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魔法使いフェイ  作者: 川木
マーギナル国
168/202

167 マッサージ

 巫女様とお話ししたからどうと言うこともなく、強いて言えば話が伝わったらしく教会での対応が気持ちより優しくなったくらいで、ごく普通に翌日も依頼をこなす。


「フェイ、昨日よりちょっと様になってるわね」

「む!? まことか?」

「ええ。やっぱりナイフって使わない駄目ね」


 今までずっと腰元の飾り程度で、依頼では殆どナイフを使っていなかった為、子供が拾った木の枝を振るくらいの手つきだった。

 しかし昨日からばりばりナイフを振るうようになったフェイは、ようやくナイフを与えられた幼児くらいにはなってきた。要は全く様にはなってないが、ナイフを扱ってるらしくなったのだ。


 ナイフを手にいれてからの時間を考えると遅すぎるくらいだが、使わなかったものは仕方ない。リナは褒めてのばそうとフェイをよいしょする。


「ふむ、そうか。これは秘められたナイフの才能が芽生えてしまうかも知れんの」

「そうね」


 まだ二日目だ。可能性はゼロではない。調子にのりだすフェイに、得意気な笑顔が可愛いなぁとリナは微笑んで相づちをうった。


 気合いをいれたフェイにリナは付き従い、時にナイフの使い方をレクチャーすると言う形で、ナイフの訓練を行う。

 フェイは何も死ぬほど不器用な運動音痴と言うほどでもないので、リナに教わりながらナイフを振るうと昨日よりさっくりと突き刺し、斬り殺すことができると実感できるようになった。

 最初も最初なので、上達ぶりがわかりやすいのだ。フェイは自分でもそれがわかるので、ますますテンションをあげた。


 そうして一日依頼をこなして、清算して宿に帰ったフェイは、大袈裟に疲れたーと肩をまわした。


「お疲れ様。今日も頑張ったものね。肩、もみましょうか?」

「む? おお。では、頼もうかの」


 ベッドに腰掛けて提案してくるリナに、フェイはリナの隣、リナに背中を向けるよう斜めに腰掛けた。リナはベッドに深く座りなおしてフェイの背後に回り、フェイの両肩に手をのせる。


「いくわよー」

「んっ」


 ごり、と親指が首と肩の中間あたりに食い込む。同時に肩の全面のふちが四本の指で後ろに引き寄せられる。

 肩を揉まれると言うのは、実は初体験であるフェイ。ぐい、ぐいと肩の筋肉が押し込まれては放される感覚は、しかし何とも気持ちいい。


「そんなに凝ってないわね」

「そうか? 気持ちよいが」

「ふふ、小さい頃はよくしていたもの。首も気持ちいいのよね。どう?」


 両手が徐々に中心に寄っていき、首の付け根にたどりつき、押し込んだ親指がさらにぐりぐり回転させるように動き、そのまま耳の後ろへ向かってあがってくる。


「ぬぉお、おお、き、気持ちよい」

「う、呻いてるけど大丈夫よね? 痛いのに我慢してない?」

「うむ。もっと頼む」

「はいはい」


 ぎゅうとさらに首がもまれ、首から肩へまた戻っていき、今度は肩をぱかぱか叩かれる。リズミカルにいい音をたてて、揺れるほど肩が叩かれるがそれもまた小気味良い。


「ぅおおぉ」

「はい、おしまい」


 一通り肩からついでに腕も背中も揉みこんで、リナは軽くフェイの頭をチョップして終わらせた。


「ふー」


 マッサージを受けていた側の癖に、フェイは一仕事が終わったかのような息をついて、そのまま背中を倒してぽんとリナにもたれ掛かる。

 リナは軽く両手を振ってからフェイを抱き締めるように手を回し、右手で胸元のフェイの頭を撫でた。


「むふふ、リナ」

「なに?」


 フェイはご機嫌に笑いながら顎をあげて、リナの胸に頭を押し付けるようにしてリナの顔を見上げた。リナは意味もなく右手でフェイの顎を撫でながら相づちをうつ。それにくすぐったがりながら、フェイはさらに笑みを深くする。


「ふふ、リナ、キスをしよう」

「え? なぁに、急に?」


 突然言われてどきりとしながらも、リナは平静を装って右手でフェイの喉仏を撫で撫でする。


「ふは、くすぐったい。なに、こんなにも気持ちのよいマッサージを、献身的にしてくれるお主の、なんといい女かと思ってのぅ。そんなリナがわしのものである幸せを改めて感じて、キスしたくなったまでよ」

「う、うわー……また、上手いこと言って、私にまたマッサージをさせようって腹でしょ?」

「む? まあ、またしてもらうつもりじゃが。別によかろう?」

「ま、いいですけど」


 フェイは何度だって明け透けに言うので、リナとしてはいつまでも慣れずにどきどきしてしまう。そしてついつい誤魔化すような憎まれ口をきいてしまうのだが、あっさりフェイに流された。

 フェイの軽さに、リナは視線を一度そらしながらもさらっと頷きかえせた。


「とにかく、キスがしたいんじゃ。けちけちするでない」

「け、けちけちなんてしてません。別に」


 フェイは逆さ向けにリナを見上げるのをやめて体を起こし、体をひねって振り向き右手をベッドについてお尻を少しあげて、つんとしたつれない態度を崩さないリナに問答無用で顔を寄せる。


「……」


 リナはそれにはなにも言わずに目を閉じたので、そのままそっと口付けた。

 さらに柔らかな唇の感触を味わうように、唇を動かしてリナの口に押し付けて、まるでリナの唇を口先で甘噛みするように、はむはむと唇をもてあそぶ。


「ん、んぅ」


 遊ぶようなフェイの唇にしばらく付き合ってから、体温があがってきたリナはフェイの頭を手を回して、舌をフェイの口に向かって侵入させる。


「んっ、ふぅん」


 一瞬びくりとしたフェイだが、すぐにリナに応えて舌をだし、左手で力強くリナの右肩をつかんでより体をよせた。

 その勢いでリナと共にリナの上に乗り掛かるようにしてベッドに倒れたが、お構いなしに気の済むまでキスをした。


「ん、はぁ……はぁ、リナ、好きじゃぞ」

「うん……私も」


 一段落ついたところで、フェイは右手をベッドについて息も荒く顔をあげて愛を囁く。リナも素直にはにかんで微笑む。

 ようやく素直になったリナにフェイも満足げににんまり頷き、よっこらしょと声を出しながら起き上がる。


「さて、では夕食とするか」

「そうね。ところでフェイ」

「なんじゃ? 食べたいメニューがあるのか?」

「ええ、夕食の後で、フェイを」

「む!? むぅ、まあ、私とてやぶさかではないが、明日も依頼じゃよ?」

「たまにはいいでしょ。と言うか、ここまでキスしといて、それはないでしょ」


 いやー、そこまでキスしたのはリナから、とは思うフェイだったが、嬉しかったしまあいいかと反論はせずに相づちをうつ。


「そうじゃな。では、デザートはリナと言うことで」

「おっさんみたいな言い方するわね」

「お主が言い出したんじゃろ」


 そもそも食べる、なんて比喩的表現をフェイに伝授したのがリナの癖に、おっさんとは。半目になるフェイに、リナは笑って誤魔化して立ち上がる。


「さーて、じゃあご飯は何にしましょうか」


 まだ夜は始まったばかりだ。








「そうじゃ、リナ。言い忘れておったんじゃけど、明日は遊ぶ約束をしておるんじゃ」

「え? 誰と?」


 明日は週末となった夕方。明日は休みだーなんて宿への帰路を歩きながら、フェイは明日の予定を告げた。


「この間、魔力をはかりに行ったじゃろ? その時に知り合った巫女のアリーじゃ」

「ふーん……可愛い?」

「む? まあ、可愛らしい顔立ちじゃったが」

「ふーーん」


 あえてなにも言わないが、自分で聞いておいてつれない返事に、露骨に不満そうな顔つきで、あからさまに物言いたげだ。 


「なんじゃ、またか。焼きもちをやく様も可愛いが、面倒じゃから一人に対して一度で頼むぞ」


 あきれ半分で苦笑しながら、割りと酷いことを言うフェイ。一度ずつって、そんな初対面限定とはいかない。むしろ仲良くなるほど心配になるくらいなのに。

 とは言え、リナも自分の態度が面倒なことはわかっている。可愛いなんてフェイは自分から何も言ってないのに、わざわざ言わせてこれなのだから。でも気になるものは気になる。


「う、そ、そう言うこと言う? そんな定例イベント扱いしないでよ」

「いや、そろそろ毎回じゃし。リナはなんじゃ? リナより年下の少女じゃと不安なのか? 私はリナが好きなんじゃから、どちらかと言うなら自身と同じ年頃に対して心配すべきではないか?」


 いやまあ、どちらにしても心配する必要なんかないのだけど、理屈から言うとそうではないか。と言うフェイの言葉にリナは目から鱗だ。

 確かに。フェイが幼くて自分が年上なのが気になって、ついフェイと同じ年頃の方が話があうのではと気になるが、冷静に考えるならフェイの好みは自分なのだから、自身と似たタイプを心配するべきだ。


「な、なるほど。それは考えてなかったわ。じゃあ私は、フェイからして年上で弓を使う狩人の世話焼きタイプを警戒すればいいのね」

「いや、別にリナが年上じゃからとか、狩人じゃからで好きなわけではないんじゃけど」


 そもそも、リナだから好きなわけで、心配する必要はないし、まして警戒なんて必要ないから。普通に人付き合いしてください。

 等と言うフェイの主張は、嬉しいところは聞いておいたけど基本的にスルーされる。


「とりあえず、今の話ぶりでは巫女様は子供なのよね? それなら安心だわ」

「ああ、うむ。まあ、そうじゃよ」


 繰り返すのも面倒だし、アリーとのやり取りに突っ込まないならとりあえずいいか、とフェイは笑顔のリナに相づちをうつ。


「で、リナも来るか?」

「ん? 連れも連れてくって話してたの?」

「いや、全くしておらん。お主のことを言うのを忘れていた」

「別にわざわざ言う必要はないけど、ちょっとは思い出してよ。いいけど。まあ、行かないわ。その子も突然来られても困るだろうし、私としても、巫女ってちょっと、ハードル高いし。喧嘩にならない程度に遊んできてよ」

「そうか。ならそうしよう」


 確かにアリーは二人で遊ぶつもりでいるのに、突然知らない人が来たら驚くだろう。リナ自身が宗教関係に拒否感があるならお互いに楽しくもないだろうし、連れていっても迷惑だ。

 正直フェイは、無意識にリナも一緒に遊ぶつもりになっていて、アリーに話すまでもない当然のことと思いすぎていた。

 だがアリーからしたらそうでもないし、リナに無理をさせる必要もない。


 と言うわけで、明日はアリーと二人で遊ぶことになった。









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