38 パーティー勧誘2
偉そうな男は自分の名前を名乗ってから尊大な態度を崩さないまま説明を始めた。
「いいか? 知らねーっつーから懇切丁寧に教えてやる。うちの赤獅子団は自慢だが、この街で一番デカい。53人の固定パーティーだ。かつ全員が俺の目にかなった野郎共だけだ」
「ん? このおなごは?」
「こいつは俺の女だ。街の外には連れて行かねーよ」
フェイの疑問に大男、トッシュは女を片手で抱き寄せながら半笑いで答え、表情を引き締めて説明を続けた。
「うちの赤獅子団は女禁制だ。男だけのマジで強いやつだけで、マジに強くなりてー、有名になりてーやつだけいれてる。ただうちはどうにも接近戦ばっかだし、怪我が多い。魔法師……魔法使いってんなら、回復もできんだろ? お前がほんとにできる魔法使いなら、仲間にしてやる」
「お主がわしを誘う理由はわかるが、何故そこで上から目線なのじゃ」
「馬鹿が。俺様んとこは最大パーティーだぞ。それだけで後ろ盾にも力にもなる。何よりこの俺様のパーティーなんだ。この街の冒険者はこぞってなりたがる。そこに、入るために試してやるってんだ」
なるほど、言わんとすることはわからないでもない。男だけなのにエメリナが知っているくらいだ。トッシュの後ろの男たちも強そうだ。
偉そうにできるくらいには強くてランクも高いのだろう。53人という大人数になるくらいだ。この男は尊敬される部分もあったりして、戦闘となればさぞ頼りになるのだろう。駆け出しの冒険者が安全を求めて入りたがることもあるだろう。
しかし、そんなことはフェイにはどうでもいいことだ。
「断る」
「ああっ!? んだとてめぇ! 理由を言って見ろ!」
案の定トッシュは激高して女を離すと、つかみかかってきそうな勢いで顔を寄せてくる。フェイは冷静に自分に身体強化を強くかけ直しながら答える。
「誰がお主らのような男臭いやつらに挟まれたいか。エメリナとも一緒にできんのじゃろ。嫌に決まっておろう」
「………は? つまりなにか? このすげー強い俺のパーティーにはいれることより、女と一緒の方がいいってか?」
「そんなもの、当たり前じゃろう。というかお主は、男ばかり集めて何がしたいのじゃ?」
「……確かに、じゃねぇよ! ちょっと納得しかけたじゃねぇか! こっちは遊びでやってんじゃねーんだ。ガチで強くなって国中に名前をとどろかせる勢いでやってんだよ。女をパーティーにいれると絶対人間関係でもめるから禁止してるんだ」
「うむ。別にそれを否定するつもりはないが、わしは嫌じゃ。エメリナと一緒の方が楽しい」
「……はっ、ははは!」
トッシュは顔を近づけたままにいぃっと口角をあげて声を出して笑う。
「お前の言うことはもっともだ。確かに男なら誰もが思う。女だらけのパーティーをつくりてぇとな」
(いや、それはそれでどうなんじゃろ)
フェイは暑苦しいガタイのいい男に囲まれるなんてごめんだと思っているが、だからって別に女だけがいいとも思わない。しかしふとエメリナに聞いたことを思い出す。
(そう言えば男と言うのは女が好きなもので、それが男の憧れなんじゃったか)
よくわからなかったが、確かにトッシュもそのように話を進めている。よし、この線で話を進めることにしよう。
「うむ。当然じゃな」
「だが、それは強者の理屈だ。てめぇが女といたいってだけで連れて外に出るなら、女に怪我をぜってぇさせねぇくらい強くねぇといかねぇ。お前にそれが、できるのかよ!」
話しながらトッシュは、フェイを思い切り殴りつけた。
「当然じゃ」
フェイはそれに身じろぎしないまま答えた。別にそれが来るとわかっていたわけではない。むしろそのあまりの速さに拳は全く見えなかったし、気づいたら殴られていたので驚いた。
ただトッシュは見るからに悪人面で粗暴そうなのですでに、いつも以上に、防御力もあげる身体強化の魔法をかけておいた。
だから全く痛くなかったし、殴られる自体は驚くことでもないので普通に返事をした。
「いっ、、ってえぇぇ! かてぇぇ!」
「お主は何をしておるんじゃ」
フェイの顔面を思いっきり殴ったトッシュは、強化してるフェイの顔面の固さに右手を抱え込んで悶えた。
「おまっ、ふ、ふざけんな! 何しやがる!」
「いや、普通に、お主顔恐いから予め魔法を自分にかけておいただけじゃ。というか、殴りかかってきておいて何しやがるとか、うけるの」
「うけねーよ! つか、せめて笑えよ!」
「ともかく、もういいじゃろ? わし、強いし」
フェイが話を切り上げると、フェイをぶっ飛ばして説得しようとしていたトッシュはぐぬぬぬとうなり声をあげる。
トッシュとしては最近噂の魔法師に興味がでて、とりあえず会ってみて、強ければ固定パーティーに誘おう。という気軽な感じだった。何故こんな面倒な展開になったのか。
若干メンツが潰されてしまったが、フェイの答えは理にかなっていた。というかトッシュも駆け出しの頃は女とパーティーがくみたくてたまらなかった。なので気持ちはわかる。そして確かに殴ったのはトッシュだ。
こうなったら、もう強パーティーのリーダーとして面子を気にしていたら、目的も達成できない。トッシュは頭をかいてから踵を返そうとするフェイに怒鳴った。
「あーもうっ、興ざめだ! こうなったらヤケだ! 俺と依頼をくめ! 固定パーティーには誘わねーし、その女がいてもいい」
「えー、なんなんじゃ。お主わしのこと好きなのか?」
「ちげーよ! 魔法使いに興味があるんだよ!」
「ふむ……まぁ、よいぞ」
「……あっさり頷いたな」
これを断られたらさすがに、いくら気心知れてる仲間とはいえ、リーダーとして顔が潰されるにもほどがある。フェイが駄目なら隣の女を脅してやろうと思ったが、普通に了承された。
トッシュはぽかんとして、思わず普通に聞いた。するとフェイはにやりと笑う。
「固定パーティーは断るが、依頼をこなすくらいなら構わん。わしの魔法を見せつけてやろう」
「……ふんっ、お前こそ、俺の強さを見てやっぱりいれてくださいって言っても…パシりからしかいれねーぞ」
いれてやらねーぞ、と言おうとしたがよく考えたらさっきの固かったのが魔法なら、噂だけでなく実際に使えそうだ。頭を下げたらいれてやろう。
「ないない。あ、エメリナ。勝手に話をすすめたが、よいか?」
「え、ええ。いいわよ」
「フェイ、フェイ。俺らも俺らも」
「……別によいが。セドリック、気安く肩を掴むな」
背後からセドリックがフェイの両肩を掴んで揺すぶってくる。とてもうざい。
「というか紹介しろっ。俺、俺有能だぜ!」
「なんじゃ、赤…何とか団に入りたいのか?」
「あったり前だろっ」
非常にめんどくさいことを言い出した。セドリックが面倒なのは知りたくなかったが、よく知っている。しかしセドリックがこう言う態度であるなら、トッシュの先ほどの自信も態度もわからないでもない。
少なくともこの街においては有名で、少なくとも男児の冒険者の一部にとっては入りたくてたまらない存在であることは、少なくとも事実なのだろう。
「トッシュ、こやつが入りたいそうじゃぞ」
「くそガキ、呼び捨てにすんな」
「ではくそ男か?」
「………フェイ、とりあえず、トッシュで許してやる。まだパーティーに入ってないからな」
とりあえずトッシュの後ろの鎧の男たちはトッシュの態度に笑っているので、先ほど殴ってきたとはいえ別に恐怖心でパーティーをまとめ上げているわけでもないのだろう。セドリックがそれに入って、こちらに関わってくることが減るなら万々歳だ。
「では依頼を何にするか。えっと、エメリナ、なんか鳥じゃったな」
「雪鳥ね」
「お主らもそれでよいか?」
「おう。いいぜ」
「それはいいんだけどよ、セドリック」
「なんだよ」
「俺ら、固定パーティーくんだばっかなのにいきなりよそに入ろうとすんのはどうよ。なぁ? ザック」
「いや、まぁ、いいんじゃないかな」
とりあえず本日はまさかの15人の大所帯で依頼をこなすことになった。
フェイにとってはまさかだが、規模の大きな依頼ではそれほど珍しくはない。実際『赤獅子団』と名乗る彼らは普段から常に10人前後で依頼をこなしている。
ちなみにこの赤獅子団という名前はトッシュが自分で付けたものだ。固定パーティーには名前を申請したりしないし、少数パーティーでもつける人もいる。しかし少数の場合はすぐに解散する可能性もあり、それほど長く存在しない集団にいちいち名前をつけてはいられない。
逆に長く存在し、少しずつメンバーが変わっても完全に入れ替わらないような、そんな『集団』として確かにあるような大きな固定パーティーになると、必然的に名前が必要になってくる。少数パーティーでも有名だと名前が勝手についたりすることもある。
赤獅子団とはなんじゃ、と聞いてそう言う説明を道すがら受けたフェイは一つ頷いた。
「なるほど、確かに名前があると、格好良いのう」
「だろ? 俺様が最初からつけてる名前だ。格好いいだろ?」
「最初?」
「おう、団員一名の時からつけてる」
「……寂しいやつじゃの」
「うるせぇよ! いて!」
「なにやっとるんじゃ」
反射的に怒鳴りながら殴りつけたトッシュだが、魔法を解除していないフェイは当然まだ固く、トッシュは再び右手を自分で握り込む。
「フェイてめぇ、その魔法解除しろ!」
「断る」
(殴られるとわかってて解除するわけなかろう。こやつ、アホじゃな)
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