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魔法使いフェイ  作者: 川木
ベルカ街
95/202

94 弓

 昼食後は街を一通り見て回る。何となく冷やかしで他にも服屋や小物屋、食品店なんかも見て回って、通りが変わって、防具屋、薬屋、武器屋が並んでいる。


「あ、私ちょっと弓矢見ようかしら。いい?」

「うむ。いいが、あんまり消費しとらんじゃろ?」


 矢は基本的に回収している。フェイの魔物除けのおかげで、獲物からそれてしまった矢を探す余裕もあるのでほぼ回収できているし、最近は依頼自体こなしていないのでストックは34本で今日1日で考えれば充分にある。


「そうだけど、ちょっと矢羽が気になるのよね」


 もちが良くなっただけに、矢羽が少々傷んでいて抜け毛が出ている。数本は抜けが多く軌道が曲がってしまうものもあり、捨てるのに忍びないが使えないので矢筒の中から抜けないようまとめて眠らせている。

 それ以外のものも同じだけの古さなのでもし良いものがあれば買い換えてもいい。幼い頃は羽根を拾って付け替えてたこともあったが、素人細工なので出来には限界があるし、糸や特殊な粘着材も必要で今細々とした物を買うよりは買い直した方が早い。


 羽根の付け替えを依頼するとその間弓矢がなくなってしまうし、そもそも基本的に弓矢は使い捨てが一般的だ。獲物から逸れたり間違って木に当たったりしても、欠けたり見失ったりしてしまう。

 リナの腕がよくあまり外さないことと、貧乏性なので獲物から引き抜いて矢尻をとりだりして多くを再利用しているが、普通は弓矢は使い捨てだ。なのであまり矢羽根の交換はしてくれる店自体がない。


「そのようなものか」


 剣も殆ど使わないので手入れもたまにリナにしてもらってるだけのフェイは言われても全くぴんとこないが、とりあえず頷いておいた。


「そうなの」


 そんなフェイの真顔の頷きに、わかってないなと察しつつもスルーして店に入る。武器屋とひとまとめにしているが、小さな店だと剣だけ、槍だけ、と一種類だけの店もあるが、今回入ったのは 大きめの店で、剣も槍も弓も扱っているのは外から見えていた。


 矢が並ぶ区画に進む。一本出して見ると、思いの外矢が短い。それほどの違いではない、ほんの3センチほどなので弓に詳しくないフェイではその違いは並べなければ気づかないが、リナが気づかないはずがない。


「あの、これよりもう少し長い矢って、売ってませんか?」

「ん? あー? うん、お前さん、西側から来なさったな?」


 リナが一本の矢を持ち出して、それよりちょっと指を付け足して長さを示しながらカウンターに座っていた店主に尋ねると、店主は眼鏡をかけなおしながら質問を返してきた。


「え? は、はい」

「こっから東はその長さで統一されてんの。悪いけど、ないな。あ、修繕ならするから、矢持ってきたらするよ。それかオーダーしてくれんなら作るけど」

「そ、そうだったんですか。ん、とじゃあ、今度持ってきます」

「はいよ。ま、他のも見といたら。短いほうが使い勝手いいしさ」

「はい」


 食材にも地方性があるが、もちろん武器にだって地方ごとに特色がある。剣なんかは長さや重さが違っても丸々交換するのが当然だが、弓矢は弓まで交換しなければならないので世界中同じものを使ってほしいものだ。と勝手なことを思いながらリナは言われたように使えない弓も見てみることにした。

 改めて弓や弓矢が並ぶ区画へ戻る。フェイは黙ってその後をついてきて、弓を覗き込みふむふむと訳知り顔で検分の真似をする。


「んー」

「お、リナ。これは強そうじゃぞ」

「弓にトゲトゲは必要ありません」

「何を言う。これがあればいざ近づいてきた時にぐさりと」

「その為に剣も持ってるじゃない。と言うかそんな店員さんみたいに勧めてこないでよ。フェイからだと断りにくいじゃない」

「別に断らんでもいいんじゃぞ?」

「断る」

「断っとるじゃないか」

「そりゃあね」


 フェイの勧める両端と中央に前方に向かってトゲが生えている弓は無視して、リナは一つのこれまた小振りな弓をとった。今使っているものの半分近い小ささで、これでは飛距離も威力も望めないだろう。

 しかしどうも連射性に特化しているようで、弦が2本張られている。弓の置いてあった場所に置いてある説明書きによると、2本共に矢を同時に構えられるようになっている。弓自体が二重になっており、弦同士を同時に構えらるように真ん中にひっかけがついていて、引っかけのボタンを押すとそれぞれの弦が離されるし、同時に2本射ることもできる。

 発想としては面白いが、二重の分照準がつけにくいし、小さいが2つ分なので重さも普通の弓と同じだし、肝心の威力を考えると実践的とは思えない。

 説明文の締め括りには同時発射の素晴らしさに意中の相手も一撃で射止められますとある。なめてんのか。道楽用だろう。


「リナ、これはどうじゃ? 腕につけるタイプじゃ」


 フェイが掲げて見せたのは、弓本体を腕にバンドで固定できるようになっている、これまた小型の弓だ。手が空くのはいいが、やはり威力が問題だ。リナは確かに身体強化がある現状では剣の方が何かと早いことが多いが、それでも弓自体に思い入れもあるし、やはり飛び道具は便利だ。一番得意で、自信もある武器だ。サブではなくメインの1つとして使うことはやめたくない。


「うーん、やっぱりサイズは今のくらいがいいのよねぇ。これくらいならありだけど」


 大きな弓を手に取る。と言っても小型の弓に比べて大型と言うことで、リナが持つ弓より一回りとはいかないが少し小さい。同じ矢を使うことはできないが、弓ごと買い換えれば代替は可能な大きさだ。


「では買い換えるのか?」

「んー」


 今使っている弓は冒険者となってから稼いだお金で何とか貯めて買ったそれなりの品だ。とは言え別に思い入れがあって買い換えない訳ではない。頑張って貯めた分、よいものなのでまだまだ現役だ。多少すり減って汚れたりしているが、捨てるなんて勿体ない。

 しかしここで大きさの合う矢を手に入れようとすれば、オーダーメイドで頼むしかないだろう。となるとランニングコストが高い。いつまでここにいるかは決まっていないが、進むとするならより東だろう。となれば弓の買い換えは十分な検討対象となる。


「まあ、また今度にするわ」


 一通り弓を構えたりしてみたが、今すぐ買い換えねばならないほど切迫しているわけではなく、今すぐ買い換えたいほど魅力的なものもなかった。

 結局貧乏性なリナは現状維持を選択することにした。










「よし、私の弓を見たんだし、次はフェイの番ね」

「ん? と言われてものぅ。わし、武器とか基本ないしの。リナの短剣があれば十分じゃ」

「んー、それはそうだけど、フェイって防具も殆どつけてないじゃない。私も随分軽装ではあるけど」


 リナは身軽さを強調するために金属鎧は避け、依頼時には皮鎧の胸当て、膝当て、肘当てに皮手袋を身に付けている。これは最低限だし、フェイの身体強化のおかげで多少の怪我をするはずの衝撃も平気になっているので、確かにあえて重装備する必要もない。

 それでもフェイの格好はラフ過ぎる。今更ではあるが、固定パーティーを組んでからはほぼ旅をしていた。ここで腰を据えて改めて依頼をこなしていこうと言うのだ。装備を見直すいい機会だ。


「防具……おおっ、そう言えばすっかり買うのを忘れておった」

「え、本気で言ってる?」

「む? 何故じゃ?」

「いや、単に魔法を使うし必要ないから買わないのかと思うじゃない?」

「何を言う。それはそれ、これはこれじゃ。格好いいじゃろう、鎧」

「……」


 フェイが防具なんて不必要だと言ったり、こだわりがあって身につけないなら説得しなければならないし、話が早くていい。いいのだが、まさか単純に買い忘れていただけで、今まで防具を何一つ身につけなかったなんて、そんな馬鹿な話があるだろうか。リナが思う以上にフェイはアホだった。その事実になんとも言えず、リナは沈黙した。

 

「ん、どうしたんじゃ? そうと決まれば早く行こうではないか」

「え、ええ。そうね。ええ、フェイ、好きよ」

「む、なんじゃ。唐突に。わしも好きじゃが?」

「うん、そうね、うん」


 フェイの馬鹿さ加減には呆れるが、しかしまあ、偉大なる愛の前には些細なことだった。リナは気持ちを切り替えて、さてフェイにぴったりの防具を選ぼうと気合いをいれた。


「あそこじゃな!」


 フェイが嬉しそうに揚々と前方にある鎧を飾っている店に向かった。

 リナはそれを追いかけつつも、どうやって説得するかと頭を回転させる。フェイが入ったのは見るからに重そうなフルフェイスのヘルメットまでついた金属鎧だ。もちろん強化している身では身に付けることも容易だろうが、そんなものフェイに身に付けさせてたまるものか。可愛い顔が見えないではないか!


「フェイ」

「む、なんじゃ?」


 店内で嬉しそうに鎧を物色し出すフェイの肩をたたく。フェイは楽しそうに振り向く。それににっこり笑いかけながら提案する。


「ここは金属鎧専門店だしやめましょ」

「金属じゃから格好よいのではないか」

「皮鎧の方がずっといいわよ。かさばらないし、邪魔にならないし、夏も暑すぎず冬は暖かいわよ」


 まさかの金属鎧専門店での金属鎧ディスりに店主がぎろりと睨んできたが無視をする。天然で気づかないフェイはリナの物言いに、ちらと飾られてる鎧を見て右手を顎に当てた。


「……うーむ、確かに、冬場は寒そうじゃし、夏場は暑そうじゃの」


 リナにそう言われては、きらきら輝く金属鎧は冷たそうだし、夏場はフライパンになりそうに見えてきた。


「そうよ。私とお揃いの皮鎧にしましょう」

「む。お揃いか。うーむ、それもいいのう」

「そうでしょう。じゃ、あのお店はやめて、あっちね」

「……うむ。そうするか!」


 説得に成功したリナはほっとしながら、フェイの手をひいて誘導し、別の皮鎧を外から見えるように飾っている防具屋に移動した。









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