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魔法使いフェイ  作者: 川木
ヒロース村
65/202

64 女の子らしく2

「無理はせんよ。しかし可愛くとは、具体的にどうすればなれるのじゃ?」


 フェイは実家ではブライアンとジンに可愛い可愛いと言われていたが、そんなものは身内びいきだとわかっているので自分が何もしてなくてもめちゃくちゃ可愛い顔とは思っていない。

 皿を割って慌てていても、転けて泣いていても可愛いと言われていたのだからそれも当然だ。

 実際のところ、普通に笑っていれば客観的にも可愛いと思われる造形はしている。だがそれは女の子らしさとか関係ないものだ。そもそもフェイは今まで性別を意識してこなかった。


 女の子らしく、可愛くしろと言われても、漠然としていてイメージすらわかない。


「急には無理だけど、例えばそうね、一人称だけじゃなくても動作を丁寧にすると女の子らしくなるわよ」

「あー、そう言えばリナ、この間から欠伸の時に手を添えろとうるさいが、それもか?」

「うん、フェイがどう思ってたのかわかったわ。女の子なんだから、行儀悪いのは駄目よ」

「うーむ、別にあえて行儀悪くしておるつもりもないんじゃが、習慣じゃからのぅ」

「うん、だからちょっとずつ気をつけていきましょうね」


 さっそく一人称を変えてもらいたい気持ちはあるが、本人ショックを受けていたし、前向きになってもらえただけで大収穫だ。

 リナはこの話はここでやめとすることにした。


「ところでフェイ、話変わるけど、次の村は把握してる?」

「う、うむ。無論じゃ。半日歩いた先にあるフロアル村じゃろ。で、さらに向こうのヘンベイ村まで歩いて宿泊じゃろ」

「そうそう、よくできました」


 褒めるとフェイは頬を染めて恥ずかしがりながら相槌をうつ。


「この程度、わ……」

「?」


 しかしそこで急に言葉を切った。何かあるのかと周りを見回したが、魔物除けをこえて魔物がきたということもない。フェイは顔を赤らめたままだ。

 首傾げて尋ねると、フェイは右手人差し指で頬をかいて視線をそらしながら、また口を開く。


「この程度、わ、わたし、に、かかれば造作もないことじゃっ」


 後半超早口になってフェイは半ば叫ぶようにそう言った。一瞬ぽかんとしたリナだが、すぐに照れ顔のフェイの可愛さににやにやしだす。


「よくできましたっ。フェイ可愛い! すっごく可愛い!」

「む、むぅ………やはり、恥ずかしいのじゃ。言いにくいし、違和感も感じるし、他にないのか?」

「他? うーん……あ、いいのがあるわ。フェイの『なんとかじゃ』口調にぴったりのがね」

「む? なんじゃ?」


 なんとかじゃ口調、というネーミングには突っ込みたいところではあるが、面倒なのでスルーしてフェイは先を促す。

 リナはにんまり笑って、歌うように答えた。


(わらわ)

「わらわ?」

「ええ。お姫様っぽいでしょ」

「ぬー? わらわ、お腹へったのじゃとかか? うーむ。耳慣れぬ単語故、恥ずかしさはないが、変じゃろ? わし、ただでさえ、この口調変じゃと言われるのに」

「え、じゃあ口調から変えるの?」

「あのなぁリナ、そんな場面場面で切り替えられるほどわしが器用じゃと思うのか?」


 フェイの口調はブライアンの真似だが、そこにアイデンティティや郷愁やら思慕の念やらが詰まっている、というわけではない。

 口調を変えること自体は困難だろうが、一人称を変えるのもどっこいだ。なのでやるとなれば本気をだす。しかし、それはそれで問題だ。女言葉に慣れてしまうと男装ができなくなる。


「そこを自慢げにされても。敬語みたいに切り替えようとすればできなくないと思うけど。でも、個人的な意見を言わせてもらえるなら、口調はそのままで良いと思うわ」

「う? 何故じゃ?」

「可愛いもの」

「なに? わしはやめろと言うのに、この口調はよいのか? 男性の口調だと御爺様は言っておったぞ?」

「ええ。だけどフェイには似合ってるもの」


 断固としたこだわりがあるわけではないが、しかし長く使っているし何より愛着がある。褒められて嬉しくないはずもない。

 フェイは気をよくして、そうかそうかと右手の人差し指と親指で自身の顎を挟むようにして撫でる。


「ではこのままで」


 完全にリナの個人的な可愛さ基準を元にしていることになるが、しかし元より他人の視線を気にしないフェイなので、リナの視線さえ色よいものなら構わないのだ。


「じゃあ、私の練習ね。私なら普通に男性も使うから問題ないわね」

「まぁ、それはそうじゃが、やはり何となく、気取ったようで気恥ずかしいんじゃがなぁ」


 フェイの中で『私』は女性が使うなら普通だが、男が使う場合は気取った紳士のようなイメージがある。意識して振る舞うと言うのはまるで演技をしているようでとても気恥ずかしく、どうにも抵抗があり変な感じだ。


「恥ずかしがるフェイも、可愛いわ」

「……なにか、ずいぶん勝手なことを言われておる気がするのじゃが」

「気のせいじゃない?」

「いや、わしが可愛くなるべき理屈はわかった。しかし、恥ずかしがるのが可愛いとは、何というか、一方的な気がするぞ」

「んー?」


 フェイが可愛いと思われるために一々恥ずかしい思いをして、フェイがリナを可愛いと思うのにリナは恥ずかしがらないのでは、ひどく不公平だとフェイには感じられた。

 しかしそれはリナには通じない。同じ一人称を使うのだから、それで恥ずかしがるかどうかは自由だ。今は恥ずかしくても慣れれば平気になるだろうし、それまでの間楽しむくらいはいいだろうとリナは思っている。


「恥ずかしがるフェイは可愛いわ。だけど、恥ずかしがらなくても可愛いわ」

「む……うーむ」


 そう言われると、フェイとしては反応に困る。何もしなくても可愛いなら、可愛くなる努力は必要ないのではないか、なんて反論も浮かんでしまう。だけどそれもどうだろうか。

 可愛いと言われるのが嫌なわけではない。リナに好ましいと思われるなら、それ自体プラスではある。しかしフェイが不平等をなくすために努力すると決めたのに、今度は逆になるのではないだろうか。


「しかし、やはり不平等な……うーむ、わしが恥ずかしがらねばすむ話ではあるが、しかしのぅ」


 首を傾げて悩むフェイに、リナは苦笑する。普段割合いい加減だったり大雑把なフェイだが、こうして考えこむと妙に生真面目だ。

 平等だなんだって、そんなのはフェイをその気にさせるためにいい加減に口から出てきただけだ。フェイの考え方自体は自己中とは思ったが、口に出さなければ気づくようなものでもない。

 大なり小なり人はそう言う面があるし、リナだって自分が可愛いフェイを見たいから言っただけだ。本当に平等を求めたわけではない。


「じゃあ、こうしましょうか」

「ん? なんじゃ?」

「フェイが恥ずかしい思いをした分の不平等は、私がフェイのお願いを聞いてあげるわ」

「む? ………いや、それでは今度はお主が損じゃろ」

「そんなことないわ。フェイに可愛くなってほしいのは私の望みだし、そのためなら多少平等じゃなくてもいいわ」


 そう言われると、まるでフェイが自分ばかり損したくなくてごねていたようだ。そもそもリナが不平等だと言い出したのではないか。

 そんな反発心もなくはなかったが、しかしよくよく考えればリナが何でもお願いを聞いてくれるなんて、こんなにうまい話があろうか。さっき一度口にするだけでとても恥ずかしかったが、一人称の変更もやる気がでようと言うものだ。

 現金なものだと自覚しつつもフェイは、にやりと笑う。


「ではまず、先ほどの分お願いをきいてもらうとしよう」

「いいわよ、なに?」

「ん」


 フェイは右手をリナに差し出す。ん?と意図がつかめずに瞬きするリナに、フェイは差し出した右手の指先を揺らしながら催促する。


「次の村まで手を繋ぐのじゃ」


 どうせ大したことはお願いされないだろうと思って提案したリナだが、想像以上にしょうもない、もとい可愛らしいお願いだった。

 そんなことでわしフェイから、照れ可愛い私フェイに変身するなら喜んでしよう。


「かしこまりました」


 リナは微笑んでその手をとる。途端ににこっと無邪気な愛らしい笑顔になるフェイ。

 手を繋ぐこと自体は別に珍しくもないし、あえて今回の権利を使ってお願いしなくてもいくらでも繋げる。フェイもそれはわかっているが、しかしだからって意味もなくきっかけもなく手を繋いで、と言うのは子供みたいで言いづらい。

 しかしどうだ。こうしてお願いをする権利があるならば、権利を使うためと言う名目で堂々と言える。フェイにとっては甘えるための許可証だ。甘えん坊将軍の誕生である。


「ふっふっふ、リナ、軽々しくわしの言うことを聞くなどと言うべきではなかったの。今後リナはわしとずっと手を繋ぐことになるぞ」

「いや、なんで悪役調なのよ。別に望むところだけど。と言うかフェイ」

「なんじゃ?」

「すっかり『わし』に戻ってるけど?」

「む……わ、私、じゃろ? わかっておる」


 天下御免とばかりにテンションがあがっていたフェイだし、脳内ではすっかり私で行こうと決めてはいたが、しかしやはりまだ、実際に私と口に出すのは恥ずかしかった。

 顔を赤くして少しばかり身を縮めるフェイが可愛いので、リナは話がうまくまとまってよかったとホクホク顔で、フェイの手を握りなおした。











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