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魔法使いフェイ  作者: 川木
ベルカ街
89/202

88 青樹液、黄金猫

「結構です」

「間に合ってます」

「お気遣いなく」

「迷惑です」


 ここまではっきり断って、ようやくナンパ男は諦めた。一応フェイと言う男の子の連れがいる状態でナンパに遭うのは初めてだ。しかもしつこい。朝から気分が悪い。

 リナはうんざりしつつも、フェイを促した。フェイは珍しくつっけんどんに他人を拒絶するリナに首をかしげつつも依頼書を選んだ。

 依頼は無難に難易度の低めのものを選んだ。見知らぬ土地で見知らぬ魔物相手に、意味もなく無謀なことをする理由もない。


 選択したのは2つ。

 青樹の蜜採取と黄金猫の捕獲だ。青樹は葉っぱが青く、それに反して蜜はとろりと金色で甘く、この地方で人気の甘味料だ。黄金猫は愛玩動物として他領で人気があり、ここまで買い付けに来ている商人が出している依頼だ。

 レベルとしては初心者が受けるレベルだが、回りの景色も殆ど見ないまま空からやって来たので、このくらいが空気を見るのにちょうどいいだろう。


 受付の際にやや不躾な目を向けられたがスルーする。ランク50はどうしたって珍しいのだろう。

 2人は街の外へ出た。草原と言うには木々があり、森と言うには木が少ない。そんな平原だ。街から近い視界に入るあたりには大型の魔物や動物は見えないが、数羽の鳥は見えた。鮮やかな赤色の羽をつくろっている。


「ふむ、さて、何処へ行くかの」

「とりあえず散歩しながら、青樹を探しましょうか。あ、魔物除けはきってね」

「うむ」


 散歩がてらゆっくりと歩くが、魔物除けを切っている以上いつ魔物がくるかわからない。慎重に油断なく、二人は歩みを進める。

 しばらく歩くも、特に問題はなさそうだ。少なくとも問題となるほど大きな魔物は近くにいない。散歩と言うことだし、話でもしながら探すことにした。


「しかし、さっきは驚いたのぅ」

「え? 突然どうしたの?」

「いや、さっきリナ、あの声をかけてきた男にやたら冷たい態度じゃったじゃん?」


 先ほどから少し気になっていたので聞いてみた。リナは今日は機嫌が悪いのだろうか。いつもちょっと怒ったりしても、すぐに気持ちを切り替えてくれるリナなので、少なくとも関係ない他人に八つ当たりするようなことはなかったのに。


「ん、そりゃ、ナンパに優しくして勘違いされたら困るじゃない」

「なんぱ? なんじゃ、あの男は知り合いじゃったのか?」

「いや、名前じゃなくて、えっと」


 ナンパの意味を尋ねられて、リナは言葉に迷う。フェイの世間知らずが出てきたか。妙に俗っぽい言葉も知っていたりするくせに、こうして抜けていることがあるからあなどれない。

 しかしどう説明するべきか。基本的一つの単語の意味を別の言葉で説明するのは難しい。


「通りすがりの異性に対して、仲良くなるためのアプローチをすること、かしら?」


 これが無難だろうか。フェイの様子を伺うと、フェイはきょとんと可愛い表情を見せている。


「あやつはリナと仲良くなりたかったのか」

「まあ、そんな感じね。だいたいああ言うのはしつこいから、キッパリ断ることにしてるの。別に機嫌の良し悪しは関係ないわ」

「ふむ。そうか」


 今までの依頼の誘いでも、一緒に依頼をすれば自ずと知り合いにはなるし、言葉だけなら同じようなものにも聞こえたが、リナの態度からどうも違うらしい。それに普通に親しくなる分にはいいが、あんまり仲良くなられるのも微妙だし、まぁいいかとフェイは納得しておくことにした。

 フェイにとっては意味不明な男より、リナが不機嫌でないと言うことの方がよっぽど重要だ。


「まぁ、リナの一番の仲良しは今私じゃけどな」

「そうね。フェイが一番だわ」

「そうじゃろうそうじゃろう。わしもリナが一番じゃ!」

「わしになってるわよ」

「おっと。私もリナが一番じゃ」


 回りに人がいない時は自然に私が使えるようになっていたが、それもあくまでフェイが意識してのことだ。テンションがあがったり、興奮すると度々わしになっている。

 普段がわしなので、それも無理のないことだが、しかし最近はリナとしても、もうわしも可愛いかなと思えてきた。フェイは何をやっても可愛いし、わしって言ってるのもフェイならありに思えてきた。しかし今さらいいよとも言えないし、何よりリナにだけ特別に私と女の子らしい姿を見せてくれるのだ。それはそれでその事実だけで嬉しいので、フェイが嫌がらない限りお願いするつもりだ。


 (それにこうして、2回も一番だって言ってもらえたしね。あー、他意ないってわかっててもにやける!)


 リナはにやける顔をさりげなくフェイからそらしつつ、こんな会話の流れをつくったもう顔も忘れたナンパ男に密かに感謝した。


 それからも雑談をしつつ辺りを見回して歩いていると、途中遠くに大型の魔物が大群で寝転がっているのが見えたが、今回のターゲットではないので放置する。他にも数種類の魔物を見かけたが、今回のターゲットではないので、襲いかかってきた魔物も追い払うだけにとどめた。

 それからさらに歩いていると前方の地平線近くに青いものが見えた。わさわさ揺れる葉っぱが青い、青樹だ。


「あれじゃない?」

「おお、確かに」

「じゃ、ちゃっちゃと、て、あら? もうすでに何人かいるみたいね」


 少しまとまっている青樹の木々の根本に、よく見ると数人の人影が見える。ここまでで見かけた人はスルーするか会釈で終わったが、同じ依頼を同じ場所でするならそうもいかないだろう。

 ナンパ以外でこの街の冒険者と関わるいい機会だ。その街在住の冒険者ほど、詳しく頼りになるものはない。


「声かけてみましょうか」

「うむ、ナンパじゃな」

「……違うからね」


 覚えたての言葉を意味を、百パーセント理解しないまま使いたがるのを、可愛いと思って今まで何も言わなかったが、しかしそれも単語によるな、とリナは注意するべきか迷った。

 しかし結局口には出さず、否定されて首をかしげるフェイの頭を撫でて、青樹へ近づいた。








 ガブリエル・アマトリアンは幼馴染みでパーティーメンバーのカルロス・カンパーノと一緒に、2つ下妹のベアトリスのランク上げに来ていた。

 ガブリエルとカルロスはランク23と22で、ベアトリスは19だ。もう少しで20に上がると言うことで、金額や内容よりもポイント重視だ。

 と言うことで受けたのは青樹の蜜集め。これが中々手間なのでポイントは単純な狩りより上なのだ。ベルカ人は通常の人類より筋力が高い。たいした訓練をしていなくても、それなりに闘えるほど、身体能力と獲物に対する感覚が優れている。

 その為、他の地域と比べて狩りのポイントは下がり、代わりに細かな手順が必要となるものなどのポイントが高くなっているのだ。


「ん? 兄ちゃん、誰か近づいてくるよ」

「わかってるから集中しろ」


 青樹は枝を根本から切り落とすと、そこから樹液を出す。樹液はあまり空気に触れさせると劣化してしまうので、その際には切り口のすぐ近くに瓶をそえて、じっと待たねばならない。それだけなら大したことがないようだが、その甘い臭いにつられて虫や魔物が寄ってくる。

 特にその中でも大鎌蜂と言う魔物が厄介だ。甘い蜜をとろうと的確に樹液の吹き出し口を狙ってくる。また毒を持つため、樹液に触れている状態で殺すと全てが使えなくなってしまう。

 一人が樹液をとりつつも、他の人間がちまちまと大鎌蜂が近づかないように一匹一匹殺さねばならないため、非常に手間と時間がかかる。その面倒さが不人気となり、ポイントが高くなっているので仕方ないが、しかし面倒には違いない。


 そんな依頼なので、鉢合わせすることは珍しいが、こちらへやってくるのはベルカ人ではないようだ。この街でベルカ人以外の冒険者は珍しいので、ある程度その顔を知っているが、近づいてくるのは見ない顔だ。

 特に小さい方は独特の匂いをしている。ガブリエルは鼻をならした。


「すみません、私たち青樹の蜜の依頼を受けたんですけど、そっちの木からもらってもいいですか?」

「おう、好きにしろよ」

「ありがとうございます」


 冒険者に似合わない馬鹿丁寧な口調で弓を持った女が話しかけてきた。小さいのを促して俺たちから数本離れた青樹木に近寄る。


「フェイ、瓶だして」

「うむ」


 女が頭の高さの枝に手をかけながら小さいのに手を向けると、小さいのがポケットから瓶を出した。ポケットより瓶の方が大きく見えたが、気のせいだろう。

 やはりと言うか、二人はここに来たのははじめてのようだ。この青樹の木は固く、素手でなんて折れない。仕方ない。アドバイスの一つもしてやろう。


「お」

「ありがと、よいしょ」

「え」

「? とと、結構勢いよくでるのね」

「うむ。甘い匂いがするのぅ」


 声をかけようとした瞬間、女が小枝を折るように自分の手首ほどの太さの枝を折った。は? 普通はもっと細いのを、剣で何とか切るものだ。

 思わず声を出したガブリエルに、女は一瞬怪訝な顔をしたが、すぐに飛び出た蜜を瓶で受けにいく。


「この分ならそれほど時間はかからんな」

「そうね。あ、そう言えば蜜取りおわったら、塞がなきゃいけないわよね。どうする?」

「なに、そうなのか」

「取り終わっても出続けてたら可哀想じゃない」

「おお、そうであったか。ふむ…いっそもう少し幹からえぐって、枝を突き刺すか」

「んー、まぁ、それでいいか」


 のんびり二人は話をしているが、すぐに虫が、と、こんな風に話を盗み聞きしている場合ではない! ガブリエルもまた仕事中だ。虫を追い払わねば!


「カルロス」

「ん? どうした?」


 慌てて相棒を振り向くが、反対側を向いていたカルロスは半身こちらに向けて、視線で尋ねてきた。どうやらまだ虫や魔物は来ていないらしい。


「すまん、ぼーっとしてた。虫は?」

「大丈夫だぞ。なんかさっきからぴたっと来なくなったし」

「そうか」


 それからはまた黙って見張りを再開した。しかしこの距離で、一度気にかけてしまえば、二人は声を落としているわけでもないので、ベルカ人の鋭い聴覚は意識しなくても二人の会話を拾ってしまう。


「リナ、とりあえずこれが終わったらお昼にせんか?」

「んー、まだちょっと早くない?」

「そんなことはない。久しぶりに回りを警戒したからの。ちと疲れた」

「まー、そりゃあそうかもだけど。と言うかフェイはもうちょっとくらい普段から警戒してもいいわよ」

「問題ない。わしが気づかんものはリナが気付くじゃろ」

「そうだけど。まぁいいわ。お昼にしましょ。それで、終わったら黄金猫よ」

「どんな猫かのぅ。可愛かったら撫でたいの」

「じゃあ私は猫を撫でるフェイを撫でるわ」

「お主は何を言っておるんじゃ」

「いいじゃない。撫でたいんだもの」

「よいけども」


 何とも警戒心のない二人だ。いくらこの街が初めてでも、この依頼を受ける程度なのだから冒険者初心者ではないはずだ。なのにまるで街中にいるかのようなリラックスモードに、ガブリエルは呆れてしまう。

 話し方から小さいのは男のようなのに、普段から警戒せずに女に任せきりのようだし、情けないやつだなと思ったが、まぁ別に二人が死のうが知ったことではない。

 この地方の流儀に戸惑うようならアドバイスの一つもしてもいいが、警戒するなんて全世界共通だ。そんなことまで言ってやる必要はない。


「よーし、兄ちゃん、カルロス、終わったよ」

「そうか」


 ベアトリスがようやく瓶が満タンになったので、笑顔で振り向いた。









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