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魔法使いフェイ  作者: 川木
トウデイ街
153/202

152 お金の管理

 その後、港が見えてきたよ!と言う喜びでノックをせずにマクシムがドアを開けたせいで、驚いたリナがフェイをマクシムに投げつける事件は起こったが、とりあえず問題なく、夕食はなしで、普段の夕食に少し遅いくらいに、港町トウデイに到着した。


 その独特の臭いと揺れない足元に違和感を感じつつ、フェイとリナは久しぶりに大地へ降り立った。


 ついた時間が微妙な時間なので、船員たちはどんどん荷物を下ろしたりはするが、その他の者は船内でもう一泊無料で泊まることはできるし、マクシムもそうしたらいいと言ってくれたが断った。


 折角の別大陸だ。国が違うだけであれほど文化の違いがあったのだ。大地を分かつここはいったいどんなところなのか。

 すぐにだって見て回りたいし、少しでも街の雰囲気に触れてみたい。


 夕方を過ぎて、街はざわめく時間帯だ。そこらじゅうから油のようないい匂いがして、お腹の虫がなりだす。

 大通りには屋台が並び、灯りがたくさん吊られていて夜が遠く感じられる。雑然として、行き交う人々の服装、雰囲気も全く違う。

 船旅の間に季節を越えたのもあるだろうが、ワーガスト街との違いには驚くしかない。袖口の大きな服装で、暖かそうな格好をしているのが特徴的だ。


「リナ、はぐれてはいかんから手を繋ぐぞ」

「いいけど、それほどの人通りでもないと思うんだけど」

「うっ。さっきマクシムに頭突きをさせられた頭が痛むのぅ」

「あー、手を繋ぎたいわー。めっちゃ繋ぎたいわー」

「そうであろう、そうであろう」



 フェイはこれ見よがしに頭を抑えた右手を、にこにことリナに差し出してくる。リナはそれを握る。

 別に、リナだって繋ぎたくないわけではなくて照れ隠しなのだが、そうも露骨にされると、どうにも複雑な気分になる。


 そんなリナの変顔を無視して、フェイはリナと繋いだ右手をひいて、屋台の一角を指差す。


「見てみよ、あそこの屋台はずいぶん並んでおる。覗いてみよう」

「んー? 揚げ物の屋台みたいだけど、何かしら」

「美味しそうじゃろ?」

「そうね。じゃあ並びましょう」


 並ぶこと10分弱で購入できた。味は一種類で、一つずつ買ってきて、人混みから少し離れたところでさっそく熱々を一口頬ばる。


「ん! あふいっ、けど、美味しい!」

「あちち。うむ。さくさくしてて美味い」


 こんがりとあがった生地はさくさくだが、中にはジューシーな味つきミンチ肉が入っていて、独特の香辛料の臭いが少しするが嫌みではない。二人の口に大当たりであった。


「これはよいな。よし、あっちのも買ってみようではないか!」

「ちょい待ち。フェイ、次のを買うのは食べ終わってからよ。食べきれなかったら困るでしょ」


 まだ一口しか食べてないのに、食べ物片手に別の屋台へ向かおうとするので止めると、フェイは不満そうに口を歪める。


「よいではないか。とりあえず買ってしまおう」

「駄目よ。無駄遣いは禁止って、約束したでしょ」

「う……うむ。ごほん。もちろん、覚えておるよ」


 あからさまに目をそらされた。咳払いもわざとらしすぎる。忘れていたらしい。


 リナとしては、あれで自重してくれるなら、本当に財布を預かる必要はないかと思っていたが、ここは一度で厳しくして、フェイ自身に節制の意識を植え付ける必要があるかも知れない。

 船ではそうそうお金を使う機会がなかったので、問題はみられなかったが、ここではしゃいで無駄遣いするなら意味がない。


「宿をとったら、お金のルールを決めましょうか」

「う、うむ。望むところじゃ」


 とりあえず買ったものを食べて、それからもう2店巡って、宿を探した。


 フェイはもとより、リナも魔法で会話には困らないので、大陸が違っても宿をとるのは難しくなかった。

 夕食後、宿で身を清めてから、改めてお金について整理することにする。


 まずお金だが、大部分を貯金として持ち運びしやすい宝石類に替えて鞄の奥深くにいれている。一番価値の高い金貨は、金の含有率の高さから他国でも殆ど両替金額は同じなので変えていない。金貨はまた宝石とは別の袋に小分けして、鞄に入れている。

 それらとは全く別の、普段使いの財布。直近の依頼などで手に入れた分をいれては、日常に散財する分としている。


 以上がフェイの財産の財布分けだが、リナはこれにさらにプラスして財布がつく。フェイは普段使いに無造作に10万ほど入っているが、リナは財布をさらに細かくしているのだ。


 具体的には依頼などでお金が入ったら、まず第一次貯金としてA財布(仮称)にいれる。そこから1日に自由にしていいお金として1万ずつ、B財布にいれる。B財布は食費などすべて含めての生活費に使っていいお金だ。

 基本的にはB財布のみで衣食住全て賄うのだが、衣服などは1万では買えない。その為、B財布から貯金をする必要がある。


 ちょっとずつ貯めるB貯金分が混ざらないように、C財布が用意されてそこへ移動する形になっていて、買い物をするときの基本生活費はB財布、ちょっとお金のかかるものはC財布となっている。

 さらにそれだけではなくて、たまにはちょっといいお菓子や小物を買ったり無駄遣いもしてみたい。と言うことで、1日の終わりにB財布に残ったお金はC財布に行くだけでなく、僅かに出る端数分はさらに別の小銭入れにわけてD財布として存在する。

 ちょっと今日は夕飯前にお茶しようかな、何て時はDから出る、と言う流れになる。


 と言う、財布を分けに分けた、ややこしい状態になっている。フェイでなくても首をかしげたくなる。


 例えば衣服や武器などは破損で急に必要となることもあるだろうが、そう言うときはA財布から出している。イレギュラーがなくてAがある程度たまったら、鞄の奥へさらに移動させて、総貯金量を増やしているらしい。

 リナの財布には違いないので場合場合で柔軟に対応しているのだろうが、それら全てをフェイにもあてはめて今日からやれとなれとややこしいし、面倒くさい。


「もう、リナが管理すればよかろう」


 リナが私はこうしてるけどフェイはどうしようか、と言うように説明している途中から、面倒になったフェイはそう言って丸投げすることにした。

 リナのこと信頼してるから。ちょー信頼してるから。うんうん。


「そうしろって言うならするけど、でもそれだとフェイには多少のお小遣いみたいにして、飲食も服もつどつど私が財布から払うみたいな形になるわよ?」

「それでよかろう。リナが渡す金額より高くて欲しいものがあれば、リナに言えばいいんじゃろ」


 どうせ一人であれやこれや買い物に行く機会はそうそうない。一人でぶらぶら出掛けて買いたいなとなるのとだいたいが食品などで、大した金額ではないし、だから問題ない。

 フェイはかるーく考えてそう返事をする。


 リナとしてはフェイと一緒に稼いでいて、リナばかり財布から出すのを人に見られるのは、あんまりフェイはプライド的に嬉しくないのでは。と思っていたのだが、別にそれはどうでもいいようだ。

 実際に奢られるのは嫌だが、財布を渡してるなら自分のお金だから見た目上どう見られてもいいらしい。


「うーん、わかったわよ」


 ならもう、リナとしても仕方ない。そこまで言うなら任されよう。元々お金の管理はちゃんとしているので、二倍になるだけで手間はそれほど変わらない。


「じゃあ、明日からフェイは1日1000G、じゃなくてこっちの通貨だとRか。1000Rを目安に渡すわね」

「なぬっ!? ちょっ、ちょっと待たれよ。1000G程度では何も買えぬではないか」

「そんなことないわよ。お仕事した日はそんな買い物しないし、休みの日までたまるでしょ?」

「む、むぅ」


 月に自由にできるお金とすると三万ほどになる。そう考えると、物凄く安いと言うこともないかも知れない。だけど例えば船で美味しかったから格安でわけてもらった茶葉は一缶2万ほどだった。1つしか買えないとなると、凄くお金がなく感じる。


「どうしても必要なものならもちろん、お金を惜しむ必要はないわ。でも、本当に欲しいものかどうか、ちゃんと考えなきゃ駄目よ」

「……うむ。わかった」


 確かに、別に茶葉は3缶もいらなかったかも知れない。ちょこちょこ飲んで味にも飽きてきたし。

 そうしてちゃんと考える習慣をつける、と言うことならその金額でも致し方ないのかも知れない。と思ってもフェイとしてはやはり安くないかなーと不満顔だ。


 頷くも不満そうなフェイに、リナはため息をつく。


「あのね、言っておくけど過剰に減らしてるわけじゃないわよ? むしろ私はずっとこれより安いくらいでやってきたんだから」


 宿と食事で1日一万の殆どがなくなる。そこからさらに殆ど貯金へまわして、残り1000以下が無駄遣い用、すなわちフェイと同じお小遣い用になる。


「買ったあとで、必要なものだったって言ってくれたら、その分はまたお金を渡すし、まずはそれで慣れてみて」

「…うむ。わかった。リナも同じだと言うなら、そうじゃな。わしが今まで贅沢だったかも知れん」


 リナの説明に、フェイは表情を切り替える。

 何といっても、今後も共に生活していくリナなのだ。金銭面でのトラブルは厄介だと教わっているフェイとしては、リナとお金の感覚がそんなにずれていると言うなら、ここらで擦り合わせる必要があるのだろうと思った。


 そんな真顔になったフェイに、リナも表情をゆるませる。確かに今は、お金に困っているわけではない。だけどいずれ、怪我や老後など働けなくなったりすることもあるだろうし、いつお金が必要になるかわかったものではない。

 フェイとの将来を考えるからこそ、無駄遣いはなくしてほしい。


「わかってくれて、嬉しいわ。一緒に頑張りましょう」

「うむ」


 フェイは重々しく頷いた。









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