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魔法使いフェイ  作者: 川木
ションゴ街
72/202

71 泣き蛇

「ごめんね、驚かせちゃって。レイモンド、筋肉バカだからさ。恐かったね、ごめんね」

「いや、別に恐くはないが」


 頭を撫でながら謝られて、フェイは半眼で軽く身を引いて、その手をやめさせる。女だから馴れ馴れしくてもいいと言うわけではないが、男よりは抵抗はない。まして謝られてるので、さすがに払いのけて突き飛ばすほどではない。

 そんなフェイの姿にマイラは笑いながら再度ごめんねと言いながら手をおろした。


「で、この岩亀ね。軽く、松明程度の火をむけると、中の温度があがって顔を出すから、首を絞めて殺して、後はお腹側から切り開いて中身を出してって感じ。甲羅の上部分が大事だから、お腹側から解体必須よ」

「なるほど。では炙るから、首を絞めてくれ」

「ほいきた。レイモンド」

「お前な、ちょっとは心配しろよ」


 フェイによって五メートルほど先の木に思いっきり背中からぶつかったレイモンドが、首を回しながら戻ってきた。


「レイモンド丈夫だし、だいじょぶだいじょぶ。ほら、力仕事はレイモンド担当でしょ」

「はいはい。フェイ、いいぞ」

「うむ」


 レイモンドが紐をとりだして、岩亀の頭がでてくる場所に構えたのを確認してから、フェイは右手を岩亀に向けて魔法を展開する。


「点火」


 松明イメージということで、20センチほどの炎をつくった。甲羅のお腹部分にあてていると、ぱちぱちと言う音とともに焦げ付いてきた。


 キェ


「おらっ!」


 たまらず顔を出した岩亀の首を、レイモンドは絞めちぎらんばかりに思いっきり締め上げた。

 岩亀はばたばたと手足を動かしたが、逃げられるはずもなくしばらくしてから絶命した。


「よし、じゃあ解体していくぞ」


 解体担当のレイモンドがその場で剣を甲羅のすじにあわせて突っ込んだりして、なんとか解体していく。

 血がかからないようにフェイとマイラは少し離れた。


「ところで肉は捨てるのかの?」

「いや、さすがに勿体ないしね。食用にするよ。フェイはどの部位がいい?」

「では一番美味しいところを頼む」

「あはは。ま、フェイのおかげだしね。いいよ。手足はちょっと硬めでこりこりしてて、結構いけるよ。まあでも、食用として一般的ではないから、味は察してね」

「む、たいしてうまくないのか?」

「美味しかったら甲羅だけじゃなく、お肉にも依頼があるよ」

「なんじゃ。ではわしのはよい」

「そう? ならいいけど」


 30分ほどかけて解体できた。肉がなくなった甲羅は大分軽くなり、マイラでも持ち上げられるほどだ。マイラは甲羅を川の水ですすいでから紐で甲羅をくくって、両手でもちあげる。


「はい、レイモンド。背中ー」

「ああ」


 レイモンドの背中に被せるようにしてのせ、紐でレイモンドの体に固定する。


「もう3つくらいなら背負えるよね? 頑張って」

「はいはい。じゃあフェイ、次を探すぞ」

「いや、いいんじゃが、それはギャグでやっておるのか?」

「ん? なにが?」

「いや……」


 甲羅を背負うレイモンドの姿は非常に面白い。大きな甲羅なので、まるでレイモンドが亀人間のようになっている。面白いのだが、2人が普通に真顔なので笑うべきかどうか反応に迷う。

 そんなフェイに2人は首を傾げる。基本的に冒険中は手を空けておきたいので、荷物は背負うものだと認識している。なので当たり前のことすぎて、フェイのような発想はない。


「ま、まぁよい。では、行くかの」


 とりあえず笑うのは我慢しておいた。









「にしてもさぁ、不思議じゃない?」

「なにがじゃ?」

「だってさぁ、普通は川辺で攻撃しようとしても逃げるわけよ」


 早くも三匹目の解体を待ちながら、マイラが不満まじりに疑問の声をあげた。楽なのはいいが、簡単すぎてなんだか納得がいかない。

 フェイが持ち上げるのを担当しているにしても、そもそも川辺では逃げてしまうので陸上で見つけるのが大変なのだ。それが川辺でぽんぽん見つかるのがどいつも逃げないとなると、簡単すぎる。


「フェイが攻撃すると、頭を引っ込めるからな。何かそう言う魔法なのか?」


 レイモンドも顔を二人に向けずに作業をしながら尋ねてきた。


「いや。普通に風を刃にしてるだけじゃぞ」

「そうなの? 剣をもって近づけば、普通すぐ逃げるんだけどな」

「弓矢でも逃げるしな。遠距離攻撃で、かつ威力が高いからかな」

「そうかのぅ」


 フェイもよくわかっていないが、実際には威力と言うよりは魔力圧が原因だ。魔物は魔力に対して人間より敏感なので、近くで高濃度の魔力を向けられると圧力として感じる。岩亀のような臆病な魔物はそれに対して防御体勢をとっているのだ。

 種類によってはより逃げられやすくなるが、今回の岩亀相手には抜群の相性の良さとなっている。


「さて、こんなもんか」

「よーし、次いこー」

「のぅ、ところでそろそろ別の魔物をせんか?」

「えー? もう飽きたの?」

「うむ。あんまり面白くないしの」


 マイラが不満を感じるほど容易な狩りは、フェイにとってもいまいちだ。遠くから頭を狙って撃って、後は近づいてひっくり返すだけだ。風刃で直接狙えばまだ狩っている感もあるが、ひっくり返す作業の方が大変だしつまらない。

 そんなフェイの言葉に、さすがに不満をあげていたマイラも絶句する。


 同じ依頼ばかりこなすと、やはり飽きがくることもある。しかし一つ一つに対して面白い面白くないは関係ない。仕事なのだから。

 ランクも驚きだったが、魔法師と言うのは有能すぎて変人なのだなぁとマイラは思った。


「………まぁ、いいや。んじゃ、レイモンド、なんかいいのあったっけ?」


 すでに3つと、普段なら1日分の稼ぎが完了した。2人が3人になっているので取り分が減っているが、この調子なら他のをこなしても問題ないだろう。


「そうだな……」


 レイモンドは手を拭いながら考える。実のところ、それほど選択肢は多くない。レイモンドとマイラがこの街に来たのは一ヶ月ほど前だ。2人なので受けられる限界もあるし、馴染むために最初の頃は簡単なものばかりにしていた。

 冒険者経験はそれなりだが、フェイと言うイレギュラーがある以上安全を期して、経験済みのものだけにしておきたい。


「じゃあ、泣き蛇にするか」

「うげぇ、泣き蛇かぁ。あいつ苦手なんだよねぇ」


 レイモンドの提案にマイラは実に嫌そうに眉をしかめたが、フェイにはその蛇にぴんとこない。蛇が鳴き声をあげていただろうか。


「蛇の鳴き声とはどんなものじゃ? シャーとかか?」

「いや、鳴き声ではないんだ。威嚇の時に尻尾部分を体に擦り付けて甲高い音を出すんだ。それが泣き声に似ていて、気持ち悪い」

「ほぅ、興味深いの。しかし昨日今日と聞かぬが、珍しいのか?」

「いや、蛇から獲物を襲う際には声をださない。ここらだと特に人間にやられる時くらいしか声を上げないから、聞いてなくてもおかしくはない」

「ふむ。どんな見た目なのじゃ?」

「緑色で、特徴としてよく木の枝に巻き付いてるな」


 特徴や探し方をレイモンドから教授される間もマイラは嫌そうな顔をしていた。逆にどんな魔物なのか気になる。


「では探すか」


 ゆっくりと歩きながら、じっくり周りの木々を見渡す。


「うえ、いたよー」


 20分ほど歩いていると、マイラが嫌々に声を上げて振り向きながら、対象を指差した。

 指先に目をやると、高めの木の枝にぐるぐる巻きにされたように巻きつき、垂れた尾を揺らしている。全体的に葉っぱと見まがう緑だが、尾の方は茶色い。


「ほう、あれか。」

「しかしあれはだいぶ高いな。普通なら弓か木を登っていくんだが、フェイの魔法で届くか?」

「うむ。問題ないぞ」


 基本的にフェイの魔法は解除しない限りはそうそう消えるものではない。少なくとも視認できる距離程度は風刃の範囲内だ。

 フェイはレイモンドに軽く応えてさっそく右手を対象に向けた。


「風ー」


 イヤァァ、アッ、アァァァ


「ふわっ!?」


 風刃を発動させようとした瞬間、蛇のあたりから甲高くも嗚咽をこらえる女の悲鳴のような声がして、フェイは思わず周りを見渡してしまう。

 

「な、何じゃ今の声は」

「ひぃぃ、気持ち悪いー」

「今のが蛇の声だ」


 キィヤァァ、ァァ、ァアッ


 蛇は尾をこすりあわせながら、舌を出したり引っ込めたりしつつ、木の枝をのろのろと移動している。


 ァァ、ァァアアアッ


「フェイ、逃げるぞ」

「う、うむ。風刃!」


 フェイが風刃を放つと、蛇はさらに奇声を上げながら木から落ちるようにして避けた。


「風刃!」


 さらに連続して放つ。空中で身をよじって避けようとするが、同時に放たれた3つの風刃はフェイの指先に連動して動き、蛇を3方向から捉えた。


 ぶしゅりと、蛇の頭は6つに分けられた。


「よし」

「………え?」

「ん? どうしたんじゃ? レイモンド、さっさと回収してくれ」


 目標は尻尾部分なので頭をやれば問題ない。まだ微妙に体部分は動いているが、頭がないからか逃げる動きではない。

 ガッツポーズして振り向くと2人は何故かぽかんとしている。触るのは気持ち悪いので、さっさと回収してほしいものだ。


 さらっと偉そうに指示をする臨時メンバーだが、レイモンドは戸惑いつつも素直に従った。


「えと、フェイ?」

「なんじゃ?」

「風刃、今いっぱいでなかった?」

「3つじゃな」

「しかも3つとも、なんかすごい動きしてなかった?」

「普通じゃろ」

「普通なんだ……」


 今までフェイの風刃はいずれも一度に一つで、かつ一方向へ曲がる程度で仕留められていたので、2人は自然と強力なブーメラン程度に思っていたので、普通に複数使えてかつ自由に動かせると知ってその便利すぎる魔法に、半ば呆れた。

 こんな便利な魔法が使えるなら、どんな魔物もほぼ百発百中だろう。50ランクも確かに夢ではない。


 2人は凄いとか羨ましいよりも、恐ろしいな、と密かに戦慄した。








 



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