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魔法使いフェイ  作者: 川木
ワーガスト街
142/202

141 雫石

 リディアとリュドミラと、依頼のため合流の約束をしているお昼過ぎまでは、時間に余裕がある。

 フェイとリナは朝御飯を食べてから教会へ行き、魔法使いの国とやらについて聞き取りをした。教会は基本的に市民の憩いの場でもあり噂があつまりやすいし、冒険者からの情報も集まる。大きな教会はその分情報も多いのだ。

 とは言え情報屋ではないのであまり教えて教えてーと言うと、依頼でだせと言われるが、午前中は人が少ないし、昨日カードをだして旅人であるのも知られている受付の人だったので、普通に教えてくれた。

 ちなみに教会であるので、当然宗教に関することには殆どが親切に教えてくれる。ついでに自宗教への勧誘も熱心にしてくれる。


「大航海商店じゃな」

「はい。場所はですねー」


 漁業だけではなく、船を活用した貿易もこなすワーガスト街だが、さすがに大陸間の長距離航行を定期的に行っていて、旅人を乗せてくれるとなれば数は少ない。

 現在、フェイたちが渡航しようとすれば、

 1、国に申請して5年に1度の国交船に乗せてもらう。

 2、商船に乗せてもらう。

 のどちらかになる。


 国交船は昨年船が出たところだと言う。いくらなんでも四年も待てない。となると選択肢は商船だけだが、これだって、半年かかる船旅なので、そうそう頻繁に船を出しているわけではない。

 交渉次第で乗せてくれる商船は三つだが、うち二つは向こうの大陸にあり、もしかしたらこちらへ向かっているかも知れないが、帰ってきてすぐに出ていくことは少ないので、時間がかかるだろうとのこと。

 自ずと残りひとつ、大航海商店だけだ。


 大航海商店、なんて大袈裟な名前だが、一番最初に大陸間の貿易に手を出した大きな店で、唯一定期的に船を出していると言う。

 大きな舟を4つ持っていて、こちらから向こうへ出発し、向こうで半年商売をしてからこちらへ戻ってきて、と言うサイクルで常に向こうとこちらに船があり、向こう行きとこちら行きが半年毎に出港するのだ。

 何でも、安全に渡航できるルートを開拓したのも大航海商店らしい。


 とにかく、商店の場所も聞いたので、直接訊ねてお願いしにいくことにした。


「あー、悪いんだが、次の夏便の、商店外部の人間をのせる枠はもう一杯になってんだ。冬出発で良ければ、金額は夏よりちと高いが、乗せてやれるぞ」


 港近くにある大きな商店に入り、会計カウンターにいた男に声をかけると、そう返答された。

 冬は暖房の分余計に薪をのせたりと、夏より結構割高になるらしい。なので基本的に商店以外の人間はおまけで乗せてる程度の部外者枠は、夏はすぐに埋まってしまうらしい。


「うーむ、わかった。ちと、考えてみるとする。冬でお願いすると決めたら、また顔を出すとしよう」

「おう。わかった。んじゃ、仕事の邪魔だから退いてな」


 店内は男以外にも店員は複数いたが、客もその何倍もいて混雑していたので、話が終わったところでささっと追い出された。女たちが昼から仕事に行く関係上、商店は昼前が一番忙しい。話を聞いてくれただけ御の字だ。


 フェイとリナは店を出て、お昼を食べる店を求めてぶらぶら歩きながらも、渡航について話し合う。


「やはり、冬を待つしかないかのぅ」

「そうねぇ。さすがに船の速度とは言え、半年かかる距離を一気に飛ぶなんてできないものねぇ」


 船は基本的に風の力で進むので、風をうまくうければ一日で数百キロ進むが、風がない日は全く進まない。そんな状態なので、平均速度はそれほどないはずだ。

 だが一度飛び出せば、陸地がない海の上では野宿と言うわけにもいかない。もしかしたら、空を飛んで過去最高速度で行けば体力がつきる前につくかも知れない。しかしつかないかも知れない。

 海上では陸地ほど距離の計測は正確ではないので、地図を見ても百パーセント正しいとは言えない。距離も道も不確定な状態で飛び出して、海の藻屑となるなんてごめんだ。


「うむ。方角じゃってわからんようになっては困るしの」


 海の上で方角を知る機材もあるが、それも船に内蔵された状態で販売されている。ついているのは最小でも十何人の男たちが乗り込んで遠方まで数日かけて漁を行う船だ。

 たった二人がのるには大きすぎる。そしてなにより、たった二人で舟をのりこなして、機材や海図を使いこなす、などと言うことができるはずもない。二人がのりこなせるのは精々手漕ぎボートである。


「そうよねぇ。思いきって、小舟で舟ごと飛んでいくとかは?」

「むー。飛ぶことはできるじゃろうし、確かにそれなら夜は休めるが、夜、寝てる間に流されたりせんか?」

「うーん。錨とか、でも、小舟でそんな大海をわたるような性能じゃないだろうし、やっぱり不安よね」

「うーむ。無理をせんほうがいいのかのぅ」

「そうねぇ。まあ、でも、一応他の商店にも聞いてみて、やっぱり大航海しかないってなってからでも、遅くないでしょ」

「うむ。そうじゃな」


 とりあえず話はこれで一旦お仕舞いにして、昼食を優先することにする。


「本格的にお腹がすいてきた。わし、そろそろお肉が食べたいんじゃけど」

「そうね。魚ばかり食べてたし」


 この街に来てから四日目だが、魚が安価で美味しいからと、宿の料理はもちろん、看板メニューとされているのは魚ばかりだ。物珍しさから喜んで食べていたが、そろそろ違うものを食べたい。

 意見が一致した二人は、きょろきょろと食堂を探した。









「リディア、ちと聞きたいことがあるんじゃけど、よいか?」

「ん? なんだい?」


 食堂を探して食事して、となったので約束の時間までぎりぎりになった。

 リディアとリュドミラと合流し、依頼を選んで街を出てから、目標を探しつつも、リディアに船に関して聞いてみることにした。

 昨日、リュドミラの話では二人の親戚で向こうに行ったことがあるようだし、そのコネで、とまではいかなくても詳しく知っている可能性はある。


「うむ。わしら、次は魔法使いの国へ行きたいんじゃけど」


 今までの流れを説明した。

 リディアは、はぁはぁと、話聞いてんのかと疑いたくなるような相槌をうってから、ふーんと頷いた。


「うちの叔父さんが働いてんのが、その大航海商店だからね。他所は知らないね。冬の便でちょっと値段を安くってくらいなら、話をつけれるけど?」

「むぅ、そうであったか。いや、値段は別によいんじゃけど」

「他所のとこは不定期だからなぁ。船のデカさとか安全面考えても、素直に冬を待つのが無難だね」

「そうか……そうするかのぅ」


 リディアは一応、真面目に考えてくれているようだ。ならばやはり、それしかないか。

 半年以上なので、意図的に滞在しようとすれば少し長く感じられるが、手段がなければ仕方ない。船を買うとか、飛んでいくとか、無茶な案を実行するより安心安全を優先した方がいい。はやる気持ちはあれど、危険を犯すほどのことではない。


「わかった。ありがとう、リディア」

「良いってことさ。さ、じゃあ今日も頑張っておくれよ」

「うむ」

「あ、あのっ」


 話がまとまったところで、リュドミラがどこか勢い込んだように、切羽詰まったような声をあげた。

 そちらへ視線をやると、それに驚いたように両手をあわせてもじもじしながら、リュドミラはうつむいた。


「リュドミラ、どうかしたかの?」

「さっきから、何か言おうとしていたみたいだけど?」


 首をかしげるフェイに続けて、リナもリュドミラの態度を指摘する。リディアとフェイが船について話している時から、ちらちらとフェイの顔を見ていた。

 リュドミラから言い出してくれるのを待っていたが、そろそろ促してもいいだろう。


「え、えっと…ごめん、何でもない」

「? そうか、別に謝らずともよい。また、思い出した時にでも言うがよい」

「う、うん」

「リュドミラ? もしかして具合でも悪いのかい? 無理をしてないだろうね? 熱は?」

「だ、大丈夫だよ!」


 本日の依頼は雫石の採取だ。

 雫石は少し離れたところにある山の中、洞窟内からとれる鉱石だ。この辺りでの特産品のひとつになっていて、長い年月をかけてつくられていて白く雫のような形をしている鉱石だ。

 それほど単価は高くないわりに、一番近場の採掘場まで山の魔物たちと遭遇するため、少人数で依頼を行うことは少ないが、フェイ達おのぼりさんのために受けてくれたらしい。


「ゆくぞっ、風刃!」


 パーティプレイと言うことで呪文を唱えて自己主張を忘れずに、フェイは道中出てきたグリズリーの頭を切り落とす。


「ほぅ、グリズリーも一撃とは、やるね。だけど、うちの可愛いリュドミラだって一撃で沈められるんだからね」

「お、お姉ちゃん。対抗しないでよ、恥ずかしい」

「むむ。だがね、やはりびしっと言っておかないと。うちのリュドミラは世界一可愛い!」

「お姉ちゃん!」


 顔を赤くして、リディアの裾をつかんでぐいぐい引っ張って拒否するリュドミラだが、リディアはぐわんぐわん揺さぶられているのにははは、照れてるうちの妹可愛いと笑顔を絶やさない。


「リディア、やめてよ。リュドミラが恥ずかしいって嫌がってるじゃない」

「エメリナさん……!」

「なんだい、エメリナ。あんたにリュドミラの気持ちを代弁してほしくないね」

「じゃあ私の気持ちを言うけど、うちのフェイの方が世界一可愛いから!」

「お主は何を言っておるんじゃ!?」


 グリズリーはリュドミラが背負ってくれた。そんな1幕もありつつ、この辺りでは強者であるグリズリーの死体をつれ回すことで、弱い魔物は率先して逃げてくれたので警戒するほどのこともなく、洞窟に到着した。






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