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魔法使いフェイ  作者: 川木
エーリクの道場
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184 鉄棒

「はぁ、はぁ、ち、ちと待ってくれ」

「……いや、いやいや。そりゃ、魔法使いのおたくには期待してなかったよ? でもよ、いくらなんでも体力なさすぎだろう」


 家から出て、あちこちに作っていると言う修行場を案内してもらっているのだが、徒歩での案内にも関わらず息があがっているフェイに、エーリクは呆れる。

 

「冒険者で、旅をしてるんだろ? そんなんじゃろくに移動もできないだろう」

「い、いや。いつもは、魔法で身体強化しておるから、はぁ」

「はあ? そんなことまで今のやつらはしてんのか? かーっ、まじないわ。体まで魔法ありきかよ。そんなんじゃ、魔力が切れたら困るだろうが」

「ふぅ。切れたことがないから、そんな心配はしたことがないの。わし、魔力は人より多いからの」


 自慢ともとれるフェイの言葉だが、エーリクは肩をすくめて呆れてみせる。それにしたって、体力がなさすぎる。


「はぁん。そうかい。まあ、強制はしないが、いい機会だ。魔法なしで体を動かしてみな。損はしねぇから」

「うむ。そうじゃな。そうしてみよう。さて、では改めて案内を頼む」

「おう。と言ってももう折り返し地点だ」


 言いながらエーリクは歩き出して、フェイを連れて家からは一番下がった場所にある、他より比較的広い広場に案内した。


「ここが一番下だからな、一番簡単なトレーニングだ。入ってすぐの弟子がここで体をならしてから、段々上に上がっていくんだ」

「ほう」


 広場は何やら地面が不自然にぼこぼこしていたり、よく訳のわからない障害物があちこちにあったり、右端には高い木からロープがさげてあったりして、あちこちに手がくわえられていた。

 それに対してエーリクは、軽く走ったりあえて平坦でない場所を登り降りしたり、飛んだり跳ねたりして基本的な動きを確かめるのだと実演して教えてくれた。


「ほう。確かに思ったよりも体を動かすんじゃな」

「まぁな。本格的な訓練はさっき言ったのだが、一通り体が動かなきゃ無理だからな」


 ここまで説明してくれた修行場ではそれぞれ池があったり、何やら的があったり、殴りかかるような藁の人形があったりしていた。それの基礎と言うことだ。

 遊び半分にも見えなくもないので、基礎と言われれば納得だ。


「やってみるか?」

「うーむ」


 興味はないかあるかなら、ある。しかしさっきはちょっとやらされて休憩なしで降りてきただけで息が切れた。走ったりなんかしたら余計に疲れそうだ。


「行くぞ、よーい、スタート!」

「って!?」


 返事にならないうなり声をあげたフェイだったのに、エーリクはスタート位置の横まで移動すると勝手に開始の合図をした。


「人の話を、聞けと言うに!」


 勢いよく手を振ってそんなことをされて、何となく反射的にフェイは走り出してしまいつつも文句を言う。


「よっ、とっ、と」


 スタートして10メートルほどで小さな丘になっていて、鼻から大きく息をはきながらたどり着き、掛け声をかけながら地面に手が付き添うなほど前屈みになってあがりきる。


「とととっ」


 そして転げそうになりながら丘を降りてカーブをまがり、邪魔な木箱を飛び越え、ようとして足をぶつけた。


「ぐっ! う、うう」


 身体強化がないので、いちいち動作がいつも通りにできなくて、フェイは半泣きになりながら腰まである高さの木箱にすがりつくように登って何とか乗り越える。

 その次はさらに大きな石だ。身長より少し低いくらいで、背伸びして肘まで手をのせて腕の力で登ろうとするが、顎すら乗らない程度にしかあがらない。


「はぁ、はぁ」


 仕方ないので諦めて迂回して、肩で息をしながらぽてぽて歩き、最後には長いテーブルのようなものがあるので、その下を四つん這いになって進み、ゴールした。

 なお、エーリクは石も軽く飛び越えたし、テーブルの下は物凄く低い中腰で走り抜けた。タイムが全く違う。


「うう、膝がいたいぞ」


 コース上には危なくないよう小石などは避けてあるのだが、固い地面に膝をつけるのは思った以上に痛かった。身体強化していれば、皮膚も丈夫になるので、地面の固さなんて意識したことはなく、思いきり膝をついてしまった。

 涙目で戻ってきたフェイに、エーリクは憐れむような目を向ける。


「おたく……いや、すまん。なんと言うか、逆に身体強化ってどれだけすごいんだ?」

「む? ではやってみるか」

「ん? あ、いや、そんな簡単に俺の魔法封じは解除したりできないからな」

「いや、このままでもできるかやってみる」

「ほう? 面白い。やってみろ」


 いずれにしてもこの魔法封じの詳細も気になっていたので、試したかったのだ。フェイの提案にエーリクは一度驚きに瞬きしてから、にやりと興味深そうに促す。

 エーリクは魔法を重視しないし、肉体こそ真の強さだと思っているが、別に魔法絶対否定派と言うわけでもない。現在の魔法が変わっていると言うなら気になるし、それによって修行のバリエーションも増えるかもしれない。


 それに元々エーリクは豊富な魔力を持ち、幼少期にはしっかりと魔法を学んでいる。肉体を鍛えつつも魔法封じの研究をそれなりに長い時間をかけて行い、魔法を作り出した。なのでそれなりにこの魔法には自信を持っている。

 それを破ってみると言われたのだ。筋肉に関係なくても、挑戦されると言うだけでわくわくすると言うものだ。

 

「うむ。では手を出すんじゃ」

「お?」


 エーリクの手を握り、フェイは身体強化の魔法をかけた。


「む? いかんの」

「やっぱり無理か?」

「いや、一応発動はできておる。おるが、常にキャンセルされるので、常に発動し直さねばならぬから、手を離せないんじゃ」


 魔法封じは魔力の結合を防ぐ効果がある。魔力同士が固まらず、離れていく。魔法は魔法陣の形になることで変換される。

 離れていく抵抗を無視して魔力量でごり押ししてなんとか発動させることには成功したが、持続させようとしてもすぐに魔法陣は崩れようとするので、次から次へと魔力を注いで形を維持しなければならない。


 体感で魔力量を示すと、発動までに普段の十倍ほどの魔力がかかり、さらに常に発動時の数倍の魔力が必要になる。

 あれだけ魔力パフォーマンスのよかった身体強化でこれでは、他の魔法となるとより難しそうだ。特に結界は、いつもより時間がかかってしまいそうだ。


 魔力には余裕があるので自分にならかけ続けられるが、今はエーリクにかけるのが目的だ。移動するエーリクにかけ続けるのは難しい。


「娘さんとずっと手を繋ぐのは、さすがに照れるが、じゃあこのまま試してみてもいいか?」

「まあ、よいが」

「んじゃ、軽く走ってみるか。行くぞー」

「う、むっ!?」


 掛け声をかけてエーリクは隣にいて一緒に移動するフェイを気遣いながら、軽く地面を蹴った。しかしその次の瞬間には地面を離れて丘にぶつかるところまで来ていた。

 驚きつつも急ブレーキをかけて足を地面に埋めつつもぎりぎり止まったエーリクと違い、フェイは普通に丘にぶつかった。


「おわっ、す、すまん。大丈夫か?」

「だ、大丈夫じゃ。まだ身体強化はとけておらんから。しかし、もう嫌じゃ。身体強化をとくぞ」

「お、おう」


 まだ全然効果を試しきれていないが、さすがにこの状態ではもっとやりたいなんて言えない。自分の魔法封じのせいでもある。

 エーリクは謝罪しながらフェイの手をひいて立たせた。フェイはそれには礼を言いつつも、やや乱暴にずっと繋いでいた手をほどいた。


「ふう、ひどい目にあったの。とりあえず、もう走るのはごめんじゃ」

「そうだな。よくわからんが、身体強化は物凄い効果らしいし、おたくはそのままでいいだろう」


 修行しろよーと言いたくなる運動音痴っぷりをみせたフェイだったが、この状態では何とも言えない。エーリクは当たり障りなくそう言った。

 魔法使いの国に生まれてそれなりに才能もありながら自己流で武術を作るほど思い込みが激しく、人の話を聞かないエーリクにしてはそうとう珍しい気遣いだったのだが、そんなことはフェイは知るよしもない。

 そうじゃなと軽く流した。


「そう言えば、左端に」

「あれ? 師匠? あれ? もしかして新しい弟子っすか!?」


 フェイの台詞を遮るようにして背後から声をかけられた。振り向くと登り道から繋がる入り口からこちらへ駆け足でやってくる少年がいた。


「お? おお! ヴィリオ! 帰ってきたか!」

「はい、なんとかっす」


 エーリクは大袈裟に腕をあげて迎え、弟子の一人ヴィリオは笑顔で応えた。


「それで、新しい弟子っすか?」

「いやいや。ま、俺の誕生日を祝いに来てくれた客ってとこだ。一週間ばかしの仮弟子ってとこだ」

「フェイ・アトキンソンじゃ」


 間違いでもないし、話をややこしくするのも面倒だったので、とりあえずヴィリオに向かって挨拶する。


「フェイっすね。こんなとこにお客さんとは珍しいっす。自分のことはヴィリオと呼んでくれっす。一番下っ端っすから、何かあったら自分に言えばいいっすよ」

「そうか。ならばさっそく聞きたいんじゃけど」

「おっ、なんすか?」

「あっちにある、あの棒はなんじゃ? 洗濯物を干すにしては嫌に背が高いし、金属製じゃぞ? かな臭くなってしまうのではないか?」


 広場の左端には、しっかり固定された数本の背の高い柱が規則的に並び、それらを繋ぐように横長の丸い金属棒が上部に固定されている。台つきの物干し竿のようなかたちになっている。

 しかし物干し台にしては、柱は太くてしっかり支えられているし、フェイが背伸びをしても届かなさそうな高さだし、金属製だしと、とても重くて立派で、奇妙なオブジェのようにすら見える。


「ああ、あれは鉄棒って言って、まあ、ぶら下がったり回ったりするっす」


 指を指して尋ねるフェイに、ヴィリオはああと頷きながら答えるが、 どうにも答えがふわっとしている。とても体を鍛えるものとは思えない。

 首をかしげるフェイに、エーリクがにやりと笑ってヴィリオの肩を右手でぽんと叩く。


「せっかくだ。ヴィリオがどれだけできるようになったのか、鉄棒で実践してみろ」

「ええ? 実践って、鉄棒の練習しに行ったわけじゃないんすけどね」


 文句を言いつつも、ヴィリオは背負っていた大きな鞄を地面におろして鉄棒の前まで移動して、軽くその場で跳ねる。


「ん。よし、じゃ、行くぞっす!」


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