌てて緑色の筒を何処かにしまい込んでしまった。

「俺様は四魔将が一人、グリンブルスティ! 人間共よ、今日からはここがゴブリン達の拠点の一つとなる!」

 四魔将のグリンブルスティと名乗る異形はポテトの件を誤魔化すかの様に自身の目的を語り始めた。

「放っておけばゴブリン共は指数関数的に増殖していくぞ! それが嫌なら討伐隊を組むしか無いがな!」

 確かに街に近いこんな洞窟にゴブリンの拠点が造られたら魔王戦どころでは無い。

「フハハハハ! 魔王城攻めてる場合じゃないなぁ〜! 街に帰って勇者達にそう伝えるが良い!」

(なんだコイツ……?)

 グリンブルスティはもしかしたら目の前のヴィルが勇者だと気付いていないのかもしれない。

「トマス聞いたろ? お前は居るだけ無駄だ、出口まで走れ!」

 四魔将を名乗るグリンブルスティを前にガタガタとふるえているトマスにヴィルは再度逃亡を促す。しかし

「う……あ……あ……」

 まるで悪魔を見たかの様にトマスは恐怖に取り憑かれている。その時

「ヴィル、大丈夫? 敵は?」

 後続のエルフィルやアリーナ、新人冒険者達が広場に続々と到着し始めた。

 人数が増えても今のヴィル達には決定的なアタッカーが不足していた。

 大魔術師のミリジアも狂戦士として頼りになるミノさんも不在なのだ。

 二人の穴は流石に新人冒険者達では埋める事は無理がある。

「エルフィル! トマスを連れて逃げろ! 四魔将だ!」

 迷う事なく退却を選んだヴィルに対しエルフィルは

「りょーかい! トマス、アンタも逃げるの!」


ーガシッ!ー


「うわあ!」

 すんなり従い、トマスの首根っこを強引に掴むと踵を返して出口へ駆けていく。

 皆が逃げていくのを横目で確認していたヴィルが何の動きも見せないグリンブルスティに不審を抱く。

「ゲッヘッヘ、そうだ逃げろ逃げろ! 逃げて街に帰ってここがヤバいと喧伝してこい!」

 ヴィルは何となくグリンブルスティの思惑が分かってきた様な気がしていた。

(こいつ……あんまり仕事熱心じゃないな)

 ゴブリンは何も言わなくても襲ってくるだろうがグリンブルスティからは働きたくないオーラが漂いまくってきていた。

「よし、四魔将のグリンブルスティと言ったな? ここでタイマンだ! この勇者ヴィルヴェルヴィントが相手をしてやる!」

 長剣を構えたヴィルは様子見を兼ねてグリンブルスティに啖呵を切ってみた。しかし

「いや、ちょっと待て! どう考えても今のお前不利だろ! そこは逃げるが筋なんじゃねぇのか!」

 若干慌てた様子のグリンブルスティは、ヴィルに逃げる選択肢を勧めてきた。

「……お前、あんまりやる気ないだろ? 四魔将とかやっつけで考えた設定なんじゃないか?」

 ヴィルは四魔将の発端がルナフィオラのハッタリじゃないかと疑ってはいた。何しろ四天王以外は聞いた事すら無い役職だ。

 エルフィルが命懸けで入手してきた情報を疑いたくは無いが……目の前のグリンブルスティからはどうしてもやっつけ仕事感が拭いきれないのだ。

「馬鹿を言うな! この四魔将グリンブルスティ様を見くびるなよぉ!」


ーブアアアアアッ!ー


 グリンブルスティは両腕を高く掲げると詠唱無しで闇属性の極太エネルギーを放ってきた。

「ウィンドシールド!」


ーゴオオオオオッ!ー


 一方のヴィルも風属性の防壁を展開してグリンブルスティが放った闇エネルギーを逸らしていく。

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