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魔法使いフェイ  作者: 川木
アルケイド街
52/202

51 フェイの秘密3

「わしは……確かに、女じゃ。すまん、わしは、嘘をついておった」


 苦しげなフェイの告白に、思わずエメリナは心の中で嘆いてしまった。何故、たった1日、もう1日早く言ってくれなかったのか、と。

 フェイが男か女かなんて、些細な違いだ。見た目だって殆ど同じだ。何より、その実力とその性格が同じなら、冒険者として、その仲間として、なんら問題はない。

 昨日までなら、なんら含むところなんてなくて素直に、そんなことと笑い飛ばせたのに。昨日、エメリナはフェイに好意を自覚してしまって、だから、苦しくて悲しくなった。


 だけどそれはエメリナの都合だ。エメリナが勝手に好きになっただけだ。そんな余計な感情がなければ、問題なんてなかった。

 嘘をついていたのも、話さなかったのもフェイの勝手な都合だけど、それでもエメリナにとって、許す許さないではない。

 嘘をついていたのも知っていて、フェイのことを好きだと思ったのだ。その嘘が予想外だったからとフェイを責めるのはおかしい。何より、こんなに不安そうに瞳をうるませるフェイに、何かを言うなんてできやしない。

 男とか女とか関係のない、ただのフェイとエメリナは今まで一緒にいて、仕事をして、信頼して、遊んで、楽しかった。だから、昨日のことはなかったことにしよう。

 そうすれば、エメリナの言葉は一つしかなくなる。


「それが、嘘だったのね」

「うむ……」

「じゃあ、もう問題ないわね」

「うむ?」


 きょとんと、首を傾げるフェイは昨日より可愛く見えた。それは女の子になったからだろうか。


「もう嘘がないなら、私と固定パーティーをくむことには、なんの問題もないわね」

「エメリナ……許してくれるのか?」

「許すも許さないもないわ。フェイが女の子だって、困ることなんてないもの」


 エメリナの真新しいわずかな感情さえなければ、問題ない。一人旅をする時に性別を偽るなんて、むしろ女なら当たり前だ。それを責める人なんていない。それを嘘だなんて、フェイは純粋すぎるだろう。

 そんな純粋で、可愛いフェイを、フェイ・アトキンソンという女の子を、エメリナが今まで通り信頼して今まで通り親友として、パーティーをくんで今まで以上に側にいることに何の問題があるだろう。


「フェイ、私たち、『まぶだち』なんでしょう? 親友である前には、性別なんて些細なことよ」

「エメリナ! 大好きじゃ!」


 泣き出しそうだった表情から一転、こぼれそうなほどの満面の笑顔になったフェイは勢いよくエメリナに抱きついた。

 エメリナはそれを抱き留めて、抱きしめる。小さくて、柔らかく、温かく、こうして抱きしめると、女の子だなと実感した。


「私も、大好きよ」

「エメリナ! パーティーをくもう! これからもずっと一緒じゃ!」

「ええ、もちろん」


 これでいい。最初からフェイを拒絶することなんて有り得ない。だから少しだけ胸がざわつくのも、これは信頼できる強力な魔法使いと固定パーティーをくめたことによる喜びだ。


「フェイ、よろしくね」

「うむ! よろしく頼む!」


 あげられたフェイの顔は年以上に幼くて、可愛くて、どうして男の子に見えていたのか不思議なくらいだった。









 エメリナはフェイが思っていた通りに優しくて、やっぱりフェイのことを許してくれた。そして固定パーティーに誘ってくれた。

 返事はもちろんOKだ。願ったり叶ったりだ。バレたと知れた時はもうどうしようと頭の中がぐちゃぐちゃになったフェイだが、言い出せなかったフェイなのでこうなった結果は万々歳としか言いようがない。

「やったー! わーい! エメリナー!」と叫びたいくらいだ。


 ベッドの上で抱き合って喜んでから、落ち着いたのでそれをやめる。エメリナはふと気になったのか、フェイに質問を投げかける。


「あれ、でもフェイ、あなた教会の登録にも男ってしてなかった?」

「うむ。そうじゃが?」

「え、いやちょっと、あれはほんとに変更できないのよ? 女としてカードをつくろうと思ったら、新規しかないから、今のポイントなくなるわよ」

「別に今のままで問題なかろう?」


 呆れたように言われたが、フェイとしては特に男装をやめるつもりはない。やめる理由が思いつかない。


「うーん、肉体が女の子でも心が男と言い張れば、まぁ、女の子とバレても問題ないけど。いいの? 2人になったんだし、無理に男のふりをする必要ないのに」

「いや、わしとしては普通に振る舞っているのじゃが」

「ああ……そうなの。まあ、その方がやりやすいけど。女の子なんだから、せめてわしはやめない? それにどうせ、もう数年も成長したら男の子のふりなんてできなくなるわよ」

「いや、魔法で男らしく見せておったから、ふりだけなら問題ない。後わしはやめん」

「え、魔法使ってたの?」

「うむ。幻覚魔法の一種じゃ」


 フェイはエメリナに簡単に魔法を説明してから、実際に改めて魔法を使ってみせるが、エメリナは首を傾げる。


「え? ……変わってる? 女の子って知ったからかも知れないけど、もう女の子にしか見えないんだけど」

「うむ。基本的に幻覚魔法は、事実を知られておると効きにくいのじゃ。特にこれは男だと前置きして思いこませるほど効きがよくなる反面、バレるとほぼ効かんのじゃ」

「じゃあ今やっても意味ないし、もう私はフェイの男の子の姿は見れないってこと?」

「うむ」

「えー、なんか、残念ね」


 さっき違和感を感じはしたが、具体的にどこがと説明できるほど違いがわかっていた訳ではないエメリナとしては、ONOFFして見比べて見たかったが、できないものは仕方ない。


「あと、ついでだし色々質問してもいい?」

「うむ。もはやわしに隠し事などない。なんでも聞くがよい」

「えー、そんな安請け合いして。スリーサイズ聞くわよ?」

「うむ、知らん」

「………ところで聞くけど、下着ってつけてる?」

「何を当たり前のことを。パンツをはかん訳がなかろう」

「いや、上」

「上?」


 フェイは天井を見上げるが何もない。エメリナはいやいやと手を振って否定してから、ため息をつく。

 なるほど確かに、本人に全く女の子としての意識がないのだから、男装に違和感がないはずだ。少なくとも可愛い顔以外に女の子っぽいとは思ったことがなかった。男とか女とか以前に、子供っぽいのだ。


「今度、一緒に服を買いに行きましょうか」

「ん? うむ、構わんぞ」

「ん。約束ね。それで……とりあえず、先に顔を洗ってご飯にしましょうか」

「うむ。そうじゃな。少し体がだるい気もするし、顔を洗うか」

「私も、ちょっと二日酔い。頭痛ってほどじゃないけどちょっと重いし」


 立ち上がって2人で部屋を出た。

 顔を洗ってご飯を食べて、改めてエメリナの部屋に戻ってきた2人は、どうせ酔いが残ってるからと、その日1日話をして過ごした。

 昨日の話や、フェイのことについてが主な内容だが、お喋りは尽きることがないかのように続き、食事を挟みつつも休日を取り戻すかのように、改めて親友となるかのように、一日中のんびりと友好を深めた。









「では、お休み、エメリナ」

「ええ、お休み」


 明日は教会へ行き、固定パーティーの申請をする。そうすれば名実ともに2人はパーティーになれる。

 フェイはそれに心躍らせつつもエメリナの部屋を出て行った。


 (固定パーティーになったら、部屋を一つにした方がいいわね)


 すでに先払いで払っている間はともかく、同性の固定パーティーでベッドの大きさ的にも可能なら同室が一般的だ。料理はともかく、部屋代が半額になるのだから当然だ。エメリナはケチではないつもりだが、無駄に浪費するのは好きではない。

 最初こそもっと戸惑うかと思ったが、フェイと1日話していればエメリナの気持ちも落ち着いた。やはりフェイはフェイだ。

 友人として仲間として、共に過ごしていこうと思う。


「よい、しょ」


 そのためにもエメリナは部屋を片づけておくことにした。もちろん散らかしているわけではないが、クローゼットや棚を独り占めしている。使わない季節はずれの服や荷物は一つにまとめて、フェイの荷物が入るようにしないといけない。


「うーん」


 (これはまだいるわね。こっちはもう全部仕舞いましょう)


 まだ、完全に気持ちの収まりがついたかと言えばそうでないかも知れない。だがそれよりも、女の子のフェイという新たな友人との冒険者生活と言うのも、魅力的だ。

 悪いことばかりではない。気になる男の子を失ったが、代わりに信頼できる同性の親友ができたのだ。親友と言えるのは一人だけだったが、結婚して離れて久しい。

 今までも親しかったとは言え、やはり異性と思えば言えないことだってあった。しかしもうその遠慮はいらないのだ。

 また気の置けない同性の親友とパーティーをくんで依頼をこなすのだ。それはそれで、きっととても楽しいに違いない。


「あ」


 (これサイズ小さくなったから捨てようと思ってたんだった)


 エメリナはクローゼットの奥から出てきたシャツを手にして、自らのズボラ加減に少し呆れた。長くいると、すっかり自室として扱ってしまって片付けも雑になって、こうしてゴミ捨てを忘れたりする。


「……フェイ、着るかしら?」


 とりあえず、クローゼットからは出して置くことにした。











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