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世界を救う勇者なんですが役立たずを追放したら破滅するから全力で回避します。  作者: 大鳳
第一部 魔王討伐編

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社会的な死

「クェックエェェェ〜!」

 サンドペンギンのペン太が大きな声で鳴き始めた。羽根をバタバタさせて時間が無い事を必死にアピールしてくる。続いて

「ワンッ! ワンッ!」

「キキッ!」

 他の二匹も途端に落ち着きを無くしソワソワし始め出した。

(ま、まさか……!)

 考えてみれば今日はまだ彼等はトイレに行ってなかった。トマスにもトイレ作業の為にシャベルを買わせるつもりだったのだが、彼が途中で居なくなってしまった為かすっかり忘れていた。

周りは屋台街が並ぶ街の中心地、こんな所で粗相をさせてしまったらヴィルの評判どころか勇者パーティーとしての信用問題になりかねない。

 それはヴィル達を勇者パーティーと認めた国王陛下やフィオレット王女の顔に泥を塗る事にもなりかねない。

 これは、トマス関係無しに普通にヴィルとしての異世界社会人の危機であった。

「どこへ行こうってんだよ、ヴィル。へっへっへっ……」

 三匹を人気の無い場所へ連れ出そうとしたヴィルの行く手をギルベット達が塞ぐ。

「そこを退け、ギルベット! こいつら花摘みに行かせなきゃなんねーんだよ! こんな場所で粗相したら……」

 ここは仮にも飲食を生業とする街の中心地だ。屋台の休業補償から消毒費用、あるいは損害賠償なんて話になるかもしれない。

 しかし、焦るヴィルを嘲笑うかの様にギルベット達は進路を開けようとしない。

「ワンッワンッ!」

「ウキャーキャキャッ!」

「クエェェェーッ!」

 三匹とも落ち着きがなくなりかなりソワソワし始めている。ヴィルがまずいと思う間もなく、三匹とも屋台街の道の真ん中に腰を下ろし

(お、終わった……)

 三匹とも静かになり、落ち着いた表情を覗かせた。全てが終わってしまったかに思われたその時

「心と大地を清廉に還し給え……ピュリフィケイション!」


ーパアアァァー


 三匹を白い光の柱が包み始めた。絶望していたヴィルの鼻に粗相の結果は感じられず、また物体そのものもどこにも見られなかった。

「間に合って良かった……ヴィルさん、大丈夫ですか?」

 声の主は聖女アリーナだった。彼女がタイミング良くここに来てくれた事にヴィルはただただ感謝するのみだった。

 しかし、ヴィルに駆け寄ろうとするアリーナの行く手を男達が阻む。先程、ギルベットと共にヴィルを阻んだ冒険者達だ。

「アレン、スタイナー、そのお嬢さんを可愛がってやれ。勇者パーティーってのは気に入らねぇ。女ばっかり侍らせやがって」

 多分に嫉妬まみれなギルベットの指示に二人の冒険者達がアリーナににじり寄っていく。

「ワンッワンッ!」

「キキィーッ!」

「クエックエッ!」

 アリーナの危険を察知したであろう三匹の魔物が騒ぎ始めた。

「良いのか? 俺たちゃ正規の冒険者だぜ? 俺達に手を出したらあること無いこと言いふらしてやるからな? ほら証人もそこら中に居るしな」

 ギルベットはヴィルに脅しをかけてきた。勇者パーティーという目立つ存在というのは他者より悪目立ちしてしまうものだ。

 やってる事は大して他者と開きがないにも関わらず悪し様に噂されたりなどは日常茶飯事と言える。

「くっ……!」

 この騒ぎに街の人々が野次馬としてヴィル達の周囲に集まり始めていた。

「何の騒ぎだ?」

「勇者様と他の冒険者とのイザコザらしいぜ」

「他所でやってほしいもんだぜ」

 事の経緯を知らない野次馬達がどんな噂を流すかなど今のヴィルには知りようが無い。

 しかし、これまでのヴィルヴェルヴィントの日頃の行いのせいか、良い噂は流れそうに無いのが現実だ。

(何とか穏便に場を収めないと……喧嘩なんてやってる場合じゃ……)

 自分以上にパーティーメンバーや他の関係者達に気を使うヴィルであったが

「へっへっへっ、可愛い聖女様じゃねぇか。なぁ?」

「ベテラン冒険者の俺達が手取り足取り教えてやっからよぉ!」

 今にもアリーナに手を掛けようとするアレンとスタイナーの二人の声と

「こ、こないで下さい……! ヴィルさん……!」

 アリーナから助けを呼ぶ悲痛な声が聞こえた時には


ーダッ!ー


 アレンとスタイナーの後ろに一足飛びで瞬時に近付いたヴィルが

「聖女様相手に頭が高い」


ーガシッ! ガシィッ!ー


「んなっ!」

「うぐっ!」

 二人の頭を鷲掴みにすると男達は動きを止める。そんな二人にヴィルは

「頭の下げ方、手取り足取り教えてやるよ」


ードガガッ!ー


「んげっ!」

「ぐわっ!」

 二人の頭を力任せに思い切り地面にめり込ませていた。

「てめぇ、手を出しやがったな! 皆も見ただろ、勇者が善良な市民に手を出しやがったぞ!」

 ギルベットが鬼の首を取ったかの様にこれ見よがしに騒ぎ始めるが

「え〜と、どう見ても倒れてる二人が悪くね?」

「だよなぁ。聖女様怯えてなかったか?」

「デュフフッ! 聖女様が無事で何よりでござるよ」

 どうも街の人達の反応はギルベットの思惑通りには動いていない。野次馬の男性比率が高い事もあってかアリーナの肩を持つ側の人間が多い様だ。

「ギルベット、ここは退いてやる。だが、俺の仲間に手を出したら落とし前は付けさせてやる、気を付けろ」

 ヴィルは背後で騒いでいるギルベット達を睨みつけながら吐き捨てると

「アリーナ、すまなかったな。危ない所を助かった、ありがとう」

 アリーナにお礼の言葉を述べながら、経緯が分からず困惑している彼女に

「詳しい事は後で離す。今はここを離れよう」

 と穏やかな顔で話し掛けながら、三匹を連れヴィルは屋台街を後にするのだった。

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