52 有名税
名前が売れるだろうと言うのは想像していたし、それもフェイにとってはよいことではある。しかし、物事には限度があるだろう。
「なぁなぁ! 俺もお前らのパーティーに入れてくれねぇか?」
「おい! 俺らが先に話してんだ! ひっこんでろ!」
「ああ!? んだとこら!?」
「早い者勝ちだ!」
「誰がんなこと決めたんだよ!?」
「あ、あのー、良かったら僕、パーティーにいれてくれませんか?」
「おいこらチビ! 割り込んでんじゃねぇぞ!」
「ひぃ!」
「ちょっと、あんたたち邪魔! ねぇねぇ、ドラゴン退治したってほんと!? 一緒に依頼くまない?」
教会に足を踏み入れる直前、顔を覚えていたらしい男の一人がフェイに大声で話しかけたせいで、一言も話していないのにフェイとエメリナの周りには輪のように人が集まり、喧嘩まで始まった。
「……すまんが、少しどいてくれんか?」
「おお! 邪魔してすまんな。おいお前らどけ! 俺らが通れないだろうが! なあ?」
「いや勝手に仲間風に話しかけんでくれんか?」
フェイは馴れ馴れしい態度に眉をひそめつつも、肩を叩いてきたりとかイライラがMAXになることはされていないので柔らかめに拒否した。
「悪い悪い。でもお前ら2人なんだろ? 俺みたいに近接に強いパーティーメンバーがいてもいいだろ? な? 試しに一緒に依頼しようぜ?」
「……悪いが、今日は依頼をこなす予定はない。ドラゴン退治の受け取りじゃ。また今度考えるから、今日は勘弁してくれ」
本当は受け取りと登録をすませたら、早速依頼を受けようと話していた。しかしせっかく固定パーティーになったのに、最初からこんな風にぞろぞろと知らない人を連れ歩くのは何だか億劫で、ついそう言ってしまった。
「そうか……なら仕方ないな」
「んだよぅ」
「えー、依頼受けないのー? ちぇー、じゃあ明日は?」
「あのっ、僕、パーティーメンバーにっ!」
「明日の予定は決めておらんし、パーティーメンバーになどとそう簡単には決めれん。また今度頼む」
「う……うん」
面倒なことになったな、とフェイは思った。目標の為、有名になることは前提だと思ってはいたが、実際こうしてなってみるとやはり違うものだ。
「フェイ、何だかすごく疲れた顔してるわよ?」
突然の予定変更にエメリナは気を悪くはしなかったが、気遣うようにフェイの顔を覗き込む。
元々希少な魔法師として注目を集めていたフェイがドラゴンを退治したとして、声をかけられる頻度はエメリナよりずっと多い。今も主に声をかけられていたのはフェイで、エメリナはセットのような扱いだった。
フェイが男装していることも大きいだろう。固定パーティーの多くが男性が主導している。冒険者における男女差ももちろんあるが、やはり単純な体力差があるからだ。
特別に鍛えたものでなければ、大体の駆け出し冒険者はそれほど強さは変わらない。だからこそ生来の男女差はけして小さくない。もちろん得意分野を伸ばしていくことで、活躍する女性冒険者も数多くいるが、女と言うだけで侮るものも少なくない。
ましてエメリナは特別筋肉質でも大柄でもなく、大剣を持つわけでもなくさりとて魔法師でもない。
何も知らなければ姉弟のように思い、姉に話しかけるかもしれないが、魔法師の男と弓使いの女の冒険者だと知ればどうしたって魔法師がリーダーだと思うだろう。最近はナイフをよく使うがエメリナの背にある弓は特徴的で、少なくとも魔法師とは思われない。
「うむ、誉められるのは好きじゃが、こうも知らない人に話しかけられるのも、疲れるのぅ」
「もう、きりがないし、無視しちゃう?」
「相手のことがわからん以上、あまり邪険にもしづらいしのぅ」
「ちょっとくらい、話し方だけじゃなくて態度も偉そうにしてもいいと思うけど?」
「わしは普通に話しているつもりじゃ」
「ごめんごめん。フェイは優しいものねー」
「むー、からかっておるじゃろ?」
「ええ」
頬を膨らませたフェイだが、笑顔で肯定されて何とも言えず、フェイは話題を変える。
「……というか、何故エメリナにはあまり話しかけんのじゃ?」
「そりゃ、フェイがリーダーだからでしょ?」
「なに? そうなのか?」
「ええ、そうよ」
まだ固定パーティーを申請していないのに、と首を傾げるフェイだが、端から見ればすでに2人は固定パーティーに見えるのだから、事実と異なることは些細なことだ。
フェイはエメリナの返答を、これからの登録でフェイをリーダーにすると言うことだと受け取る。
「………そうか」
フェイとしては、年上であり先輩のエメリナがリーダーだと思っていた。しかし任せてもらえるということは、それだけ信頼してくれているということだろう。
「わかった。では、リーダーのわしに任せるがよい」
「お願いね。じゃあ、申請しましょうか」
「うむ」
こうして2人は正式に固定パーティーを組んだ。パーティー名はまだない。リーダーの初仕事としてパーティー名はフェイに一任された。
そして2人は法外なほどの報酬を受け取ってから、宣言した通りに本日もお休みとして、大金を手にしたテンションで買い物へ繰り出した。
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「じゃーな!」
「うむ、今日は助かったぞ。礼を言おう」
「………お前に素直に礼を言われると気持ち悪いな」
「失礼な! わしはいつも素直じゃ!」
翌日もまたぞろぞろとどこからか集まってきた冒険者たちに囲まれて困ったが、赤獅子団がやってきて場をしきってくれたおかげで赤獅子団とだけ一緒に依頼をこなすことになった。
トッシュの思う壺な気もしないではないが、それ以外の初対面の冒険者を選べば俺も俺もとなるので知り合いでかつ大人数でくむしかない。
フェイとしては別に初対面で固定パーティーはともかく、普通にパーティーを組んで1日依頼をこなすくらいは構わない。今までもそうしていた。
しかしこうも人数が増えると、その統制をとることはできないし、他人の集まりでは依頼を決めるのすら難しい。もちろんフェイがこうすると言えば決まるだろうが、何となく尻込みしてしまう。
何はともあれ本日はそのようにして無事に終わったが、しかし翌日からどうするかが問題だ。トッシュはまたいつでも誘え、とは言ったが、それに甘えたくはない。
というかなし崩しに固定パーティー扱いされても嫌だ。エメリナが一緒でもいいから、というエメリナへの雑な扱いも気にくわない。
エメリナ個人に含むところがあるわけでも、実力を侮られているわけでもないし、単純に男だけの規則だけど特別にと言う意味なのはわかるが、それでも嫌だ。
「うー、エメリナ、こう、上手いこと前みたいに静かにならんかのぅ?」
「そうねぇ………他の街に行ってみる?」
帰り道フェイに尋ねられたエメリナは返事をしてから、思いつきだったが我ながら良い案だと自賛する。この街だけではなくあちこちで名を売るのがフェイの目的に適っている。
「む?」
「他の街なら私たちも知られてないから、少なくとも同じようにはならないと思うわよ」
「ほー、確かに。ではそうするか」
「軽いわね」
適ってはいるし、冒険者が旅をするのは珍しくはないが、それでも今までは定住していたのだから旅立つとなれば、そうそう気軽に腰を上げようとはならない。やはり時間がたつほどその場所は居心地よくなる。旅立つと言うのは新たな出会いでもあり、今までとの別れでもある。
しかしフェイはエメリナが思うより軽く頷いたので、言いだしておいてつっこんでしまった。フェイは元々ここに永住するつもりはなかったし、また期間も短い。
「この街には近いから来ただけで、こだわりがあるわけでもないしの」
「近いって、そう言えばどこにいたの? 山奥ってどの山?」
「ふむ……どこに行くかはこれからじゃが、一度わしの家に寄るか?」
「あら、いいの?」
「うむ。遠くへ行くなら、そうそう帰れんじゃろうしな」
フェイが旅に出た日はもう帰らないほどの覚悟だったが、別に帰ってはいけない規則はない。世界へ旅立つつもりだったのでそうそう帰れないだろうと思っただけだ。
むしろ今度こそ最後の機会になるだろうし、エメリナに生家を見せるのもいいだろう。
「わー、気になる。どんなとこだろ。あ、家がしゃべるんだっけ?」
「うむ。そんな感じじゃ。あ、折角じゃし、家の服と交換しておくかの」
「あ、もしかして家だとスカートとかはいてた?」
「いや、はいておらんよ。ん? ああ、夏場は上着だけで過ごしてたことはあるから、スカートと言えばスカートじゃの」
「うん、それはただの半裸ね」
フェイは男装をやめるつもりはないし、それはエメリナも理解しているので基本的には今まで通りだ。しかし二人きりの時ならば別に男のふりをする必要はない。
ならばエメリナとしては折角可愛いのだから、より可愛くしたい。フェイも慣れていないだけで女の子扱いを疎んでいるわけでもないが、スカートは持っていない。
「ちぇー、外なら仕方ないけど、家ならスカート姿見れるかと思ったのに」
元々可愛いと思っていたフェイを堂々と可愛がれる大義名分を得た、と思っているエメリナとしては是非スカート姿も見てみたい。
「なんでそんなものが見たいのじゃ?」
「折角女の子なんだから、スカートもはくべきよ」
「エメリナもほぼズボンじゃろ」
ともかくこの街を出ることが決定した。どこに行こうか、今度はどんな世界が広がっているのか。考えるだけでわくわくした。
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