90 青樹液、黄金猫3
突然フェイ達に声をかけてきた不審者の言うことには、寄生パーティーしてんじゃねーとのことなので、フェイ、実力を見せつけることにした。
てな感じの前回のあらすじ。
とりあえず2パーティーともが青樹の蜜採取をしている最中なのでそれを終わらせ、お昼を食べることにした。その間にフェイが魔法使いであることはどや顔で説明したので、一応寄生パーティーでないことは理解されたが、魔法師に詳しくないガブリエルたちには実力がぴんとこない。なのでやっぱり、実力を見せつけてやることになった。
「てか兄ちゃんさぁ、フツーに魔物除けできるだけで、少なくとも青樹採取ではかなりお役立ち系だと思うんだけど。どなの?」
ガブリエルの妹、ベアトリスが呑気な声をあげる。
魔物除けの魔法を使っていると言われてやったーラッキーとばかりに警戒をやめている。
魔物除けの効果を持つ薬品自体は一般的に流通している。よく用いられているのは液体薬品を散布するものと、固形薬品を置いて匂いを使うものだ。
固形薬品は範囲がそれなりに広く移動しながらも使える。匂いなので遠く離れるほど効果は薄くなるが、鼻が利く魔物全般に効果がある。半面、匂いにうといものには効果がないが。
液体薬品はすべての魔物に対して効果があることが立証されていて、かつ効果も高い。しかし基本的に散布した範囲しか効かない上に、乾燥するまでしか効かない。また特殊な製造方法で他国で作られているため、この辺りで手に入れようとすればかなり高価だ。
液体薬品はべらぼうに高価だが固形薬品もそれなりに高く、裕福なものだけが使っているのが現状だ。万が一の為に持っている人は多いが、少なくとも採取の日帰り依頼で使っていれば赤字になるので使われることはない。
それが無料で使えるのだから、魔物を討伐しないた採取系ではそうとう便利だ。
「つってもよぅ、黄金猫はいたしな。あんま効果がないんじゃないか? 大鎌蜂が来なかったのもたまたまじゃないか?」
「一応、さっきから来ていないようだけどな」
「失礼じゃな」
ベアトリスはあっさり警戒をやめたが、初対面でその言葉をあっさり全て信じるようなお人好しだけではない。と言うかそれが普通だ。改めて自己紹介をしてから昼食が開始されてからも、カルロスは黙って立って回りの警戒を続けている。
実感していない以上仕方のないことかも知れないが、失礼には違いない。フェイは唇を尖らせた。
「魔物除けの魔法にも種類があるんじゃ」
魔物除けの魔法も薬品と同じようにタイプがいくつかあるが、完成された薬品とは違い魔法は手元で一から魔法陣をつくるものなのでアレンジが可能なのだ。もちろん魔法陣が彫りこまれた魔法具の魔法陣は変えられないが、フェイは多少時間がかかるが魔物除け自体は魔法具なしで使える。
今回はこの辺りの魔物を見てみようと言うことで魔物除けをしないことにしたが、採取中は虫系がやっかいと依頼書にあり、木が見えた辺りから虫系の魔物は除外する魔物除けを展開していた。かつ多少気を抜いてもいいように別途、魔物が近寄ってきたら気づけるような結界もどきも展開していたが、黄金猫は普通に寝ていてフェイたちから近寄っていったからか引っ掛からなかった。
と言うことを説明するが、素直にほーと感心した顔をしたのはベアトリスだけで、他二人は半信半疑な顔だ。
「まぁまぁ、フェイ。今から証明するんでしょ? ならいいじゃない」
「むー。そうじゃけど」
「ほら、頬にソースついてるわ。拭くからほっぺただして」
「む」
「ん。はい、綺麗になった」
今日のお昼御飯は揚げ魚のトマトソース煮の入ったお弁当だ。もちろん、朝に宿を出るときに買ってきていたのだ。
口から少し離れた頬のまん中にどうやって飛んだのかソースがついていて、頬をつき出すように顔を寄せてくるフェイにリナはハンカチでふいてあげる。
フェイとしては積極的に甘えるつもりはないが、リナが積極的に世話を焼こうとしてくるので、それを拒否するつもりはない。
「おい、だからそう言うのが……いや、まぁいいのか」
魔法師だとしても、普通におかしいとガブリエルは思うのだが、まだ実力も知らないし、実力があるなら単に二人の問題だしけちをつけるのもまたおかしいことだ。
ガブリエルは喉まででかかった言葉を飲み込んだ。
○
「でも、実力を示すと言っても何する?」
「うーむ。依頼はこなしてしまったしのぅ。ガブリエル、何かあるかの?」
「ああ、そうだな」
ガブリエルはベアトリスとカルロスに視線をやる。ベアトリスは訳もわからず首をかしげ、カルロスはこくりと頷いた。そのカルロスの反応にガブリエルは頷き返してから、フェイに向かって高らかに告げる。
「度胸試しと言えば決まってる! 毛長獅子のヒゲ刈りだ!」
「うむ、わかった」
「……もうちょっとこう、びびるとか怖じ気づくとか、逆にやる気をだすとかないか? 毛長獅子だぞ?」
「ぬ? すまんが、その毛長獅子を知らんからな」
「ちょっと、そんなに強い魔物なんですか?」
「強いけど危険じゃねーって、てか敬語やめろよ」
ガブリエルの不満げな態度にリナはまた半目でガブリエルを睨み付ける。ガブリエルは頬をかきながら、毛長獅子について説明をする。
毛長獅子は猫科の大型の魔物だ。猫とは言え、さっきからフェイの膝の上に大人しく座っている黄金猫とは全く違う。
獅子のような魔物で顔の回りだけではなく、背中にもタテガミが続き、長い尻尾の先まで毛がはえている。そんなふさふさした、子供の頃なんて可愛らしい魔物なのだが強い。獲物に飛びかかる速さ、的確に首に食い付き頭をもぎとる力強さ。その顎の力強さは鰐種の魔物にも負けぬほどだ。
しかし距離を走り回る持久力はなく、また満腹の状態ではよく昼寝をしていて、満腹時は目の前を通っても反応しないほどの、比較的穏和な性格をしている。
その見事な毛並みは高額だが、当然昼寝中だろうと命の危機を感じれば全力で反抗するので命がけだ。高ランクでかつ人数も10人以上でなければ受けられない制限がされている。気配に敏感で、遠距離から弓矢で狙っても、弓を放つよりも前の構えようとした段階で気づいて起きて、襲いかかってくる。
しかしその一方で、殺す気でかからなければ驚くほど鈍感で寛容だ。そこで登場するのがガブリエルの言うヒゲ刈りだ。
猫にとってヒゲは非常に重要なものだが、毛長獅子のヒゲは1、2本抜いても起きないことがあるくらいのものだ。一説によると普通の五感では関知できない何かを関知しているとか、昔は空気の流れを読んでいたが今は劣化して何も使われていないとか言われているが、実際のところはわかっていない。
他の茶色いタテガミとは異なり、ヒゲは真っ白で固いながらもしなやかだ。高級ランプの芯として使用されるため、金額は比較的高いが、昼寝中の毛長獅子なら大事になる可能性が低いと割のいい仕事だ。
昼寝中の毛長獅子が目を覚ましてしまい、万が一虫の居所が悪ければ大怪我をおう可能性があるが、ベルカ人は持ち前の優れた感覚から目覚めて動き出す瞬間の前に気づいて退避でき、基本的に目覚めてすぐに立ち上がって追いかけてくることはないので、今のところ大怪我したと言う報告は希だ。
その為ベルカ人の中級者のランクの冒険者たちの間では、度胸試しとしてもよく使われている。
むろんそれはベルカ人にとってだが、起きそうなら教えればいいし、何なら胴体に紐をくくりつけておいて、いざとなれば引っ張りあげればいいとガブリエルは定番のヒゲ刈りを提案したのだ。
「てな訳だ。どうだ」
ガブリエルの説明を聞き、ふむ、とフェイは頷いてリナの顔を見た。リナとしても別にメチャクチャ危険な無茶ぶり依頼ではなく、普通に経験者と一緒にするには妥当に聞こえるので頷き返した。
「そんなに危険はなさそうね」
「そうじゃの。しかし、これ実力関係あるのかの?」
「うーん。まあ、いいんじゃない」
「おいおい、いくら俺達がいるからって、気を抜いたら命の危険があるのを忘れるなよ。つーか、その度胸があるのかをはかるテストだからな」
「わかっておる。では、するかの」
「……おい、エメリナ、フェイ本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。万が一の時も自力でなんとかできるから」
「ほんとかよ」
リナとしては万が一の時は毛長獅子を倒せるくらいできるだろうと伝えたつもりだが、ガブリエルは逃げるくらいできると受けとる。しかしその逃げるさえ半信半疑になるほど軽い態度のフェイに不安を隠せないガブリエルは、万が一のためのロープを取り出して強度を確認しておくことにした。
このロープでフェイを一本釣りできれば、大怪我をすることはないだろう。
そんなガブリエルを横目に、そんな心配ならそもそも毛長獅子を提案しなきゃいいのに。とベアトリスは呆れ、カルロスはまたかと小さくため息をついた。
ガブリエルのお節介で勢い任せで心配性なところは、昔からパーティーをくんでいるカルロスはよく知っている。面倒なことになったと思いつつも、いつものことなので諦めた。
にゃーんと、呑気に黄金猫がまるで飼い猫のようにフェイの膝の上で寝転がってないた。午後の予定は決定した。
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