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魔法使いフェイ  作者: 川木
フェイの家
60/202

59 呼び名2

 エメリナをリナと呼ぶことになり、フェイの元々よかった機嫌はさらに急上昇し、止まるところを知らないかのようだ。


「じゃあ、フェイのことはなんて呼べばいいのかしら?」

「む? そう言えばそうじゃな。うーむ、わしは名前が短いし、エメリナと違ってお爺様からは普通にフェイと呼ばれていたからのぅ」

「可愛いキティとか呼ばれてたりとかもない?」

「なんじゃそれは?」

「名前が短くても、親とか保護者は、小さな頃キティとかプリンセスとか呼ぶことあるじゃない?」

「そんな恥ずかしいこと、わしにあると思うか?」


 子猫だの姫だの、そんな恥ずかしい呼び名は美少女にしか似合わないだろうとフェイは呆れる。フェイに向かって使われるわけがないし、似合わないし恥ずかしいし使ってほしくもない。

 と言うか、それは本当に親が子供の、とくに幼い頃だけに使われるようなものだろう。仮に万が一フェイがそう言われてたことがあったとして、今からそう呼ぶなんて有り得ない。


「あり得はするでしょう。今でも十分ありだし」

「そんなわけがあるか。むー、わざと言っておるじゃろ」

「はいはい、わかったわよ。じゃあ、ふーちゃん、とか? フェンとか、フィーとか?」

「うーむ。男装を続けるのでちゃん付けは論外としても、本来の名前より短くなければ、あまり意義を感じんのぅ」

「いや、愛称に意義を求められても。まぁ、無理にすることもないんじゃない?」

「むぅ。しかしのぅ」


 自分を愛称で呼んでもらいたいと思って始めた訳ではないが、フェイとしては愛称が仲良しの証なら是非とも呼んでほしい。しかしさりとて、呼んでほしい呼び方があるわけでもない。

 フェイはううむ、と腕を組んで唸った。その姿から察したエメリナは苦笑する。


「無理に仲良しアピールしなくても、本当に仲がいいなら、必要ないでしょ?」

「うーむ、うむ。そうじゃな。ではわしのことは今まで通りで頼む」

「わかったわ」


 エメリナとしてはフェイが望むなら呼び方を変えることくらい容易いが、ではどんな呼び方が適切かと問われると不明だ。すでに『フェイ』の呼び名で馴染んでいるので、とっさに思い浮かばない。


 なのでこのままでとなって、よかったわとエメリナ、もといリナは微笑みながら、改めて手を動かすのを再開させた。









「リナ」

「なぁに?」

「ふふふ、リーナー」

「なーにー?」

「呼んだだけじゃ。呼び名に慣れようと思ってな」


 胸をはって答えるフェイは、とてもじゃないがそれだけには見えない。むしろあからさまに、さっそく親しさの証と思っている愛称を口にして楽しんでいるように見える。


「そうなの」


 もちろんリナはそれを指摘するなんてことはしない。フェイが楽しそうで、それを見てると優しい気持ちになれて、リナはふんわりと微笑む。

 しかしここにはリナとフェイ二人きりではない。


「えー、どう、見て、も、それ、だけ、に、は、見え、ません、よ」

「お主はだーっとれ」


 空気を読まないジンの言葉に、フェイが唇を尖らせる。生きるのに空気を必要としないジンには、空気を読む必要がないのだ。


「だー、とれ、とは、何、です、かね。新手、の、ギャグ、です、か?」

「もー! わかっておるんじゃろ。黙っておれ」


 黙っておれ、を訛って『だーっとれ』と言うのはブライアンから受け継いだ癖の一つだ。ブライアン自身もやめようと思っていて、フェイには禁止していた。

 なのでよほど油断したり興奮したりした時しか出ないが、ジン相手だとつい出てしまった。


「ふふふ、ほんと、フェイとジンは仲がいいわね」

「もちろん、です」

「仲は、まあ、いいが。うむ。……うーむ、じゃが、仲はいいのかのぅ?」


 仲が悪くはもちろんない。仲がいいと言える。フェイはジンを生物じゃないと説明するが、だからといって無機物と扱っているわけではない。

 家族だと思っているし、好きか嫌いなら好きしかない。でもフェイにとってジンは近くて、近すぎて、仲がいいとか悪いとか考える余地がない。改まって仲良しとか好きとか、そう言うと何となく妙な感じだ。


「仲良、し、です」

「まあ、否定はせんが」


 リナはフェイのジンに対する連れない態度に、最初こそ首を傾げていたが、家族に対する甘えなのだろうと考え微笑ましさを感じていた。

 誰でも友人に対する態度と家族に対する態度は違うものだ。フェイは普段から子供っぽいが、それを強調するようなフェイの態度にはますます笑んでしまう。

 リナにとってフェイは頼もしくも、可愛い妹分のようなものだ。幼い素振りを見るほど、可愛いと思える。


「さて、食後のお茶も飲み終わったし、倉庫の整理といきましょうか」

「あい、わかった」

「気合い、を、入れ、て、頑張、り、ましょう」

「お主は口だけじゃろ」

「応援、を、です」


 倉庫に入りジンの応援を邪険にしながら2人で四苦八苦して食料を外に出し、他の物はまとめて片付けた。

 全て出し終え、リナは食料の山を前にして額の汗を拭った。


「食料だけでこんなにあるとは……さすがに予想外ね」


 倉庫の中には食料以外にも滅多に使わない器具や、研究のために作ったは良いものの別に使わない魔法具や、特に必要ないがいざという時に換金する為の宝飾品があった。

 特に宝飾品にリナは一瞬目を色を変えたが、冷静に考えればフェイの元々あった大金を考慮すれば当然ともいえるし、今はリナも裕福な身だ。

 持ち歩くよりは魔法で隠されたここにある方が安全なのもあり、リナはフェイに気づかれない内に平静に戻って、淡々と奥へしまいなおした。ジンは黙っていた。

 魔法具も一部の者が見れば喉から手がでるほど欲しがるものもあるが、フェイからすれば当たり前で、リナにはよくわからないガラクタに過ぎない。ごく普通に片付けられた。

 ごく普通ではなかったのは、食料の量だ。


 リナとフェイ二人がここに住んで、死ぬまで食べれそうなくらいはある。実際、最悪そうなってもいいようにブライアンは買い込んでいた。さすがにもう30年もたてば食料も痛み出すが、そこまでは考えていなかった。

 さすがフェイの祖父である。豪快すぎる、とリナは呆れつつ、勿体無いが沢山廃棄しなければならないことに酷く胸が痛んだ。


 (あー、もったいないわねぇ)


「えっと、持っていけるのはこれくらいかしら」

「そうじゃの」


 幸いと言うべきか、最悪だと言うべきか、種類はそれほど多くない。それぞれを少量ずつとればいいのだから選別するのは簡単だが、今まで住んでいたフェイの食生活のレパートリーのなさを考えると最悪だ。


「ではリナは詰めておいてくれ。わしは外に出して、燃やしてくる」

「え、燃やさなくても出しておけば動物が食べるんじゃない?」

「む、それもそうじゃの。では行ってくる」


 フェイは持って行く分を抜いてもまだ山のようにある食料を浮かせ、外へと運び出していった。


 (すごーく勿体無いけど、持っていけない量だし、せめて動物にあげたほうがいいわよね)


 リナはうずく勿体無い魂を宥めつつ出て行く食料を見ないようにして、フェイに渡された上着のポケットに食料を詰め込んでいった。









「おお、こいこい。ほれ」


 庭に出たフェイが結界から先の森へ食料を投げていると、匂いにつられたのかひょいと兎が顔を出した。

 フェイは相好を崩して、兎に向かって投げる。びくりと後ずさった兎だが、鼻をひくひくさせてからすぐに野菜に飛びついた。前歯でかりかりとかじっている。


 (可愛いのぅ)


 少しばかり毛並みは汚れてはいるが、それでもその仕草と隙間からのぞくようなつぶらな瞳は実に可愛らしい。

 野生動物なので触れることはできないが、結界があるので兎にとってはフェイは見えないので、見るだけなら存分に楽しめる。

 フェイは満足するまで兎を眺めてから、食料を全て放り投げて、家へ戻った。


「リナー」


 ドアを開けながら午前中からですっかり慣れた愛称を呼ぶフェイに、しかし答えはない。

 ドアを後ろ手に閉めつつ、フェイはリナに近寄る。机に座ったリナはフェイの上着を腕にのせて枕のようにして、顔を乗せて眠っていた。

 食料は消えているので中にしまって、フェイが遅いので眠ってしまったのだろう。


「遅い、お帰り、です、ね。兎、何て、見、慣れ、て、いる、でしょう、に」


 フェイの耳元でジンが囁くように言った。庭にいるフェイのことも当然、ジンには見えていた。


「ひさしぶりじゃったしな」

「ところで、エメリナ、に、どんな、悪戯、を、します、か?」

「せんよ。起こさぬように、わしも寝るとしよう」

「えー、私、の、相手、は、誰、が、する、の、です、か?」

「知らんわ」


 フェイはリナの向かいに座って、同じように腕を枕に突っ伏した。その様子にジンも声をかけるのをやめ、BGMを流した。


「んっ」


 それから30分ほどたち、エメリナはふいに身じろぎして目覚めた。


「エメリナ、おはようございます」

「っ」


 ジンの囁く声にリナはびくりと肩を揺らしたが、すぐに目の前にいるフェイに納得した。


「エメリナ、フェイ、は、寝て、います。どんな、悪戯、を、します、か?」

「いや、しないわよ」


 呆れるエメリナに、ジンは残念、と楽しげに言った。










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