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魔法使いフェイ  作者: 川木
ムーリア村
85/202

84 薬草摘み5

 少しばかり探索をしていると、すぐにリム草は見つかった。すでに飛行の時点でそれなりに奥へ着いていたのだ。

 後は問題もない。リナが教えられていた通りにリム草の花を採取し、鞄の中へしまって空へ出て、森の前まで戻ってエイダを解放する。


「遅いわよ!」


 放置されていたエイダは激怒したが、二人がキチンと採取して来たことを伝えると、


「先生呼びにいくから家に行っといて!」


 と叫んで走り出した。飛んで追い付き、途中で回収してから村へ戻る。

 先生と呼ばれた薬師を呼び、薬を調合してもらって飲ませた。それから後は本来二人の関知するところではないのだが、容態は落ち着いたらしい。


「フェイ、エメリナ、ありがとう。えへへ、まあ、あたしだけでも大丈夫だったけどね」

「こら。すまんな。本当にありがとう」


 薬があれば問題ない病気らしく、このまま薬をとれば一週間ほどで完治するだろうと言うのが薬師の見立てだ。


「ねぇ、フェイ。あのさ、あたしも、二人みたいな冒険者になれるかな」

「ん? そうじゃな。なれるじゃろう」

「うん! じゃあ、フェイみたいな魔法師探すね!」

「わしは魔法使いじゃよ」

「魔法使い? ん、わかった! 頑張る!」


 エイダはにっこり笑った。勝ち気な子供だ。その後バリーとエイダにお礼を言われて、せめて夕食でもと言われたがまだまだ時間はあるし、母親に付き添いたがっているエイダの邪魔をする必要もない。

 二人は気にしないように言って、家を出た。


「さて、まだ余裕はあるけど、宿とっちゃったし、泊まりましょうか」

「うむ。そうじゃな」


 宿屋に戻り、荷物をおろす。

 それぞれのベッドに腰を下ろす。大した運動量ではなかったが、気持ち的に少し疲れたリナは息をもらした。


「ふぅ……ねぇ、フェイ」

「ん? なんじゃ?」

「今日、その、大人げなくてごめんね」


 フェイが百パーセント正しくて、リナが百パーセント悪かったと思ってるわけではない。考え方が違うだけで、正しいも間違いもないだろう。

 だけど少なくともリナの態度はなかった。そしてフェイの考えを受け入れると決めたのだ。謝るのが当然だろう。


 元々リナには断らないといけない理由があったわけではない。危険だったからだ。だが終わってみればあっさりと、1時間ほどで終わったのだ。そもそも、フェイの旅に付き添うと言うことはフェイの目的に協力すると言うことだ。ならばこれもけしてただの偽善ではない。むしろこれを積み重ねることで、少しずつでも名前が売れていくだろう。


「なんじゃ、まださっきのことが気になっておるのか?」


 そう思って反省したのだが、フェイはけろりとしている。先程のを喧嘩としてリナと同じレベルで認識しているかも怪しい。


「考え方が違うだけじゃろ。それでも来てくれたんじゃし、リナはやっぱり優しいの。ああは言ったが、別にパーティーメンバーじゃからって、全ての依頼を一緒にせねばならんと言うわけでもないし、行かんと言う選択肢もあったじゃろ?」


 来てくれないかなと思ったし期待して、実際来てくれて嬉しかった。それでも別に来ないからってリナが悪いのでもないし、主義主張が合わない部分はそのままで、フェイだけが個人的に依頼を受ければいいと思っている。

 フェイとしてはリナの意見も怒った理由も理解しているつもりなので、それほど気にすることでないのだ。


「そうだけど、だって、私、フェイとずっと一緒がいいんだもの」


 フェイの考え方は正しい。押し付けるのではなくお互いの妥協点でいいということだ。だけどまるで来なくてもよかったけど、みたいにも聞こえて、リナはつい言い訳するように言ってしまう。言ってしまってから、その言葉の恥ずかしさに頬を染めた。


 そんな風に赤くなってうつ向くリナに、フェイは可愛いなと思った。フェイにとってリナは美人でいつも頼りになるけど、こうして甘えるような子供っぽいところを見せてくれるとたまらなく可愛くて、何だかちょっとだけ、ドキドキした。こんな態度をするのは、フェイにだけだろうから。


「そうか、わしもじゃ。じゃからリナが、主義を曲げてでも来てくれて、嬉しい」 

「……うん。もう、いいの。私が変に意固地になってただけだもの。これからはどんな依頼でも、一緒にするわ」

「よいのか?」

「いいのよ。そう決めたの」

「そうか」


 フェイは嬉しくてたまらなくて、にこにこ微笑む。そのとろけそうな幸せそうな笑顔に、リナの頬はさらに熱を持ってしまって、少し困るけれど、相手が相手なので察せられることはないだろう。

 それは事実なので、リナが隠そうとするかぎりフェイが自力で気づくことはない。今だってフェイはリナのことを可愛いとは思っているが、リナの態度がおかしいなんてちっとも気づかず、それどころか自分が恋をしていることさえ気づいていないのだから。








 翌日、エイダとバリーに見送られて村を出た。そこからまた空の旅だ。

 手を繋いだまま地面から10センチほど浮かんで飛んでいく。最初こそギリギリを早いスピードで移動するのは少し怖くあったが、別に足先が地面にこすれてもちょっと躓いた時程度の衝撃で痛いと言うこともなく、まかり間違ってよそ見をしていて岩にぶつかってもちょっと痛いくらいだ。

 虹が見えたからと言って二人でよそ見をするべきではなかったと、よい教訓になった。


「ねぇ、フェイ」

「なんじゃ、リナ」


 移動の間はどうせ暇だ。今後の方針をまとめておこうとリナはフェイに声をかける。


「昨日の感じで、報酬関係なく人助けする方針と言うのは納得です」

「なんじゃ、急に敬語で」

「いいじゃない。なんとなくよ。で、納得なんですけど、それならそれで、どうせならもっと名前とか、アピールする方向でいかないの?」

「ん? どういうことじゃ?」

「いや、だからさ。人助けして、名前を覚えてもらうことで、フェイの目標に近づくじゃない? どうせならもっと、フェイが凄い魔法使いだってアピールしたり、助けたお礼代わりにフェイのことを広めてもらうとか、そう言うのをしないのってことだけど」


 フェイが目的の為に人助けをするなら、もうリナも開き直ってフェイの為に偽善者でも正義の味方でもなんでもなろう。でもどうせやるならきっちりしっかりが性分だ。

 フェイの高く大きな目標のためには、フェイの存在と凄さのアピールはやり過ぎたってやり過ぎることはない。


「ん? ……ああ、なるほど。そう言う考え方もあったのぅ」

「へ?」


 しかしリナの提案は、フェイにとっては寝耳に水だった。

 目標の為にアピールとか、そんなつもりは全くなかった。フェイはただ単に困ってる人がいたから助けるべきだと思っただけだ。リナが強固なこだわりで反対したことには驚いたが、別にちょっと人助けするだけのつもりで、他意はない。


「うーむ、しかし、あえてアピールするのものぅ」


 実はフェイ、あんな大口を叩いてはいるものの、全くその目標への筋道や道程を考えていない。取っ掛かりへの模索すらしていないと言う体たらくっぷりだ。

 一応ジンのフォローで逆に焦ってからはこまめに、ちょっとずつでも魔法書の解読を進めてはいるが、偉大で素晴らしい魔法を身に付けたとして、それをどうやって名前を広げることに使うか。構想は全くない。ノープランである。


 そんなフェイの目の前にせっかくのアピールチャンスの第一歩が転がっていると言うのに、しかし自分からアピールしちゃうのもなぁ。小物っぽいなぁ。なんて贅沢な上から目線で悩むフェイ。


「そんなつもりでなかったことにもびっくりなんだけど、渋られるのにもびっくりなんだけど」

「うーむ。じゃって、大したことしとらんのに、恩にきせて無理やり私のこと伝えさせてものぅ」

「大したことないのがフェイの魔法のおかげなんだし、そこは自慢してもいいと思うんだけど」

「むぅ。しかしのぅ、なんと言うか、気が進まん」

「そう。まあそれならそれでいいけど」


 何だか肩透かしだ。無理にアピールして、アピールしたがりな魔法使いとして知られても仕方ないし、しないとフェイが決めたならそれでよいのだが。しかしまさか、単なる善意だったのか。


「……まぁ、いいか」


 肩透かしではあるが、じゃあやっぱり手伝わないでいいか、なんて選択肢はない。だって真意はどうあれ、リナはフェイと少しでも一緒にいたいから折れたのだから。

 それによく考えてみれば、フェイほどの世間知らずなら何の下心もなく、困ってたら助けるのが当たり前に思っても不思議ではない。無理にアピールするよりそれの方がよっぽど大物っぽくて、いいかも知れない。

 何より、そんな純粋に優しいフェイのことを、よりいいなと思った。


「私としては、日々魔法を勉強して、冒険者として活躍しておれば、その内誰かの目に留まって、なんとなく有名にならんかと思っておるのじゃが」

「さすがにそれは都合よすぎだけど、でもまぁ、フェイくらいの魔法使いなら、あり得ないってこともないか」


 他力本願のようでもあるフェイの願望だが、実際旅立つきっかけも、ドラゴン退治の偉業をなしたからだ。さすがに同じことが何度も起こったりはしないだろうが、意識しなくても自然とある程度名前は売れるだろう。

 さすがに世界レベルになるかはわからないが、フェイが焦っていないならいいだろう。リナにできることは、そんなフェイを見守り支えていくことだけだ。


「うむ。私、凄腕の魔法使いじゃからな」

「そうね」


 胸を張るフェイに肯定して空いている左手で頭を撫でてやると、自分から言ったくせにちょっとばかり照れ臭そうにはにかむフェイ。実に可愛らしい。きっと魔法とか全然関係なくても、可愛さで世界的に有名になりそうだと、親バカのように思うリナだった。


 (あ、でもそれでみんなフェイに惚れちゃったら困るわね)


 親だったり恋する乙女だったりと、忙しいリナだった。

 

「あ、そうそう。魔法と言えば、フェイのレパートリーやっぱり教えて欲しいんだけど」


 話がまとまったところで、リナは昨日にフェイに聞いておこうと思っていたことを思い出す。せっかくだ。魔法繋がりで聞いておこう。


「む? 前にも言ったが、言えと言われても何から言えばよいものか」

「戦闘に使えそうな魔法とか」

「うーむ」


 魔法と一口に言ってもいくらでもアレンジできるものだ。例えば種火にしている魔法だって、規模や持続時間が違えば立派な火の玉として、相手にぶつければ十分な攻撃魔法になる。

 フェイはどう答えるべきかと頭を悩ませた。








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