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魔法使いフェイ  作者: 川木
ワーガスト街
145/202

144 子供っぽいリナ

 夏の便に乗ることが決まって、出発日も教えてもらい数日が経過した。リュドミラに魔法を見せる、と言う名目で簡単な依頼をフェイ中心で行う、魔法観賞ツアーも慣れたものだ。

 すごいすごいと喜んでくれるものだから、フェイもサービスして意味もなく過剰に魔法を使ったりしているが、これも船旅時にはマクシムへ披露する為の練習になる。

 マクシムへは一応代金がわりなので、失敗しても問題ないリュドミラで反応を確認できているのは悪くない。


「むー、疲れたの」

「また調子に乗るからよ」


 宿に戻ってベットに座りながら息をつくフェイに、リナは弓を片付けながら棘のある声音でつんと言った。声音だけではない。この間までなら疲れたと言うと、そうねーなんて言いながら隣に座って頭を撫でるなりなんなりして癒してくれたのに。冷たい。


「リナが冷たい。寂しい」

「……」


 なので直球で文句を言った。唇を尖らすフェイに、リナはむっと顔をしかめて振り向き、しばらく見つめあってから、はぁと大きく息をはいた。


「全く、何でも素直に言えば、いつでも私がほだされると思わないでよね」


 文句を言いながらも荷物を片付け、フェイのベットに来て隣に座ったリナに、フェイはにんまり笑って体を傾け、頭でリナの肩をつつく。


「リナ、膝枕をしてくれ」

「もうっ、座る前に言ってよねっ」


 リナはつんとした態度を崩さないまま、フェイがそのまま寝転んでちょうど膝に頭が乗るよう距離を取って座り直した。


「むふふ、だからリナは好きじゃ」

「フェイはいつもそう。そんなことばかり言ってればいいと思って」

「なんじゃよー。本心じゃぞ。なんでさっきから機嫌悪いんじゃ?」

「もー……フェイに悪気がないのはわかってるけど、もうちょっとくらい、こう、乙女心を考慮してくれてもいいじゃない」

「む?」


 八つ当たりであることは自覚しているリナだったが、フェイにも気持ちを理解してほしい。だと言うのに、フェイは何もなかったかのようにきょとんとしている。また怒りがよみがえってきたリナは唇を尖らせる。


「リュドミラのことよ。いちゃいちゃしちゃって」

「いちゃいちゃなど……む、手を繋いだことか? あれはしかし、リュドミラが一人で飛ぶのは恐いと言うし」


 長時間飛ぶならともかく、ちょっと飛ぶくらいなら魔力節約を気にすることもない。なので普通にリュドミラ単品で浮かしたのだが、ちょっと恐いと言うので手を繋いだ。

 確かに、手を繋ぐのはいちゃいちゃに含むと決めたけど、それだけでそんなに怒らなくてもいいのに。


「終わってからも繋いでた。それに、リュドミラがちょくちょくフェイに近すぎるのよっ」

「むう? そうじゃったかのぅ。しかし、リュドミラには悪気はないわけじゃし」


 フェイのフォローに、その意味は十分にわかっていて理解しても、より腹立たしい。今はリュドミラを庇う場面ではないだろう!

 リナはムカムカしてきたので、フェイの頭を右手でわしゃわしゃ撫で回しながらも怒りのまま口を開く。


「わかってるわよ。でも、じゃあなによ。悪気はないから、私は嫌な気持ちになっても黙ってろって言うの?」

「そう言うわけではないが」

「そりゃ、リュドミラちゃんはまだ子供だし? フェイが、少しでも私のこと気にしてくれたらまだいいけど、フェイ、全然気にしないし。なによ」

「むー、わ、悪かった」

「大体、子供って言うけど、12歳よ? 12歳。私よりフェイと年が近いじゃない。なに? 私がおばさんだから、若いリュドミラの方が話があうとでも?」

「そんなこと言っておらんじゃろう。おかしなことを言うでない」


 リナがヒートアップしてしまって、フェイの言葉が耳に入っていないようだ。フェイは自分の頭をぐちゃぐちゃにしているリナの手をぎゅっとつかんで、リナの目を見上げて言う。

 リナは手をとられたことで、フェイの目を見て、見つめあうことで少し溜飲をさげてまた息をついた。


「……おかしなことを言っちゃうくらい、腹が立つの。フェイが、私に全然恋人としての配慮をしてくれてないから」

「恋人としての配慮、とな? 具体的にどのようなものじゃ?」

「だからこう……もう、なんでわからないのよ。逆の立場で考えてよ。私がリュドミラとべたべたしても気にならないって言うの?」

「む。それはいかん。リナは私のじゃ」


 即答された。リナは腹が立っていたにも関わらず、どきっとしてしまう。

 自分はリュドミラとべたべたしてたくせに、リナには駄目だ。自分のものだ。なんて当たり前に言うなんて、勝手すぎる。傲慢すぎる。自己中すぎる。


 だけど 力強く断言すると言うことは、それだけリナを強く思ってくれていると言うことだ。勝手だけど、勝手なことをためらわないくらい、リナを思ってくれていると言うことだ。リナはフェイに独占されることにときめくし、嬉しいと思ってしまう。


「う……うー! もうっ。だから、そーゆーのよ。フェイだって、私のなんだから。他の女の子とべたべたしないでよ」


 だけど、それとフェイがリュドミラといちゃいちゃするのは別問題だ。フェイに独占されるのはいいけど、リナだってフェイを独占したい。


「ふぅむ。あい、わかった。極力くっつかぬように配慮しよう。普通に話をする分には問題はないじゃろ?」

「……ないわよ」

「ならなぜ不満そうに言うのじゃ。あるなら言うがよい」

「……問題はないけど、そのあとは私のことも、構ってくれなきゃ嫌」


 言いながら、リナは顔をそらした。物凄く子供っぽいことを言ってしまった。だけど、本心であることには違いない。

 頭ではわかっているのだ。フェイに他意はないし、リュドミラだって悪くない。初めて飛ぶときは不安だし、魔法が好きで興奮してしまうと言うのは最初からわかってた。

 でも面白くない。リュドミラ以上に、リナと触れあって、安心させてほしい。


 だから否定はせずに、赤くなった顔をそらしながらもリナは、フェイに握られている右手に力をいれた。


「ふー、ふふふ、リナは、可愛いのぅ」

「な、なによ。馬鹿にしてる?」

「まさか。先程から怒っておったみたいなのも、要は私の気を引こうとして、わざとつんつんしておったのじゃろ? もう、リナは、ほんに可愛いのぅ」

「っ」


 違う、あれは普通に怒ってた。そう言いたかったけど、言葉が出てこない。だって、確かに本気で怒ってるなら最初から文句を言えばいい。

 そっけない態度をしたのはフェイに自分から聞いてほしかったから、気にかけてほしかったから。そう言う面を否定はできない。


 そんな自分の行動を振り替えって、恥ずかしくてたまらない。

 言葉にして構ってと言うのも恥ずかしいけど、自分でも無意識の内にフェイに構ってほしくて気を引こうと甘えていたなんて、その方がよほど恥ずかしい。子供っぽいどころか、子供そのものだ。


「う、うう……ふぇ、フェイ。そう言うことは、思っても言わないで。恥ずかしくて、死にそう」

「リナが死んだら困るのぅ」

「でしょう?」

「うむ。じゃけど安心せよ。人は恥ずかしさでは死なぬ。そして、恥ずかしがるリナは世界一可愛いぞ」

「っ……」


 恥ずかしがるフェイを可愛がっていたリナ。今は逆に恥ずかしがる自分を可愛いと言われている。因果応報である。

 まさかこんなに恥ずかしいと思わなかった。死にそう。


「リナ、好きじゃよ。私が特別に、恋人として好きなのはリナだけじゃ。わかっておろう?」

「……わかってるわよ」

「うむ。ならばそう、拗ねずともよい。二人きりの時は、こうしていちゃいちゃしようではないか」


 フェイは起き上がって、リナの手を握ったままリナに顔を寄せる。

 リナはわざとちょっとだけ怒った顔をつくってから、だけど気にせずそのまま近づいてくるフェイの顔に、目を閉じた。


 唇と唇が触れあう。お互いの柔らかさを確かめるような優しいキスだった。


「好きじゃよ」

「……私も好き。好きだけど、何だか、誤魔化されてる気がする」

「む? そうか? 次からは気を付ける。それで、よかろう?」

「うー……そうだけど」


 何となく、うまく丸め込まれたような、やりこめられたような気になる。年上としてのちっぽけなプライドが、小さなリナの胸の中で何だか納得いかないなーとうずいているのだ。


「なんじゃ? 私に何か言いたいことがあるなら言うがよい。膝枕でもしてやろうか?」

「……フェイ、膝枕好きよね」


 恋人となってから、しきりにフェイは膝枕をせがむようになった。

 リナとしてはフェイの可愛い顔を見れるし、頭をのせているだけだけどフェイが全幅の信頼をもって身を委ねてくれてるような気持ちになるし、フェイのぬくもりも感じられるし、けして嫌いではない。むしろ好きだ。


 だけどしてばかりだったので、ここらでフェイから膝をかりるというのは実に魅力的な提案だ。さすがフェイと言わざるをえないが、そんなそつのない提案が今は逆に素直に頷きにくくさせた。


 非常にめんどくさい女である。フェイはそんなとてもめんどくさいリナに、とろけるような笑顔でうんっと頷いた。


「うむ。大好きじゃ。リナに膝枕をしてもらうとあったかいし、いいにおいがする。何より自然とリナとくっつけるからの。本当は抱き締めたいくらいじゃけど、そうすると他のこともしたくなるからの」

「……」


 とても素直である。意地を張るのが馬鹿らしいくらいに。


 リナは一度むむっと眉を寄せてから、我慢しきれずに頬を緩めた。もう駄目だ。これ以上、大人としてのプライドを貫くにも限界だ。


「フェイ、膝枕もいいんだけど……もっと、キスしてくれる?」

「うむ。もちろん」


 そうして二人でべたべたして、そもそも何がきっかけで会話を始めたとか、リュドミラのことなんてすっかり頭から離れるくらいに寄り添った。









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