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魔法使いフェイ  作者: 川木
ションゴ街
74/202

73 逆魚2

「おりゃっ」

「すっ、すっっごーい! グリズリーみたいね!?」

「本気でびっくりしてるのはわかるけど、だからその何でも思ったまま言うのをやめろっつーの!」

「えー? グリズリー強いのにぃ」

「私女子! 言われても嬉しくないから」


 アンが張り切りすぎてたり、逆魚自体が泳ぎや回避が早かったり、初めてのフィールドにリナが警戒してゆっくりとした歩みだったこともあり、水掛け事件から2時間後、何とか逆魚をとらえることができた。

 と言うかもう面倒だったのでリナが突撃して右手で掴んで地面に引きずり出した。ヒレを傷つけない為に頭だけを狙う必要があるのだが、胴体でもいいから掴むだけなら、現在大型熊型魔獣のグリズリーよりも力強いリナからそう難しいことでなかった。

 なお、特に大きな個体で200キロ近くある個体であり人間業ではなく、さらにその振り上げた右手を降ろした動作と言い、まさしくアンの感想は的を得ていたが、的を得ていればいいものではない。


 アンは珍しく勢いよく声をあげていたので、真実驚いて褒め称えたつもりだろうが、それこそ考えてから話してほしい。恋ばなが好きで、嫌がるリナに乙女度数が足りなーいなんて言っていたことがあったが、今こそ言いたい。アンには乙女度がない。


「さて、じゃああと二、三匹捕まえて完了にする?」

「んー、飽きたしぃ、帰ろっかー」

「……確かに、昔からアンは飽きっぽいけどさぁ。でも、依頼中よ?」

「そりゃー、前は仕事だったけどー、今日は趣味の依頼だしぃ」

「そうだけど」


 お互いに今は金銭的に余裕があり、あくせくと依頼をこなさなければいけない立場ではない。依頼も最低数1なので問題ない。しかしどうにも、緊張感がないアンに呆れる。まだ外で、近くには沢山魔物がいるのだから、間延びした声をださないでほしい。無理なのはわかっているが。


「まぁいいわ。じゃ、帰りましょうか」


 リナはまだピチピチしている逆魚を、折角なので鮮度を落とさないように水をいれた袋につめて持ち帰ることにした。幸いにも力の差を理解したらしく、逆魚は大人しいものだった。


「ねー、リナー、ポイントもお金もぉ、私がもらってもいいのよねー?」

「怒っていい?」

「えー? もう50ランクだしぃ、お金持ちになったんでしょー?」

「そういう問題じゃないわよ。昔通り折半よ」

「はーい。リナせんせー」

「なんですか?」

「私が半分もらってもいいのー?」

「いいわよ。と言うか普通でしょ」


 確かに逆魚を一人で捕まえたが、最終的な手柄だけが大事なのではない。そこまでの警戒とか、逃がしても魔物に対する対応はちゃんとしていて、パーティーの一員としての仕事はしている。


「リナはぁ、相変わらずねー」

「なによ、私だって成長してるのよ」

「え? その胸でぇ?」

「むっ、胸は関係ないわよ!」

「だよねー、胸は成長してないわよねぇ」

「成長してないから関係ないんじゃなくて! 今の話は身体と関係ないって意味よ!」


 (確かに胸は成長してないけど! でもこれは胸当てのせいなんだから!)


 防具に置いて胸当ては当然巨乳用もあるが、リナの視界には入らぬことであった。あまりに大きい者は特注になるので店先で見かけないと言うことも、知らない方がいい事実である。

 リナの控えめな胸元は密かにコンプレックスだ。普段からそこまで気にしていないし、それほど悲観するほどではないと思っているが、さすがに成長過程から弱味から何まで全て知られてかつそれなりに大きいアンに言われると業腹である。


 なお、リナについて誤解なきよう明記しておくが、それほど悲観するほどではないレベルではなく、割りと悲観するレベルで貧乳だ。厚手の服や防具で自然と誤魔化されているが、脱いだら残念なの。全く、残念だ。


「じょーだんよぅ」

「下ネタやめてくれる?」

「大袈裟ねぇ」

「さ、戻るわよ。帰る時も気を抜かないでよ。家に」

「はーいはーい、家に帰るまでが遠足なんでしょー? 覚えてるってー」

「家に帰るまで仕事中! それじゃ遊び気分じゃない!」

「口が滑っただけよぅ」

「それ本音じゃない」


 なんでこんな残念な娘になってしまったのか、今更過去を振り返りたくなってきた。









 外でぼんやりするのは死を招くので、もちろん回想を挟むこともなく、二人はさくさく街へ帰ってきた。


「ねー、リナぁ。まだ時間あるしー、報酬でぇ、服でも買いにいかなーい?」

「えー、いいけど、私旅の途中だからあんまり荷物増やせないのよね」

「じゃー、ここに住んだらいーじゃなぁい」

「なんでよ」

「ちぇー」


 話ながら歩いているとすぐに教会が見えてきた。まだ夕方には早い時間なので、教会もすいているだろう。

 アンではないがフェイが戻ってくるのはだいたい夕食の時間ぐらいだから、それまではアンと別れても仕方ない。しかしもはやアンとしたいことがあるわけでもない。話していてもちろん楽しいし、気楽だし、一緒にいるのはいいが、別に今更だし、特別やりたいことがあるわけではない。何をしようか。


「で、ほんとになにするぅ?」

「とりあえず、換金してから考えましょうか」

「そーね」


 教会へ入ると、少し入った奥のカウンターに見慣れた後ろ姿があった。


「あ」


 しかしそれに声をかけるより早く、歓声があがってリナの声は引っ込んだ。


「やったーー! 偉い! フェイ偉い!」


 フェイの隣にいた女、マイラはきゃあきゃあ声をあげながら、隣のフェイに抱きついた。褒められたフェイは満更でもなさそうだ。


「まぁ、わしにかかれば当然のことじゃ」

「すごいぞ!」


 マイラはさらにフェイの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。あまりに乱暴なその動作に、フェイはうーと唸ってその手から逃れようとするが、抱きつかれているのでできない。


「レイモンド、何とかせい」

「わかったわかった、ほら、高い高いだ!」

「何を言っておるんじゃ!?」


 マイラと反対側にいた体格のよい男、レイモンドが勢いをつけて二人まとめて抱き上げた。ちょっとした騒ぎになっている三人組を遠目に、アンは意味なく小さな声で耳打ちする。


「ねー、なんかぁ、凄いことになってなーい? フェイ君、なんかしたのかなぁ?」

「そうね」

「……行かないの?」

「……行く」


 リナはそっと歩みを進めて、フェイに近寄った。


「…フェイ!」

「む、おおっ、リナではないか! ええい、離さんか!」


 声をかけると振り向いたフェイはにぱっと笑うと、レイモンドの胸元を蹴っておろさせ、マイラを振り切りリナに駆け寄った。


「リナ! 迎えに来てくれたのかの?」

「いえ、私とアンも依頼に出てたの」

「そうであったか。おお」


 リナの後ろを覗き込むと、まだ入り口近くにアンがいたので手を降った。アンも軽く手を振り返しながら歩いてきた。


「やほー」

「うむ、やほー、じゃ」

「わぁ、フェイ君は可愛いねぇ」

「む、むぅ? そうか、ありがとう」


 唐突な褒めにフェイは困惑しつつも頷いた。そんな三人の様子を見ていたマイラはまだテンションが高いらしく、レイモンドの腕に抱きつきながら声をかけてくる。


「フェイー、もしかしてフェイのパーティーメンバー? 紹介してよ」

「構わんぞ。リナ、今よいか?」

「え、ええ。あ、先に依頼報告するわね」


 固定パーティーをくんだ今、フェイが知らぬところで人とパーティーを組んでいる姿は何だかもやもやした。フェイに偉そうに言っていたが、リナも嫉妬しているのだ。それは認める。しかしだからと言って、それを明確に表に出すわけにもいかない。

 フェイより年上だし、何よりリナを気遣っての滞在で、適当に組んで依頼をしていると聞いてもいたのだ。それを眼前にしたからって嫉妬するなんて、友達をとられたくないと駄々をこねる子供じゃあるまいし。


 冷静になったリナは袋をカウンターにのせた。水ごと入っていてかなりの重さになっていて、渡された教会員は驚きながら三人掛かりで運んでいった。量るまでもなく規定以上だが、今回は大きめの個体なので重要部位であるヒレをとって長さを測定した。


 そうして清算を済ませて、カードをしまいながらカウンターを離れ、とりあえず話をするために祈りの為に解放されている女神像のある礼拝室に入る。礼拝室ではあるが、お喋りは禁止されていない。

 部屋の隅の席を陣取り、ひとまずフェイを中心に自己紹介をすることになった。


「わしのパーティーメンバーのエメリナと、その友達のアントワネットじゃ。リナ、ここでパーティー組んでおる二人で、マイラとレイモンドじゃ」


 一分もかからずに終了した。やり遂げたとばかりにフェイは満足げだ。仕方ないのでリナから声をかけることする。


「改めて、エメリナ・マッケンジーです。フェイがお世話になってます」

「わ、え、と。いいとこのおじょーさんなの?」

「え? いえ、普通の村民ですよ?」

「そうなのか。丁寧な言葉だから、驚いたな」

「うん。冒険者なのにふっつーに敬語使うとか驚き」


 基本的に冒険者の多くが敬語を使えない。それはリナも知っているが、驚かれたことはないので逆に驚いてしまう。エメリナは登録してからずっとアルケイド街で活動していたので知らなかったが、都市であるアルケイド街だから珍しくはないが、登録できない程度の大きさの街では、ほとんどが敬語を使えない。田舎であるほどその傾向は顕著なので、店員はまだ比較的敬語を使うこの街でも、冒険者となるとほぼいない。


「ほれみよ。やはりリナの敬語は珍しいではないか」

「そんなことないはずなんだけど……えっと、そう言えばさっきはずいぶん楽しそうでしたけど、何かあったんですか?」

「あ、そうそう! 聞きたい?」

「はーい、聞きたい聞きたーい」


 マイラの露骨なふりに、アントワネットはノリよく手を上げて促した。それに気をよくしたマイラは鼻唄でも歌いそうなくらい機嫌よく目を細める。


「じ、つ、はー、黒鰐倒しちゃった!」









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